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弁護士中山知行:神奈川県横浜市泉区在住 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-08-25 Google, Yahoo! 等検索サイト運営会社に対する訴訟 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

過去の軽微な犯罪歴等が一度ネットに載ってしまうと,情報は無期限にしかも際限なく拡散するので,検索できないようにするしかない。

検索できないようにしても,情報自体を消したわけではない。

プライバシー定義は,「自分の情報をコントロールすることのできる権利」だ。

現実検索サイト運営会社によって精神的苦痛を受けいる人が多数おりその人達の救済が必要だ。

この問題は基本,私人間(削除を求める人と検索サイト運営会社)の争いであり,表現の自由とは関係ない。

表現の自由は,対国家権力の問題であり,私人間の問題ではない。

僕はそう思うが。




インターネット上の不都合個人情報を消す「忘れられる権利」を欧州連合(EU)の司法裁判所が認めてから2年。検索最大手グーグル欧州で、削除要請に応じる態勢を整えてきた。どんな課題が浮かび、「忘れられる権利」は今後どうなっていくのか。グーグル法務顧問ピーターフライシャーさんに聞いた,という記事

http://www.asahi.com/articles/DA3S12525314.html




弁護士中山知行

2016-08-24 損害拡大防止義務(duty to mitigate damages) このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

損害拡大防止義務については最高裁判例があります。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/200/037200_hanrei.pdf

最高裁判所第二小法廷判決/平成19年(受)第102号

【判決日付】 平成21年1月19日

【判示事項】 店舗賃借人賃貸人の修繕義務の不履行により被った営業利益相当の損害について,賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降に被った損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできないとされた事例

【判決要旨】 ビルの店舗部分を賃借してカラオケ店を営業していた賃借人が、同店舗部分に発生した浸水事故に係る賃貸人の修繕義務の不履行により、同店舗部分で営業することができず、営業利益相当の損害を被った場合において、次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では、遅くとも賃貸人に対し損害賠償を求める本件訴えが提起された時点においては、賃借人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避または減少させる措置を執ることなく発生する損害のすべてについての賠償を賃貸人に請求することは条理上認められず、賃借人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできない。

        (1) 賃貸人が上記修繕義務を履行したとしても、上記ビルは、上記浸水事故時において建築から約30年が経過し、老朽化して大規模な改修を必要としており、賃借人が賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。

        (2) 賃貸人は、上記浸水事故の直後に上記ビルの老朽化を理由に賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしており、同事故から約1年7か月が経過して本件訴えが提起された時点では、上記店舗部分における営業の再開は、実現可能性の乏しいものとなっていた。

        (3) 賃借人が上記店舗部分で行っていたカラオケ店の営業は、それ以外の場所では行うことができないものとは考えられないし、上記浸水事故によるカラオケセット等の損傷に対しては保険金が支払われていた。

文献 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/11-3/yamada.pdf

英米法圏で発展した損害軽減義務の法理については,谷口知平「損害賠償額算定における損害避抑義務――Avoidable consequences の理論示唆」我妻榮還暦記念『損害賠償責任研究 上』(有斐閣1958年)235頁,吉田和夫「債権者の損害避止義務及び損害拡大防止義務について」ジュリ866号(1986年)78頁,斎藤彰「契約不履行における損害軽民法416条1項の「通常生ずべき損害」と損害軽減義務――損害賠償額算定の基準時との関連において」石田喜久夫 = 西原道雄 = 高木多喜男還暦記念『損害賠償法の課題展望 中』(日本評論社1990年)51頁が紹介している。また,内田貴強制履行と損害賠償――『損害軽減義務』の観点から」曹時42巻10号(1990年)1頁〔同『契約の時代』(岩波書店2000年)所収〕は,損害軽減義務が日本民法上の原理としても存在することを説くが,この主張はその後,履行請求権の体系的な位置づけをめぐる議論へと発展した(森田修「『損害軽減義務』について――履行請求権の存在意義に関する覚書(その二)」法学志林91巻1号(1993年)119頁〔同『契約責任の法学的構造』(有斐閣,2006年)に所収〕)。なお,内田論文以降の議論状況は,吉川吉樹「損害軽減義務と履行請求権」内田貴 = 大村敦志編『民法の争点』(2007年)174頁以下を参照。

もとは,common law 上の原則です。

What is the duty to mitigate damages?

A non-breaching party has a duty to mitigate damages. In other words, a non-breaching party has the duty to take reasonable steps to minimize damages. The failure to mitigate damages may cause the victim to only be allowed to recover damages that would have resulted if mitigated.


There are several limitations on awarding damages to make the non-breaching party whole.

A party cannot recover for loss which she could have avoided or mitigated through her reasonable efforts.

A person injured by the wrongful acts of another has a duty to mitigate or minimize the damages and must protect herself if she can do so with reasonable effort or at minimal expense, and can recover from the delinquent party only such damages as she could not, with reasonable effort, have avoided.

The duty to mitigate damages is sometimes referred to as the doctrine of avoidable consequences.

Damages are limited to those losses which were foreseeable.

Special damages are recoverable when special circumstances exist which cause some unusual injury to the plaintiff.

The plaintiff can only recover special damages if the defendant knew or should have known of the special circumstances at the time the defendant entered into the contract.

Avoidable consequences doctrine is a legal principle that places the responsibility of minimizing damages upon the person who has been injured. The plaintiff after an injury or breach of contract should make reasonable efforts to mitigate the effects of the injury or breach. If the defendant can show that the plaintiff failed to mitigate damages, the plaintiff's recovery can be barred or reduced. The major function of the doctrine is to reduce the damages brought about by the defendant's misconduct.

弁護士中山知行

2016-08-18 公正証書遺言の口授 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

今のところ,最高裁判例では,遺言者が遺言の趣旨を口授せず,「はい」と返事したのみで公正証書遺言有効としたものはありません。だからこそ,現在でも高裁が「口授」がなかったとして公正証書遺言を無効にする判例が出続けています。 http://d.hatena.ne.jp/kusunokilaw/20160605

弁護士中山知行

2016-08-12 固有必要的共同訴訟か類似必要的共同訴訟か このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

固有必要共同訴訟とは,全員が漏れなく共同原告又は共同被告として訴え又は訴えられるのでなければ当事者適格を欠くことになるものである。類似必要的共同訴訟とは,判決の効力が当事者以外の関係者に及ぶ関係で,その者が共同して訴え又は訴えられた場合には訴訟目的が全員につき合一に確定されることが必要とされるが,全員が原告または被告とならなくとも当事者適格を欠くことにはならない。

最高裁判所第一法廷決定平成23年2月17日

数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて共同訴訟人の一人が上告を提起した後にされた他の共同訴訟人による上告の適否;数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて共同訴訟人の一人が上告受理の申立てをした後にされた他の共同訴訟人による上告受理の申立ての適否:数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて,共同訴訟人の一人が上告を提起した後に他の共同訴訟人が提起した上告は,二重上告として不適法である。;数人の提起する養子縁組無効の訴えにおいて,共同訴訟人の一人が上告受理の申立てをした後に他の共同訴訟人がした上告受理の申立ては,二重上告受理の申立てとして不適法である。

数人の提起する養子縁組無効の訴えは,いわゆる類似必要的共同訴訟と解すべきであるところ(最高裁昭和43年(オ)第723号同年12月20日第二小法廷判決・裁判民事93号747頁),記録によれば,上告人兼申立人が本件上告を提起するとともに,本件上告受理の申立てをした時には,既に共同訴訟人であるX1が本件養子縁組無効の訴えにつき上告を提起し,上告受理の申立てをしていたことが明らかであるから,上告人の本件上告は,二重上告であり,申立人の本件上告受理の申立ては,二重上告受理の申立てであって,いずれも不適法である。


最高裁判所第三小法廷判決平成元年3月28日

共同相続人間における遺産確認の訴えは、固有必要的共同訴訟と解すべきである。

遺産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであり、その原告勝訴の確定判決は、当該財産が遺産分割の対象である財産であることを既判力をもって確定し、これに続く遺産分割審判手続及び右審判の確定後において、当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続人間の紛争解決資することができるのであって、この点に右訴えの適法性肯定する実質的根拠があるのであるから(最高裁昭和五七年(オ)第一八四号同六一年三月一三日第一小法廷判決・民集四〇巻二号三八九頁参照)、右訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

遺産確認の訴えを当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えとして理解し、遺産分割審判の前提問題として、その遺産帰属性を争う余地をなくするためにそのような訴えを適法とする見解を採る限り、それは、機能的には遺産分割審判の手続(これは一般の共有物分割裁判の手続に対する特別手続である。)の前提手続として意味を持つことになる。そして、一般手続である共有物分割請求訴訟が固有必要的共同訴訟であることは、大審院以来の一貫した判例理論であり、学説上も異論がないこと(大判明治41・9・25民録14輯931頁、菊井=村松・全訂民訴法I 333頁等)、遺産確認の訴えと同類型とみられる目的物件につき一定の数人の間に共有関係が存在するかどうかの確認を求める訴訟も固有必要的共同訴訟と解されていること(大判大正2・7・11民録19輯662頁、菊井=村松・全訂民訴法I 333頁等)、一部の相続人を除外してされた遺産分割協議は無効であり(注釈民法(25)907頁)、遺産分割の審判も同様、全員につき合一に確定することを要し、いわゆる固有必要的共同訴訟類似の手続形態を生じると解されていること(鈴木忠一「非訟事件の裁判の既判力」263頁、岡垣学・家事審判法講座2巻56頁)との整合性からみて、遺産分割審判の前提手続としての機能を果たすべき遺産確認の訴えも、当事者の範囲に関してはこれと同一であることを要するとしなければ、所期の目的を達成することはできないことは明らかと思われる。学説は、いずれも、遺産確認の訴えにつき、固有必要的共同訴訟説を説く。田中恒朗「遺産分割の前提問題と民事訴訟(上)」ジュリスト608号93頁、同「遺産分割手続の前提問題」現代家族法大系5 50頁、小山昇「遺産の範囲確定のための民事訴訟」島津ほか編・新版相続法の基礎(実用編)156頁、山本克巳「遺産確認の訴えについての若干の問題」本誌652号23頁。本判決は、前記の見地から、遺産確認の訴えは、全共同相続人が関与し、同一確定を要する固有必要的共同訴訟と解したものである。判例タイムズ698号202頁


最高裁判所第二小法廷判決昭和43年12月20日

養親の実子の提起する養子縁組無効の訴と訴の利益:養親の実子は、養親死亡後養子相手方として養子縁組無効の訴を提起する訴の利益を有する。

数人の提起する養子縁組無効の訴は、いわゆる類似必要的共同訴訟であるから、訴を提起した共同訴訟人のうち一名または数名だけでも、有効に訴を取り下げることができるものである(大審院大正九年(オ)第八〇二号同一〇年二月一五日判決民録二七輯二八九頁参照)。そして、その控訴審において右訴の取下があったときは、民訴法二三七条二項の適用があることは、所論のとおりであるが、これによって訴訟の目的である権利関係が確定するものではなく、訴の取下をしなかった共同訴訟人と相手方との間の判決の効力は、人訴法二六条、一八条規定によって、訴の取下をした共同訴訟人に及ぶものである。したがって、原審において訴の取下をしたみつゑおよび善四郎は、被上告人らと上告人らとの間の本件訴訟の判決の効力を受けるのであり、両名または被上告人らと上告人らとの間の各法律関係に所論の矛盾を生ずることはないといわなければならない。


最高裁判所第三小法廷判決平成16年7月6日

共同相続人間における相続人の地位不存在確認の訴えと固有必要的共同訴訟:共同相続人が,他の共同相続人に対し,その者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは,固有必要的共同訴訟である。

被相続人の遺産につき特定の共同相続人が相続人の地位を有するか否かの点は、遺産分割をすべき当事者の範囲、相続分及び遺留分の算定等の相続関係の処理における基本的な事項の前提となる事柄である。そして、共同相続人が、他の共同相続人に対し、その者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは、当該他の共同相続人に相続欠格事由があるか否か等を審理判断し、遺産分割前の共有関係にある当該遺産につきその者が相続人の地位を有するか否かを既判力をもって確定することにより、遺産分割審判の手続等における上記の点に関する紛議の発生を防止し、共同相続人間の紛争解決に資することを目的とするものである。このような上記訴えの趣旨、目的にかんがみると、上記訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するものというべきであり、いわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。

以上によれば、共同相続人全員を当事者としていないことを理由に本件訴えを却下した原審の判断は、正当として是認することができる。


最高裁判所第二小法廷判決昭和56年9月11日

遺言無効確認訴訟が固有必要的共同訴訟にあたらないとされた事例:単に相続分及び遺産分割の方法指定したにすぎない遺言の無効確認を求める訴は、固有必要的共同訴訟にあたらない。

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件遺言無効確認の訴が固有必要的共同訴訟にあたらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

