鳰(かいつぶり)葭に集りぬ湖暮るる

 19日は二十四節気のひとつ雨水である。
 七十二候によると、梅咲き初め、馬酔木(あせび)や椿咲く頃とある。


 川の岸辺の浅瀬に渡り鳥のヒドリガモの群れが眺められた。
 浅瀬の石に付いている藻(も)をついばんでいる。
 頭の頭頂部の白い部分のあるのが雄(おす)鳥だ。
 雌は褐色の羽毛である。



 「我に返り見直す隅に寒菊赤し
 「鳰(かいつぶり)葭に集りぬ湖暮るる


 中村汀女の俳句で、大正七年(1918年)の句です。
 「鳰(かいつぶり)葭に集りぬ湖暮るる」の句にある「」は、あしと読むかよしと読むか。
 どちらだろうか。
 「」をよしと読んでみた。湖はうみと読んでみた。
 「鳰(かいつぶり)葭(よし)に集りぬ湖(うみ)暮るる」 


 この句は、大正七年冬より大正九年冬までを収録した「湖畔抄」からである。

 前書きが、

 江津

  今は熊本市内だけれど、江津湖(えづこ)はやはり私にはもとの江津村がふさはしい。湖畔の人たちは東遙かに阿蘇の山山を仰ぎつつ、田植、麦刈りにいそしみ、その間に藻刈舟を浮べ、夏に入る日は川祭の御神酒を湖に捧げる。私も朝夕湖を見て育った。走る魚の影も、水底の石の色も皆そらんじてゐる。
 父母尚在ます江津湖畔に私の句想はいつも馳せてゆく。