Hatena::ブログ(Diary)

クロサキイオンの徒然草

2017-09-30 篠原美希「ヴァチカン図書館の裏蔵書」

篠原美希「ヴァチカン図書館の裏蔵書」新潮文庫nex

厳戒区域の秘密文書に、聖地を揺るがす闇が── ローマ大学に留学中の玄須 聖人は、教授の依頼でヴァチカン秘密記録保管所を訪れ、企画展に向けて幻の資料を探すことに。その頃、ドイツとオーストリアで魔女狩りを彷彿とさせる猟奇殺人が起こる。悪魔信仰者の存在がちらつくなか、疑惑の目は教皇庁にも向けられる。図書館の膨大な蔵書に謎を解く鍵があると調べ始める聖人と神父のマリク。だが、事件の真相は意外なところに……

http://www.shinchosha.co.jp/book/180105/

* * *

まず、この表紙のカワイイ可愛い青年が主人公で27歳だということを重々に熟知してから読み進めていただきい。

そしてずっと読んでいると「こいつハタチぐらいじゃねえのー?」と思うぐらい可愛らしく、そこで若干の戸惑いも覚え、だんだんと「こんなかわいいアラサーおるか!!!」と突っ込みたくなること請け合いなのですとだけ最初に言っておきます。そしてこのカワイイアラサーがローマ大学の博士課程という設定上は超絶優秀なのですが、その優秀さを本人は作中でまっったく発揮せず、むしろ本人はぽやぽやしてふわふわしているうちに物語が進んでいき(彼が持つ能力的なものは多々発揮されました)、問題を提唱し展開し解決していったのはダビデ像のごとき美貌を持つ切れ味鋭き(そして戦闘能力も持ち合わせた)マリク神父と、行動力と洞察力を持った主人公のほぼ保護者になっている新聞記者である斉木兄貴(兄貴というのはあまり比喩ではなく、斉木と主人公の関係は個人的にリリアン女学園のスールのような関係だと踏んでいる)で、主人公はぽやぽやしているうちに犯人に拉致られて監禁されて死にかけていたところを颯爽と現れたマリクに助けられ、ちょ、お前!!wwwと突っ込みたくなるんですが、それももうマリク神父が優しくてかっこいいし主人公が可愛いからもう許す……というとりとめのないことはともかく。

「ヴァチカンに保存されている文書」「ドイツ・オーストリアで現代の魔女狩りのような事件が発覚」「ベナンダンディ」「悪魔信仰」等々、カトリックやキリスト教文化に興味を持つ方には非常にそそられるキーワードが沢山あり、キリスト教やヴァチカンの保存文書に関する知識等はかなり楽しんで読めます。文章がさらっとしているので、その分難解に感じる暇がなく受けれられる、というのもある気がします。

で、何がこれツボだったかっていうと、主人公聖人と、なし崩し的に聖人の保護者になったマリク神父。の関係。

地の文で聖人のことをなんて書いてあるって、「小鹿のようにしなやかな体つきをもちながら動きがどこか子パンダのような愛嬌がある青年」とあるんですよ。また物語の終盤、斉木が「こいつの取り柄といえば男にしてはきれいな肌」と、もはや27歳の青年に対しての褒め言葉になっていない褒め言葉で書いてあるのである。いいぞもっとやれ。

そしてマリク神父である。

このマリク神父が「ダビデ像のごとき美貌の持ち主」であり「ヴァチカンでの問題解決役」でもある人物でもあるのですが、神父であるが故キリスト教社会の中でずっと生きてきた人間です。また、物語開始から聖人はマリクにとって「押し付けられたもの」でありました。だから聖人に対して厳しめに関わってきましたが、物語の終盤のマリクの一言でこの二人の関係は変わる。

「世界に一人ぐらい、私を神父として扱わない人間がいてくれてもいいのではないかと思っています」

……すみません、このセリフにニヤニヤが止まりませんでしたよ!!!!!!!


そんなわけで私は聖人と聖人の「友達」になったダビデことマリク神父のやりとり及び斉木兄貴の過保護っぷりがもっと読みたいので新潮文庫nex様続編お願いいたします。だってこれ、まだ聖人が何故夢を見るのか、とか解決されてないよ!何か登場人物こんな感じですっていう紹介で終わっちゃってるんだもん! あと2冊は最低でも出ないと困るよ!!!!!!!!!続刊でなかったら、私のこの興奮をどう処理してくれるんだ!!!!!!!お願いだ新潮社nex!!!!!!