(固有必要的共同訴訟か否かの点について) この点について、遺言無効確認訴訟は、遺言が有効であればそれから生じるべき法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解されるのであるが、本件のような遺言では、それが有効であれば被告らが遺産の一部である不動産につき、それぞれの単独所有あるいは共有として遺産分割される権利を有するのであるから、本件の訴は、そのような権利を有しないとの確認を求めるものということができよう。そのような訴訟は、相手方の単独所有権や共有持分権の不存在の確認訴訟に類似したものとなる。学説(中村英郎「特別共同訴訟理論の再構成」中村宗雄教授古稀記念論文集197頁、同・判評248号39頁、斎藤編・注解民事訴訟法(1)総則I 353頁、栗原平八郎「遺言無効確認の訴えの被告」相続法の基礎316頁、岡垣学「遺言無効確認の訴と必要的共同訴訟」本誌390号232頁など)は、このような考えに立つて、遺言無効確認訴訟を固有必要的共同訴訟にあたらないとしている。もつとも、遺言の内容は千差万別であり、内容いかんによつては固有必要的共同訴訟の取扱いを要するものがありうるから(その一例は、複数の遺言執行者が選任された場合である―静岡地裁浜松支判昭25・4・27)、本判決は、本件の事案に即して単に相続分及び遺産分割の方法を指定したにすぎない遺言書について、固有必要的共同訴訟の取扱いを要しない旨を明らかにしたものと解される。したがつて、一種の事例判例であるが、その射程距離は相当広いものと解してよいであろう。判例タイムズ454号84頁


最高裁判所第一小法廷判決昭和61年9月4日

前婚の離婚無効確認の訴え及び後婚の取消の訴えと必要的共同訴訟:前婚の妻の提起する前婚の離婚無効確認の訴えと後婚の婚姻取消の訴えとは、必要的共同訴訟に当たらない。

必要的共同訴訟とは、訴訟の目的が共同訴訟人の全員につき合一にのみ確定すべき場合(民訴法62条)であって、訴訟の判決が共同訴訟人に区々になることが法律上許されない場合である。判決の合一確定の必要は、単に事実上又は論理上合一である要請があるというだけでは足らず、法律上合一確定しなければならないところ、具体的にいかなる場合に合一確定の必要があるかは、民訴法62条の規定から明確にすることはできず、実体法及び訴訟法から検討されなければならないといわれている(斎藤秀夫編・注解民訴法(1)341頁)。身分関係訴訟についてこれをみるのに、数人が一個の身分関係を形成する場合、第三者がこの身分関係の存否の確認又は取消を訴求するときは、その身分関係の主体全員を共同被告にすべきであり、その身分関係の主体の一人が他の主体を相手に身分関係の存否確認又は取消を訴求するときは、他の全員を共同被告にしなければならない(前掲注解民訴法350頁)。判例をみるのに、身分関係訴訟で固有必要的共同訴訟にあたるとしたものとして、離縁の訴えは養親である夫婦が共同原告となるべき必要的共同訴訟であるとした大判明35・12・20(民録8輯114頁)、利害関係人たる母からの認知無効の訴えは父と子が生存するときは父と子を共同被告とすべきであるとした大判大14・9・18(民集4巻635頁)、夫婦が共同でなした養子縁組について無効確認の訴えを第三者から提起する場合には養親とともに養子である夫婦双方を被告とすべきであるとした大判昭14・8・10(民集18巻804頁)などがあり、これに対し必要的共同訴訟に当たらないとした判例として、嫡出親子関係不存在確認の訴えにおいては父子関係と母子関係との各不存在を合一に確定する必要はないとした最高3小判昭56・6・16(民集35巻4号791頁)などがある。判例タイムズ624号124頁


最高裁判所第三小法廷判決平成22年3月16日

固有必要的共同訴訟において合一確定の要請に反する判決がされた場合と不利益変更禁止原則:原告甲の被告乙および丙に対する訴えが固有必要的共同訴訟であるにもかかわらず、甲の乙に対する請求を認容し、甲の丙に対する請求を棄却するという趣旨の判決がされた場合には、上訴審は、甲が上訴または附帯上訴をしていないときであっても、合一確定に必要な限度で、上記判決のうち丙に関する部分を、丙に不利益に変更することができる。

共同相続人が,他の共同相続人に対し,その者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは,固有必要的共同訴訟であるというのが判例の立場である(最三小判平16.7.6民集58巻5号1319頁,判タ1172号143頁)。そして,固有必要的共同訴訟においては,共同訴訟人の1人による上訴の提起は,利益な訴訟行為として共同訴訟人の全員のために効力を生じ(民訴法40条1項),上訴を提起しなかった共同訴訟人も上訴人の地位に立つとするのが通説・判例であり(秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法?〔第2版〕』408頁,伊藤眞『民事訴訟法〔第3版4訂版〕』598頁,最三小判昭38.3.12民集17巻2号310頁参照),これを前提とすれば,Y2の上告により,Y1も上告人の地位に立つことになる。なお,Xは,当初,Y1及びY2のみならず,亡Aとの養子縁組届出がされていたY3(Y2の妻)も本件請求の被告としており,Y3に対する本件請求に係る訴訟は,Y1に対するそれと同様の経緯をたどっていたが(本判決とともに民集に掲載される予定の本件の第1審判決及び原判決参照),Y1による本件上告の後,X,Y3間に係属していた亡AとY3の養子縁組の無効確認請求訴訟において同養子縁組の無効確認判決が確定し,本件請求に係る訴訟につきY3が元々被告適格を有していなかったことが客観的に明らかとなったため(養子縁組無効確認判決は,確認判決であるというのが判例の立場である。最三小判昭38.12.24刑集17巻12号2537頁参照),Y3に対する本件請求に係る訴えは取り下げられた(Y3は,そもそも本件請求に係る訴訟の当事者となるベきではなかった者であり,Y3に対する訴えの取下げを認めた処理に問題はないと思われる)。本判決は,まず,本件請求に係る訴えが固有必要的共同訴訟であることからすれば,1審判決は,Y1に対する本件請求をも棄却したものであって,XのY1に対する控訴につき控訴の利益が認められることは明らかであり,また,原審は,Y2に対する本件請求を認容する一方で,Y1に対する本件請求を棄却した1審判決を維持したものであり,そのような判断は,固有必要的共同訴訟における合一確定の要請に反するものであると判示した。このように,原判決には,その全部につき合一確定の要請に反する違法があると考えられるが,本件ではXから最高裁に対する不服申立てがされていないため,不利益変更禁止の原則との関係で,原判決のうちXが敗訴した部分(XのY1に対する本件請求を棄却した1審判決を維持した部分)を破棄することができるかが問題となる。この問題につき,本判決は,判決要旨のとおり判示して,Y2に関する部分のみならずY1に関する部分についても原判決を破棄することができるとした。判例タイムズ1325号82頁



固有必要的共同訴訟

訴訟の目的が全員につき合一に確定されなければならないため関係者全員が共同して訴え又は訴えられる必要があるとされる共同訴訟〔民訴40〕の1形態。訴訟物たる権利又は法律関係について数人が共同でのみ管理処分ができる場合や,他人間の法律関係の変動を生じさせることを目的とする形成訴訟又は変動を生じさせると同程度に重大な影響を与える確認訴訟がこれにあたる。前者の例として,共有物分割の訴え〔民258〕,数人の選定当事者による訴え〔民訴30〕などが,また,後者の例として,第三者が提起する婚姻の無効・取消しの訴え〔人訴12<2>〕,取締役解任の訴え〔会社854<1>・855〕などが挙げられる。入会権あるいは分割前の相続財産など,共同所有に属する財産に関する訴訟については争いがある。最高裁判所は,共同所有者が入会権確認の訴えを提起した場合については,必要的共同訴訟の成立を肯定し(最判昭和41・11・25民集20・9・1921),他方,土地の所有者が地上建物の共同相続人に対してその収去と土地明渡しを求める訴えについては,必要的共同訴訟でないとしている(最判昭和43・3・15民集22・3・607)。また,土地の共有者が隣接する土地の所有者を相手に境界確定(⇒境界確定の訴え)を提起する場合についても,合一確定が必要であるとして,全共同所有者が原告になる必要があるとする(最判昭和46・12・9民集25・9・1457)。もっとも,土地の共有者のうちに提訴同調しない者がいるときは,その者を被告として訴えを提起することができるとされている(最判平成11・11・9民集53・8・1421)。[株式会社有斐閣 法律学辞典第4版補訂版]


類似必要的共同訴訟

判決の効力が当事者以外の関係者に及ぶ関係で,その者が共同して訴え又は訴えられた場合には訴訟の目的が全員につき合一に確定されることが必要とされる〔民訴40〕共同訴訟の1形態(⇒必要的共同訴訟)。例えば,数人の株主が提起する会社合併無効の訴え〔会社828<1>〔7〕〔8〕〕や株主総会決議取消し又は無効・不存在確認の訴え〔会社830・831〕,役員等に対する責任追及の訴え(いわゆる株主代表訴訟)〔会社847<3>〕など。[株式会社有斐閣 法律学小辞典第4版補訂版]

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弁護士中山知行 

2016-08-11 養子縁組無効確認訴訟 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

養子縁組有効であるためには,2つの要件必要です。それは,意思能力があること+縁組意思があることの2つです。縁組意思は,単なる届出意思ではなく,さらに親子関係実体を創設しようとする意思でなければなりません。なお,婚姻についても,婚姻意思と届出意思が必要です(もちろん意思能力+民法の婚姻年齢も必要)。

なお,養子縁組無効確認訴訟の第1審の管轄地裁ではなく家裁です。http://www.e-hoki.com/law/digest/35.html

名古屋高等裁判所判決平成22年4月15日

養親子関係という真の身分関係を形成する意思とは異なり,相続を阻止する等何らかの方便として養子縁組の形式を利用したに過ぎない場合は,縁組意思を欠くものとして養子縁組を無効とした事例

「養子縁組における縁組意思は,社会通念に照らして真に養親子関係を生じさせようとする意思によるものであることが必要というべきであり,こうした意思を含まず,単に何らかの方便として養子縁組の形式を利用したに過ぎない場合は,縁組意思を欠くものとして,その養子縁組は無効というべきである。もとより,養親子関係の社会的な在り方は多様であるから,上記の養親子関係を生じさせようとする意思の内容を一義的に言うことは困難であるが,少なくとも親子としての精神的なつながりを形成し,そこから本来生じる法律的または社会的な効果の全部または一部を目的とするものであることが必要であると解するのが相当である。」

控訴人は平成19年8月ころ,AとD病院結核治療中に知り合って親しくなり,同年10月26日に退院してA方で寝泊まりを始め,同月末ころAも退院して控訴人と同居するようになったが,それからわずか2か月ほど後の同年12月27日に本件養子縁組の届出がなされたこと,控訴人は平成20年2月12日から同年4月30日までM病院に入院し,Aも同年5月8日にD病院に入院した後,同年6月27日に死亡しており,結局,控訴人とAがA方で同居したのは,通算4か月にも満たないこと,その間,控訴人が血縁関係もないAの看護日常の世話に意を配ったような経過はうかがわれず,上記のとおりAが同年5月8日,D病院に入院した際は,保健所職員によって入院させられるほどの重篤な状態に陥っていたこと,また,Aの葬儀の際,控訴人は香典を受け取ったにもかかわらず,香典返しもしておらず,その一方で,控訴人は,その間に,Aの資産を基にして,高級外車を乗り換えるなどの散財行為とも見られる行為に及んでいることなど,控訴人がAの資産に依存した消費行動を示しており,ほかには,控訴人が,養親子という社会一般の身分関係を意識した行動を示した形跡は何らうかがうことができない。そして,原審における控訴人本人尋問の結果によっても,控訴人とAの間で,親族関係の形成を前提とした会話がなされたような経緯はうかがわれず,控訴人自身自分とAが本件養子縁組をする目的や理由趣旨理解しているものとは認められない。他方,Aは本件養子縁組に近接した時点において,前頭側頭葉認知症の疑いを持たれており,躁状態による脱抑制人格変化が認められ,病識の欠如から問題行動も起こすなどしており,合理的判断能力が相当に減退した状態にあったと認められること,Aは被控訴人がGとの交際に反対したり,医療保護入院をさせたり,後見開始申立てをしたことなどについて反感を示しており,こうした被控訴人に対する思慮を欠いた反発感情から,同人への相続を阻止する目的で本件養子縁組に及んだものとうかがわれるところ,それ以上には,控訴人との間に養親子という親族関係を形成する意思があったことをうかがわせる経緯は一切認められない。」

「そうすると,本件養子縁組は,Aが,控訴人との養親子関係という真の身分関係を形成する意思とは異なり,被控訴人への相続を阻止するための方便として,控訴人との養子縁組という形式を利用したにすぎないものと認められるから,前判示のとおりの養子縁組意思を欠くものというべきであって,無効といわなければならない。」


