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弁護士中山知行:神奈川県横浜市泉区在住 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-01-16 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察法 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

医療観察法制度概要について

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)は、心神喪失又は心神耗弱の状態(精神障害のために善悪区別がつかないなど、刑事責任を問えない状態)で、重大な他害行為(殺人放火強盗強姦強制わいせつ傷害)を行った人に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的とした制度です。

本制度では、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い、不起訴処分となるか無罪等が確定した人に対して、検察官は、医療観察法による医療及び観察を受けさせるべきかどうかを地方裁判所に申立てを行います。

検察官からの申立てがなされると、鑑定を行う医療機関での入院等が行われるとともに、裁判官精神保健審判員必要な学識経験を有する医師)の各1名からなる合議体による審判で、本制度による処遇の要否と内容の決定が行われます。

審判の結果、医療観察法の入院による医療の決定を受けた人に対しては、厚生労働大臣指定した医療機関(指定入院医療機関)において、手厚い専門的な医療の提供が行われるとともに、この入院期間中から、法務省所管の保護観察所に配置されている社会復帰調整官により、退院後の生活環境の調整が実施されます。

また、医療観察法の通院による医療の決定(入院によらない医療を受けさせる旨の決定)を受けた人及び退院を許可された人については、保護観察所の社会復帰調整官が中心となって作成する処遇実施計画に基づいて、原則として3年間、地域において、厚生労働大臣が指定した医療機関(指定通院医療機関)による医療を受けることとなります。

なお、この通院期間中においては、保護観察所が中心となって、地域処遇に携わる関係機関連携しながら、本制度による処遇の実施が進められます。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sinsin/gaiyo.html


東京高等裁判所決定平成28年4月19日

指定入院医療機関の管理者からの退院許可申立てについて,原審には,管理者の意見合理性妥当性を確認検証するために必要な審理を尽くすことのないまま,管理者の意見を排斥した審理不尽違法があり,ひいては事実誤認の疑いがあるとして,原審の申立棄却決定が取り消され,事件が原審に差し戻された事例

(1) 本件は,対象者治療反応性の有無・程度ないしは入院決定時の診断の変更という,退院許否の決定に重大な影響を及ぼす精神医学的・専門的な点について,いずれも専門家である管理者と精神保健審判員の見解に大きな相違がある事案であるところ,対象者の疾病の診断を巡っては,前記2記載のとおり,入院又は通院処遇申立ての段階から,複数の専門家による診断がいずれも異なっており,同一の鑑定人による診断の変更まであったという経緯をたどっている(入院決定までの間に,対象者について統合失調症判断したのは,精神保健審判員のみであると理解される。)。そのような中で,退院許可を求める管理者の意見は,平素から入院患者らの病状等を診察している医師らが,2年余りに及ぶ期間入院医療を受けてきた対象者を診療・観察した結果を踏まえた医学的・専門的意見であり,その判断形成過程に,特に,意見の合理性・妥当性について疑義を抱かせる事情もない。

 原決定は,そのような管理者の意見を排斥しているのであるが,その理由とするところは,例えば,「入院当初は,対象行為前から続いていた注察感やそれに関連した被害妄想から統合失調症と診断していたが,これらの精神病症状は抗精神病薬を投与せずに消退していることから,一過性の精神病症状であり,境界性パーソナリティ障害によるものといえる。」「対象者は,一時的抑うつ状態に陥った時を除けば社会的機能が保たれており,統合失調症の診断基準にあるような著しい低下は認められない。」などの管理者の意見に対し,「対象者が境界性パーソナリティ障害だと仮定しても,直ちに統合失調症に罹患していることは否定されないから,統合失調症との診断を変更するのであれば,統合失調症の症状が1か月以上続いたことがなかったことも併せて示される必要があるが,この点も明らかでない。」「抑うつ症状について治療により改善が見られるからといって統合失調症の陰性症状でなかったとはいえず,対象者がそれなりの社会生活を送っていた時期と比較して社会的機能が低下していないともいえない。」などと説示するなど,結局のところ,入院決定時の統合失調症との認定が正当であることを前提とするものに尽きるのであって,管理者の意見の合理性・妥当性を排斥するに足りる十分な理由が示されているとはいい難い。

 (2) ところで,医療観察法51条1項は,退院許否の判断に当たり,指定入院医療機関の管理者の意見を基礎とする旨規定するが,その趣旨は,指定入院医療機関の管理者による意見は,平素から入院患者の病状等を診察している者による医学的見地からの専門的な意見であることから,そのようなものとして十分に尊重される必要があるからであると理解される。そして,仮に裁判所が,指定入院医療機関の管理者の意見の合理性・妥当性に疑問があると考える場合には,審判期日を開き,指定入院医療機関の管理者にその意味・内容や判断の根拠等を尋ねること等により,その趣旨を確認したり,その合理性・妥当性を検証することができ,さらには,他の精神保健判定医等に鑑定を命じ,その意見を基礎とすることも可能である(同法52条)。

 (3) (2)でみた医療観察法の規定の趣旨及び(1)でみた本件事案の特性に照らせば,原決定は,管理者の意見の合理性・妥当性を確認・検証するために必要な審理を尽くすことのないまま,管理者の意見を排斥したものというほかなく,原審には審理不尽の違法があり,ひいては事実誤認の疑いがあるといわざるを得ない。

 決定に影響を及ぼす法令違反,重大な事実の誤認をいう管理者の論旨は理由があり,原決定は取消しを免れない。

5 よって,医療観察法68条2項本文により,原決定を取り消して,本件を原裁判所であるさいたま地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり決定する。

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十五年七月十六日法律第百十号)

(目的等)

第一条  この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう。以下同じ。)を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする。

2  この法律による処遇に携わる者は、前項に規定する目的を踏まえ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるように努めなければならない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15HO110.html

2017-01-15 新設分割と詐害行為取消権・否認権について このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京地方裁判所判決平成28年5月26日

分割型新設分割に伴って行われる剰余金配当に対して否認権を行使することの可否:会社法所定の債権者異議手続を経て分割型新設分割が行われた場合には、債権者異議手続における事前開示書面の内容に債権者が異議を申し立てるか否かの判断を誤らせるような虚偽の記載があるなど特段の事情がない限り、分割型新設分割に伴って行われる剰余金の配当に対して否認権を行使することはできない。

事案の概要

本件は、再生債務者である株式会社A(平成27年6月1日の商号変更前の商号はA’株式会社。以下、商号変更の前後を通じて「A」という。)が会社法763条12号ロ(平成26年法律第90号による改正のもの。以下、同法律により改正された条項については同改正前のものをいう。)に定める形態による新設分割を行う一環として、新設分割設立株式会社の株式を当時の完全親会社であった原告に対し、剰余金として配当した行為について、Aの監督委員に選任され、否認権限付与された被告が、原告を相手方として否認の請求をしたところ、同請求を認容する旨の決定がされたため、原告が、被告に対し、民事再生法137条1項に基づき同認容決定の取消し及び否認の請求の棄却を求める事案である。

金融商事判例1495号41頁

新設分割と詐害行為取消権・否認権について

 ア 新設分割について

 本件では、新設分割に際しての剰余金の配当が否認の対象とされているところ、新設分割とは、1または2以上の株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により設立する会社に承継させることをいう(会社法2条30号)。会社分割の一形態であり、新設分割をする会社による法律行為である。このような新設分割は、事業の一部の分社化による企業経営効率化等に資する制度であるが、他方で、その濫用事例の存在も少なからず指摘されていた。

 新設分割は、会社の組織に関する行為であり、法律行為であるといっても一般的売買契約等とは異なる特殊性質を有するものであり、新設分割の効力を否定するための制度として、会社法上、新設分割無効の訴えも規定されている(会社法828条1項10号)。

 イ 新設分割と詐害行為取消権

 濫用的な会社分割に対しては、新設分割無効の訴えのほか、詐害行為取消権、否認権、法人格否認の法理等の適用問題となってきた。

 そして、新設分割が民法の規定に係る詐害行為取消権の行使の対象となるのか否かについて、最二判平成24・10・12民集66巻10号3311頁は、「株式会社を設立する新設分割がされた場合において、新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる」と判示してこれを肯定した。

 上記最高裁判決は、新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについては、新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するとした。株式会社を設立する新設分割の場合について、会社法では、新設分割によって生ずる不利益から債権者を保護するため、新設分割株式会社の債権者のうち、新設分割後に新設分割株式会社に対して債務の履行を請求することができなくなる債権者については、新設分割に異議を述べることができるとして、その保護のための規定が設けられている(同法810条)。しかし、新設分割株式会社の債権者のうち、上記の債権者保護の規定による保護の対象となる債権者は、新設分割後に新設分割株式会社に対して債務の履行を請求することができなくなる債権者のみであり、平成26年法律第90号による改正前の会社法の下においては、新設分割株式会社に対して債務の履行を請求することができる債権者については、債権者保護のための規定は設けられていなかった(事実上の人的分割といい得る会社法763条12号に掲げる行為をする場合を除く)。そのため、これらの債権者については、別途の方法による保護を検討すべき必要性があったものである。

 すなわち、これらの債権者についての債権者保護の規定が設けられていない理由は、新設分割株式会社は、移転した純資産の額に等しい対価を新設分割設立株式会社から取得するはずであるとの考え方によるものと解されるが、対価として交付される新設分割設立株式会社の株式は、移転する資産に比べて換価性に欠けるものであることがままある。また、上記株式は、移転した資産と負債の差額に相当するものであり、債権者の引当財産となるべき資産が移転されていることに変わりはなく、このような債権者の保護を図る必要性がある場合も存在する。

 会社法は、法律関係画一的確定等の観点から、新設分割の無効は、新設分割無効の訴えをもってのみ主張することができると規定しており(同法828条1項10号)、上記規定との関係において、新設分割が詐害行為取消権行使の対象となり得るかが問題になった。

 しかし、新設分割無効の訴えにおける「無効」の内容は、新設分割によって設立された会社は解散し、新設分割後に上記会社に帰属した財産や債務は新設分割をした会社に帰属するという意味における無効であり(会社法843条1項4号・2項)、このような新設分割無効の訴えにより無効にすることができるとしても、それによって、詐害行為取消権の行使まで当然に制限されると解すべき積極的な理由はない。

 上記最高裁判決は、そのような点を踏まえて、詐害行為取消しの効力は、新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないとして、新設分割無効の訴えが規定されていることは新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解するにあたっての障害になるものではないと判示したものである。

 このように、新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについて、新設分割が財産権目的とする法律行為としての性質を有することや、会社の組織に関する行為であることから、直ちに結論が導き出されるものではなく、新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するものと解される。そして、会社法その他の法令において、新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しないところ、新設分割無効の訴えが存することは新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解することの障害となるものではない。かえって、会社法上の債権者保護の規定の存在によっては救済されない債権者の保護を図る必要性がある場合が存したものである。上記最高裁判決は、以上のような点を踏まえて、株式会社を設立する新設分割がされた場合において、新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると判断したものと解説されている(谷村武則「判解」曹時67巻8号239頁)。


最高裁判所第二小法廷判決平成24年10月12日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/628/082628_hanrei.pdf

株式会社を設立する新設分割と詐害行為取消権:株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割をする株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる。

Judgment concerning the situation where a right to demand rescission of a fraudulent act may be exercised against an incorporation-type company split carried out to incorporate a stock company.