2017-08-15 ヴァシィ章絵「ワーホリ任侠伝」

ヴァシィ章絵「ワーホリ任侠伝」講談社文庫

週末は六本木でクラブ活動にいそしむ商社OLのヒナコ。念願のワーキングホリデー資金捻出のために始めたキャバ嬢バイトが、彼女の波瀾万丈の始まりだった。運命の出会いと絶望、そしてヤクザに追われて海外脱出……。純情&エロティックに全力疾走する、パワフル青春小説。(講談社文庫)

* * *

※注 この小説は決してワーキングホリデーに行きたい人・憧れている人に参考になるような内容は全くなく、むしろ参考にするなという内容は盛りだくさんになっております、とだけ一言添えておきます。


人生の奈落に突き進め!!!!

一流商社のOLのヒナコ(短大卒で一流商社就職ってすごくね?って思うのですが)は平日の昼夜は仕事、週末は六本木でクラブ活動にいそしんでいる。高校の時から留学したかった彼女は仕事と並行してキャバ嬢のバイトを始める。このヒナコがパリス・ヒルトンっていうのも、ハードカバー版が出版された2006年という時代を映しているみたいでいいですね。

しかしそこから、彼女の人生が一変。訳アリのイケメンと付き合い始める→イケメンはヤクザの親分の愛人の子供→そいつが闘争に巻き込まれて死ぬ→傷心のヒナコはキャバ嬢をやめて歌舞伎町でデリヘル嬢になる→遊んでいた歌舞伎町でニッキー・ヒルトン似の男の子がヒナコの妹分になる→商社のセクハラ変態先輩がデリ嬢ヒナコの客として現れる→先輩を沈めて(性的にも暴力的にも)商社を退職→訳アリのイケメンの家のもっと訳アリの変態クソ野郎に狙われて、その日のうちにニッキー・ヒルトン似の男の子と一緒にオークランドに夜逃げ→オークランドでなし崩し的にワーキングホリデー開始→……と思ったら、やっていることはデリバリーヘルスの斡旋……と、これ以上書くとネタバレになるのですが、なし崩し的に人生の奈落に突っ込んでいっている感が凄い。さらに他人の人生も多少巻き込んでいる感も凄い。

しかしこの話のすごいところは、突き進んでいっているところが決して明るい方向ではないにも関わらず、物語の持つ得体のしれないパワーによって滅茶苦茶なジェットコースタームービーになっているところと、ヒナコというキャラクターが意外に純情でパワフルにかわいらしいところで、それがさらっと書いているとてつもなくひどい部分が深刻に思えてこないという不思議な部分だ。

もうこの話は何も考えずに、ページの3分の1は確実にヤッてるけどヒナコが動いているところを突っ込みながら見守ればよろしい。人生に行き詰まりを感じている人にこそ読んでほしい。物語の持つ得体のしれないパワーにやられてください。なし崩し的に人生を進めていくヒナコのパワフルさにやられてください。

2017-07-27 田代裕彦「先生とわたしのお弁当」

田代裕彦「先生とわたしのお弁当」/富士見L文庫

「先生にお弁当作ってもらってるとか知られるわけにいかない!」親の入院をきっかけに壊滅的な食生活を送ることになってしまった女子高生の笈石ちとせ。そんな彼女を見かねて、学校の先生がお弁当を作ってくれることに。その小匣先生は料理とは縁遠そうな堅物鉄面皮、なのにお弁当は絶品。喜んだのも束の間、ちとせがお弁当を自作したと言ったことが思いがけないトラブルに。さらにある秘密まで掘り起こして―。お弁当箱の中には謎と秘密と愛情が詰まっている。お弁当が紡ぐ青春ミステリー。

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デビュー作「平井骸骨此中二有リ」を読んで以来、久方ぶりの田代先生です。……っつっても平井骸骨の2巻以降入手できておらず、久しぶりにお名前を見たなと思ったので購入したのですが、割とあたりでした。

「ロボで地味で眼鏡の社会科教諭が女子高生に弁当作ってる」っていう設定はかなり美味しいのですが、この話の肝は「先生(教員)に弁当を作ってもらっている女子高生」という設定ではなく、「弁当から起点される謎を解いていく先生(探偵)と女子高生(ワトソン)」という、この二人のやり取りからなされる謎の展開と解決だと個人的に思っています。なんというかだから小匣先生とちとせは「弁当を作ってもらっている縁から恋人になりそうな教員と女子高生の関係を楽しむ」ものでもあるけれど、それ以上に「謎から織りなす、探偵と助手のやりとりの展開を楽しむ」物語かなぁと思っております。

確かにキャラクター文芸の中でも、題材が地味といえば地味。魅力的なキャラクターが沢山いるわけでもありませんし、ミステリでも日常の謎でもない。ただ「弁当」というものから起こる、ちょっとした謎を解いていくだけ。

しかし謎の部分も無理がなく、探偵役の小匣先生の淡々とした口調や若いながらも教師が堂にはいっていてしかも見るところはきちんと見ているというキャラクタは実に気持ちがいい。謎→起点→展開→結論まではしっかり見せてくれるのではないかな。骸骨を一巻読んだ時も思ったけれど、田代先生は女性キャラよりも男性キャラを、それも一風変わった大人の男性を書く方が得意なのではないかな? 