東京高等裁判所判決平成21年8月6日

認知症の老人のした養子縁組届出が縁組意思を欠き無効とされた事例

縁組意思のない養子縁組は無効である(民法802条1号)。縁組意思について,判例は「社会通念上,真に親子と認められるような身分関係を創設しようとする効果意思」(最一小判昭23.12.23民集2巻14号493頁)であるとする実質的意思説をとるが,成年養子の場合には,目的が極めて多様であり親子関係も多様でありうることから,縁組意思の内容は一義的に定めがたく,相続・扶養を主目的とした縁組も有効とされる(最二小判昭38.12.20家月16巻4号117頁)。

取引行為に関する判断能力がない成年被後見人であっても,「養子縁組をなすについて求められる意思能力ないし精神機能の程度は,格別高度な内容である必要はなく,親子という親族関係を人為的に設定することの意義を極く常識的に理解しうる程度であれば足りる」(東京高判昭60.5.31判時1160号91頁)とされている。

認知症の高齢者について,縁組意思の存否が問題とされる事例が増加している。縁組意思があるとされた事例としては,養子縁組の約8年前に心筋梗塞で倒れ6か月入院したが,弁護士事務所に自署した届出書を持参し意思確認がされ,心身ともに相当程度回復し養子縁組の意味を理解していたとされたものがある(東京地判平14.12.6)。

一方,縁組意思がないとされた事例としては,

姪及びその子らと養子縁組がなされ,痴呆症と診断されたのは2年後であるが,経緯が不自然である上養子縁組の事実が他の甥姪に相談もなく秘匿されていたことから縁組意思が否定されたもの(東京高判平2.5.31判時1352号72頁),

妻の前夫との子との養子縁組の翌年老人性痴呆と診断され翌々年後見開始審判がなされ,意思能力に相当程度低下ありと推認できる,実娘があり縁組の必要性はなく娘への相談・報告,公正な第三者の立会もなく,経緯が不自然不合理として縁組意思を欠くとされたもの(岡山地倉敷支判平14.11.12),

血縁関係のない知人及びその妻子との養子縁組届出の時点において中等度以上のアルツハイマー症に罹患積極的意思を示さず言われるがままに署名をしていた事情,当該知人との関係に照らし縁組意思を否定したもの(東京地判平16.11.11),

アルツハイマー型痴呆を発症し既に後見開始審判がなされていたが養子縁組という概念の常識的な意味は理解している状態で,長年交渉のなかった従兄弟の子から申し出があり即決で養子縁組をしたのは不自然不合理である等から,総合的な判断力の低下があり養子縁組の意思を十分には理解できていなかったとして養子縁組を無効としたもの(東京地判平18.2.20)判例タイムズ1311号241頁


大阪高等裁判所判決平成21年5月15日

民法802条1号にいう「縁組をする意思」の意義:養子縁組が「縁組をする意思」を欠くことを理由に無効とされた事例

民法802条1号にいう「縁組をする意思」(縁組意思)とは、真に社会通念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思をいうものと解すべきであり、したがって、たとえ縁組の届出自体について当事者間に意思の合致があり、ひいては、当事者間に、一応法律上の親子という身分関係を設定する意思があったといえる場合であっても、それが、単に他の目的を達するための便法として用いられたもので、真に親子関係の設定を欲する意思に基づくものでなかった場合には、縁組は、当事者の縁組意思を欠くものとして、その効力を生じないものと解すべきである。そして、親子関係は必ずしも共同生活を前提とするものではないから、養子縁組が、主として相続や扶養といった財産的な関係を築くことを目的とするものであっても、直ちに縁組意思に欠けるということはできないが、当事者間に財産的な関係以外に親子としての人間関係を築く意思が全くなく、純粋に財産的な法律関係作出することのみを目的とする場合には、縁組意思があるということはできない。

以上の見地から本件についてみると、仮に、花子と控訴人の双方とも、一応法律上の親子という身分関係を設定する意思があり、本件縁組届の作成及び届出が両者の意思に基づいて行われたものであったとしても、前記の事実関係に照らせば、本件養子縁組当時、花子と控訴人とは全く交流がなく、両者の間に親子という身分関係の設定の基礎となるような人間関係は存在していなかった上、本件養子縁組がされた後も、両者が親族として交流した形跡は全くなく、上記のような関係は基本的に変わっていなかったものと認められるから、花子と控訴人が親子としての人間関係を築く意思を有していたとは到底考えられないところである。そして、控訴人又は夏子が、花子の死亡の翌日にその貯金を解約してこれを事実上取得し、その他の花子の遺産についても速やかに相続の手続を取っていることなどを考慮すれば、本件養子縁組による親子関係の設定は、夏子の主導のもと、専ら、身寄りのない花子の財産を控訴人に相続させることのみを目的として行われたものと推認するほかはない。

以上によれば,本件養子縁組は、当事者の縁組意思を欠くことにより、無効であるというべきである。

縁組意思については,実質的意思説と形式的意思説が対立しているが,実質的意思説が通説・判例であり,本判決も「真に社会通念上親子であると認められる関係の設定を欲する意思」を要求していることから,形式的意思説を採用していないことは明らかである。しかし,婚姻と異なり,多種多様な関係が考えられる親子関係において,実質的意思にどのような内容を盛り込むかは困難な問題であり,本件のように,財産を相続させることのみを目的とする縁組については,これを有効と解する見解も有力である(中川善之助=山畠正男編『新版注釈民法(24)親族(4)親子(2)養子』337頁)。本判決は,相続等の財産的関係を形成することを主たる目的とする場合であっても縁組意思は否定されないが,親子としての人間関係を築く意思が全くなく,純粋に財産的な法律関係を作出することのみを目的とする場合には,縁組意思があるとはいえないとした。



東京地方裁判所判決平成16年10月15日

養子縁組が,縁組意思に基づかないものであるとする養子縁組の無効確認を認めた事例

(1)亡Aは,平成13年11月6日から,胃潰瘍子宮頚癌,変形性膝関節症で代々木病院に入院したが,高齢のため食事摂取ができず点滴に頼る療養を受けていた。また,亡Aは,このころ痴呆や傾眠の症状も認められていた。亡Aは,その後,ふじみ病院に転院したが,平成14年3月に死亡した(死亡時90歳)。

(2)原告は,B,亡A両名と養子縁組を行い,同人らと同居していたが,Bが死亡した後の平成6年ころから被告も原告宅に同居するようになった。しかして,被告は,特に定職にも就かず,亡Aに金銭を無心しては無為に費消するといった生活を続けていた。

その後,亡Aと原告は,被告からたびたび金員を無心されるなどとして,旧知の名波倉四郎弁護士方に相談に赴き,以後,被告に対しては,名波弁護士を介して金銭を用立てるなどの生活の面倒をみるようになった。その後,名波弁護士が平成13年5月に死亡したため,本件原告訴訟代理人(以下「伊井弁護士」という。)が上記案件を引き継ぐことになり,同弁護士は,そのころ,被告に対し,今後金員が必要な場合は亡Aや原告ではなく代理人である自分に連絡するよう伝え,被告もこれを了承した。

(3)伊井弁護士は,亡Aが代々木病院に入院した後の平成13年12月25日ころ,被告と電話で話をした際,被告が自分もB家の人間なのであるから権利がある旨を強く述べたため,被告はBの子であるが亡Aとは親族関係はないので亡Aの財産に権利はなく,亡Aの財産について法的権利を有するのは亡Aと養子縁組をしている原告のみである旨を説明したところ,被告は,気色ばんだ様子で「それならこちらもやる。」と述べて電話を切った。

伊井弁護士は,同月28日,被告と面談した際,被告から「ばあさんと養子縁組をしてきた」旨を告げられたため,被告に詳細を尋ねたが,被告は,「ばあちゃんがやれと言ったからやった」と述べるにとどまった。

 (4)本件養子縁組の届出書中の届出人署名押印欄の「A」の署名及び同名下の同人の押印は,被告が記入,押印したものである。

 (5)被告は,本件審理中の平成16年8月2日,伊井弁護士との間で,亡Aの相続人は原告のみであること,本件養子縁組に係る届出書は被告のみによって作成,届出されたもので無効であることをいずれも認める旨の確認を行った。

上記認定によれば,亡Aは本件養子縁組がなされた平成13年12月26日の時点で90歳と高齢であった上,その病状も軽視できない状態にあったと認められるけれども,その後も死亡まで約2か月半近くの加療が継続されていたことからすれば,上記病状のみから直ちに上記の時点において亡Aには縁組能力が失われていたと解するのは困難である。しかしながら,一方で,本件全証拠によっても本件養子縁組前に亡Aが被告との養子を望んでいたことを窺わせる証拠はないうえ,被告は,伊井弁護士から原告は亡Aの養子であるが被告はそうでないから亡Aの相続人にはならない旨を告げられたのに対し,それならこちらもやる等と述べていること,本件養子縁組がされたのは被告と伊井弁護士の上記やり取りがされた翌日であること,本件養子縁組の届出書の主要部分は被告が記載したものであること等の事実が認められる。かかる事情に上記のような亡Aの病状経過や被告が原告との間で本件養子縁組が無効であることを認める旨の合意をしていることも併せ考慮すれば,本件養子縁組が亡Aの意思に基づいてなされたと認めることはできないというべきである。したがって,本件養子縁組は,民法802条1号所定の要件を欠くものであるから無効である。


参考(比較のため)

最高裁判所第2小法廷判決昭和57年3月26日

いわゆる方便としてされた協議離婚が有効とされた事例:夫婦が事実上の婚姻関係を継続しつつ、生活扶助を受けるための方便として協議離婚の届出をした場合でも、届出が真に法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであるときは、協議離婚は無効とはいえない。

婚姻のような身分関係結合の場合には社会制度としての婚姻生活関係実現に向けられた意思が必要であるが、離婚という身分関係解消の場合には、法律関係解消に向けられた意思があれば足り、積極的に生活関係を廃止する意思までは必要としない。仮装離婚も、この法的関係解消についての意思の合致がある限り、有効とされる。判例の態様は、大審院初期には必ずしも一貫していなかつたが、後には、法律上の夫婦関係を解消する意思の合致があれば、離婚届出は有効であるとする見解を明らかにし、以来、最高裁までこれが受継がれている(大判昭6・1・27新聞332号10頁、大判昭16・2・3民集30巻1号70頁、最高一小判昭38・11・28民集17巻11号1469頁)。

参考

最高裁判所第二小法廷判決昭和46年10月22日

養子縁組の意思が存在し縁組が有効に成立したとされた事例:甲男が乙女を養子とする養子縁組の届出をした場合において、乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事家業を手伝い、家計をもとりしきつていた者であり、甲は、すでに高令に達し、病を得て仕事もやめたのち、乙に世話になつたことへの謝意をもこめて、乙を養子とすることにより、自己の財産を相続させあわせて死後の供養を託する意思をもつて、届出をしたものであつて、甲乙間には過去情交関係があつたにせよ、それは偶発的に生じたものにすぎず、事実上の夫婦然たる生活関係を形成したものではなかつたなど判示の事実関係があるときは、甲乙間に養子縁組の意思が存在し、縁組は有効に成立したものというべきである。

参考

最高裁判所第三小法廷判決昭和47年7月25日

届出意思の欠缺による婚姻の無効とその追認の効力:事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合において、当時両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、のちに他方の配偶者が届出の事実を知つてこれを追認したときは、婚姻は追認によりその届出の当初に遡つて有効となると解すべきである。

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弁護士中山知行 

2016-08-08 公正証書遺言 証人欠格 遺言の錯誤無効 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

さいたま地方裁判所熊谷支部判決平成27年3月23日

公正証書遺言が錯誤により無効とされた事例(遺言の錯誤無効は珍しい事案)

遺言は、遺言者の最終的な意思表示であり、しかも死後においては自らその内容、動機等を説明することができないのであるから、錯誤の認定は慎重になされることが必要であるところ、錯誤により遺言が無効とされる場合とは、当該遺言における遺言者の真意が確定された上で、それについて遺言者に錯誤が存するとともに、遺言者が遺言の内容となった事実についての真実を知っていたならば、かかる遺言をしなかったといえることが必要である。

前記の事実、本件遺言骨子の内容からすれば、亡花子は、平成一二六月当時、本件遺言骨子記載の内容の遺言を実現することを希望していたものの、本件遺言骨子のうち、自宅マンションの売却代金の件(遺言骨子第二項)、亡花子の○○霊園の墓地の処分と○○寺への埋葬予約の件(遺言骨子第一項、第三項)は、平成一二年九月までに解決したと認められる。そうすると、同年一一月時点において、亡花子は、1.原告と亡一郎が施設生活入院生活等で金銭を必要とする場合は、乙山により亡花子の所有金から支出してもらいたいこと(遺言骨子第四項)、2.亡花子、原告、亡一郎が死亡した場合は、乙山によりその葬儀並びに○○寺への納骨埋葬を執り行ってもらい、亡花子の所有金に残額がある場合は、その残額を被告寄付すること(遺言骨子第五項)を実現するために本件遺言を作成するという意思を有していたと認められる。