Where an incorporation-type company split is carried out to incorporate a stock company, if a creditor of the company carrying out the incorporation-type company split has a claim for which the corresponding obligation has not been transferred to the stock company newly incorporated through the incorporation-type company split and he/she is also ineligible to raise an objection to the incorporation-type company split, such creditor is eligible to rescind the incorporation-type company split by exercising a right to demand rescission of a fraudulent act.

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_en/detail?id=1174

本件新設分割のように,債務の引当てとなる資産が新設分割によって新たに設立される株式会社に承継されたとしても,新設分割をする株式会社(本件でいうA)は移転した純資産の額に等しい対価を新設分割により設立される株式会社から取得しているはずとの理解の下,新設分割をする株式会社に対して債務の履行を請求することができる債権者については,一定の場合を除き,債権者保護手続が設けられていない(会社法810条参照)。しかし,そのような債権者についても,その保護を図る必要性がある場合が存することは否定できないところである。そこで,濫用事例を念頭に,債権者保護のための手法として,法人格否認の法理の適否等とともに,新設分割が詐害行為取消権行使の対象とならないかどうかが論じられてきたところである。

新設分割が詐害行為取消権行使の対象となるか否かを検討するに当たっては,新設分割が会社の組織に関する行為であること,また,会社法が,新設分割無効の訴えを規定している(会社法828条1項10号)ことなどとの関係を検討することが必要と思われる。

民法上,財産権を目的としない法律行為については,詐害行為取消権を行使することができないとされているが(民法424条2項),新設分割は,一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号),財産権を目的とする法律行為としての性質を有するということができる。

しかし,離婚に伴う財産分与のように,財産に関する法律行為でありながら,判例上,原則として詐害行為取消権行使の対象にならないとされている法律行為も存在する(最二小判昭58.12.19民集37巻10号1532頁,判タ515号93頁)ことからすれば,財産権を目的とする法律行為としての性質を有することから直ちに,新設分割が詐害行為取消権行使の対象になるということはできず,更に検討を要するものと思われる。

他方で,会社の組織に関する行為であるからといって,当然に,詐害行為取消権行使の対象にならないと解することもできないように思われる。この点に関し,組織法上の行為という法概念は,会社法上の手続や法的効果説明のために用いられるのが通常であり,民法上の規律や制度の適用を一律に否定するための概念ではないとの指摘もされているところである。実際,会社の組織に関する行為である会社の設立について,昭和13年の商法改正により商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)141条が新設される前の判例であるが,本判決も引用する大判大7.10.28民録24輯2195頁は,合資会社の設立行為について,詐害行為取消権行使の対象になるとしていたものである。

このようなことから,本判決は,新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことができるか否かについては,新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するとしたものと思われる。判例タイムズ1388号109頁


会社分割

機_饉劼その事業に関して有する権利義務の全部又は一部を新しく設立する会社又は既存の会社に承継させること。すなわち,会社を組織法的に分割することをいう。

会社の分割には,新設分割と吸収分割があり,新設分割とは分割する会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を新たに設立した会社に承継させること〔会社2〔30〕〕で,会社の合併の逆の手続という面をもつ。吸収分割とは分割会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を既存の会社に承継させること〔会社2〔29〕〕をいう。

新設会社又は承継会社が株式会社である場合には株式を発行し,又は(吸収分割の場合は)自己株式を交付するのが通常であるが,この株式等は分割会社に割り当てられ,あるいは交付される。

吸収分割の場合には承継会社の株式のみならず他の法人の株式その他の有価証券金銭その他の財産を対価とすることができ,新設分割の場合にも設立会社の社債新株予約権新株予約権付社債を対価とすることができる。

なお,新設分割の際に,数社が共同して新会社を設立して分割会社がその事業に関して有する権利義務を承継させる,いわゆる共同新設分割の方法も認められている。

法人税法定義では,分割には,分社型分割(物的分割)と分割型分割(人的分割)とがある。分割型分割とは,分割により分割承継法人の株式その他の資産が分割法人の株主等にのみ交付される場合をいい〔法税2〔12の9〕〕,分社型分割とは,分割により分割承継法人の株式その他の資産が分割法人にのみ交付される場合をいう〔法税2〔12の10〕〕。

一定の要件を満たす場合には適格分割として〔法税2〔12の11〕〕,損益の計上の繰延べがなされる〔法税62の2・62の3〕。

[株式会社有斐閣 法律学辞典第4版補訂版]

会社法

2条

三十 新設分割 一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう。

(xxx) "Incorporation-type Company Split" means any Company split whereby new Company(s) incorporated by the Company Split succeeds to any rights and obligations, in whole or in part, in connection with business of the Stock Company(s) or the Limited Liability Company(s) which is split;

三十一 株式交換 株式会社がその発行済株式(株式会社が発行している株式をいう。以下同じ。)の全部を他の株式会社又は合同会社に取得させることをいう。

(xxxi) "Share Exchange" means any exchange of shares whereby Stock Company(s) cause all of its issued shares (hereinafter referring to the shares issued by a Stock Company) to be acquired by another Stock Company or Limited Liability Company;

三十二 株式移転 一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいう。

(xxxii) "Share Transfer" means any transfer whereby Stock Company(s) cause all of its issued shares to be acquired by a newly incorporated Stock Company;

(債権者の異議)

(Objections of Creditors)

第八百十条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、新設合併等について異議を述べることができる。

Article 810 (1) In the cases listed in the following items, the creditors provided for in those items may state their objections to the Consolidation-type Merger, etc. to the Consolidated Stock Company, etc.:

一 新設合併をする場合 新設合併消滅株式会社の債権者

(i) in cases of effecting a Consolidation-type Merger: creditors of the Stock Company(ies) Consolidated through Consolidation-type Merger;

二 新設分割をする場合 新設分割後新設分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として新設分割設立会と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求することができない新設分割株式会社の債権者(第七百六十三条第十二号又は第七百六十五条第一項第八号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、新設分割株式会社の債権者)

(ii) in cases of effecting an Incorporation-type Company Split: creditors of the Splitting Stock Company(ies) in Incorporation-type Company Split who are unable to request the Splitting Stock Company(ies) in Incorporation-type Company Split to perform the obligations (including performance of the guarantee obligations that the Splitting Stock Company(ies) in Incorporation-type Company Split jointly and severally assumes with the Company Incorporated through Incorporation-type Company Split as a guarantor) (or, in the case where there are provisions on the matter set forth in Article 763 (xii) or Article 765 (1)(viii), creditors of the Splitting Stock Company(ies) in Incorporation-type Company Split); or

三 株式移転計画新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合 当該新株予約権付社債についての社債権者

(iii) in cases where the Share Options under Share Transfer Plan are Share Options attached to Bonds with Share Options: bondholders pertaining to such Bonds with Share Options.

2 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。

(2) In cases where all or part of the creditors of the Consolidated Stock Company, etc. are able to state their objection pursuant to the provisions of the preceding paragraph, the Consolidated Stock Company, etc. shall give public notice of the matters listed below in the official gazette and shall give notices separately to each known creditor (limited to one who is able to state an objection pursuant to the provisions of such paragraph), if any; provided, however, that the period under item (iv) may not be less than one month:

一 新設合併等をする旨

(i) a statement that a Consolidation-type Merger, etc. will be effected;

二 他の消滅会社等及び設立会社の商号及び住所

(ii) the trade name and domicile of the other Consolidated Company(ies), etc. and the Incorporated Company;

三 消滅株式会社等の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの

(iii) the matters prescribed by the applicable Ordinance of the Ministry of Justice as the matters regarding the Financial Statements of the Consolidated Stock Company, etc.; and

四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

(iv) a statement to the effect that creditors may state their objections within a certain period of time.

3 前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(新設分割をする場合における不法行為によって生じた新設分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない。

(3) Notwithstanding the provisions of the preceding paragraph, if the Consolidated Stock Company, etc. gives public notice under that paragraph by the Method of Public Notice listed in item (ii) or item (iii) of paragraph (1) of Article 939 in accordance with the provisions of the articles of incorporation under the provisions of that paragraph in addition to the official gazette, the Consolidated Stock Company, etc. is not required to give separate notices under the provisions of the preceding paragraph (excluding such notices to creditors of the obligations of the Splitting Stock Company(ies) in Incorporation-type Company Split that have arisen due to a tort in the case of effecting an Incorporation-type Company Split).

4 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該新設合併等について承認をしたものとみなす。

(4) In cases where creditors do not raise any objections within the period under paragraph (2)(iv), such creditors shall be deemed to have approved the Consolidation-type Merger, etc.