そんなわけで富士見L文庫さん、私は小匣先生が解いていく弁当の謎をもう少し眺めていたいので続編出してくださいお願いします。出してくれたら某アニメイトで買った時、実はページが破れていましたなんて苦情言いませんから。(ビニールに入っていたのに破れていましたのよとほほ)

ついでにKADOKAWAさん、「平井骸骨シリーズ」を復刊してくださると私は泣いて喜びます。

2017-05-19 遠田潤子「アンチェルの蝶」

アンチェルの蝶」遠田潤子/光文社文庫

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大阪の港町で居酒屋を経営する藤太の元へ、中学の同級生・秋雄が少女ほづみを連れてきた。奇妙な共同生活の中で次第に心を通わせる二人だったが、藤太には、ほづみの母親・いづみに関する二十五年前の陰惨な記憶があった。少女の来訪をきっかけに、過去と現在の哀しい「真実」が明らかにされていく―。絶望と希望の間で懸命に生きる人間を描く、感動の群像劇。

* * *

先に読んだ月桃夜、雪の鉄樹の2冊とも素晴らしく、他も読みたかったのですが探せどもなかったのでアマゾンで購入。月桃夜のフィエクサが妹に恋い焦がれる兄、雪の鉄樹の雅雪がたらしの家で生まれ育った愚直な庭師で、さてこの物語はと……。最初の30ページだと、いきなりズブロッカを一本開けて飛ばしてくれるアル中予備軍……かと思ったら、

うわあ。うわああ。うわああああ。


いやいや、この方の小説、沼だ。


序盤は説明文の通り、中学の同級生・秋雄が藤太のもとにほづみという女の子と連れてきて「暫く預かってほしい」と言って消えていきます。戸惑い、不器用ながらもほづみと藤太は心を通わせていくが、その間にも、1)秋雄のマンションが全燃、本人行方不明、2)ほづみの父と名乗る男が現れる(こいつが後後のキーパーソンになる)、3)藤太が酔っ払ってグダグダ。ほづみに八つ当たりしては泣かせる→謝る、の無限ループ、4)意外に優しい常連客、等々の見どころが沢山あり……。

しかし100ページ超えたあたりから、時間が25年以上引き戻されます。飲んだくれで酔っ払っては息子をぶん殴る父を持つ藤太と、飲んだくれで麻雀狂いの父を持つ秋雄が出会い、その縁で神さまにハマる母・麻雀狂いで借金持ちの父親を持つ父を持つほづみと、この3人が仲良くなります。しかしこの3人は決して仲がいいだけではなく、凄惨な記憶が存在して……。というのが本書の内容の一部。


何この絶望。何このどうにもならん感じ。運が悪かった。親に恵まれなかった。で済ませたくないこの暗黒感。

いやねあの、途中でいづみちゃんが「あたしもういやや。私より辛い子は沢山おるけどこんなん耐えられへん」っていうんですけど、ほんっとこれ、耐えたくないっつーか、耐えられへんっつーか。「世の中にはもっとつらいことあるよ」って言えんわ辛すぎるわ!!と思ったり。大阪弁も勝ってバカ父らのえげつなさが洒落にならないぐらいマジでエグかったり、途中で「俺、あいつら殺すから」って言った藤太の心情が、読者にもどうにもこうにも止められんのよ。結局3人全員のその後の人生に暗い影を落とすことになるけど、「おいやめろ」とか思えないのよ。

藤太はその後、中卒で居酒屋を経営しフォークリフトで膝を潰されて狭い居酒屋の店内と市場を往復する人生を送り……その藤太の泥沼の人生を救うのが、いづみの子供のほづみでした。そのほづみちゃんの存在が大きけれど、40の男が「どうにもならん泥沼」から人生を取り戻すラストは圧巻の一言。

「早く救われてくれ!」と読者も泥の中で祈りながら目をそむけたくなりながらも、人の熱量と物語の底知れぬ闇の力、その沼にどっぷりハマったら最後。

この作家のファンになってます。


そういえばですね。主人公の藤太がほづみを連れて警察に行ったとき、自分のことを「俺は中卒で居酒屋」と説明していましたが……ちなみに「雪の鉄樹」の雅雪は、世話をしている遼平少年にこう言う場面がある。「せめて高校は出ろ。俺ですら出た」