また、原告及び亡一郎の母親である亡花子は、生前、平素より、原告及び亡一郎の生活や経済状態心配していたところ、前記(1)アのとおりの原告や亡一郎の生育歴、障害の内容、自立できない生活状況等や、夫の太郎も平成二年に死亡していたことからすれば、このような亡花子の心情は、親一般が子に抱く心情と比較しても、相当強かったと推認でき、また、このような亡花子の心情が変わるということも考え難い。

上記1,2の内容や亡花子の心情等からすれば、平成一二年一一月から間もない本件遺言作成時の亡花子の意思は、上記1,2を実現するというもの、具体的には、原告と亡一郎が施設の生活や入院生活費等で金銭を必要とする場合、原告や亡一郎が金銭に困ることのないよう、確実に被告(B園)により亡花子の所有金から金銭を支出し、亡花子、原告及び亡一郎が死亡した場合は、被告(B園)によりこれらの者の葬儀を執り行ってもらい、亡花子の所有金に残額があれば、残額を被告に寄付することにあったものと認められる。

しかるに、前記前提事実(3)のとおり、本件遺言において、亡花子は、亡花子の葬儀費用並びに○○寺への納骨埋葬費用を除いた残りの遺言者所有の遺産全部を包括して、B園に遺贈する(第一条)ほか、付言事項として原告と亡一郎が、施設の生活や入院生活等でお金を必要とする場合及び両人が死亡した際の葬儀並びに○○寺への納骨埋葬費用を、私の寄付金から支出して頂くようB園園長にお願いする(第四条)とされている。原告や亡一郎の生活費や入院生活費、葬儀、○○寺への納骨埋葬費用を被告が支出することは付言事項であって「お願いする」に過ぎないことからすれば、本件遺言第四条は、受遺者であるB園(被告)に、原告や亡一郎に生活費等を支払う法的義務を負わせるものではないと解される。また、本件遺言は、原告や亡一郎死亡前であっても、被告に葬儀費用等を除いた残りを包括遺贈する趣旨と認められる。

本件遺言の内容は、被告が原告や亡一郎の生活費や入院生活費を支払うことが法的義務ではないという点や、亡花子のみならず原告や亡一郎が死亡し、葬儀費用等を執り行い、亡花子所有の金員に残額がある場合に、被告に亡花子の有する財産を遺贈するものではないという点において、本件遺言時における亡花子の前記1,2を実現する意思とは内容が異なっている。

そして、亡花子の前記アの意思に照らせば、原告や亡一郎に生活費等が確実に支払われることが亡花子にとって極めて重要であって、少なくとも被告が、原告と亡一郎に対し生活費等を支払う法的義務を負わない(原告や亡一郎は、被告が支払を拒んだ場合、生活費が必要であっても支払を強制して求めることができず、任意の履行を期待できるにすぎない。)と認識していれば、本件遺言をしなかったと認められる。亡花子が全盲であったことや、当時七九歳と高齢であったこと、法的知識を十分に有していたと認められないことにも照らせば、亡花子が、本件遺言時、亡花子の死亡後、被告が、確実に原告や亡一郎に生活費等を支払ってくれるものとの誤信して本件遺言をしたものと推認できる。

もっとも、平成一二年一一月時点での亡花子の意思が、前記アのとおりであったとしても、その後、亡花子が、公証人との打合せ等を経て認識を何らかの形で変化させ、被告が原告や亡一郎に生活費等を支払う法的義務を負わないなどの遺言内容であってもよいとの認識を有するに至り、本件遺言当時、錯誤に陥ってなかった可能性もないとはいえない

しかし、乙山も、本人尋問で、本件遺言骨子の内容と本件遺言第四条の内容の変化について、あまり意識しなかった、理由は分からないと供述するにとどまり、乙山や被告職員が亡花子に対し本件遺言の内容や意思を確認したことはなかった。また、被告が○○市福祉事務所や丁川に本件遺言の内容を知らせ、○○市福祉事務所職員や丁川が亡花子の意向を確認したといった事情も認められない。仮に亡花子が本件遺言において被告が原告や亡一郎に生活費等を支払う法的義務を負わない(任意の履行を期待するにとどまる。)ことを認識していたとすれば、亡花子が、亡花子の死後、原告や亡一郎への生活費等の任意の支払を被告に滞りなくしてもらえるよう、B園の園長である乙山に重ねて生活費等の支払を依頼することも考えられるが、乙山や亡花子の間で、本件遺言作成後、本件遺言のことが話題に上ったことはなかった。そして、ほかに、平成一二年一一月から本件遺言を作成した同年一二月×日までの間に亡花子の意思が変わったことをうかがわせる事情も認められないことからすれば、本件遺言時においても、亡花子は、上記意思を有していたものと認められるから、前記イのとおり、亡花子は本件遺言時に錯誤に陥っていたと認められる。

そうすると、本件遺言について、被告が原告や亡一郎に生活費等を支払う法的義務を負っていないという点について亡花子に錯誤があると認められる。

以上からすれば、本件遺言は、争点(3)(4)を判断するまでもなく、亡花子の錯誤により無効であると認められる。



大阪地方裁判所堺支部判決平成5年5月26日

推定相続人証人として立会わせて遺言公正証書を作成したことについて公証人の過失を認めこれを理由とする国家賠償請求が認容された事例

公証人が遺言公正証書作成の嘱託を受けた場合、その提出書類関係者の供述等からみて、証人に欠格事由が存する可能性があると窺えるときは、証人の身分関係を関係者に確認するなどして、欠格事由を有する者を証人から除いて有効な公正証書を作成する義務がある。

公証人法八条二項は、公証人が嘱託人の氏名を知らず又はこれと面識かないときは、官公署の作成した印鑑証明書を提出させるなどの確実な方法によって、その人違いでないことを証明させることを要する旨規定しているものの、公正証書遺言の証人となるべき者については、人違いでないことを証明させることを要する旨の規定は同法に存しない。また、〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、明治四三年八月一〇日付け司法省民刑局長回答以来、公正証書遺言の証人については公証人法二八条二項の規定は適用されないとの実務の取扱いが定着していることが認められる。

しかしながら、公証人法は、法令違反事項や無効又は取消し得べき法律行為については公正証書を作成してはならない旨定め、公正証書の作成に当たっては、公正証日の形式的要件のみならず、その内容等についても法令違反の有無等を調査し、必要があれば、関係人に説明を求めたりしなければならない旨規定しており(同法二六条、三三条、同法施行規則一三条等)、これらの規定の趣旨から考えると、公証人か遺言公正証書作成の嘱託を受けた場合、嘱託人が提出した書類あるいは嘱託を受けた際の嘱託人、証人等の関係者の供述等からみて、証人に欠格事由が存する可能性があると窺えるときは、公証人としては、少なくとも、証人の身分関係を関係者に確認し、あるいは、推定相続人は証人となることができない旨を関係者に教示して、欠格事由を有する者を証人から除いて有効な公正証書を作成する義務があるというべきである。すなわち、一般に公証人の有する審査権は形式的なものと解されているから、証人の身分関係を確認するため戸籍謄本の提出を求める等の方法をとるまでの義務はないと考えられるものの、一般の人は証人の欠格事由についての知識を有しないのが通常であるし、また、出頭した関係者に証人の欠格事由の有無を口頭で確かめることは容易になし得ることであるから、有効な公正証書を作成すべき公証人としては、右に示した程度の注意義務は存すると解すべきである。

〈書証番号略〉、証人北川佐久及び同北川仲男の各証言並びに原告本人尋問の結果によれば、次の各事実を認めることができる。

(一)タミは、昭和一年九月ころ、本件不動産を、その当時自己と同居していた長男の原告に相続させるべく、その旨の遺言書を作成したいと考え、親族の伊佐久に相談した。

 伊佐久は、かねて面識のあったA公証人にタミの遺言書の作成を依頼しようと考え、タミから相談を受けた二ないし三日後、A公証人に電話を架けてその旨を依頼し、同公証人から公証人役場に持参すべき書類などの指示を受けた。その際、同公証人は、伊佐久に対し、立会人として証人二人が必要である旨を告げたが、推定相続人は証人適格がない旨の教示はしなかった。

伊佐久は、タミに対して公証人役場に持参すべき書類を用意するよう伝え、また、自己及び原告の弟であってタミの意向を承知している仲男を遺言作成の際の証人とすることとし、その旨を仲男に依頼してその承諾を得た。

(二)タミ、原告、仲男及び伊佐久の四人は、同年一〇月六日、連れ立ってA公証人の役場に赴き、伊佐久が他の三人をA公証人に紹介したが、その際、伊佐久は、原告について「北川家の跡取りの長男福治」である旨、仲男について「福治の弟の北川仲男で、今回立会人になる男」である旨それぞれ紹介した。

(三)A公証人は、伊佐久或いはタミから本件遺言の内容を聴き取り、本件公正証書を作成した。その際、遺言執行者について、伊佐久が原告の名前を挙げたところ、A公証人は原告では駄目である旨述べたが、伊佐久及び仲男が証人となることについては、A公証人からなんら発言はなく、同公証人が仲男の身分関係を関係者に確かめたこともなかった。

右認定事実からすれば、A公証人としては、仲男がタミの子であって推定相続人であると考えるべきであり、仲男に証人としての欠格事由があると窺える場合であったことが明らかである(仮に、伊佐久がA公証人に対して仲男が原告の弟である旨の紹介をしなかったとしても、タミと仲男は同姓であって住所地も近かったから、伸男がタミの親族であって証人としての欠格事由を有する可能性があると窺えたというべきである。)。それにもかかわらず、A公証人は、仲男の身分関係を確認することなく、同人ほか一名を証人として本件公正証書を作成したものであるから、本件公正証書の作成に当たってA公証人が注意義務を尽くしたとはいえない。したがって、A公証人には本件公正証書の作成に当たって過失があり、本件公正証書の無効は同公証人の右過失に基づくものであるといわざるを得ない。

判例タイムズ829号163頁

本判決は、公正証書遺言の証人について、公証人法28条2項の規定は適用されないとの実務の取扱いが定着していること、及び、公証人の有する審査権が形式的なものであることを認めた上で、同法は、法令違反事項や無効又は取消し得べき法律行為については公正証書を作成してはならない旨定め、また、公正証書の作成に当たっては、その形式的要件のみならず、その内容等についても法令違反の有無等を調査し、必要があれば、関係人に説明を求めたりしなければならない旨規定しており(同法26条、33条、同法施行規則13条等)、その趣旨からして、公証人が遺言公正証書作成の嘱託を受けた場合、嘱託人の提出した書類あるいは嘱託を受けた際の嘱託人、証人等の関係者の供述等からみて、証人に欠格事由が存する可能性があると窺えるときは、公証人としては、少なくとも、証人の身分関係を関係者に確認し、あるいは、推定相続人は証人となることができない旨を関係者に教示して、欠格事由を有する者を証人から除いて有効な公正証書を作成する義務があることを判示し、本件公証人は関係人に推定相続人は証人適格がない旨教示しなかったこと、乙とともに証人となった丙が、本件公証人に対し、Xは長男で跡取りであり、乙はXの弟で今回証人になる旨紹介したこと、本件公証人は乙が証人となるについて乙の身分関係を確かめなかったことなどの各事実を認定し、本件においては、本件公証人にとって、乙が甲の推定相続人として証人の欠格事由があると窺える場合であったにもかかわらず、乙の身分関係を確認することなく、乙を証人として遺言公正証書を作成したから、右公正証書作成に当たって過失があったとして、Xの請求を一部認容した。

公証人法には、公正証書遺言の証人となるべき者については、人違いでないことを証明させることを要する旨の規定はなく、公正証書遺言の証人については、公証人が嘱託人の氏名を知らず又はこれと面識がないときは、官公署の作成した印鑑証明書を提出させるなどの確実な方法によって、その人違いでないことを証明させることを要する旨規定している同法28条2項の適用がないことは、明治43年8月10日付け司法省民刑局長回答以来、実務上定着している。

この実務の取扱いについては、裁判例(東京高判昭63・1・28本誌672号198頁)においても、民法969条の趣旨に照らし、違法不当とすべき理由は見当らないとして、是認されている。

また、公証人の有する審査権は一般的に形式的審査権と解されており、特に異論もないようである(小田泰機「公正証書」裁判実務大系18 400頁参照)。

ところで、公証人法26条、33条、同法施行規則13条等の規定の趣旨に照らせば、公証人は有効な公正証書を作成すべき義務を負っていると解することができるのであって、公証人は法律専門家であること、出頭した関係者に証人の欠格事由の有無を口頭で確かめることは容易になし得ることであることなどからすれば、本判決が判示する程度の注意義務を公証人に課することは、格別異論はないものと思われる。

