一流のパティシエによる吹奏楽の共演

以下のコンサートを聴いて、思ったこと、感じたことなど。

東京佼成ウインドオーケストラ仙台フィルハーモニー管弦楽団
復興応援吹奏楽特別コンサート

・午後2時開演(と午後4時開演の回があって、午後2時のを聴いた)
電力ホール


指揮:山下 一史
演奏:東京佼成ウインドオーケストラ
仙台フィルハーモニー管弦楽団管打楽器メンバー

J.S.バッハ:G線上のアリア
2011年度全日本吹奏楽コンクール課題曲より
P.スパーク:陽はまた昇る〜東日本大震災復興支援作品〜
美空ひばりメドレー
L.アンダーソン:トランペット吹きの休日  他

 自分がかつて聞いた言葉に、舞踏家の森繁哉氏がおそらく表現者の立ち位置を確認するための言葉としてだろうとおもう「それは芸能(である/ではない)」というが、印象に残っているのだが、この日の佼成と仙台フィル管打楽器セクションの合同演奏のステージは、あえていうなら、逆にその「芸能」であることの重みを感じるプログラミングと演奏の内容だった。

 ジャンルの垣根を越えていく試みというのはいつでもどこでもそれなりにある。音楽でそれがヴィヴィッドであることは、20世紀にもいくつかあった。21世紀のそういうエネルギーはどこからどこに突破していくだろうか。これから。

 山下一史指揮の佼成ウインドと仙台フィル管楽器セクションの合同演奏のステージによるLアンダーソンは、えらい贅沢であった。クラシックお得意のテラッセンデュナーミク(言いすぎ?そこまでのものはなかった?)を折り目正しく振っている様子をはじめ、美空ひばりメドレーも、NHKの子ども向けのアニメの主題歌にもなっている「勇気100パーセント」も、ジャズのアレンジを織り交ぜた「上をむいてあるこう」も、カントリーマアムや、キットカットなどのおなじみのお菓子が、パッケージされた商品ではなく、五つ星パティシエによって、原料となる材料から目の前で丁寧に素早く作り上げているような味わい。パッケージ商品のよさはそのままに、はて、材料をクラシックなものからつくるとどうなるかお愉しみあれと、ばかりに、もう、十分愉しみましたですよ。

 ちょうどいま日本のクラシック界というかネットやテレビでは佐渡さんがベルリンフィルを振ったことが話題になってますが、われらが仙台フィルの正指揮者の山下さんもカラヤンの突然の代役でベルリンフィルで第9を振っているですよ。

 その山下さんはクラシック以外の曲を適度に流して振るかといえば、いやいやいやいや全く!仙台フィルの自主企画?に「オーケストラと遊んじゃおう」という未就学児童入場OKのコンサートがあって何年か前、自分もしっかり家の未就学児らを引率して行きましたですよ。そこでフルオーケストラを伴って演奏された「さっちゃん」の山下さんの指揮が凄かった。というか感動した。「バナナが大好き ほんとだよ」という歌詞と「遠くへいっちゃうって ほんとかな」という歌詞の旋律は、階名唱(移動ド唱法)で歌うと「ミーミレードレーレドーラソーソラードレ」とどちらも同じ旋律なのだが、山下さんは歌詞のニュアンスを解釈して棒を細やかに振り分けていてたのである!自分の記憶が確かなら。ついでにそのときのコンサートマスターの楽器がストラディバリウス(だったかどうか自分には確かめようがなくてわからなないのですが)だったりしたら、ものすごい高級さっちゃんだったなあと思うわけです。

 この演奏会での山下さんのタクトや姿勢も、ジャンルによって態度を変えることなど一切なく、どの音楽も真摯に全力に、そしてどんな音を聴衆にとどけたいかということに心血をそそぎ、そしてなにより、またしてもこの言葉かよ、と自分でもおもうのだが、音楽をやることの喜びに満ちていた。いや、付け加える、喜び、と、そして敬虔さ、だろうか。

 もうひとつ、この演奏会にはフィリップ・スパークの新作(だろうか?!)の、東日本大震災復興支援作品の「日はまた昇る」が、演奏されたことも、特記しておきたい。

 丹念に譜面を読むことからスタートするクラシック音楽のアプローチによる、ジャズやポピュラーや演歌やアニメソングは、繰り返すことになるが、子どもに大人気の気軽なお菓子を、一流のパティシエが茶目っ気たっぷりに、しかし振りかざすことのない凄い技術で仕上げた味わいであった。

 電力ホールは、たぶん、残響による音響効果が期待できない。多賀城文化センターなどとくらべれば、残響はないに等しい。どうなんだろう、悲惨なくらいにごまかしがきかない、というか、残響のないホールなのではないだろうか、ここは。そんなホールでの、プロの音色感、音程感の、安定度と明確さは、そして管楽器ならではの透明感には舌を巻いた。

 フィリップ・スパークといえば、ユーフォニアム協奏曲が、仙台フィルにもたびたびエキストラで呼ばれている岩手大学准教授の牛渡克之さんのソロによる音源がネットにあるので、紹介させてください。この時、ピアノ伴奏は自分が勤めさせていただいたので、スパークは自分にとっても思い出深い作曲家である。自分のピアノはあれなんですが、牛渡さんの、もう12年くらい前になるのかな、当時の演奏も、すばらしいとおもいます。http://musictrack.jp/musics/29609