……なんでしょう。藤太がこういうシーンは超序盤のあたりなんですが、作品を超えてブーメランを感じてしまったのは。

2017-04-29 紺野アスタ「尾木花詩希は褪せたセカイで心霊を視る」

紺野アスタ「尾木花詩希は褪せたセカイで心霊を視る」ダッシュエックス文庫

久佐薙卓馬は廃墟と化したデパートの屋上遊園地で、傷だらけの古いカメラを持った不思議な少女―尾木花詩希と出逢う。卓馬の通う高校で“心霊写真を撮ってる変わった女”と噂される詩希に「屋上遊園地に出るといわれる“観覧車の花子さん”を撮ってほしい」と依頼するのだが、「幽霊なんていない」と取り合ってもらえない。しかし、諦めきれない卓馬は写真部を訪ね、詩希を捜そうとするのだが、彼女がいるのは“心霊写真部”だと教えられて…。卓馬が逢いたいと願う“観覧車の花子さん”を、詩希は写すことができるのか―。少年の想いが少女の傷を癒す、優しく切ない青春譚。

* * *

この小説を読んで、一番残ったのが下の二つの言葉。

「私はキレイの欠片を映したい」

「写真は嘘つきだ。けど、どうしようもなく正直者でもある」

……なんという写真愛に満ち溢れた言葉!! というこの二文字だけでもくらっと来ました。写真を題材にしたちょいと苦めの青春譚。ちょいとミステリ風味あり。風味なのは少年少女の青春譚に重きが置かれているからかな、と思ったけれど、写真が主役なのでこれはこれ。むしろ、風味であるから主役である写真の邪魔をしていないバランスが凄く好きだ。意外に変……に見せかけて変に見られることを気にしているカメラ少女の詩希が可愛かったり意外に誠実……のように見せかけて割と自分の都合で詩希を振り回している卓馬とのやり取りが、ちぐはぐでかわいらしく、なんというかほろ苦い。その苦さを残しつつ、少しずつ、少しずつ変わっていく女の子を見るのは本当に至上の喜びです。

意外に最近のラノベでは少ないのかなぁ、こういう青春もの。ビターな青春ものが好きな人と、野村美月の「文学少女」シリーズが好きな方にはぜひともお勧めしたい。

2017-02-28 紅玉いづき「ブランコ乗りのサン=テグジュペリ」

紅玉いづき「ブランコ乗りのサン=デグジュペリ」角川文庫

20世紀末に突如都市部を襲った天災から数十年後、震災復興のため首都湾岸地域に誘致された大規模なカジノ特区に、客寄せで作られたサーカス団。花形である演目を任されるのは、曲芸学校をトップで卒業したエリートのみ。あまたの少女達の憧れと挫折の果てに、選ばれた人間だけで舞台へと躍り出る、少女サーカス。天才ブランコ乗りである双子の姉・涙海の身代わりに舞台に立つ少女、愛涙。周囲からの嫉妬と羨望、そして重圧の渦に囚われる彼女を、一人の男が変える。「わたし達は、花の命。今だけを、美しくあればいい」。

* * *

ここ久しぶりに読書の日々を送っている。しかし「汚職刑事が笑いながら拷問する」→「姫騎士を捕まえていじめて屈服させてハートフルスパンキング」→「うふふと笑いながら「野菜/ケツ/突っ込む」を連呼する天才美少年」ときて紅玉いづきさんの「ブランコ乗り」を読み……読了後のまずの感想は、まるで自分がまっとうな読書をしているのではないかという奇妙な感覚を覚える、でした。なぜ私はこんな美しい装丁の美しい少女たちの物語を読んでいるのか。それは買ってしまったからである。

ついでに言っておくといやあ、割と「札幌アンダーソング」はオブラートに包み込めていませんことよ変態性を。

物語は「ブランコ乗り」の8代目サン=テグジュペリの片岡涙海が練習中に大けがをしたところから始まります。涙海は「怪我をした自分の代わりに舞台に立ってほしい」と双子の妹の愛涙に懇願します。そこから一人の男と出会ったところで、姉妹の運命が急速に変わっていきます。

この二人の運命を軸に、同じように舞台に立つ少女たちのが受ける重圧・嫉妬、舞台への恐怖や決意等が潔く描かれていきます。カジノでの陰謀と舞台に立つものの重圧、それによって受ける嫉妬、少女サーカスの団長は何を考えているのか。歌姫のアンデルセンは「妹の方が才能はある」、「でも舞台に立つのは姉だ」といい、姉は「妹の方が才能がある。そんなのはずっとわかっていた」と嘆く。