遺言公正証書に関する裁判例としては、民法969条1号に違反して証人の立会なく作成された公正証書遺言が無効となったため生じた損害の賠償を請求したのに対し、公証人の過失を認め、損害の一部を認容した大阪高判昭56・1・30判時1009号71頁がある。



京都地方裁判所判決昭和60年3月27日

受遺者の直系血族は、民法974条3号の規定する遺言の証人および立会人の欠格者に該当する

受遺者の直系血族が、三号の証人欠格者に該当するかどうかについて

裁判所は、受遺者の直系血族は、三号の証人欠格者に該当すると解するものであるが、以下にその理由を詳述する。

推定相続人及び受遺者は、法律上相続財産の分配を直接受ける者であり、遺言の内容によつて、自己の取得する財産に増減を生じることになるから、遺言者の意思に反してでも自己の利益を守ろうとする立場にある。したがつて、推定相続人及び受遺者は、遺言の公正を害するおそれがある。そして、推定相続人及び受遺者の配偶者や直系血族も、これらの者と密接な人的結合関係にあるから、これらの者と利害関係共通にするのが一般である。したがつて、推定相続人及び受遺者の配偶者や直系血族も、推定相続人や受遺者の利益をはかつて、遺言の公正を害するおそれがある。

以上のことを踏まえて、三号は、遺言の公正を担保するため、これらの者を証人や立会人の欠格者としたのであるから、三号の「直系血族」とは、推定相続人及び受遺者の直系血族を指すとしなければならない。

確かに、法令用語上、「及び」と「並びに」は、被告ら主張のように使い分けられているが、この使分けは、絶対的なものではなく、現行法のすベてがこの区別に従つて厳格に立法されているものではない(例えは、民法八四六条五号や商法一七五条二項一二号も、この区別に従つていない)。

そして、三号についていえることは、三号の文言が、旧民法一〇七四条五号を現代用語に改められただけであるということである。したがつて、三号の立法の際、この使分けを特に厳格に考慮しなかつたのではないかと推測されるのである。

このようにみてくると、三号の解釈は、法文用語によつてのみきまるわけではなく、実質的観点に立つて行うのが至当であるといわなければならない。そして、その実質的観点に立つた場合、1に述べた解釈が是認されるのである。

仮に、被告らの主張に従い受遺者の直系血族が証人になれるとすると、例えば、遺言者に子がある場合の遺言者の親は、三号により、証人及び立会人の欠格者となるが、受遺者の親は、欠格者にならないということになる。

しかし、右の遺言者の親は、相続権がなく、相続財産の分配が受けられないのであるから、相続財産に関する利害関係が弱く、したがつて、遺言の公正を害するおそれが少ないのに対し、右の受遺者の親は、自分の子が相続財産の分配を受けるのであるから、相続財産に関する利害関係は右の遺言者の親よりも強く、子の利益を守るため、遺言の公正を害するおそれがより大きいといえる。それだのに、遺言の公正を害するおそれがより大きい者が証人や立会人となることを認め、そのおそれのより少ない者を欠格者とすることを許容することになり、明らかに不合理であるとしなければならない。

本件遺言の効力について

本件遺言の立会人の一人である寅雄は、受遺者被告たまの子であることは、当事者間に争いがないから、三号の証人欠格者である受遺者の直系血族が立会人になつたことになり、本件遺言は、この点で全部無効であるといわなければならない。



最高裁判所第一小法廷判決昭和47年5月25日

民法974条3号にいう「配偶者」には、推定相続人の配偶者も含まれる。

民法九七四条三号にいう「配偶者」には推定相続人の配偶者も含まれるものと解するのが相当であるところ、原審の確定した事実関係によれば、本件遺言公正証書の作成に立会した二人の証人のうちの一人である訴外Dは、遺言者Cの長女である訴外Eの夫であるというのであるから、右公正証書は、同条所定の証人欠格事由のある者を証人として立会させて作成されたものといわなければならない。したがつて、右遺言公正証書は遺言としての効力を有しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。そして、右Dの配偶者Eが当該遺言によつてなんら財産を取得していないことは、右判断を左右する理由とはならない。



最高裁判所第一小法廷判決昭和55年12月4日

盲人は、公正証書遺言に立ち会う証人としての適格を有する。

民法九六九条一号は、公正証書によつて遺言をするには証人二人以上を立ち会わせなければならないことを定めるが、盲人は、同法九七四条に掲げられている証人としての欠格者にはあたらない。のみならず、盲人は、視力に障害があるとしても、通常この一事から直ちに右証人としての職責を果たすことができない者であるとしなければならない根拠見出し難いことも以下に述べるとおりであるから、公正証書遺言に立ち会う証人としての適性を欠く事実上の欠格者であるということもできないと解するのが相当である。すなわち、公正証書による遺言について証人の立会を必要とすると定められている所以のものは、右証人をして遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態のもとで自己の意思に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をさせるほか、公証人が民法九六九条三号に掲げられている方式を履践するため筆記した遺言者の口述読み聞かせるのを聞いて筆記の正確なことの確認をさせたうえこれを承認させることによつて遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後日の紛争を未然に防止しようとすることにある。ところで、一般に、視力に障害があるにすぎない盲人が遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態のもとで自らの真意に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をする能力まで欠いているということのできないことは明らかである。また、公証人による筆記の正確なことの承認は、遺言者の口授したところと公証人の読み聞かせたところとをそれぞれ耳で聞き両者を対比することによつてすれば足りるものであつて、これに加えて更に、公証人の筆記したところを目で見て、これと前記耳で聞いたところとを対比することによつてすることは、その必要がないと解するのを相当とするから、聴力には障害のない盲人が公証人による筆記の正確なことの承認をすることができない者にあたるとすることのできないこともまた明らかである。なお、証人において遺言者の口授したところを耳で聞くとともに公証人の筆記したところを目で見て両者を対比するのでなければ、公証人による筆記の正確なことを独自に承認することが不可能であるような場合は考えられないことではないとしても、このような稀有の場合を想定して一般的に盲人を公正証書遺言に立ち会う証人としての適性を欠く事実上の欠格者であるとする必要はなく、このような場合には、証人において視力に障害があり公証人による筆記の正確なことを現に確認してこれを承認したものではないことを理由に、公正証書による遺言につき履践すべき方式を履践したものとすることができないとすれば足りるものである。このように、盲人は、視力に障害があるとはいえ、公正証書に立ち会う証人としての法律上はもとより事実上の欠格者であるということはできないのである。

そうすると、本件公正証書による遺言につき証人として立ち会つたAは、盲人であつたが、証人としての欠格者であるということはできないところ、原審の確定するところによれば、右Aは、公証人が読み聞かせたところに従い公証人による遺言者Bの口述の筆記が正確であることを承認したうえ署名押印したというのであつて、その間右Bの口授したところを耳で聞くとともに公証人の筆記したところを目で見て両者を対比するのでなければ公証人による筆記の正確なことを確認してこれを承認することができなかつたというべき特段の事情が存在していたことは窺われないのであるから、右Aが証人として立ち会つた本件公正証書による遺言に方式違背はなく、右遺言は有効であるといわなければならず、これと同趣旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。



大阪高等裁判所判決昭和43年12月11日

公正証書遺言が民法九七四条違背により無効とされた事例

本件公正証書の効力について判断するに、公正証書の作成に証人として立会した証人の一人である訴外米造は遺言者訴外亡安太郎の長女アサヘの夫であることは当事者間に争いがないから、民法九七四条三号所定の証人欠格事由ある者に該当すること明白であって、このような証人欠格事由のある者を証人として立会させて作成された遺言公正証書は遺言としての効力を持ち得ず、したがって、被控訴人文子は公正証書をもってする遺贈によって本件各物件等の遺贈目的物についての所有権単独で取得することはできなかったわけである。公正証書の効力に関する被控訴人らの主張は、独自の見解であって採用できない。

被控訴人らは公正証書をもってする遺贈は贈与または死因贈与と解することができると主張するが、遺贈は単独行為であって必ずしも相手方に対する意思表示を必要としないところ、贈与は契約一種であるから贈与者が被贈与者に対して贈与の意思表示をなし被贈与者が贈与者に対して贈与を受諾する意思表示をすることを必要とするので、前認定のように、訴外亡仲川安太郎が生存中に被控訴人文子に対して本件各物件を贈与または死因贈与する意思を表示したことも、また同被控訴人が同訴外人に対して贈与受諾の意思表示をしたこともない本件の場合には、公正証書による遺贈を贈与または死因贈与があった場合に当ると云うことはできない。この点に関する被控訴人らの主張は採用できない。

以上のように、訴外亡安太郎は被控訴人文子に対して本件各物件を贈与または死因贈与したことはなく、また本件公正証書をもってするみぎ両者間の本件各物件の遺贈も無効であるので、本件各物件は、前述したように、訴外安太郎の死亡およびその後における同きくゑの死亡により、同人らの相続人であった前記の者らの共有に帰し(各相続人の相続分および本件各物件についての共有持分も前記のとおりである。)、訴外きくゑの死亡後には、控訴人および被控訴人文子は本件各物件についてそれぞれ六分の一宛の共有持分を有していたわけである。


最高裁判所第三小法廷判決平成13年3月27日

遺言の証人となることができない者が同席してされた公正証書遺言の効力:公正証書遺言がされた場合において、当該遺言の証人となることができない者が同席していたとしても、この者によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り、同遺言が無効となるものではない。・・・特段の事情があれば無効になる可能性があるということ。

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弁護士中山知行 

2016-08-07 公正証書遺言無効確認訴訟関連重要判例 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

最高裁判所第二小法廷判決昭和37年6月8日 遺言者が署名することができない場合

民法第969条第4号但書にいう「遺言者が署名することができない場合」にあたるとされた事例:遺言者が、遺言当時胃癌のため入院中で手術に堪えられないほどに病勢が進んでおり、公証人に対する本件遺言口述のため約15分間も病床に半身を起こしていた後でもあつたから、公証人が遺言者の病勢の悪化考慮してその自署を押し止めたため、公証人の言に反対してまで自署することを期待することができなかつたような事情があるときは、民法第969条第4号但書にいう「遺言者が署名することができない場合」にあたると解される。

遺言者が、遺言当時胃癌のため入院中で手術に堪えられないほどに病勢が進んでおり、公証人に対する本件遺言口述のため約一五分間も病床に半身を起していた後でもあつたから、公証人が遺言者の病勢の悪化を考慮してその自署を押し止めたため、公証人の言に反対してまで自署することを期待することができなかつたような事情があるときは、民法第九六九条第四号但書にいう「遺言者が署名することができない場合」にあたると解される。


最高裁判所第二小法廷判決昭和43年12月20日 あらかじめ他人から聴取した内容と同趣旨の遺言者の口授が実際あった場合+遺言者が遺言内容と同趣旨を口授した場合(有効

公正証書による遺言の方式:公証人が、あらかじめ他人から聴取した遺言の内容を筆記し、公正証書用紙に清書したうえ、その内容を遺言者に読み聞かせたところ、遺言者が右遺言の内容と同趣旨を口授し、これを承認して右書面にみずから署名押印したときは、公正証書による遺言の方式に違反しない。

原審の確定した事実によれば、遺言者たる訴外Aは、本件不動産を上告人らおよび被上告人らの四名に均等に分け与えるものとし、その旨を公正証書によつて遺言することを決意した後、被上告人Bをして公証人のもとに赴かしめ、公証人は、同被上告人から聴取した遺言の内容を筆記したうえ、遺言者に面接し、遺言者および立会証人に既に公正証書用紙に清書してある右遺言の内容を読み聞かせたところ、遺言者は、その遺言の内容と同趣旨を口授し、これを承認して書面にみずから署名押印したというのである。したがつて、遺言の方式は、民法九六九条二号の口授と同条三号の筆記および読み聞かせることとが前後したに止まるのであつて、遺言者の真意を確保し、その正確を期するため遺言の方式を定めた法意に反するものではないから、同条に定める公正証書による遺言の方式に違反するものではないといわなければならない(大審院昭和六年(オ)第七〇七号同年一一月二七日判決民集一〇巻一一二五頁、同昭和九年(オ)第二四八号同年七月一〇日判決民集一三巻一三四一頁参照)。原判決に所論の違法はい



最高裁判所第二小法廷判決昭和51年1月16日 挙動のみでは口授はない

民法969条2号にいう口授にあたらない場合:遺言者が、公正証書によつて遺言するにあたり、公証人の質問に対し言語をもつて陳述することなく単に肯定または否定の挙動を示したにすぎないときには、民法969条2号にいう口授があつたものとはいえない。

遺言者が、公正証書によつて遺言をするにあたり、公証人の質問に対し言語をもつて陳述することなく単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときには、民法九六九条二号にいう口授があつたものとはいえず、このことは遺言事項が子の認知に関するものであつても異なるものではないと解すべきである。所論は、独自見解に立つて原判決を非難するものにすぎない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。