5 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べたときは、消滅株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該新設合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。

(5) In cases where creditors raise objections within the period under paragraph (2)(iv), the Consolidated Stock Company, etc. shall make payment or provide reasonable security to such creditors, or entrust equivalent property to a Trust Company, etc. for the purpose of having such creditors receive the payment; provided, however, that this shall not apply if there is no risk of harm to such creditors by such Consolidation-type Merger, etc.


弁護士中山知行

2017-01-13 プロバイダ責任制限法等 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京地方裁判所判決平成27年11月5日

【判示事項】 原告は,電気通信事業を営む被告電気通信設備を経由して送信され,インターネット上のウェブサイトに設けられ,不特定多数人の閲覧に供される電子掲示板掲載された各記事によって,名誉権,プライバシー権等を侵害されたとして,発信者情報の開示を求めた。裁判所は,各記事の中,対象発信者情報の特定ができ,権利侵害の明白性が認められる記事について,電子メールアドレスを含む発信者情報の開示を認める限度で,請求を認容した。

東京地方裁判所判決平成27年5月25日

【判示事項】 原告Xが,プロバイダ責任制限法に基づき,経由プロバイダである被告Yに対し,発信者情報の開示を求めた事案。裁判所は,本件ツイートは,一般人の通常の注意と読み方を基準にすれば,Xが行ったものと誤認され,Xが不特定多数の者に対してインターネット上で自己わいせつ写真を見たいかと尋ねた上,下着姿の写真を公開するふしだらな人物であるかのような誤解を与えるもので,Xの名誉権を侵害するところ,Xは,本件ツイートの投稿者に対し,不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であることから,Yが保有する本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとして,請求を認容した。

東京地方裁判所判決平成17年3月4日

【判示事項】 インターネット上の電子掲示板に書き込まれた情報により名誉等の権利を侵害されたと主張する原告が,同掲示板運営する被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任制限及び発信者情報の開示に関する法律プロバイダー責任制限法)4条1項に基づき,上記情報の発信者の情報開示を請求した事案で,裁判所は原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえず,本件においてプロバイダー責任制限法4条1項の要件があるとは認められないとして,原告の請求を棄却した事例

東京地方裁判所判決平成15年4月24日

【判示事項】 プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求の可否が争われた事例

東京地方裁判所判決平成15年3月31日

【判示事項】 プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求の可否が争われた事例


東京地方裁判所判決平成27年1月21日

【判示事項】 原告が,被告Y1ら(他Y2からY4)は,共謀して,インターネット上にウェブサイトを作成公開し,原告(弁護士)の名誉を毀損し・営業妨害したとし,被告会社は,前記ウェブサイト開設者の本人確認・同サイトの削除各義務を怠った等として,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,A・B・被告会社各管理サーバー上に,前記ウェブサイトが存在した期間を基にした慰謝料等の支払いを求めた事案。裁判所は,本件ウェブサイト上の会長事務局長と表示されるY1・Y2は,同サイトを作成公開したものと推認され,同サイトの一部記載は原告の社会的評価を低下させ,その業務を妨害したとして,Y1・Y2に対し,相当慰謝料額の支払いを命じ,その余に請求を棄却した事例

東京地方裁判所判決平成15年7月17日

【判示事項】 一 インターネットの電子掲示板に書き込まれた発言によって名誉を毀損されたという者が同掲示板の管理運営者に対して求めた当該発言を削除しなかったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容された事例

       二 インターネットの電子掲示板に書き込まれた発言によって名誉を毀損されたという者が同掲示板の管理運営者に対して求めた当該発言の削除請求が棄却された事例

2017-01-12 個人再生等 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

札幌地方裁判所判決平成28年5月30日

【判示事項】 販売会社購入者との間の自動車の割賦販売契約に係る割賦元金および割賦手数料連帯保証した信販会社が、販売会社に対して連帯保証債務を履行したことにより販売会社に留保されていた上記自動車の所有権を法定代位により取得したものの、購入者につき破産手続が開始されて破産管財人が選任された時点で上記自動車につき所有者としての登録を受けていないときに、留保した所有権を別除権として行使することの可否(積極)

【判決要旨】 販売会社と購入者との間で自動車の所有権留保特約付きの割賦販売契約が締結され、同日、販売会社、信販会社および購入者との間で、信販会社が、販売会社から上記販売契約に係る割賦元金および割賦手数料の取立および受領委任を受けるとともに購入者の委託を受けて割賦元金等につき連帯保証することなどを内容とする三者間契約が締結された後、信販会社が販売会社に対して連帯保証債務を履行したことにより販売会社に留保されていた自動車の所有権を法定代位により取得した場合には、その後、購入者に係る破産手続が開始されて破産管財人が選任されたとしても、信販会社は、上記自動車につき所有者としての登録なくして留保した所有権を別除権として行使することができる。

東京地方裁判所判決平成28年1月18日

【判示事項】 被告銀行との間の貸越契約について,銀行に対する保証債務を引き受けた信用保証会社が代位弁済し,その求償債権の残元金と保証債務履行請求権を譲り受けた原告が,被告及び連帯保証人に対し,残額の支払を求めた事案。裁判所は,小規模個人再生申立てに原告を債権者から遺漏していたため,再生計画認可決定に原告が記載されていないが,同認可決定が確定したときに再生債務者は再生計画に定められた権利を除くすべての再生債権について責任を免れる旨を定めた民事再生法178条の適用はないから,債務が免責される旨の被告の主張は採用できず,原告の請求は全部理由があるとして認容した事例

福岡高等裁判所決定平成27年3月20日

【判示事項】 小規模個人再生手続が開始された債務者の提出した再生計画を認可した再生裁判所の決定が、抗告審において、民事再生法199条2項3号に該当する場合であって、同法202条2項2号に該当する場合ではないとして、是認された事例

【判決要旨】 小規模個人再生手続が開始された債務者の提出した再生計画を認可した再生裁判所の決定は、同計画に係る返済計画表によれば、既発生の遅延損害金への弁済額を除く弁済額は、毎月の利息額のみとなって、元金に充当されないため、民事再生法199条2項3号にいう「当該基準におおむね沿うものである」とはいえないとしても、同項によれば、元本およびこれに対する再生計画認可確定後の約定利息をその確定前に発生した遅延損害金に優先して支払うことも可能であるところ、同返済計画表の遂行が可能であれば、当初から毎月の返済金を既発生の遅延損害金に充当する以前に、毎月生じる利息と元金に充当するという返済計画の遂行は可能であると認められるほか、債務者において、再生手続を申し立てた後に転職しているが、それから現在に至るまでの稼働状況を踏まえると、再生計画実現の障害となるような事情はうかがわれない判示の事実関係のもとにおいては、民事再生法199条2項3号に該当する場合であって、同法202条2項2号に該当する場合ではなく、これを是認することができる。

名古屋高等裁判所決定平成26年1月17日

【判示事項】 1年余りの間に,1度目の給与所得者等再生手続が再生計画不認可決定により,2度目の小規模個人再生手続が不同意廃止により終了した者について,給与所得者等再生手続開始決定をした原決定が維持された事例

大阪高等裁判所判決平成25年6月19日

【判示事項】 1 再生債権者がいわゆる「巻き戻し」の結果としてその後に取り消された再生債務者の担保不動産競売手続において支出していた費用の償還を求める債権は「共益債権」に該当するか(消極)

       2 共益債権に該当すると主張して再生手続以外の訴訟手続で現在の支払いを求める債権が再生債権に該当すると認めた場合に当該訴訟において当該債権の将来の支払いを命ずることができるか(積極)

【判決要旨】 1 再生債権者がいわゆる「巻き戻し」の結果としてその後に取り消された再生債務者の担保不動産競売手続において支出していた費用につき、再生債務者に対し、その償還を求め得る場合であるとしても、当該債権は、民事再生法119条所定の「共益債権」に該当しない。

       2 共益債権に該当すると主張して再生手続以外の訴訟手続で現在の支払いを求める債権が再生債権に該当すると認めた場合にも、既に確定している再生計画で定められた一般的基準により権利が変更された限度で、かつ、再生債権の届出がない以上、同計画の再生債権に対する最終の支払期限の翌日に支払いを求める請求として、当該訴訟手続において、その将来の支払いを命ずることができる。

大阪地方裁判所判決平成25年1月18日

【判示事項】 一 小規模個人再生手続において住宅資金条項を定めた再生計画の認可がされ、保証会社である原告の住宅資金貸付債権に係る保証債務の履行がなかったとみなされた場合(いわゆる巻戻し)に、保証会社である原告が既に支出した競売費用の請求権が共益債権に当たらないとされた事例

       二 右再生手続において、再生債権として届出されなかった原告の債権は、再生計画により権利変更の効力を受けて再生計画に従って分割弁済すれば足りるが、被告がその適用を求めていないとして、再生計画による権利変更後の金額について将来における一括給付が命じられた事例

東京高等裁判所決定平成24年9月7日

【判示事項】 再生手続開始の申立てが民事再生法25条4号所定の「不当な目的」でされた場合に該当するとして棄却された事例

【判決要旨】 再生手続開始の申立てが、判示の事実関係の下において、債務者がその負担した連帯保証債務を免れる方法として再生手続における否認権行使を利用しようとしてされたと認められる以上、当該申立ては、連帯保証債務の取消しのみを目的とした申立てであって、本来の目的から逸脱した濫用的な目的でされた申立てということができるから、民事再生法25条4号所定の「不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき」に該当するものとして、これを棄却すべきである。

東京高等裁判所決定平成24年3月9日

【判示事項】 民事再生手続開始の申立てが不当な目的でされたものとして民事再生法25条4号の再生申立棄却事由が認められた事例

【判決要旨】 ゴルフ場経営等を目的とする株式会社営業権回復を目的として民事再生手続開始の申立てを繰り返し、通算で4度目となる申立てをした場合において、真に再生債権者の権利変更による調整が必要ではないのに、専ら担保権消滅許可制度を利用して物上保証をした第1順位根抵当権の抹消をすることを目的としたものと評価されるときには、本来の目的から逸脱した濫用的な目的であって、民事再生法25条4号にいう不当な目的で再生手続開始の申立てがされたときに該当する。