さて、病室で苦悩する姉と舞台に恐怖を覚える妹の運命は。

「カジノ特区に客寄せで作られた少女サーカス」「そこでは曲芸学校を卒業したエリートの少女が」「文豪の名前を借りて舞台に立つ」という設定ですが、まずカジノ特区というところが健全ではなく、その舞台もまたしかりなような気がしますが、そこを「少女たちが目指す最高にして至上の舞台」にきちんと見せているのは紅玉さんの描く少女のしたたかさと美しさ、そして文章の品のよさでしょう。この曲芸学校が何とも言えずにズカっぽいのがいいですね。(ヅカの学校も2年生だった筈)

この物語に出てくる女の子って、深く悩んでいても決断し、強くなる時に美しくなるというか、その瞬間がどうしようもなく潔く、刹那的で美しいです。刹那的なのは少女たちの特権ですからね!

だからこの最後、姉の方の、本当の8代目サン=テグジュペリが選んだ行動に「いやいや、よく考えれ」と思う大人はいるとは思うし、私はそれを一瞬考える程度には大人になってしまった。しかし「剱山にしか咲けない花はあるのだ」という作中の言葉の通り、一瞬であることが永遠の美へと昇華されるからそれでいいのです。

これからの姉の、8代目サン=テグジュペリに幸あれ。妹にも幸あれ。

2017-02-24 小路幸也「札幌アンダーソング」

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北海道は札幌の雪の中で全裸死体が見つかった。若手刑事の仲野久ことキュウは、無駄にイイ男の先輩・根来と捜査に乗り出すが、その死因はあまりにも変態的なもので、2人は「変態の専門家」に協力を仰ぐことに。その人物とは美貌の天才少年・志村春。彼は4代前までの先祖の記憶と知識を持ち、あらゆる真実を導き出せるというのだ。春は変態死体に隠されたメッセージを解くが!?平凡刑事と天才探偵の奇妙な事件簿、開幕! (「BOOK」データベースより)

* * *

作者の小路幸也さんが、北大路公子大先生の「苦手図鑑」の解説をなさっていた+「天才美少年で変態の専門家」という単語で二つ返事のように購入。「出会ったその瞬間にピンときて購入を決める本」「その時に買わなかったけどむずむずと自分の中で残っていた本」というのは私にとってアタリで(今までそれで当たった本は割と多い。アフリカン・ゲーム・カートリッジズもそうだったし、月桃夜、おいしいベランダもそうだった)、今回は後者でした。

で、この本。

変態死体を通して天才二人が間接的にそして挑発的に会話する、もちろん死体が上がるので何かしらの事件性がありそれを二人の刑事が調べるのですが、緊張感があるようなないような。ミステリというよりも「天才美少年がアドバイザー的に事件にかかわっていき、それを解決すべき二人の刑事や美少年の周りの人間があらゆる面でカヴァーする」もので、ストーリーはディープでブラックなネタが多いわりに主人公のキュウちゃんの語り口がほんわりしているので、変態性はあってもそのほわっと感で緩和されている印象があります。

まぁ、「刑事のわりにキュウちゃんの感性が普通」というので語り口がゆるふわな感じは納得できますが、春くんは「4代前の記憶を持ち」「札幌の裏の歴史に通じている」「あらゆる五感が発達している」というハイスペック天才美少年。そしてこの「天才美少年にして変態の専門家」なんですが、この子がとても恐ろし無邪気可愛い。設定盛り過ぎなんでは、と思うんですが、それを差し引いてもカワイイ。こたつでごろごろしてたり「僕は友達なんて必要ないんだよ」と言いながら、「自分は普通じゃない」ことを自覚しつつ家族のことをめっちゃ大事にしていたり。

キュウちゃんの普通な語り口と意外にニュートラルな春くんが、変態事件をライトゆるふわミステリーにしているのかもしれません。

とりあえず1)見た目中坊な美少年(19歳)、2)甘えん坊気質あり、3)女物の服が似合う、4)あらゆる知識を持ち合わせ、4代前までの祖先の記憶を持つ少年が、「うふふ」と無邪気に笑いながら猟奇殺人を眺め見て、「野菜/ケツ/突っ込む」を連呼している姿は、たまらない。