最高裁判所第三小法廷判決昭和52年6月14日 証人が途中からしか立ち会っていない場合+遺言者うなずくのみでは遺言は無効

民法九六九条一号の証人の立会:公正証書遺言に際し、立会証人はすでに遺言内容の筆記が終つた段階から立会つたものであり、その後公証人が右筆記内容を読み聞かせたのに対し、遺言者はただうなづくのみであつて、口授があつたとはいえず、右立会証人は右遺言者の真意を十分に確認することができなかつた場合には、右公正証書遺言は民法九六九条所定の方式に反し無効である。

原審が適法に確定した事実関係によれば、訴外真田精志が本件公正証書による遺言をするについて、立会証人である訴外悦郎は、すでに遺言内容の筆記が終った段階から立会ったものであり、その後公証人が右筆記内容を読み聞かせたのに対し、右遺言者はただうなずくのみであって、口授があったとはいえず、右立会証人は右遺言者の真意を十分に確認することができなかったというのであるから、本件公正証書による遺言を民法九六九条所定の方式に反し無効であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。



最高裁判所第一小法廷判決昭和54年7月5日 公証人が他人作成のメモから公正証書遺言を準備していた場合

公証証書による遺言が口授の要件を欠くものとはいえないとされた事例:公証人が予め他人作成のメモにより公正証書作成の準備として筆記したものに基づいて遺言者の陳述を聞き、右筆記を原本として公正証書を作成した場合であつても、原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、右公正証書による遺言は口授の要件を欠くものということはできない。

所論の点に関する原審の事実認定は,原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができる。右事実関係のもとにおいては、本件遺言公正証書による正明の遺言は無効とはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(大審院大正六年(れ)第三六六三号同七年三月九日判決・刑録二四輯一九七頁)は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、いずれも採用することができない。

判例タイムズ399号140頁

本件は、公正証書による遺言が民法969条2号の「口授」及び3号の「読み聞け」の各要件をみたすか否か、が争われた事案であるが、判示事項としては「口授」に関する部分のみを掲げる。

原判決の事実認定の概要

死の床にあつた遺言者Aが遺言の作成について公証人への依頼方をBらに頼んだため、Bらは、協議して遺言内容をメモに作成し、これを公証人に交付して遺言公正証書の作成方を依頼した。そこで、公証人はそのメモに基づいて筆記を作成したうえAに面接した。席上、公証人が筆記を項目ごとに区切つて読み聞かせたのに対し、Aは、その都度そのとおりである旨声に出して述べ、金員を遺贈する者の名前数字の部分についても声に出して述べるなどし、最後に、公証人が筆記を通読したのに対し大きくうなずいて承認した、というもの。本判決は、このような事実関係のもとにおいては、本件公正証書遺言は無効とはいえないとした原審の判断は正当である、として原判決を維持した。

「口授」の要件の判断は、「事実的の微妙な判断」といわれており(中川相続法〔全集〕348頁)、判例も具体的事案ごとに結論を異にしている。

おおまかな傾向としては、遺言の全趣旨を一語一句ごとに口頭で述べる必要はなく、遺言者みずから若しくは第三者作成の原稿に基づいてある程度概括的な陳述をした場合でも有効であるが、ただ、遺言者が言語をもつて答述することなく単に挙動をもつて肯首したにすぎない場合には、「口授」の要件を欠き無効である、としているといつてよいかと思われる。


最高裁判所第二小法廷判決平成10年3月13日 証人2人のうち1人が立ち会わず

公正証書遺言において証人が遺言者の署名押印に立ち会うことの要否:遺言者の押印の際に2人の証人のうち1人の立会いなく作成された遺言公正証書につきその作成の方式に瑕疵があるがその効力を否定するほかはないとまではいえないとされた事例:公正証書遺言において、証人は、遺言者の署名押印に立ち会うことを要する。:公正証書遺言において、遺言者が、証人甲乙の立会いの下に、遺言の趣旨を口授しその筆記を読み聞かされた上で署名をしたところ、印章を所持していなかったため、約1時間後に、甲のみの立会いの下に、再度筆記を読み聞かされて押印を行ったが、乙は、その直後ころ、公証人から完成した遺言公正証書を示されて右押印の事実を確認したのであって、この間に遺言者が従前の考えを翻し、又は右遺言公正証書が遺言者の意思に反して完成されたなどの事情は全くうかがわれないなど判示の事実関係の下においては、右遺言公正証書の作成の方式には瑕疵があるというべきであるが、その効力を否定するほかはないとまではいえない。

民法九六九条に従い公正証書による遺言がされる場合において、証人は、遺言者が同条四号所定の署名及び押印をするに際しても、これに立ち会うことを要するものと解すべきである。けだし、同条一号が公正証書による遺言につき二人以上の証人の立会いを必要とした趣旨は、遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後日の紛争を未然に防止しようとすることにあるところ、同条四号所定の遺言者による署名及び押印は、遺言者がその口授に基づき公証人が筆記したところを読み聞かされて、遺言の趣旨に照らし右筆記が正確なことを承認した旨を明らかにし、当該筆記をもって自らの遺言の内容とすることを確定する行為であり、右遺言者による署名及び押印について、これが前記立会いの対象から除外されると解すべき根拠存在しないからである。

原審の適法に確定した事実関係によれば、

(1)秀光は、平成三年七月一八日、仙台法務局所属公証人に対し、本件遺言公正証書の作成を嘱託し、伊藤公証人は、同日午後六時から六時三〇分ころまでの間に、秀光の入院先の病室において久良及び節子を証人として立ち会わせた上、秀光から遺言の趣旨の口授を受けて本件遺言公正証書の原案を作成し、これを秀光に読み聞かせたところ、秀光は、筆記の正確なことを承認して遺言者としての署名をしたが、同人が印章を所持していなかったことから、手続はいったん中断された、

(2)伊藤公証人は、被上告人が秀光の印章をその自宅から持ってきた後の同日午後七時三〇分ころ、前記病室において、近藤の立会いの下、再度筆記したところを読み聞かせ、秀光は、その内容を確認した上、これに押印した、

(3)右秀光の押印の際、加藤は、これに立ち会わず、病院の待合室で待機していたが、待合室に戻ってきた伊藤公証人から、秀光の押印を得て完成した本件遺言公正証書を示されたというのである。

右のとおり、証人のうちの一人である加藤は、秀光が本件遺言公正証書に押印する際に立ち会っていなかったのであるから、本件遺言公正証書の作成の方式には瑕疵があったというべきである。しかし、秀光は、いったん証人二人の立会いの下に筆記を読み聞かされた上で署名をし、比較的短時間の後に近藤立会いの下に再度筆記を読み聞かされて押印を行い、加藤はその直後ころ右押印の事実を確認したものであって、この間に秀光が従前の考えを翻し、又は本件遺言公正証書が秀光の意思に反して完成されたなどの事情は全くうかがわれない本件においては、本件遺言公正証書につき、あえて、その効力を否定するほかはないとまで解することは相当でない。してみると、上告人らの本件遺言無効確認等請求棄却すべきもとのとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、結局、原判決の結論に影響しない事項についての違法をいうものに帰し、採用することができない。


最高裁判所第三小法廷判決平成11年9月14日 「はい」と返答した場合,口授あり。但し公正証書遺言ではなく危急時遺言の場合  こちらを見てください。

いわゆる危急時遺言に当たり民法976条1項にいう遺言の趣旨の口授があったとされた事例:いわゆる危急時遺言に当たり、立ち会った証人の1人があらかじめ作成された草案を1項目ずつ読み上げ、遺言者、がその都度うなずきながら「はい」などと返答し、最後に右立会証人から念を押され了承する旨を述べたなど判示の事実関係の下においては、民法976条1項にいう遺言の趣旨の口授があったものということができる。

上告代理人の上告理由について原審の適法に確定したところによれば、事実関係は次のとおりである。

1遺言者である亡清吾は、昭和六三年九月二八日、糖尿病、慢性腎不全高血圧症、両眼失明難聴等の疾病に重症の腸閉塞、尿毒症等を併発して静岡県済生会総合病院に入院し、同年一一月一三日死亡した者であるが、当初の重篤な病状がいったん回復して意識清明になっていた同年一〇月二三日、被上告人に対し、被上告人に家財預金等を与える旨の遺言書を作成するよう指示した。

2被上告人は、かねてから面識のある小中弁護士相談の上、担当医師らを証人として民法九七六条所定のいわゆる危急時遺言による遺言書の作成手続を執ることにし、また、同弁護士の助言により同弁護士の法律事務所の東澤弁護士を遺言執行者とすることにし、翌日、その旨清吾の承諾を得た上で、清吾の担当医師である医師ら三名に証人になることを依頼した。

日比医師らは、同月二五日、小中弁護士から、同弁護士が被上告人から聴取した内容を基に作成した遺言書の草案の交付を受け、清吾の病室をを訪ね、日比医師において、清吾に対し、「遺言をなさるそうですね。」と問いかけ、清吾の「はい。」との返答を得た後、「読み上げますから、そのとおりであるかどうか聞いて下さい。」と述べて、右草案を一項目ずつゆっくり読み上げたところ、清吾は、日比医師の読み上げた内容にその都度うなずきなから「はい。」と返答し、遺言執行者となる弁護士の氏名が読み上げられた際には首をかしげる仕種をしたものの、同席していた被上告人からその説明を受け、「うん。」と答え、日比医師から、「いいですか。」と問われて「はい。」と答え、最後に、日比医師から、「これで遺言書を作りますが、いいですね。」と確認され、「よくわかりました。よろしくお願いします。」と答えた。

4日比医師らは、医師室に戻り、同医師において前記草案内容を清書して署名押印し、他の医師二名も内容を確認してそれぞれ署名押印して、本件遺言書を作成した。

右事実関係の下においては、清吾は、草案を読み上げた立会証人の一人である日比医師に対し、口頭で草案内容と同趣旨の遺言をする意思を表明し、遺言の趣旨を口授したものというべきであり、本件遺言は民法九七六条一項所定の要件を満たすものということができる。したがって、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。


大阪高等裁判所判決平成26年11月28日 「はい」と返事をしたのみでは適法な口授がないとされた高裁判例。遺言の内容についての「口授」が必要

公正証書遺言が適法な口授を欠き無効と判断した事例:遺言公正証書につき、1.公証人が、事前には、遺言者の長男から示された遺言の案が遺言者の意思に合致しているのかを直接確認したことはないこと、2.遺言当日も、公証人が、あらかじめ作成していた遺言公正証書の案を、病室で横になっていた遺言者の顔前にかざすようにして見せながら、項目ごとにその要旨を説明し、それでよいかどうかの確認を求めたのに対し、遺言者は、うなずいたり、「はい」と返事をしたのみで、遺言の内容に関することは一言も発していないこと、3.遺言の内容が、評価額合計が数億円にも及ぶ多額かつ多数、多様な保有資産推定相続人全員に分けて相続させることを主な内容とするものであること、4.これを遺言者の意図どおりに実現するためには、自らの保有資産の種類や数、評価額の概略や相続人らが受けた生前贈与などの遺留分に関わる事情をも把握する必要があること、5.遺言当時、遺言者は、多発性脳梗塞等の既往症があり、認知症と診断されたこともあり、記憶力や特に計算能力の低下が目立ち始めていたことなど判示の事実関係の下では、「口授」があったということはできない。


最高裁判所第三小法廷判決平成13年3月27日 証人となることができない者が同席して作成された遺言。本件は特段の事情なし。特段の事情があれば無効となる可能性あり

遺言の証人となることができない者が同席してされた公正証書遺言の効力:公正証書遺言がされた場合において、当該遺言の証人となることができない者が同席していたとしても、この者によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り、同遺言が無効となるものではない。

上告代理人兼上告補助参加代理人の上告理由一及び二について

所論の点に関する原審の事実認定は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り,上記事実関係の下においては,本件遺言当時,Dは意思能力を有しており,公証人はDが口授した遺言の内容を聞き取ったものであるとした原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって,採用することができない。

同三について

遺言公正証書の作成に当たり,民法所定の証人が立ち会っている以上,たまたま当該遺言の証人となることができない者が同席していたとしても,この者によって遺言の内容が左右されたり,遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り,当該遺言公正証書の作成手続を違法ということはできず,同遺言が無効となるものではないと解するのが相当である。

ところで,本件において,受遺者であるEの長女のFらが同席していたことによって,本件遺言の内容が左右されたり,Dが自己の真意に基づき遺言をすることが妨げられたりした事情を認めることができないとした原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。

したがって,本件公正証書による遺言は有効であるというべきであり,これと同旨の原審の判断は正当であって,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。