最高裁判所第一法廷判決平成23年11月24日

【判示事項】 求償権が再生債権である場合において共益債権である原債権を再生手続によらないで行使することの可否

【判決要旨】 弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者は,同人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎない場合であっても,再生手続によらないで上記共益債権を行使することができる。

東京高等裁判所判決平成22年12月22日

【判示事項】 小規模個人再生の手続開始後,再生債権者は再生手続外で詐害行為取消権を行使することはできないとした事例

東京高等裁判所決定平成22年10月22日

【判示事項】 提出された再生計画案が否認対象行為に係る額を弁済額に加算しておらず清算価値保障原則に反するとして新たな再生計画案を作成すべき旨の個人再生委員勧告拒否した小規模個人再生手続の申立人について,当該再生計画案は決議に付するに足りないものであるとして再生手続を廃止するとした原決定に対する即時抗告が棄却された事例

最高裁判所第二小法廷判決平成22年6月4日

【判示事項】 自動車の売買代金の立替払をした者が,販売会社に留保されていた自動車の所有権の移転を受けたが,購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき所有者としての登録を受けていないときに,留保した所有権を別除権として行使することの可否

【判決要旨】 自動車の購入者から委託されて販売会社に売買代金の立替払をした者が,購入者及び販売会社との間で,販売会社に留保されている自動車の所有権につき,これが,上記立替払により自己に移転し,購入者が立替金及び手数料の支払債務を完済するまで留保される旨の合意をしていた場合に,購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき上記立替払をした者を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,上記立替払をした者が上記の合意に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。

2017-01-11 証書真否確認請求訴訟 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

証書真否確認の訴えは,証書が作成名義者の意思に基づいて作成されたかどうかを確定する訴訟であり,書面の記載内容が実質的客観的事実合致するか否かを確定する訴えではないが,この訴えは,原告法的地位危険不安定が専らその書面の真否にかかっており,書面の真否が確認されれば,当該書面にかかる法律関係に関する紛争解決する状況にある場合にのみ認められる。

証書真否確認の訴え

定款・遺言書契約書などのような法律関係を証する書面について,それを作成したと主張される人が本当にその書面を作成したものであるか(書面の成立が真正であるか)どうかを判決で確定することを求める訴え〔民訴134〕。書面真否確認の訴えともいう。この確認の訴えは,事実の確定を求める例外的なものであって,これが許されるのは,その成立の真正だけが争われており,その点が確定されさえすれば,その内容から権利関係の存否が明らかとなり,直ちに紛争の解決が得られるような場合に限られる。

[株式会社有斐閣 法律学辞典第4版補訂版]

Regarding a document evidencing a legal relationship such as the articles of incorporation, testamentary wills, contracts, etc. whether the person asserted to have created the document really created the document (whether the formation of the document is genuine).

民事訴訟法

(証書真否確認の訴え)

(Action for Declaratory Judgment to Determine Validity of Certificate)

第百三十四条 確認の訴えは、法律関係を証する書面の成立の真否を確定するためにも提起することができる。

Article 134 An action for declaratory judgment may also be filed to determine the validity of a document that certifies legal relationships.

知的財産高等裁判所判決平成28年5月26日

控訴人らが,被控訴人らに対し,控訴人会社(同社が著作権保有する音楽著作物に関し)と訴外会社間の著作物譲渡契約書は,被控訴人らの従業員らにより偽造されたものである等として,同契約書の成立の不真正の確認と損害賠償及び謝罪広告掲載を求めた事案。原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らが控訴し,請求の拡張をした。控訴審は,本件契約書の偽造は認められず,真正に成立したことが認められる等とし,原判決は相当であり,請求拡張の追加代金請求は相殺により消滅しているとして,控訴・追加請求のいずれも棄却した事例

東京地方裁判所判決平成27年11月26日

原告会社とA社との間の著作物譲渡契約書は,被告らの従業員等により偽造されたものなどと主張し,音楽著作物の著作権を保有する原告会社等が,会社分割によりA社を承継した被告らに対し,同契約書の成立の不真正の確認と損害の賠償を求めた事案。裁判所は,押印部分の裏面に印影の朱肉による浸透が確認できることや契印の態様などから,本件契約書の真正な成立を推定し,この推定を覆す特段の事情も認められないとし,請求を棄却した事例

知的財産高等裁判所判決平成27年6月24日

控訴人が,控訴人作成名義とされる本件各文書は被控訴人により偽造されたと主張し,民訴法134条の証書真否確認の訴えを提起し,原審が不適法却下したのに対し,控訴した事案。控訴審は,民訴法134条所定の「法律関係を証する書面」とは,書面自体の記載内容から直接に一定現在の法律関係の存否が証明される書面をいうと解されるが,控訴人の主張は,本件各文書自体の体裁や記載内容とは別の事情から,本件各文書が本件借用証書と関連する文書として作成された事実が認められるということに過ぎず,本件各文書は,民訴法134条所定の書面には該当しないとし,控訴を棄却した事例

東京地方裁判所判決平成27年2月10日

原告が被告に対して借用金を期日までに返済しない場合に原告の特許権を被告に移転する等が記載された書面に係る証書真否確認訴訟において,借用金額及び返済日が特定して記載されておらず,民訴法134条所定の「法律関係を証する書面」に該当しないとして,訴えが却下された事例

東京地方裁判所判決平成25年10月16日

原告及び被告会社間で作成された特許権専用実施権設定契約書が真正に成立したものではないことの確認を求めた事案。本件契約書に押印されている各印影が原告及び被告会社の各印鑑証明書と同一か否か鑑定された。鑑定結果では,本件鑑定資料範囲においては「同一の印章によって押印された印影と推定する」とされたことから,裁判所は,本件契約書が真正に成立したものではないとはいえないとして,請求を棄却した事例

福岡高等裁判所判決平成19年9月14日

共同相続人の一人である相続人Aが,他の相続人B(原審被告)に対してなした自己相続分を譲渡する旨の私署証書について,その余の相続人Cら(原審原告ら)が,(1)Aは本件証書作成当時,意思能力又は判断能力が欠如していたとして,本件証書の無効確認を求める訴えを提起し,また(2)相続人Bが,法定相続分を超えて相続持分権を有しないことの確認を求める訴えを提起したが,(1)については,本件相続分譲渡の効力に関する紛争が,本件証書の真否確認によって,直ちに解決するものとは考えられないから,訴えの利益を欠き,(2)についても,相続人Cらには即時確定の利益があるとはいえず,訴えの利益を欠くとして,原審の訴え却下判決に対する本件控訴を棄却した。

東京地方裁判所判決平成18年12月27日

遺言書が真正に成立したものと認定された事例

東京地方裁判所判決平成17年10月27日

被告Yが,被相続人が,原告らに遺産をすべて相続させたいという意向を持っていることに悩み,惑乱のあまり,被相続人名義の遺言書を偽造したとして,本件遺言書が被告Yによって偽造された無効なものであること,被告Yが民法891条5号の相続欠格事由に該当するから,被相続人の相続財産につき相続権を有しないことの各確認請求を認容した事例

東京地方裁判所判決平成16年2月26日

証書真否確認の訴えは,証書が作成名義者の意思に基づいて作成されたかどうかを確定する訴訟であり,書面の記載内容が実質的に客観的事実に合致するか否かを確定する訴えではないが,この訴えは,原告の法的地位の危険,不安定が専らその書面の真否にかかっており,書面の真否が確認されれば,当該書面にかかる法律関係に関する紛争が解決する状況にある場合にのみ認められるものと解するのが相当である。したがって,その書面の真否のみならず,書面にかかる法律行為の効力についても当事者間に争いがあり,書面の真否を確認しても,当事者の権利ないし法律上地位に存する危険又は不安定が除去解消されないような場合には,証書真否確認の訴えは即時確定の利益を欠き,許されないというべきである。

そうすると,本件においては,前記のとおり,被告は本件協議書にかかる遺産分割協議の成立を争い,これに基づく権利関係を争う趣旨と認められるから,本件協議書の真否が確認されても,原告の登記請求権等権利関係に関する紛争が除去解消される関係にはないと解される(なお,原告は,登記手続請求等の訴えにより抜本的な紛争解決を図ることが可能である。)。

横浜地方裁判所判決平成2年6月4日

遺産分割協議を記載したとされる覚書についての証書真否確認の訴えが即時確定の利益を欠くとして却下された事例

証書真否確認の訴えは、その書面に記載された内容とは無関係に、書面が作成名義者によって作成されたかどうかのみを確定する訴訟であるが、このような書面の真否の確定について独立の訴えが許されるのは、法律関係を証する書面の真否が判決が確定されれば、当事者間においては右書面の真否が争えない結果、法律関係に関する 紛争自体も解決される可能性があり、少なくとも、その紛争の解決に役立つことが大きいという理由によるものである。したがって、その書面の真否が確定されてもこれによって当事者の権利関係ないし法律的地位の不安を除去することができず、これを解消するためには更に進んで当該権利または法律関係自体の確認を求める必要がある場合には、右証明真否確認の訴えは訴訟要件たる即時確定の利益を欠き、許されないものといわなければならない。

 これを本件についてみるに、被告は、遺産分割協議か成立していない、仮に成立していたとしても詐欺によりその意思表示を取消す旨主張し、原告の本件土地についての登記請求等を根本的に争っているのであるから、本件証書真否確認の訴えにより覚書の真否が確定されたとしても、これにより当事者間に争いのある登記請求権の存否等についての紛争が根本的に解決されるものではなく、当事者は権利関係の不安を解消するためには別の裁判手続により右登記請求権自体の存否等を確定する必要があることは明らかである。したがって、本件証書真否確認の訴えは即時確定の利益を欠くものというべきである。