そんな美少年が「野菜/ケツ/突っ込む」を連呼しているのを見たい人には一見の価値はあります。

意外にあたりだったので続編も読みたい。とにかく春くんが超カワイイので、設定もり過ぎでも一巻が「続きます」みたいな感じに中途半端に終わっても許す(苦笑)。

2017-02-08 深見真「姫騎士征服戦争」

深見真「姫騎士征服戦争」富士見ファンタジア文庫

魔族の末裔が支配する帝国で「祖魔の姫騎士」と呼ばれるルアナには野望があった。それは、敵国の美しい姫騎士を捕らえ、いじめ、屈服させること。そんな彼女に従うのは、目つきは悪いが彼女に忠実な従騎士・ベニー、変態アサシン・カナタ、インテリオークのイアン軍曹。くせ者揃いの部下たちに支えられ、破竹の勢いで姫騎士を堕としていくルアナ軍団の行く末は―この戦に正義も大義もない。ただあるのは、欲望のみ!姫騎士の姫騎士による姫騎士征服ファンタジーが、今ここに開戦!

ファンタジア文庫の紹介文より)

* * *

最近の読書はほぼ積読で買ってはため買っては溜めを繰り返していたので、積読していた本をとりあえず読む。再び深見真先生。サイコパスの劇場版の直前に発売されたものです。

………姫騎士これくしょんって艦これじゃねーか!!(当時読んだ人間がしたであろう突っ込みを今更してみる)

お話としては「動力鎧で戦う姫騎士(主人公ルアナ)がやっぱり姫騎士をとらえていじめて屈服させてこれくしょんにする。そのために周りのスタッフがあれこれ頑張る」というものです。ざっくり書きましたが嘘は書いていない。

お話のメインとなるのが「姫騎士をとらえていじめて屈服させ」のところなんですが、この「とらえて以下略」の部分が地下室で微エロ微拷問。割と直球にエロいことがあります。どんなことがあるかと思ったら「祖国と家に捨てられた姫騎士をくすぐり攻めの拷問で神経をイカれさせる」「姉妹のこじれすぎて絡まった糸を優しくときほぐすハートフル拷問」などがあります。嘘は書いてない。

うん。この本は、愛だね。

何でしょうかこのハートフル拷問は。 深見先生、狙ってやったのでしょうか。

「ちょっとかわいいアイアンメイデン」の1話で、「拷問に第三者はいない。される側かする側か」と言ってますが、この本はまさしく「屈服する側の人間」と「される側の人間」がメインです。そして、「拷問をする」側のルアナには(姫騎士を屈服させてこれくしょんにしたいという欲望しかありませんがその欲望がもうびんびんにありつつも)愛があります。

屈服する人間というのは愛がなくてはいけません。屈服される人間は支配される喜びを感じる種類の人間ですが、屈服する人間からの愛がなくてはその喜びを感じることがない……のではないかと思います。その幸せを感じちゃっているのがマリカやアナスイなんですよねー。

あと「とりあえずみんな楽しそうではある」に、この家とルアナのやっていることは異常なんだけどみんな楽しそうだからいいじゃない!というざっくり幸せで纏めちゃった感が雑でいいです。

まあでもこれ、「姫騎士ハーレムでウハウハしている姫騎士」の物語……なんですが、「主の姫騎士のために姫騎士ハーレムをつくるのに頑張っている最強の従者」が実は主人公だったのでは……と思ったり。お話としてはかなりアンバランスなんですよね。やっぱりベニーが最強すぎて浮いている感が否めないし、ベニーの最強さ加減がべつの話になっちゃってるなぁというか、……ベニーが戦い始めたら、怪我もあったけどルアナがフェードアウトしてしまったのが悔しい。もっと戦闘シーンでルアナの活躍が見たかったなぁ。

そこはルアナが戦ってでしょ!!!

でもまぁ、こんな深見真作品もたまにはいいものです。だってなんといっても、拷問する側もされる側もちょっと楽しそうだもんね!!

「ゴルゴダ」「ブラッドバス」「ライフルバード」「ヴァイス」などのハードな深見真ではなく、ライトエロライト拷問全体的にライトタッチな深見真作品。深見先生の作品の、血と硝煙の匂いを嗅ぎすぎたらこちらにこよう。

2017-02-02 深見真「ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査」

深見真「ヴァイス 麻布警察署刑事課潜入捜査」角川文庫

麻布警察署刑事課二係は、管轄内の重要犯罪を隠蔽することを目的に組織された。トップアイドルの覚醒剤疑惑、大物政治家の賄賂…。手段は問わない。二係のエース、仙石は誰よりもスマートに残虐に、犯罪を揉み消す。そんな仙石の行動を見張るため、細川巡査部長は、仙石の部下として、二係内で潜入捜査を始める。極限の騙し合いの勝者はどちらか。“悪を以って悪を制す”汚職警官を描いた本格警察小説。

* * *

祝!深見真、小説に帰還!!(だと勝手に思っている)