大阪高等裁判所判決平成9年3月28日 公証人が読み上げた内容にそれでよいと言ったが遺言者がそもそも遺言の作成に関与していない場合

公正証書遺言が「口授」の要件を欠き無効であるとされた事例

(一) 本件遺言の内容は前記認定のとおりであり、《証拠略》によれは、被控訴人松夫、同春子の子花子の孫)乙山春夫から証人になることの依頼を受けた丁原竹夫(春夫の同級生)、同戊田梅夫(甲田屋の経理担当税理士)と花子は、本件遺言の当日、甲原公証役場乙川公証人のもとに出頭した(出頭に際しては春夫も花子に付き添っていた)こと、同公証人は、既に本件遺言部分が記載された書面と本件遺言公正証書に添付された図面(原判決添付丈量図と同様(着色部分を含む。)のもの)を持っていたこと、そこで、同公証人は、右書面に記載された内容を順番に読み上げるとともに右図面上で土地を分割する線を示して花子に本件遺言の内容を確認したこと、これに対して花子は「それでよい。」と言ったこと、その後、本件遺言公正証書が作成され、これに花子、戊田、丁原の順にそれぞれ署名・押印したこと、が認められる。

 (二) そこで、花子が公正証書遺言の要件である「遺言の趣旨を公証人に口授」したといえるかについて判断するに、右認定のとおり花子は、本件遺言について公証人から予め用意されていた書面を読み上げられ、又図面を示されてその内容を確認されたことに対して「それでよい。」と言っただけのものであるから、花子が右書面や図面の作成に自ら関与するなどして本件遺言の内容について予め十分承知していたと認められる特段の事情がない限り、花子の右発言だけでは到底右要件にいう「口授」があったものということができないと解される。

 しかるに、花子が右書面や図面の作成に自ら関与していたことを認めるに足りる証拠はない。また、原審における被控訴人松夫本人、当審における被控訴人人春子本人は、花子は、控訴人一郎が本件(一)(4)の建物を本件(一)(1)の土地の真ん中から東側部分にはみ出して建てたことを死ぬまで怒っていた、甲田屋が千林の土地を控訴人一郎から七〇〇〇万円で買わされたことを怒っていた、と供述し、右各事実が花子において本件遺言をした実質的動機であるかのように供述する。しかし、本件(一)(4)の建物が建築されたのは昭和四六年であるが、それ以来、本件遺言当時まで、花子が右建物の建築を根に持って控訴人一郎と言い争っていた形跡はうかがえないこと、また、本件遺言の内容は、被控訴人丙川において相続する土地(本件(二(一)の土地)が控訴人らの共有する本件(一)(4)の建物の敷地の一部であり、かつ、同敷地部分は、同建物の相当部分に及んでおり、しかもその二階部分の一部も含んでいるもの(本件(二)(2)の建物部分のとおり)であって、これを控訴人らが収去しなければならないとすると相当の犠牲を強いられるものであること、さらに、千林の土地の売買契約は、昭和六三年二月三日に締結され、その代金の支払及び所有権移転登記が経由されたのが同月二三日であり、一方、本件遺言がなされたのは同月一六日であるところ、花子が甲田屋において控訴人一郎から千林の土地を買わされることに不満があるのであれば、本件遺言当時、その売買契約をやめさせることができたはずであること、さらに、右売買は代金七〇〇〇万円でなされているが、右土地の更地価格は一億八七〇〇万円余であること、同土地上には甲田屋の建物があり、被控訴人春子はその代表者、被控訴人松夫はその実質的経営者であることに照らせば、本件遺言の(3)は控訴人一郎のみを責めるのに急で、被控訴人春子、同松夫との均衡を著しく欠いており、いかにも作為的であること、花子は、前記のとおり本件遺言の五か月前に本件(一)(1)ないし(3)の各土地の権利証を控訴人一郎に交付していること、当審における被控訴人春子本人の供述からも花子が控訴人一郎を可愛がっていたことがうかがえること、に照らせば、花子に、控訴人一郎に対する報復的ともいえる本件遺言をする実質的動機があったとは直ちに考えられないところである。その上、花子が本件遺言当時七八歳であったこと、春夫が自らの知人に本件遺言の証人を依頼するとともに花子を公証人役場に引率し、本件遺言がなされていること、に照らせば、花子が本件遺言の内容を十分承知していたことについてはなお疑問があって、直ちにこれを認めることは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

 (三) よって 本件遺言は、遺言者である花子が本件遺言の趣旨を公証人に口授していない点において無効であり、抗弁3(二)は理由がある。

 なお、公正証書遺言において遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授することをその有効要件としているのは、遺言者自らが遺言の趣旨を口授することによって、遺言者の遺言が強制によるものである等瑕疵あるものではないことを担保し、その意思を明確にするためであるから、公証人が本件遺言の内容を花子に読み聞かせ、これを花子に確認していたとしても、右説示の状況のもとでは 花子のこのような受動的な行為によっては未だ遺言者の遺言意思の明確性が担保されたということはできず、これをもって遺言者の口授があったことに代えることができないというべきである。


なお,こちらも参考にしてください。

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弁護士中山知行 

2016-08-05 遺言の文言の解釈についての最高裁判例 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

最高裁遺言文言解釈については,できる限り有効なものと解釈すべきだと言っています。しかしながら,これらの判例を,遺言と遺言能力関係適用することは出来ません。これらの判例は,文言を柔軟に解釈せよと言っているだけで,遺言能力について,遺言を生かす方向で解釈せよと言ってはいないからです。


最高裁判所第三小法廷判決昭和30年5月10日

所論は、要するに原判決は遺言者の真意無視して遺言の趣旨専断的に解釈した違法があり、また遺言の文言が原判決のように解しうるとすれば、相異なる二様の解釈が生ずることとなり、遺言の真意が不明確であることに帰するから無効としなければならないのに、原審がこれを有効と認定したのは違法であるというに帰する。しかし意思表示の内容は当事者の真意を合理的探究し、できるかぎり適法有効なものとして解釈すべきを本旨とし、遺言についてもこれと異なる解釈をとるべき理由は認められない。この趣旨にかんがみるときは、原審が本件遺言書中の「後相続はAにさせるつもりなり」「一切の財産はAにゆずる」の文言をAに対する遺贈の趣旨と解し、養女Bに「後を継す事は出来ないから離縁をしたい」の文言を相続人廃除の趣旨と解したのは相当であつて、誤りがあるとは認められず、また遺言の真意が不明確であるともいえないから、所論は理由がない。


最高裁判所第二小法廷判決昭和58年3月18日

遺言書中の特定条項の解釈:遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的判断するだけでなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書の特定の条項を解釈するにあたつても、当該条項と遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して当該条項の趣旨を確定すべきである。

遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。

しかるに、原審は、本件遺言書の中から第一次遺贈及び第二次遺贈の各条項のみを抽出して、「後継ぎ遺贈」という類型にあてはめ、本件遺贈の趣旨を前記のとおり解釈するにすぎない。ところで、記録に徴すれば、本件遺言書は甲第一号証(検認調書謄本)に添付された遺言状と題する書面であり、その内容は上告理由書第一、一に引用されているとおりであることが窺われるのであつて、同遺言書には、(1)第一次遺贈の条項の前に、伊作が経営してきた合資会社柘植材木店の伊作なきあとの経営に関する条項、被上告人に対する生活保障に関する条項及び馬場五郎及び被上告人に対する本件不動産以外の財産の遺贈に関する条項などが記載されていること、(2)ついで、本件不動産は右会社の経営中は置場として必要であるから一応そのままにして、と記載されたうえ、第二次遺贈の条項が記載されていること、(3)続いて、本件不動産は換金でき難いため、右会社に賃貸しその収入を第二次遺贈の条項記載の割合で上告人らその他が取得するものとする旨記載されていること、(4)更に、形見分けのことなどが記載されたあとに、被上告人が一括して遺贈を受けたことにした方が租税負担が著しく軽くなるときには、被上告人が全部(又は一部)を相続したことにし、その後に前記の割合で分割するということにしても差し支えない旨記載されていることが明らかである。

右遺言書の記載によれば、伊作の真意とするところは、第一次遺贈の条項は被上告人に対する単純遺贈であつて、第二次遺贈の条項は伊作の単なる希望を述べたにすぎないと解する余地もないではないが、本件遺言書による被上告人に対する遺贈につき遺贈の目的の一部である本件不動産の所有権を上告人らに対して移転すべき債務を被上告人に負担させた負担付遺贈であると解するか、また、上告人らに対しては、被上告人死亡時に本件不動産の所有権が被上告人に存するときには、その時点において本件不動産の所有権が上告人らに移転するとの趣旨の遺贈であると解するか、更には、被上告人は遺贈された本件不動産の処分禁止され実質上は本件不動産に対する使用収益権を付与されたにすぎず、上告人らに対する被上告人の死亡を不確定期限とする遺贈であると解するか、の各余地も十分にありうるのである。

原審としては、本件遺言書の全記載、本件遺言書作成当時の事情などをも考慮して、本件遺贈の趣旨を明らかにすべきであつたといわなければならない。

以上によれば、前記原審認定の事実のみに基づき原審が判示するような解釈のもとに、被上告人に対する遺贈は通常のものであり、上告人らに対する遺贈は伊作の単なる希望を述べたものにすぎないものである旨判断した原判決には、遺贈に関する法令の解釈適用を漂つた違法があるか、又は審理不尽の違法があるものといわざるをえず、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、右の点について更に審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。


最高裁判所第三小法廷判決平成13年3月13日

遺言者の住所をもって表示された不動産の遺贈につき同所にある土地及び建物のうち建物のみを目的としたものと解することはできないとされた事例:遺言書には、遺贈の目的としてたんに「不動産」と記載され、その所在場所として遺言者の住所が記載されているが、遺言者はその住所地にある土地および建物を所有していたなど判示の事実関係のもとにおいては、所在場所の記載が住居表示であることなどをもって同遺言書の記載を建物のみを遺贈する旨の意思を表示したものと解することはできない。

遺言の意思解釈に当たっては,遺言書の記載に照らし,遺言者の真意を合理的に探究すべきところ,本件遺言書には遺贈の目的について単に「不動産」と記載されているだけであって,本件土地を遺贈の目的から明示的に排除した記載とはなっていない。一方,本件遺言書に記載された「荒川区西尾久7丁目60番4号」は,富美雄の住所であって,同人が永年居住していた自宅の所在場所を表示する住居表示である。そして,本件土地の登記簿上の所在は「荒川区西尾久7丁目」,地番は「158番6」であり,本件建物の登記簿上の所在は「荒川区西尾久7丁目158番地6」,家屋番号は「158番6の1」であって,いずれも本件遺言書の記載とは一致しない。以上のことは記録上明らかである。

そうすると,本件遺言書の記載は,富美雄の住所地にある本件土地及び本件建物を一体として,その各共有持分を上告人に遺贈する旨の意思を表示していたものと解するのが相当であり,これを本件建物の共有持分のみの遺贈と限定して解するのは当を得ない。原審は,前記1(5)のように本件遺言書作成当時の事情を判示し,これを遺言の意思解釈の根拠としているが,以上に説示したように遺言書の記載自体から遺言者の意思が合理的に解釈し得る本件においては,遺言書に表われていない前記1(5)のような事情をもって,遺言の意思解釈の根拠とすることは許されないといわなければならない。

以上のとおり,富美雄が本件建物の共有持分のみを上告人に遺贈したものと解すべきであるとした原審の判断には,遺言に関する法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり,原判決中上告人の本件土地の共有物分割請求却下した部分は破棄を免れない。そして,本件土地の分割方法につき審理を尽くさせる必要があるから,同部分を原審に差し戻すこととする。


遺言の方式の準拠法に関する法律

昭和39年法律100号。第9回ハーグ国際私法会議(1960)で成立した「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」(昭和39条9)の批准に伴う国内立法。この法律は,遺言の方式につき,遺言者が遺言の成立又は死亡時に国籍・住所・常居所のいずれかを有していた地の法,不動産についてはそれらに加えてその所在地法のいずれかに適合する方式であればよいとする選択的連結を採用している〔遺言準拠法2〕。これは,遺言をできるだけ有効なものとして認めようとする遺言保護思想に基づくものである。なお,法適用通則法43条2項により同法の一部規定は遺言の方式についても適用される。

[株式会社有斐閣 法律学辞典第4版補訂版]

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弁護士中山知行 

2016-08-04 カリフォルニアの司法試験を受けてきました このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

2016年7月25日にLAX着

翌日から28日まで試験(Ontario Convention Center)

翌29日LAX発

7月30日帰国

3日間の California Bar Exam が終わると,受験生が一斉に拍手をします。今回は,試験が終わった時点と解散を告げられた時点の2回,大きな拍手が鳴り響きました。歓声も聞こえました。みんな,この時のために,必死勉強してきたわけですから,開放感と安堵感と達成感からの自然の行動だと思います。18時間の試験時間を共有してきた仲間の笑顔は美しいものです。