 なお、相続人間の分割協議により相続人の一人が権利を取得した場合における相続登記の申請は、分割協議書のほかその協議に加わった者の右協議書に押印した印鑑につき印鑑登録証明書を添付することを要し、右印鑑登録証明書が得られない場合はこれに代えて分割協議書が真正に成立したことを証明する判決を添付してこれをすることができることは当裁判所に顕著な事実であるが、別紙覚書記載の書面にはそもそも被告の指印しか押印されておらず、登録印鑑による押印はされていないのであるから、仮に被告の印鑑登録証明書を添付しても右覚書によっては相続登記の手続は取りえないものといわざるをえない。したがって、請求原因3の主張についても、確認の利益がないことは明らかである。

弁護士中山知行

2017-01-10 筆跡鑑定 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京地方裁判所判決平成28年5月27日

原告は,筆跡鑑定書を証拠として提出しており,その中では,本件自宅土地及び本件建物所有権移転登記に係る登記原因証明情報における原告名の署名が原告によるものではない旨の意見が述べられているのであるが,同鑑定書は,そもそも,同鑑定書内に「鑑定依頼の趣旨」として記載されているとおり,原告からの「偽造されたものと考え,筆跡鑑定によって明らかにしていただきたい」という,結論についての意向を示した依頼に基づいて作成されたものであり,鑑定の中立性に疑問がある上,筆跡の対照資料として,本件の紛争が発生した後に作成された原告代理人に対する委任状や原告代理人に宛てた書面を採用している点において,適切であるとはいい難く,また,その鑑定の内容について見ても,筆跡のささいな相違点を殊更に強調するもので説得力のあるものとはいい難く,これらのことや上記に認定した各事実に照らせば,同鑑定書の意見をもって上記登記原因証明情報等の書面における原告名の署名を偽造によるものと認めることはできない。

なお,上記登記原因証明情報等の書面における原告名下の印影は,その多くが上下逆に押されているのであるが,これらは,補助参加人が原告の依頼により原告に代わって押した際,誤って押した可能性もあるということであるから,かかる印影の向きをもって原告の意思存在を疑わせる事情であるということはできない。


東京地方裁判所判決平成28年1月13日

原告と被告母親であるAの自筆証書遺言につき,原告が遺言無効確認を求めた事案。裁判所は,筆跡鑑定結果を踏まえてAの自書と認め,元号のない日付も暦上の特定日を表示するもので方式違反はなく,被告の詐欺の事実を認める証拠はないとし,無効確認請求棄却した。また,本件遺言中の「すべての」との加筆部分の無効確認を求める原告の請求は,「すべての」との記載部分の効力により,本件遺言の趣旨が変わるものではないから,確認の利益はないとし,却下した事例

争点1(本件文書はAが自書したものか)について

原告は,本件文書の筆跡は,Aの過去の筆跡に似ているが,Aは,本件文書が作成されたとされる平成25年5月28日当時,満足な字が書ける状態ではなく,本件文書のように達筆な文字で一文字も間違えることなく書くことは不可能であったから,第三者がAの筆跡に似せて作成したものであると主張し,その当時のAの筆跡によるものであるとするメモ,当時のAには,軽度の動揺性認知症及び上腕周囲長短縮があったところ,軽度の動揺性認知症の原因がアルツハイマー型認知症であれば,形態異常等の書字困難を来す可能性がある旨,及び,上腕周囲長短縮により,縦書きで文字を等間隔に書いたり,行内に曲がらずに書いたりすることは大変難しかったと思われる旨の西大宮病院内科医師・C作成の意見書(「C意見書」)を証拠として提出する。

しかし,被告申出に係る鑑定人Dは,本件文書に記載された文字の筆跡と,Aの自筆であることが当事者間に争いのない乙第5号証の3の「(住所)」及び「(氏名)」欄の筆跡並びに弁論の全趣旨によればAの筆跡であることが認められる乙第18及び19号証の筆跡とは,筆跡形態,送筆画の流れ,筆圧,気宇漢字の偏部と旁部の間の感覚の広さ)の状態,文字間隔の広狭の状況等の各点から見て,共通していること,本件文書と上記対象資料の双方に存在する「×」,「□」,「◇」,「市」,「大」,「宮」,「区」,「橋」,「さ」等の文字について,その共通点と変動点を比較分析した上で,特に「□」や「◇」については,第三者では真似をすることが難しい部分について共通の筆捌きや筆遣いの状況が観察され,その他の字にも共通の筆遣いが多くうかがわれること,変動点については,個人内変動の範囲として同質視することのできる範囲にとどまること等から,総合的に判断し,同一人の筆跡であるとの鑑定結果を導いており,同鑑定結果は,合理性のあるものと認められる。したがって,本件においては,鑑定人の鑑定結果を採用し,本件文書の筆跡がAの筆跡によるものであると認めるのが相当である。原告の提出する上記メモは,その作成時期が明らかでなく,仮に,本件文書作成当時にAが書いたものであったとしても,備忘のために記載するメモの筆跡と遺言という重要法律行為を記載する文書の筆跡が異なるように見えても不自然とはいえないところ,原告申出に係る鑑定人Dは,上記メモの一部についても,本件文書の筆跡と同一人の筆跡であるとの鑑定結果を導いており,同鑑定結果も合理性のあるものと認められるのであって,上記メモをもって,本件文書の筆跡がAの筆跡によるものではないと認めることはできない。

また,C意見書については,神経内科医師の意見書によれば,せん妄と認知症の区別の一つとして動揺性の有無が言われるところ(せん妄では症状の発症によって動揺するが,認知症では多少の動揺はあっても目立つことはあまりないと言われる。),C意見書にいう「動揺性認知症」の概念が不明確であって,これと書字困難との関係も認め難い。さらに,C意見書にいう「上腕周囲長の短縮」の概念も不明確であり,平成25年6月3日頃に撮影された動画を見ても,Aの書字能力に関し,手指・前腕の筋力,腱,関節の可動域に問題はなく,肘も自由に屈曲・伸展できており,縦書きも可能であったとする整形外科医師の意見書も特段の不合理な点は認められない。これらからすれば,C意見書は,Aが本件文書を自書したとの認定を覆すには足りないというべきである。

なお,原告は,本件文書のA名義の印影は,被告がAの印鑑を押印したものである可能性もある旨主張するが,憶測の域を出ないものであり,Aが自ら押印したとの推定を左右するものとはいえない。

したがって,本件文書は,Aが自書したものであると認められ,これを覆すに足りる証拠はない。


東京地方裁判所判決平成27年10月22日

遺言者が自筆証書遺言の氏名を自書し、押印したと認めることができないとされた事例

遺言書の氏名が遺言者の筆跡と同一であるとする鑑定書があるものの、鑑定にあたり対照した資料の中に遺言者が作成したものではないと疑われる資料が含まれている上、遺言者とは別人の筆跡であるとする鑑定書も存在し、直ちにどちらか一方の鑑定書が正しくて、他方の鑑定書が誤りであると認めるに足りる証拠もないことから、遺言者が氏名を自書したと認めることはできない。また、遺言書の印影と同一の印影がある書証は本件において何ら提出されておらず、遺言書の印影を顕出した印章が遺言者の印章であると認めるに足りる証拠はないから、遺言者が押印したと認めることもできない。なお、問題となっている自筆証書遺言の内容は、その遺言に先立って作成された公正証書遺言に現れている遺言者の相続に対する考え方とあまりにもかけ離れているところ、遺言者の相続に対する考え方がその間に変化したと認めるに足りる証拠もないことから、自筆証書遺言は遺言者の意思に基づくものと認めることもできない。

被告Y3は,平成20年遺言書をAが自書したことを立証する証拠として筆跡鑑定書を提出する。

それによれば,以下の資料を対照資料として検討した結果,平成20年遺言書の筆跡は,対照資料であるAの筆跡と同一筆跡であると認められるとの鑑定結果を導いていることが認められる。

 資料1 平成22年の年賀はがき宛名面の筆跡

 資料2 平成17年遺言書の遺言者欄の筆跡

 資料3 平成23年の年賀はがきの宛名面の筆跡

 資料4 平成25年7月27日の入院診療計画書の本人・家族欄の筆跡

 資料5 平成25年7月29日の入院看護計画書の患者様氏名欄の筆跡

 資料6 平成25年7月29日の輸血同意書の患者氏名欄の筆跡

 資料7 平成12年遺言書の筆跡

 資料8 平成11年の年賀はがきの通信面の筆跡

 資料9 平成9年の年賀はがき(B,Y3宛)の宛名面の筆跡

 資料10 平成9年の年賀はがき(C宛)の宛名面の筆跡

 資料11 資料10の通信面の筆跡

 資料12 平成8年の年賀はがきの宛名面の筆跡

 資料13 資料12の通信面の筆跡

ところが,平成8年,平成9年の年賀状と平成22年,平成23年の年賀状では,宛名書きの「県」という文字の書き方が異なっていることが認められる。そのため,そもそも対照資料の中に,Aの筆跡ではないものが含まれている可能性があるといわざるを得ない。なお,被告Y3は,年賀状の筆跡について,14年の歳月の経過があり,宛名書きの一文字のうちのそのまた一部分が異なることをもって,Aが作成したものではないと断定できるものではないと主張する。しかしながら,ここで立証すべきは,平成20年遺言書を「Aが自書した」ことであり,対照資料の中にAの筆跡ではないものが含まれている可能性があっては,筆跡鑑定そのものの信用性が揺らぐといわざるを得ない。

他方,原告が証拠として提出する筆跡鑑定書(A号)では,平成17年7月8日付の「遺言書保管および遺言執行に関する約定書」の氏名欄のAの筆跡を対照資料として用い,平成20年遺言書の筆跡は別人の筆跡であると認められるとの鑑定結果を導いている。

このように被告Y3提出の鑑定書と原告提出の鑑定書とが相対立する結論を導き出しているところ,直ちに,どちらか一方が正しくて,他方が誤りであると認めるに足りる証拠はない。

そのため,乙4の筆跡鑑定書によっても,Aが平成20年遺言書を自書したと認めることはできない。

ほかに,Aが平成20年遺言書を自書したと認めるに足りる証拠もない。

東京地方裁判所判決平成26年11月25日

遺言が成立した日と異なる作成日が記載された自筆証書遺言は,方式を欠き,無効であるとして,遺言無効確認請求を認容した事例

D鑑定は,第3遺言書の筆跡は被告によるものであると推定される旨鑑定している。しかしながら,同一人でも,その時々の状況により,筆跡は変動し得るものであり,また,筆跡鑑定は多分に鑑定人の経験と勘に頼るところがあり,筆跡鑑定の証明力には限界があること,被告は,Aが第3遺言書を作成するに当たり,Aの右手に添え手をしたと供述しており,被告の供述するとおりであれば,第3遺言書の筆跡が被告の筆跡と類似しても不思議ではないことからすれば,D鑑定から直ちに被告が第3遺言書を偽造したということはできない。

D appraisal is appraising that the handwriting of the third testament is presumed to be attributed to the defendant. However, even with the same person, the handwriting can be changed depending on the situation at each occasion, and the handwriting appraisal probably relies on the experience and intuition of the expert witness, there is a limit to the verification ability of the handwriting appraisal, The defendant stated that A made a supplement to the right hand of A in preparing the third testament, and if the defendant stated, the handwriting of the third will is similar to the handwriting of defendant It is not surprising that it is impossible for the defendant to immediately falsify the third testament from the D appraisal.


