適正価格とは何か?

kuronekobousyu2005-11-02

一昨日、「千人印の歩行器」の葉っぱ64さん(http://d.hatena.ne.jp/kuriyamakouji/)が話題にしていた300円DVDを「ダイソー」に見に行ったら、最近の邦画のDVDも300円(税込315円)で売られているではないか?
いぜん松竹のプロデューサーに聞いた話では、映画の制作費は興業収入とTSUTAYAなどのレンタル屋さん用の買取とセルビデオ・DVDで回収されるそうだから、不発だった邦画の版権を安く買い取ったのかもしれない。
それよりももっと驚いたのは、夏目漱石太宰治らの著作権切れの100円文庫のシリーズを、自社レーベル(大創出版)で30点ほど刊行していることだ。表紙は4色だが安ぽっくて本文用紙も少し粗悪なものの本文2色刷で脚注付き、携帯で読むには充分。ちょうど僕らが小学生の頃に少年誌に付録で付いていたような感じと言えば、想像できるだろうか。これでは、大手の文庫版元も形無しかな(笑)。★註
ダイソーで本を買う客層と書店で本を買う客層は違うので、あまりバッティングはしないのかも知れないが、同じ文庫の新刊でありながら、この安さはないだろうと思いながら僕も試しに有島武郎を買ってみた。因みにほぼ同じ収録作品の有島武郎の文庫が大手版元では300円台の再販価格である。
他にも大創出版は、実用書・地図・児童書・漫画も刊行している。地図も買ってみたが、これは書店売りの地図版元のものと比べても見劣りしない。いくら流通経路を中抜きにした、スケールメリットによる薄利多売システムにしても、これはあまりに安すすぎないか?
他にもダイソーで売っている100円商品は、海外の安い人件費や製造コストを叩いた上での価格破壊だ。これは、果たして「適正価格」と言えるのだろうか?
ザ・漱石 現代表記版★註:第三書館から、著作権切れ作家の小説全作品を1冊に収録したB5判サイズのシリーズが刊行されている。このシリーズの企画は、国会議員の辻本清美氏のアイディアだったとか。そのシリーズの一つ『ザ・漱石』は税込2100円で42編収録されているそうだから、単純計算で言えば一作あたり50円ということになるから大創出版よりも安いということにはなるが、単純には比較できない。

装幀展のご案内

林哲夫装幀展 自作回顧と装幀本コレクション■
■日時 : 10月 28日(土)〜11月 6日(火) 12:00〜16:00
■会場 : 京都パラダイス(山崎書店2階) 電話075−762−0249
      606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町91−18
      http://web.kyoto-inet.or.jp/people/artbooks/

評判の同人誌「sumus」の創刊メンバー。画家で装幀も手がける林哲夫さんの、これまで手がけた作品の展示と、「SHAPE OF BOOKS 林哲夫装幀作品集」なる小冊子、ほか関連本が並ぶ。
Web見学:http://www.geocities.jp/sumus_livres/bookdesign-tetsuo.htm      
■日本図書設計家協会 関西支部企画展■
      《装丁空間》
 *本だけでなくパネル展示もあります。ぜひご来場ください。
■日時 : 10月31日(月)〜11月10日(木) 9:00〜17:15
     土・日曜・祝日休み *最終日は16:00まで 【入場無料】
■会場 : 平和紙業ペーパーボイス
      542-0081 大阪市中央区南船場2-3-23 電話06−6262−0902
      地下鉄堺筋長堀鶴見緑地線長堀橋」駅より徒歩3分
      ★協力/平和紙業株式会社、亜細亜印刷株式会社
◆出展者……井上二三夫/いのもとまさひろ/上野かおる/岡田ひとみ/神原宏一/倉本修/小林元/佐藤博一/多田和博/多田誠/田中和枝/西口司郎/濱崎実幸/浜坂公男/藤田修二/前田俊平/山本耕一/山本耕三

【装丁の仕事187人展】
<日本図書設計家協会 ★創立20周年>http://www.tosho-sekkei.gr.jp/

*東京催事;11月14日〜12月2日 東京・神田錦町「竹尾見本帖本店」にて
*WORKBOOK ON BOOKS 6 『装丁の仕事187人』(玄光社)刊行記念

「キャラ」と「萌え」の考察2

「カルチャー・レヴュー」寄稿者の鈴木薫さんからコメントを貰いましたので、本文にて再録します。鈴木さんは僕と同世代ですが、コミケに参加されています。

#鈴木薫さん
鈴木薫です。ロムはしていたのですが、書くならむしろ自分のブログの方にだなと思って書き込むのは控えていました。しかし、黒猫さんのお誘いがありましたので、最近あった実話を紹介してみましょう。私の友人Yさん(女性)のパートナーであるZ君(男性)が、あるコミュニティ内で、やおいキャラとしてマンガに登場させられるという出来事があったという話を、当のYさんから聞きました。先輩の(モデルあり)二人がZ君を奪い合うという内容で、それを見たYさんは「Z君萌え――」と思ったそうです。「Z君にはじめて萌えた!」と言うので大笑いしたんですが、Yさんによれば、「鈴木さんはそうやって面白がってくれるけれど、ある男性に同じ話をしたところ、自分と同居している男性がそういう扱いを受けたのにその態度はなんだと怒られた」のだそうで。

この話で私に面白いと思われるのは、「ウケ」キャラに女性が同一化(「所有」ではなく「なること」というわけですね)するのではなく、そういう“ポジション”に男性が置かれることで「はじめて」(女性の;some womenの)性的対象となるという文脈をサジェストしているという点です。むろん、Yさんの言は半分は冗談でしょうが、しかし、かなり真実でもあると私には感じられます。Yさんの場合、通常のヘテロセクシュアリティ=「男女の物語」の回路にZ君との主な関係性があるわけではない(少なくともその性質は薄い)と思われますが、一方、「ウケ」として設定されたZ君には、俄然「キャラ萌え」してしまったというわけです。

「キャラ」の時間性のなさという点に話をつなげてみますと、「キャラ」というのは「出来合い」「レディメイド」ですよね。これは、固有の歴史=物語性(「人生や生活、内面」)から切り離されて、出来合いの構図(それはとりもなおさず、通常、女性のものとされている〔=女性に強制されている〕セクシュアリティオルタナティヴとして、女性たちによって表現されてきたものなのですが)の中に置かれたZ君が、男女の物語〔ヘテロセクシュアリティ〕に回収されないZ君として突如立ちあらわれて「輝く」といった事態なのでしょうか。
なお、以上の話はあくまで鈴木による解釈であり、実際のYさんたちの真実とは異なるかもしれないことをお断りしておきます。(2005/11/27 23:57)