最近の深見真の仕事といえば漫画原作が多く、最近の小説は「サイコパス」が多かったし、オリジナルの小説はおそらく2014年に発表された「姫騎士征服戦争」「開門銃の外交官と、竜の国の大使館」以来じゃなかろうか。深見先生もブログで「久しぶりにサイコパス以外の小説書いた」と言っておりましたし。

久しぶりに発表したこの「ヴァイス」は警察もの。麻布、六本木を舞台に汚職警官・仙石重一が下半身のスキャンダルをもみ消したり犯人を拷問したり正義のヒーローのように颯爽と現れたり上司を潰したりのちょう大活躍するという内容です。嘘はついていない。うん。なんつったってこの小説はのっけから、集団系アイドルグループのメンバーが、ヤリまくって覚醒剤キメて彼氏をぶっ殺してその事実を主人公の汚職警官にもみ消してもらいましたという、ハイブリットなイヤガラセを書いてますよ!これぞ深見真!!(爆笑)

その汚職警官を監察するのが、内務監査として麻布警察署刑事二係に配属された細川瑠花。二係の仕事をこなしつつ、内務監査として仙石重一を、黒いところがないかぼろを出していないかと監視します。こうしてこの小説は「監視される」汚職警官と、「監視する」内務監査官のコンビという、少し変わったバディものになったわけです。

この「監視する」「監視される」という構図は「シビュラシステム」と「シビュラ支配下の人間」、また「(クリアカラーの監視官に)監視される執行官」「(潜在犯である執行官を)監視する監視官」という構図にも見えるので、この小説は深見先生がサイコパスの共同脚本を経てかけたものなのかな、とも想像しております。あかねちゃんというキャラクターを経て、「細川瑠花」がかけたのではないかという想像。

この物語は「仙石の物語」というよりは、「監視しながらも汚職の沼に足をからめとられ、その底であがきながら成長する女刑事の物語」にもなるような気がします。

物語のなかで、彼女は刑事としてキャラの中では未熟です。その未熟さを露呈しつつ、物語の後半に家族を人質に取られ、そこから人間的に変わらざるを得なくなります。「ああそうだ、こいつを殺すんだった」「人類の数パーセントは人を殺しても何も思わないキラーエリートだ。細川ももしかするとその数パーセントに入るのかもしれない」。その結果として、内務監査を果たしつつも仙石の「本当の仲間」になることになるのです。

その彼女がこれから、どう、刑事として成長していくのか。

もっと深い沼につかるか、それとも沼にからめとられつつ、監視役としての役目を全うするのか。

文庫オリジナルらしいですが、続編がぜひ読みたい。仙石の行動を見つつ、警官として成長していくであろう「細川瑠花」の物語を、もう少し読みたいと思う。

オネシャス! 深見先生!!!

2017-01-02 2016年読書大掃除

2017年になりました。あまり更新のないブログですが、今年もよろしくお願いいたします。

……結局ユーリの感想2話で止まってしまったあああああああああ。


そんなわけでタイトル通り、2016年に読んだ(つってもそんなに読んでない)ものの整理。感想のようなそうでもないようなの列挙です。


「おいしいベランダ。午前1時のお隣りご飯」竹岡葉月/富士見L文庫

考えてもみよう。あなたの部屋の隣に若い男性が住んでいる。ひょんなことからであった彼は29歳(亜潟さん)のスーツが似合うイケメンだ。フリーランスだから在宅で仕事をしている。家にいるときは大体ジャージで、自分が食べられるだけのものを育てているだけと称して部屋中ベランダ中を食える植物で埋め尽くしていて、ついでに作る料理はかなりうまく、隣に住む女子大生(主人公)にふるまっている。

……ありのままの植物男子にやられてしまえばいいよ!!!!


「おいしいベランダ。2 二人の相性とトマトシチュー」 竹岡葉月/富士見L文庫

ありのままの植物男子に以下略ではまったのですが、この小説は、この2巻に出てくる亜潟さん(29歳)の甥の気分になって「29歳のおっさんが女子大生と付き合っているなんて羨ましすぎるそこかわれ!!!」という見方が出来るのではないかと思った。


「雪の鉄樹」 遠田潤子/光文社文庫

祖父や父が日々女を連れ込む、たらしの家で育った庭職人・曽我雅雪。彼は13年前から両親のいない少年・遼平の世話をしている。遼平の祖母からは日々屈辱的な扱いをされているが、少年を世話をする理由は昔のある事件の贖罪のためでもあった。……というのが本書の内容。

