映画『落葉樹』

落葉樹

 「新藤兼人 百年の軌跡」、4月に百歳を迎えられた新藤兼人監督の作品が5月も引き続き上映されている。

 映画『落葉樹』(1986年、丸井工文社、105分、白黒)を観に出かけた。
 出演は小林桂樹乙羽信子財津一郎、山中一希。撮影は三宅義行。音楽が林光である。

 5月プログラムから引用すると、
 

新藤監督の少年時代をモデルにした作品。大正時代、広島にあった主人公の一家は、父が知人の借金の連帯保証人になったため、田畑や屋敷を失う。乙羽信子が扮する母への思慕を中心に、幼い頃の思い出がつづられる。

 製作が丸井工文社。
 冒頭、走馬灯のように回転木馬に乗った人物が回る。ぐるりぐるりと・・・。
 木馬に乗っているのは、この映画の主人公の幼い頃の思い出の家族である。
 父(財津一郎)、母(乙羽信子)、兄、姉二人、そして主人公の少年。
 場面は一転して、雪深い蓼科の高原の冬。
 別荘で小説を執筆している初老の作家(小林桂樹)が映される。
 大正時代、裕福な農家であった一家が、父が知人の連帯保証人になって、その借金が返せなくなり、田畑や家屋敷を手放す事になる。
 没落する前の幼い頃に、少年(山中一希)は、姉二人や兄、母との思い出の海水浴や、兄が兵役で広島の連隊に入営したので、休日に母と二人で山を越えて広島へ兄に会いに出かけ、帰りに左官町うどん屋で肉うどんを食べたこと、宮島の管弦祭に出かけ、母に買って買ってと駄々をこねて買ってもらえなかった思い出が描かれる。
 借金を返すために長女の姉がアメリカ移民と結婚をすることになった。
 家を手渡す前に、急いで結婚式をしてアメリカに出発するのだった。
 その別れの場面、近所のお寺の前から人力車に乗って去って行く。
 一家離散で、兄は除隊後、尾道に警察官になって行くのだった。
 次女の姉は看護婦になろうとするのだった。

 1958(昭和33)年、新藤兼人監督が、大映で自作の戯曲を映画化した『悲しみは女だけに』が、アメリカに移民で渡った姉が、戦争をはさんで30年ぶりに、兄の尾道の家へ帰って来るのを描いている。
 つまり、『落葉樹』は、『悲しみは女だけに』で描かれた一家の大正時代の没落する前の裕福な暮らしと、没落して行く日々とを描いていることになる。
 この映画は他に、梶芽衣子戸浦六宏馬場当殿山泰司が出演している。