弁護士中山知行

2017-01-09 自筆証書遺言の偽造等 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

Since the handwriting appraisal has not undergone scientific verification, its proof power has its limit and it is possible to mislead the comprehensive analysis and examination of the case.

大阪高等裁判所判決平成20年11月27日

【判示事項】 自筆証書遺言の筆跡鑑定につき,裁判所採用する鑑定人による鑑定書のほか,両当事者が,それぞれ独自に鑑定人を依頼し,複数の筆跡鑑定書が提出され,その真正が争われた事案

自筆証書遺言の成立の真正を争う事案においては,筆跡鑑定が行われるのが通常であるが,裁判所の採用する鑑定人による鑑定書のほかに,両当事者がそれぞれ独自に筆跡鑑定を依頼し,自己に有利な鑑定書を書証として提出するというように,複数の筆跡鑑定書が提出され,しかもその鑑定意見が異なっているということも少なくない。

この場合,裁判所としては,いずれの筆跡鑑定を採用するのが相当であるかにつき非常に困難な判断を伴う。

従来の裁判例において,異なる筆跡鑑定を詳細に比較検討して遺言書の真正な成立を肯定したものとして東京高判昭和63・4・26判時1278号81頁等があり,これを否定したものとして東京地判平成7・12・26判時1576号120頁,東京地判平成9・6・24判時1632号59頁等がある。

筆跡鑑定は科学的な検証を経ていないためにその証明力には限界があり,事案の総合的な分析検討をゆるがせにすることはできないとするものとして,東京高判平成12・10・26判タ1094号242頁。

参考文献:辻朗「自筆証書遺言における『自筆』と筆跡」判タ682号73頁


東京地方裁判所判決平成27年10月22日

【判示事項】 遺言者が自筆証書遺言の氏名を自書し、押印したと認めることができないとされた事例

【判決要旨】 遺言書の氏名が遺言者の筆跡と同一であるとする鑑定書があるものの、鑑定にあたり対照した資料の中に遺言者が作成したものではないと疑われる資料が含まれている上、遺言者とは別人の筆跡であるとする鑑定書も存在し、直ちにどちらか一方の鑑定書が正しくて、他方の鑑定書が誤りであると認めるに足りる証拠もないことから、遺言者が氏名を自書したと認めることはできない。また、遺言書の印影と同一の印影がある書証は本件において何ら提出されておらず、遺言書の印影を顕出した印章が遺言者の印章であると認めるに足りる証拠はないから、遺言者が押印したと認めることもできない。なお、問題となっている自筆証書遺言の内容は、その遺言に先立って作成された公正証書遺言に現れている遺言者の相続に対する考え方とあまりにもかけ離れているところ、遺言者の相続に対する考え方がその間に変化したと認めるに足りる証拠もないことから、自筆証書遺言は遺言者の意思に基づくものと認めることもできない。


東京高等裁判所決定平成25年4月8日

【判示事項】 被相続人名義の遺言書を偽造して相続財産不法に奪取しようとした者に特別縁故者として相続財産を分与することは相当でないとした事例

東京地方裁判所判決平成24年2月16日

【判示事項】 Aの相続人である原告Xが,同様にAの相続人である被告Yらとの間において,YはA作成名義の遺言書を偽造したと主張し,相続人たる地位を有しないことの確認を求め,一方,Yは,Aの遺言書を偽造したことはないと主張した事案。裁判所は,本件自筆証書遺言はA以外の者が作成したものと認められるところ,それを所持し,その検認手続き申し立てたのはYであって,Yは,一貫して,本件自筆証書遺言についてAから直接交付されたものと述べており,Yのほかに本件自筆証書遺言を作成した者が存在する証拠はないことなどから,本件自筆証書遺言はYによって偽造されたものと認め,請求を認容した。

本件自筆証書遺言を作成した者について

本件自筆証書遺言はA以外の者が作成したものと認められるところ,本件各理由に加えて,本件自筆証書遺言を所持し,その検認手続きを申し立てたのは被告Y1であること,被告Y1は,前訴から一貫して,本件自筆証書遺言についてAから直接交付されたものである旨述べており,第三者が関与した可能性に言及していないこと,被告Y1のほかに本件自筆証書遺言を作成した者が存在することを窺わせる証拠はないことを併せ考慮すると,本件自筆証書遺言は,被告Y1によって偽造されたものと認められる。

被告Y1は,1.A自筆の文書を入手し得ず,遺言書の偽造をすることはできない,2.本件自筆証書遺言の内容が被告Y1のみに有利なものではない,3.Aには本件自筆証書遺言を作成する動機がある旨をそれぞれ主張する。

しかし,1.については,被告Y1がAの長女であり,Aの生前である平成16年2月ころはJRで一駅という近所に居住していたことからすると,A自筆の文書を入手し得ないとはいえないし,2.については本件自筆証書遺言が本件公正証書遺言と比較して被告Y1にとって有利な内容である以上,前記の判断を左右する事情であるとは認められない。また,3.についてはこれを認めるに足りる的確な証拠がない。

さらに,被告Y1は,本件自筆証書遺言の筆跡が被告Y1の筆跡と異なる旨も主張するが,遺言書を偽造しようとする者が自らの筆跡と同一の筆跡で遺言書を作成するとは考えがたいから,前記の判断を左右する事情ではない。

さいたま地方裁判所判決平成20年9月24日

【判示事項】 被告は相続欠格者であって,原告が唯一の相続人として被相続人の共有持分を相続したと主張する原告の共有持分確認請求訴訟において,被告は,日付の記載のない遺言書に,被相続人の意思に基づかずに日付を記載し,未だ有効に作成されたものとはいえない遺言書を外形を整えて完成させたのであり,民法891条5号にいう変造をした者に当たるとして,原告の請求を認容した事例

東京地方裁判所判決平成18年5月25日

【判示事項】 自筆証書遺言につき,本件遺言書のような内容の遺言をすることは,経験則上考えられないというべきであり,本件遺言は,被相続人の意思に基づくものであるとは認められないとした事例

(一)鑑定人は,「■,□,△,成,産,協,分」の各筆跡を,各字画の傾きや長さ,連続して書かれたかどうか等筆跡全体の類似性の程度で判断して,本件遺言書がAの筆跡である可能性が高いと鑑定している。筆記用具の違いや字の大きさの違い,字画の太さが異なること,筆勢が異なることといった相違点については,鑑定結果を左右するとは思えないという理由で鑑定書では触れていない。

(二)筆跡は,指紋のように終生不変のものではなく,同一人が同一文字を書いても,そのときの書字速度,健康状態高齢,疲労,心理状態などにより筆跡の変化が生じる。筆者が他人の筆跡を模倣したとき,あるいは自己の筆跡個性隠蔽しようとしてことさらに筆跡の形状を変造したときは,相当の考慮のもとに異同識別を行うことを必要とし,特に書法に熟達した筆者によって書かれた悪意の筆跡は,その識別には一層の困難を感じるものである。

(三)本件遺言は遺言事項とAの署名とで筆記用具が異なっており,遺言事項二は「自分祖先祭祀主宰すべき者として指定する」と記載されていて,このままでは誰を祭祀承継者として指定したのか不明であり,祭祀承継者の指定はないことになる。

(四)上記(三)に照らすと,本件遺言書の遺言事項一及び二は何か遺言の見本を見ながら記載したことが窺えるし,Aの署名は別の機会になされた可能性もある。そして,遺言事項の筆跡自体は,対照文書を本件遺言書が作成された時期と同時期のものに限定したにもかかわらず,Aの筆跡と類似した部分も多いが相違点も相当数ある。筆跡鑑定自体の証拠としての証明力は,上記(二)で記載したような困難さも伴うことから,他の書証と比べて高い証明力が与えられるということはできないことを考慮すると,本件遺言書全体をAが記載したとは断定できないし,仮にAが自筆で作成したとしても,本件遺言書を最終的な遺言とする意図であったとは認めがたい。


弁護士中山知行

2017-01-08 自筆証書遺言の偽造等(筆跡鑑定を実施した事案) このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京地方裁判所判決平成7年12月26日

相反する筆跡鑑定のうち、裁判所でなした鑑定を採用して遺言書が偽造と判断された事例

大西鑑定の鑑定結果は、それぞれ対照筆跡と本件遺言書の筆跡を比較対照し、鑑定人の専門知識に基づいて、筆跡の異同を鑑定したものであり、その内容も、ひとつひとつが納得のできるものであるから、その信用性は高いというべきである。

ところで、原告の提出した対照筆跡は、いずれも親族間でやり取りされたのし袋の上の署名や住所の記載であり、通常は、名義人本人が記載するものと考えられるから、これはフクの自筆であると推認することができる。

