揺さぶられて、それぞれが余韻を抱える

ゆれる オリジナルサウンドトラック
 監督のオリジナル脚本で、本も良かったのでしょうが、兄の香川照之、弟のオダギリ・ジョーの演技がぎりぎりまで沸点を維持して、一歩でも気を抜くとスクリーンの現場から離れてもはや取り返すことが出来なくなる。そんな集中力を観る側にも要請される、“観る行為”で映画参加をしてしまったという精神の汗をかいたという実感が身の内にわきましたね。でもそれは無理矢理の押しつけがましさでなく、映像を通して、実際、僕たちがあの「ゆれる橋」を兄弟と共に渡ろうとしている、逃げ場のない、これしかないという哀しみを味わいましたが、それでもある救いがある。
 兄と弟の他者性の発見は言葉ではいくらでも言える。
 映像と、香川照之、オダギリージョーの演技の襞は一人の俳優だけ特化しても破綻するだけで、観客を置いていってしまうが、兄弟二人の演技の噛み合わせ、格闘はスクリーンという土俵を異空間でありながら、恐ろしい程のリアリティを獲得している。
 文句なく今年の邦画界のベストになっても不思議でない。是枝裕和の『花よりもなほ』は個人的に大好きな映画でしたが、愛すべき落語の世界で『誰も知らない』ような大きな賞とは無縁でひっそりと保存して置きたくなる映画ですが、『ゆれる』には大きな賞をあげたくなります。(勿論、そんな権限は僕にはありませんが、先ほどネット検索してみなさんのレビューを読むと絶賛のあらしですね、単館上映ということが残念ですね)
 西川美和監督の映画は初めてですけれど、あまりにも完成し過ぎて一体、次作はどんな映画が撮り得るのだろうかと、いらぬ心配をしました。邦画界には新しい才能がどんどん輩出しているんですね、スクリーンという大画面で劇場で観る悦楽を又、知りました。立ち見席が出来るほどの盛況ですので、単館ロードのシステムのない地方では市民ホール、会館などで上映して下さい。誰も途中で退席しなかった。終わっても余韻を噛みしめるような緊張感がホールを支配していました。
2006-09-01
映画『 ゆれる 』公式サイト

癖になる

このところ、bk1書評アップすると、癖になりますね、あぶあぶの世界(笑)。しかし、bk1は投稿したらその日にデータが公開されているのですね、『花よりもなほ 逃げることが人生だ』です。映画監督の書き下ろし小説は『小説ワンダフルライフ』(ハヤカワ文庫)に続いてこの『花よりもなほ』は第二弾です、ご笑覧下さい。しかし前回の『ソクーロフとの対話』にしても今回も結局「映画の販促」もしていますね、映画については『ゆれる』について書きたいのですが、なかなか書き辛いものがある。もうしばらく待って下さい。
風さそふ 花よりもなほ われはまた 春の名残を いかにとかせん
オンライン書店ビーケーワン:花よりもなほ