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2016-08-02 民法891条5号所定の遺言書隠匿行為:相続欠格 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

最高裁判所第三小法廷判決平成9年1月28日

相続に関する不当な利益目的としない遺言書の破棄隠匿行為相続欠格事由相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者に当たらない。

相続欠格の要件として、民法891条各号該当行為についての故意の外に、相続に関して不当な利益を得る動機・目的(二重の故意)を要するか否かが本件の問題である。

本判決は、民法891条5号は相続人となる資格を失わせるという非常に厳しい内容のものである反面、同号に当たる相続人の行為が常に遺言に対する著しく不当な干渉行為(最2小判昭56・4・3参照)に当たるとはいえないことを考慮して、同号のうち遺言書の破棄隠匿行為について二重の故意必要説を採用した。

実務上は、遺産分割協議をいったん成立させた後にこれに不満を持つに至った共同相続人が分割協議を蒸し返すための攻撃方法として相続欠格を主張する事案がみられる一方、全部包括遺贈を受けた相続人がその遺言書を他の相続人に見せなかったが、実際には法定相続分による遺産分割協議を成立させたという事案もみられる。

様々な様相を呈する相続欠格をめぐる紛争妥当解決のためには、本判決の法理は不可欠であろう。

相続欠格を主張する側が破棄・隠匿行為の存在について、これを争う側が相続に関して不当な利得を目的としないことについて、それぞれ主張・立証責任を負うことになろう。

本判決のいう相続に関する不当な利益は、自己の利益に限定されるものではなく、例えば後妻が自らの子についての相続上の不当な利益を図って遺言書の破棄・隠匿等をした場合なども含まれることは、本判決の判示から明らかであろう。

相続に関して不当な利益を目的とするものでなかった場合の具体例については、5号の趣旨遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対し相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課す)を考慮した上個別判断していくほかなく、今後の事例の積み重ねが必要である。判例タイムズ933号94頁

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大阪高等裁判所判決平成13年2月27日

相続人が被相続人から遺言書を受領して金庫内に保管し長年その検認を経ようとしなかった場合と相続欠格者の該当性:相続人が、被相続人から遺言書を受領して金庫内に保管し、被相続人の死後約10年を経過するまでその検認の手続をしなかったとしても、相続上不当な利益を得る目的に出たものとはいえないときは、同相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者に該当しない。

控訴人次郎は、一夫から本件遺言書を受領し金庫内に保管していたが、その存在を認識しながら平成9年までその検認を経ようとしなかったのであるから、右の行為は遺言書を隠したことに該当するというべきである。

被控訴人次郎は、有本税理士から、遺言書は公正証書によるものでなければ無効であると言われたため、その存在は認識していたものの、遺産分割に有用なものとは思わず、検認手続をしなかったと主張し、これに沿う乙10及び同被控訴人本人尋問の結果があるが、いやしくも相続税の税務申告にも携わる専門家の税理士が、遺言の方式中最も一般的自筆証書遺言の効力を否定する発言をしたものとは到底思われず、また、甲10の7ないし23によれば、被控訴人らは一夫の生前から、贈与を原因としてその所有財産を同被控訴人ら名義ないし春美名義に移転登記している事実が認められ、これは相続対策として、一夫所有財産を被控訴人ら一家のために確保する目的に出たものと認められるから、被控訴人らにおいて遺言書の効力につき無知であったとは考え難い。

前記認定の経緯とこれらの事実によれば、被控訴人次郎は、本件遺言書を使用することなく、わずかな代償財産を控訴人らに与えることにより、全ての遺産を同被控訴人が単独取得することを企図していたものと解され、本件遺言書を隠していた理由は、本件遺言書の記載内容が同被控訴人らにとって有利なものであると確信できなかったことによるものと推認される。

また、被控訴人花子についても、一夫の死亡後、被控訴人次郎から遺言書の存在を知らされた事実か認められるところ(乙10)、受遺者にも民法965条により891条の規定が準用されるから、同被控訴人も客観的には遺言書を隠したものと認める余地があるか、同被控訴人は本件遺言書の保管者とは認められないから、同被控訴人に検認手続をとるべき義務は認められず、本件遺言書を隠したものとは認められない。

しかし、被控訴人次郎が本件遺言書を隠した行為があったにしても、本件遺言書の記載内容は前記のとおり一夫の遺産の全てを被控訴人次郎及び同花子に相続させるとするもので、右行為は一夫の遺産にかかる最終的な処分意思を害したものとはいえないから、右行為が相続法上不当な利益を得る目的に出たものといえず、したがって民法891条5号にいう隠匿に該当するとはいえないことに帰する。

 なお、控訴人は、被控訴人次郎に本件遺言書の開披かあったから本件遺言書の存在を告げなかったことが不当な利益を得る目的に出たことが裏付けられる旨主張し、確かに、同被控訴人が最終的に本件遺言書の検認を求めたのは開披によりその内容を認識したからではないかとの疑いを否定することはできないが、これについても右の判断と同様に、結果として不当な利益を得る目的に出たものといえないことに帰するし、更に、仮に同被控訴人が検認前に開披したとしても、前記認定したように、同被控訴人は、一夫の死後10年経過後も控訴人らに対し自己の要求する遺産分割協議書に署名押印を求めていたことに徴すれば、同被控訴人が控訴人の遺留分減殺請求権消滅させる目的で本件遺言書の存在を告げなかったとは認め難いから、控訴人の右主張は採用できない。

以上から、被控訴人らが相続又は遺贈につき欠格者であるとは認められない。

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民法891条の相続欠格事由については、第1に被相続人らの生命を故意に侵害しようとしたことなどを理由とするものと、第2に被相続人の遺言行為に対する違法な干渉をしたことを理由とするものとの2種類かあるとされている。

 そして、相続人か相続欠格とされるためには、民法891条各号該当行為についての故意のほかに、同行為によって自己か相続上有利になるという動機・目的を要するか否かが学説上争われ、裁判例でも見解か分かれていた。

 代表的な見解は、いわゆる「二重の故意必要説」であり、この見解では、遺産の帰属を自己に有利にしようとする故意が必要とするものであり(中川善之助監『注解相続法』67頁〔山畠正男〕、中川善之助=泉久雄編『新版注釈民法(26)』308頁〔加藤永一〕、中川善之助一泉久雄『相続法〔第三版〕』78頁など)、これと同旨の裁判例としては、東京高判昭和45・3・17判夕248号129頁、判時593号43頁、大阪高判昭和61・1・14判時1218号81頁などかある。

 これに対し、「二重の故意不要説」は、相続人の行為か客観的に遺言者の意思の実現を妨害するものであれば足り、不当な利得を得ようとする動機・目的を必要としないとしており(高木多喜男「判批」昭和56年度主判解(判タ472号)150頁、大島俊之「判批」法時54巻4号131頁など)、また、「総合考慮説」は、遺言内容と遺産分割の結果、および遺言を公開しなかった者の意図などを相関的に考慮して、相続欠格とするに値する「隠匿」にあたるか否かを判断すべきであるとする(床谷文雄「判批」阪大法学46巻1号181頁、伊藤昌司「判批」判評276号31頁〔判時1023号177頁〕など)。

このような学説・判例の状況下におい又、最三判平成9・1・28民集51巻1号184頁は、相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄または隠匿した場合において、相続人の上記行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、同相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者にあたらないとし、「二重の故意必要説」をとることを明らかにした。金融商事判例1127号30頁

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東京地方裁判所判決平成18年10月30日

民法891条5号所定の遺言書隠匿行為に該当するとしても,その行為は,相続法上有利となり,又は,不利になることを妨げることを目的とするものではなかったものと,認めるのが相当であるとした事例

(1)民法891条5号にいう相続欠格事由としての遺言書の隠匿とは,故意に遺言書の発見を妨げるような状態におくことを意味すると解するのが相当である。そこで,遺言が公正証書によってなされた場合,民法969条の規定にしたがって遺言公正証書が作成されること,公証人は,公正証書作成の嘱託を受けた場合,通常は原本,正本,謄本を作成し,証書原簿にその旨を記載して,原本を公証人役場に保管し(公証人法46条),遺言者から請求があるときは,その正本や謄本を交付するこことになる(公証人法47条,51条)という特質を有する。前記のような遺言公正証書の作成方法,原本の保管方法,そして,公正証書遺言の正本ないし謄本の保管を依頼された相続人には,自筆証書遺言や秘密証書遺言の保管者のように遺言書の検認請求義務(公表義務)が課せられていない(民法1004条1項,2項)ことなどに鑑みれば,前記相続人が,被相続人から死亡後,公正証書による遺言の公表を要請されている場合とか正本等の存在を公表しないことによって他の相続人による遺言公正証書の原本の探索を困難ならしめた等の特段の事情がある場合を除いて,遺言公正証書の正本等の存在を公表しないことをもって,民法891条5号所定の遺言書の隠匿をした者に該当するとは言えないと解するのが相当である。

(2)これを本件についてみると,被告が,Bの死後,Bの相続人に本件遺言公正証書の存在を公表しなかったことは前記認定のとおりであるが,他方,本件遺言は公正証書による遺言であって,その原本は公証人役場に保管されていて,被告は,Bの死後約1年半を経過した平成14年8月には,本件遺言にそって,Bの主たる遺産である本件土地建物につき,相続を原因として所有権移転登記手続をしている。そして,これらの事柄登記簿謄本を閲覧すれば容易に判明する事柄であり,Bの他の法定相続人としては,Bの死後,その主たる遺産である本件土地建物について,相続人間で遺産分割協議が成立していないのに,相続を原因とする所有権移転登記がなされているということになれば,前記登記はBの遺言に基づいてなされたものであることは容易に考え及ぶところであるというべきで,現に,平成15年3月ころには,Eは被告にBの遺言が存在することを指摘して,被告との間で本件確認書に基づく合意をしているというのである。そうすると,本件遺言公正証書の存在を他の相続人に公表しなかった被告の行為によって,他の相続人の遺言書の発見が妨げられたとまでは評価し難く,本件全証拠によっても,被告の行為によって,他の相続人による原本の探索を困難ならしめたなどの特段の事情が存在することを認めるに足りない。したがって,被告の前記行為は,民法891条5号にいう相続欠格事由としての遺言書の隠匿には当たらないと解するのが相当である。

   なお,原告らは,被告が遺言執行者として,本件遺言公正証書を公表すべき義務に違反したことをもって相続欠格事由に該当すると主張するようであるが,仮に,被告が遺言執行者として本件遺言公正証書を公表すべき義務に違反した点があるとしても,これをもって直ちに,民法891条5号所定の遺言書の隠匿行為があったとは言い難いので,原告らの前記主張は採用しない。

 3 なお,民法891条5号の趣旨に照らして,相続人が相続に関する被相続人の遺言書を隠匿した場合,相続人の前記行為が相続に関して不当な利益を得ることあるいは不利益を免れることを目的とするものではなかったときは,前記相続人は,民法891条5号所定の相続欠格者に当たらないと解するのが相当であるところ,原告らは,被告がBの死亡を隠蔽し,もって原告ら共同相続人から遺留分減殺請求権を行使されることをおそれ,これを封じ込めることを企画したものであるから,被告の本件遺言公正証書の存在を公表しなかった行為は,遺言書の隠匿にあたると主張する。

   しかし,被告が,原告X1らに,B死亡の事実,同人告別式など開催の事実を告知しなかったことは前記認定のとおりであるが,共同相続人であるE,FはBの告別式などに参加していて,前記1で認定の事実によれば,原告X1らにBの死亡した事実などを告知しなかったのは,主として,平成7年ころから,被告と原告X1,原告X2及びAとの間でCの遺産相続に端を発して,前件訴訟1,前件訴訟2が係属するなどして,両者間の関係は険悪を極め,疎遠な状況にあったことに起因するものと推認されること,また,原告X1,原告X2が実母であるB死亡の事実を10年間という長期間にわたって覚知しないということは実際上,ほぼあり得ないと考えられること,さらに,被告は,E,Fらとの間で,同人らの遺留分などを考慮してBの遺産から金銭を交付するとの趣旨の本件確認書にかかる合意をし,あるいは,同人らにBの遺産から300万円ずつを交付するとし,ただし,他の相続人らから遺留分減殺請求権が行使された場合を想定して,被告においてE,Fへの交付すべき金額検討して,同人らへ伝えるとの趣旨の本件誓約書を作成してその旨を約していて,他の共同相続人から遺留分減殺請求権を行使されることがあることを想定していたことが認められる。前記事情に,本件遺言の内容などを総合考慮すれば,仮に,被告の本件遺言公正証書の存在を原告らに公表しなかった行為が民法891条5号所定の遺言書隠匿行為に該当するとしても,その行為は,被告において相続法上有利となり又は不利になることを妨げることを目的とするものではなかったものと認めるのが相当である。

 4 よって,原告らの請求はいずれにしろ理由がない。

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弁護士中山知行