また、被告の提出した対照筆跡であるメモは、前記鑑定結果により、原告提出ののし袋の筆跡と同一筆跡であると鑑定されているもので、フクの自筆であると推認することができるものである。

さらに、前記争いのない事実のとおり、フクは平成二年九月二六日に死亡しているのに、本件遺言書の検認手続は、それから二年以上を経過した平成四年一二月になって初めて行われているところ、フクの死亡から本件遺言書の検認までの間には、本件協議書の作成や遺産分割調停の申立てがなされている事実が認められるのであって、このよう出来事がありながら、二年以上も本件遺言書の存在が原告に明かされないことは不自然である。

以上の事実及び事情によれば、本件遺言書の筆跡はフクのものではなく、本件遺言書が提出された経緯も不自然であって、本件遺言書は真正に成立したものではないといわざるを得ない。・・・・・

以上によれば、田北鑑定は、その重要な論拠とする「稀少性」「常同性」についての検討が十分になされておらず、稀少でない筆癖や常同性のない筆癖を「固有筆癖」として採用しており、その具体的な鑑定手法には大いに疑問があるといわざるを得ない。

加えて、大西鑑定に対しても、その中心的な筆跡の特徴の指摘に対して具体的な反論をしておらず、大西鑑定の趣旨を誤解した一般論での反論をするに止まっている。

他方、大西鑑定は、田北鑑定のいう「稀少性」「常同性」を根拠とする鑑定手法を、忠実に実行していると評価できるものである。

そうすると、大西鑑定と田北鑑定の優劣は自ずと明らかといわなければならず、田北鑑定を採用することはできない。




東京高等裁判所判決平成12年10月26日

筆跡鑑定は、科学的な検証を経ていないというその性質上、証明力に限界があり、他の証拠優越する証拠価値一般的にあるのではないことに留意して、事案の総合的な分析検討をすべきであるとして、主として筆跡鑑定によって遺言書を無効とした一審判決の認定を覆し、遺言書を有効とした事例

筆跡鑑定について

本件遺言の筆跡と花子日記帳の筆跡について、原審における鑑定の結果は、

ア 配字形態は、類似した特徴もみられるが総体的には相違特徴がやや多く認められる、

イ 書字速度(筆勢)は、総体的に相違特徴がみられる、

ウ 筆圧に総体的にやや異なる特徴がみられる、

共通文字から字画形態、字画構成の特徴等をみると、いくつかの漢字では形態的に顕著な相違があり、ひらがな文字では総体的には異なるものがやや多い傾向があるとして、本件遺言の筆跡と花子の日記帳の筆跡とは別異筆跡と推定するとの結論を出している。

一方、吉田公一作成の鑑定書は、いくつかの漢字について相違しているもの、類似しているものを挙げ、また、両者の筆跡に筆者が異なるといえるような決定的な相違点は検出されないなどとして、本件遺言の筆跡と花子の日記帳の筆跡とは筆者が同じであると推定されるとの結論を出している。

原審における鑑定の結果と乙64とは、基本的な鑑定方法を異にするものではない。この二つの結論の違いは、本件遺言自体が安定性と調和性を欠いていること、花子の日記帳は、昭和五五年七月二一日から昭和六二年四月一六日までの間に記載されたもので個人内変動があること、どの字とどの字とを比較するかについてあまりに多様な組合せが可能であることなどによって生じたものと考えられる。

そうすると、右のような対象について、筆跡鑑定によって筆跡の異同を断定することはできないというべきである。

なお、筆跡の鑑定は、科学的な検証を経ていないというその性質上、その証明力に限界があり、特に異なる者の筆になる旨を積極的にいう鑑定の証明力については、疑問なことが多い。したがって、筆跡鑑定には、他の証拠に優越するような証拠価値が一般的にあるのではないことに留意して、事案の総合的な分析検討をゆるがせにすることはできない。

判例タイムズ1094号242頁

遺言書の効力をめぐって争われる事件では、当事者双方から筆跡鑑定の結果が提出されることが多い。しかし、結論の反する筆跡鑑定が多数出されることにも表れているように、筆跡鑑定の結論は不安定な印象を免れがたい。実際にも、多数の筆跡鑑定で異なる筆跡と鑑定されているが、他の証拠から見て、同一人の筆跡とせざるをえない事例もある。高等裁判所裁判実務では、多数の筆跡鑑定を経験する結果、筆跡鑑定の証拠力については、これをかなり割り引いて受け止められているといってよい実情にある。これに反して、一審段階で、筆跡鑑定についての裁判官の経験が少ない場合に、鑑定結果に引きずられて、心証形成をしている例もある。

このような筆跡鑑定に関する実情を踏まえると、遺言の効力について結論を出すに当たって、筆跡以外の事案の全体に関する実情を総合的に分析検討する必要性が高く、実務においても、この点の審理に力が注がれている。一般に裁判官の専門分野に関する判断を補助するものとして、鑑定に期待されるところは大きい。しかし、鑑定といってもさまざまなものがあり、その実情に応じた取扱いが必要である。


東京高等裁判所判決昭和63年4月26日

異なる筆跡鑑定について詳細に検討の上、遺言書が被相続人に自筆によるものであるとして原判決を取り消した事例

文書鑑定を業とし、多くの訴訟上の鑑定の経験も有する高村巌は、本件遺言書の筆跡と、控訴人らが梅子の自筆文書として提出し、弁論の全趣旨によって梅子の自筆の文書と認められる乙第二号証の一の一(手紙)の筆跡とは、前者が全体としては行書体で(「年」の字その他に楷書体又は楷書体に近い字もある。)比較的丁寧に書かれ、運筆速度も遅く記載されているのに対し、後者が無雑作に書かれ、運筆速度も速く、字形も可成りくずれているので、比較資料としては適当ではないと断りながらも、両者の間には共通符合する筆者の筆癖特徴が認められるとし、結論として本件遺言書の作成年月日の記載中の「年」の字を含めて同一人の筆跡であると判断していることが認められる。その根拠として、例えば、本件遺言書の「の」の字は起筆から転換部を上方に丸く転換するとき、起筆から転換部までの下方に向かう書線が、上方に転換する曲線と近接し、殆ど空間がないまでに密着して書く運筆癖を有しているが、右特徴は乙第二号証の二においても認められるとし、また、本件遺言書の「全」、「金」、「今」の字の「ひと」冠についてみると第一画と第二画の放射型に書かれた二線の開きの角度が可成り広く即ち一一〇度から一三〇度を示しており、これは普通約七〇度ないし約九五度以内が多いという統計的数値からみれば極めて少ない書法で、この特徴は乙二号証の二の「今」「全」「會」等の字に共通のものがみられるとし、その他、本件遺言書と乙第二号証の二の筆跡には、「す」の字において、第一筆の右端から縦線を起筆して下方へおろし、丸く転換して再び下方に運ぶ運筆癖が特徴として認められ、「京」の字でも、第一画から第六画までを連続して運筆し、全体に左に傾斜して書き、第七画は横線状に運筆し、第八画は縦線状に書く共通の特徴を見出しうるとし、また本件遺言書の「事」の字において横線を一画多く書いているが、乙第二号証の二の「事」にも右筆癖の痕跡らしきものが認められること、本件遺言書の「年」の字も特に異筆と認めるべき筆跡上の特徴は見当らないこと等を挙げる。

当裁判所も、本件遺言書と他の比較資料(乙第一号証の三を除く前掲各号証のほか当審における証人田中正司の証言によって成立の真正を認める乙一二号証を含む。)とを子細に彼此検討した結果、例えば本件遺言書中の「富」「千」「代」「子」「京」「都」「白」「金」「今」「里」「町」「九」「事」等の各筆跡は、乙第二号証の一の一、第二号証の二、第一二号証及び甲第三号証の二中のそれぞれと、「を」「ま」「す」等の各筆跡は、乙第二号証の二中のそれぞれと、いずれも極めて相似していると認めるのであって、前掲乙第二二号証及びこれを補強する高村証言並びに前掲乙第八号証に説示するところは、各筆跡の生れた時と状況とによる書体や筆法の差違をこえてなお拭い去れない筆者の個性的な書体や筆法に注目し、彼比の類似性、相同性、稀少性等を探求するものとして、その帰結と共におおむね首肯するに足りると考える。


弁護士中山知行

2017-01-07 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

Yに雇用され管理職である副主任の職位にあった理学療法士であるXが,労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ,育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから,Yに対し,本件措置は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項に違反無効であるなどと主張して,管理職手当及び損害賠償の支払を求める事案。(略称男女雇用機会均等法

本件は,妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられたことが均等法9条3項に違反して無効となるか否かが主な争点となったものであり,マタニティー・ハラスメント訴訟(いわゆる「マタハラ訴訟」)として,マスコミ等からも注目を浴びた。

労働基準法65条3項は,母性保護目的から,使用者は妊娠中の女性請求した場合には他の軽易な業務に転換させなければならない旨を規定している。

この規定について,旧労働省行政解釈では,「原則として女性が請求した業務に転換させる趣旨であるが,新たに軽易な業務を創設して与える義務まで課したものではない」としている(昭61.3.20基発151号,婦発69号)。

そして,均等法9条3項は,女性労働者の妊娠,出産,産前産後の休業その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として,解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を定めており,これを受けて,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則」2条の2第6号は,労働基準法65条3項により他の軽易な業務に転換するよう請求したこと,又は他の軽易な業務に転換したことを規定している。

したがって,使用者は,妊娠中の女性が他の軽易な業務に転換したことを理由として,不利益な取扱いをしてはならないことになる。

なお,「理由として」の意味については,妊娠,出産等の事由と不利益な取扱いとの間に因果関係があることをいうとする見解がある(公益財団法人21世紀職業財団編『詳説男女雇用機会均等法』147頁以下)。 判例タイムズ1410号47頁


最高裁判所第一法廷判決平成26年10月23日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/577/084577_hanrei.pdf

女性労働者につき妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置の,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いの該当性:女性労働者につき労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いに当たるが,当該労働者につき自由意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易な業務への転換をさせることに円滑な業務運営人員の適正配置の確保などの業務上必要性から支障がある場合であって,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらない。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_en/detail?id=1297

Judgment concerning whether or not the measure taken by an employee to demote a woman worker upon transferring her to light activities during pregnancy constitutes treatment that is prohibited under Article 9, paragraph (3) of the Act on Securing, Etc. of Equal Opportunity and Treatment between Men and Women in Employment.