その前に読んだ「月桃夜」がとてもよかったので続けて読書。過去にとらわれる人々の熱い愛憎。もう触るだけで火傷しそうなぐらい熱くて激しい。これがドロドロの愛憎劇というとかなり軽いニュアンスになってしまうのですが、東海テレビ的昼ドラになっていないのは雅雪の行動の勤勉かつ素直な愚直さにあるのだと思う。

「あなたが一生をかけて償うというのなら、私は一生かけて恨む。死んでも地獄の底から恨む」

劇中で遼平の祖母が雅雪に言い募るシーンがある。人からこうまで言われる男は過去一体何をしたのか。そして、人からこうまで言われてまで少年の世話をする理由は一体何なのか。その熱量からページをめくる手が止まらなくなる。……だけど最後の一ページに行ったらほっとした気分になったなぁ。ああ終わった、という安堵感が強い。「月桃夜」にしびれた人は是非読んで頂きたい一冊。


「このたびはとんだことで 桜庭一樹奇譚集」 桜庭一樹/文春文庫

直木賞作家(っつってもあの作品はそんなに好きではないのだが)桜庭一樹の初めての短編集。「青年のための読書クラブ」の前身である「青年のための推理クラブ」や、直木賞後に雑誌で掲載された「冬の牡丹」等を収録。

特に「冬の牡丹」「モコ&猫」はよいぞ。社会に出て少しでもつらいと思った人間はぐぐっとくるはずだ。この二作は、男女の微妙な距離(冬の牡丹)と男女の微妙な偏愛(モコ&猫)で、読みつつ、この「微妙さ」が桜庭一樹的でもあり。

「ひとしずくの星」淡路帆希/富士見L文庫

数年に一度訪れる天災「星の災禍」で家族を亡くしたラッカウス。神官として聖都で暮らしていた彼の頭には一つの疑問があった。「星の災禍」とはなんなのか。調べるべく入った禁忌の森で無垢な少女と出会い……。

読んだのおととしですが(苦笑)。童話のような詩的なような、静かで美しい恋の物語。あとそんなに長くないので冬休みの読書としてもおすすめ。


「バットカンパニー」深町秋生/集英社文庫

やべえ。超イイ女だよ野宮綾子。「おはようございます。イカれた女です」と言いながらヤクザの目の前ににこやかに現れる。怖すぎる。怖すぎるぐらいイイ女だ、野宮綾子。

野宮綾子社長率いる人材派遣会社・NAS。ここはまっとうな人材派遣会社ではなく、金さえ積まれればヤクザの護衛やテロリストとも相手するちょう無茶ぶりの会社だ。勿論降りかかる仕事もただの仕事ではない。裏カジノに潜入、訳あり少女への護身術の指導、挙句の果てにはヤクザとドンパチ。確かな修羅場(命のやり取りという意味で)の行間から醸し出されるバイオレンスな血の匂いにノックダウンされてください。そして野宮の無茶ぶりに泣き言を言いながら振り回されている社員の姿に萌えてください。「デート&ナイト」(監督:ショーン・レヴィ)みたいなジェットコースタームービーが大好きなひとに特におすすめ。

「レディ・ガンナーの冒険」茅田砂胡/角川文庫

破天荒お嬢様の冒険譚。ファンタジーではあるけれど、ファンタジー(幻想)、ではなく、アドベンチャー(冒険)の小説。15年前の良きジュブナイル。

とにかく主人公のお嬢様、キャサリン・ウィンスロウがなんと魅力的なことか!!行動力があり、曲がったことが大嫌い。そして義を重んずるという。そんなかっこかわいい14歳の少女です。そして銃の腕もなかなか(ポイント高いよ!!)


「視線」永嶋恵美/光文社文庫

劇団員の夏帆は副業でやっている住宅調査員の仕事で、昔住んだことのある閑静な住宅街を訪れる。偶然再会した同級生と会う約束をし、再び住宅街を訪れたその夜、通り魔に襲われる。同じ夜にその住宅街で人が一人なくなっていて……。

永嶋恵美お得意の「イヤ汁100%」。どのぐらいイヤ汁100%というのと「泥棒猫ヒナコ」シリーズや「一週間のしごと」みたいな比較的軽いタッチ(っつってもこれもイヤ汁50パーセントぐらいだが)から知った人は結構ドン引きするかもしれない。

それぐらい主人公の女がヤな女(最大の褒め言葉です)。「あんなオバさん族」とかつての同級生をよくよく見ながらその実「あんなオバさん族」になるのを過剰なまでに恐れている(ようにも見える)。あんたと違うんだから、と思いながら、自分がその分類に行きつつあるのを認めようとしない、というか。


さあ今年の読書はジョニー・ウィアーの自伝からだ!!!