The measure taken by an employee to demote a woman worker upon transferring her to light activities during pregnancy in accordance with Article 65, paragraph (3) of the Labor Standards Act, in principle, constitutes treatment that is prohibited under Article 9, paragraph (3) of the Act on Securing, Etc. of Equal Opportunity and Treatment between Men and Women in Employment; however, if reasonable grounds exist to objectively find that the woman worker consented to demotion of her own free will, or if the employer had difficulties in transferring the woman worker to light activities without taking a measure to demote her due to the operational necessity such as ensuring smooth business operations or securing proper staffing, and there are special circumstances due to which said measure is not found to be substantially contrary to the purpose and objective of said paragraph, said measure does not constitute treatment that is prohibited under said paragraph.

(1)ア 均等法は,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに,女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することをその目的とし(1条),女性労働者の母性の尊重と職業生活の充実の確保を基本的理念として(2条),女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を定めている(9条3項)。そして,同項の規定を受けて,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則2条の2第6号は,上記の「妊娠又は出産に関する事由」として,労働基準法65条3項の規定により他の軽易な業務に転換したこと(以下「軽易業務への転換」という。)等を規定している。

 上記のような均等法の規定の文言や趣旨等に鑑みると,同法9条3項の規定は,上記の目的及び基本的理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり,女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは,同項に違反するものとして違法であり,無効であるというべきである。

 イ 一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ,上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。

 そして,上記の承諾に係る合理的な理由に関しては,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置の前後における職務内容の実質,業務上の負担の内容や程度,労働条件の内容等を勘案し,当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から,その存否を判断すべきものと解される。また,上記特段の事情に関しては,上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって,当該労働者の転換後の業務の性質や内容,転換後の職場組織や業務態勢及び人員配置の状況,当該労働者の知識経験等を勘案するとともに,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して,その存否を判断すべきものと解される。

 均等法10条に基づいて定められた告示である「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し,事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示第614号)第4の3(2)が,同法9条3項の禁止する取扱いに当たり得るものの例示として降格させることなどを定めているのも,上記のような趣旨によるものということができる。

Article 9, paragraph (3) of the Act on Securing, Etc. of Equal Opportunity and Treatment between Men and Women in Employment, Article 2-2, item (vi) of the Ordinance for Enforcement of the Act on Ensuring Equal Opportunities for and Treatment of Men and Women in Employment, Article 65, paragraph (3) of the Labor Standards Act

Act on Securing, Etc. of Equal Opportunity and Treatment between Men and Women in Employment

Article 9 

(3) Employers shall not dismiss or give disadvantageous treatment to women workers by reason of pregnancy, childbirth, or for requesting absence from work as prescribed in Article 65, paragraph 1, of the Labor Standards Act (Act No. 49 of 1947) or having taken absence from work as prescribed in the same Article, paragraph 1 or 2, of the same act, or by other reasons relating to pregnancy, childbirth as provided by Ordinance of the Ministry of Health, Labor and Welfare.

Ordinance for Enforcement of the Act on Ensuring Equal Opportunities for and Treatment of Men and Women in Employment

Article 2-2 

Reasons relating to pregnancy or childbirth provided by Ordinance of the Ministry of Health, Labour and Welfare provided for in Article 9, paragraph (3) of the Act shall be as follows:

(vi) Making a request as stipulated in Article 65, paragraph (3) of the Labour Standards Act or having been transferred to other light activities pursuant to the provisions of the same paragraph;

Labor Standards Act

(Before and After Childbirth)

Article 65 

(3) In the event that a pregnant woman has so requested, an Employer shall transfer her to other light activities.


弁護士中山知行

2017-01-06 届出意思(婚姻・離婚・縁組・離縁) このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

婚姻離婚養子縁組,離縁にはそれぞれの身分行為意思(婚姻意思,離婚意思,縁組意思,離縁意思)の有無以外に,それぞれの届出をする意思が必要かどうか・・・。

It is being debated that whether marriage, divorce, adoption, and dissolution of adoption requires the intention to make a notification in addition to the presence or absence of each identity intention (marriage intention, intention to divorce, willingness to adopt, willingness to dissolution of adoption).


最高裁判所第一法廷決定平成23年2月17日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/087/081087_hanrei.pdf

【判示事項】 1 数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて共同訴訟人の一人が上告を提起した後にされた他の共同訴訟人による上告の適否

       2 数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて共同訴訟人の一人が上告受理の申立てをした後にされた他の共同訴訟人による上告受理の申立ての適否

判決要旨】 1 数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて,共同訴訟人の一人が上告を提起した後に他の共同訴訟人が提起した上告は,二重上告として不適法である。

       2 数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて,共同訴訟人の一人が上告受理の申立てをした後に他の共同訴訟人がした上告受理の申立ては,二重上告受理の申立てとして不適法である。

最高裁判所第二小法廷判決平成8年3月8日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/148/073148_hanrei.pdf

【判示事項】 婚姻当事者以外の利害関係人の身分上の地位に及ぼす影響を考慮して婚姻無効確認請求信義則に反するとはいえないとされた事例

【判決要旨】 甲の父が甲の意思に基づかないで甲乙の婚姻の届出をした場合において、甲が右届出がされたことを知らずに丙との婚姻の届出をして二人の子をもうけたため、甲乙の婚姻が無効でないとされると甲丙の婚姻が重婚に該当するとして取り消される等婚姻当事者以外の利害関係人の身分上の地位に重大な影響を及ぼすおそれがあるなど判示の事実関係の下においては、甲と乙との間には実質的婚姻関係継続し、乙としては甲の父が甲の意向を受けて右届出をしたと思っても不合理ではなかったなどの判示の事情があったとしても、甲が届出意思の不存在を主張して甲乙の婚姻の無効確認請求をすることは、信義則に反するとはいえない。

最高裁判所第二小法廷判決昭和57年3月26日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/882/066882_hanrei.pdf

【判示事項】 いわゆる方便としてされた協議離婚が有効とされた事例

【判決要旨】 夫婦事実上の婚姻関係を継続しつつ、生活扶助を受けるための方便として協議離婚の届出をした場合でも、右届出が真に法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであるときは、右協議離婚は無効とはいえない。

最高裁判所第三小法廷判決昭和47年7月25日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/998/051998_hanrei.pdf

【判示事項】 届出意思の欠缺による婚姻の無効とその追認の効力

【判決要旨】 事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合において、当時右両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、のちに他方の配偶者が届出の事実を知つてこれを追認したときは、右婚姻は追認によりその届出の当初に遡つて有効となると解すべきである。

最高裁判所第二小法廷判決昭和46年10月22日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/022/052022_hanrei.pdf

【判示事項】 養子縁組の意思が存在し縁組が有効に成立したとされた事例

【判決要旨】 甲男が乙女養子とする養子縁組の届出をした場合において、乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事家業を手伝い、家計をもとりしきつていた者であり、甲は、すでに高令に達し、病を得て仕事もやめたのち、乙に世話になつたことへの謝意をもこめて、乙を養子とすることにより、自己財産相続させあわせて死後の供養を託する意思をもつて、右届出をしたものであつて、甲乙間には過去情交関係があつたにせよ、それは偶発的に生じたものにすぎず、事実上の夫婦然たる生活関係を形成したものではなかつたなど判示の事実関係があるときは、甲乙間に養子縁組の意思が存在し、縁組は有効に成立したものというべきである。

最高裁判所第一小法廷判決昭和44年4月3日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/015/054015_hanrei.pdf

【判示事項】 婚姻の届書が受理された当時本人が意識を失つていた場合と婚姻届出の効力

【判決要旨】 事実上の夫婦共同生活関係にある者が、婚姻意思を有し、その意思に基づいて婚姻の届書を作成したときは、届書の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届書の受理により婚姻は有効に成立する。

最高裁判所第一小法廷判決昭和38年11月28日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/265/056265_hanrei.pdf

【判示事項】 協議離婚を有効と認めた事例

論旨は、本件協議離婚の届出は、離婚当事者の承諾なくして訴外Dによりなされたものであると主張するが、右届出が離婚当事者である上告人及びその妻Eの意思に基づいてなされたものであつて、Eの継父Dが当事者の承諾なく擅になしたものでない旨の原審の事実認定は、挙示の証拠により首肯できる。所論は、証拠の取捨判断、事実認定に関する原審の専権行使非難するにすぎないものであるから、採用できない。

原判決によれば、上告人及びその妻Eは判示方便のため離婚の届出をしたが、右は両者が法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてなしたものであり、このような場合、両者の間に離婚の意思がないとは言い得ないから、本件協議離婚を所論理由を以つて無効となすべからざることは当然である。これと同一の結論に達した原判決の判断は正当であり、その判断の過程に所論違法のかどあるを見出し得ない(所論違憲の主張は実質は単なる違法をいうに過ぎない)。所論は、原判決に副わない事実関係を想定するか或は原判決を正解しないで、これを攻撃するものであつて、採るを得ない。

最高裁判所第二小法廷判決昭和34年8月7日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/217/056217_hanrei.pdf

【判示事項】 協議離婚届出書作成後の翻意と届出の効力

【判決要旨】 合意により協議離婚届出書を作成した一方の当事者が、届出を相手方委託した後、協議離婚を翻意し、右翻意を市役所戸籍係員に表示しており、相手方によつて届出がなされた当時、離婚の意志を有しないことが明確であるときは、相手方に対する翻意の表示または届出委託の解除の事実がなくとも、協議離婚届出が無効でないとはいえない



弁護士中山知行