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2016-05-30 独占禁止法:排除措置命令で違法とされた行為と損害賠償請求 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京高等裁判所判決平成26年5月30日

コンビニデイリー商品販売について,公正取引委員会排除措置命令において違反行為とされた行為が認められないとして,独占禁止法25条に基づく損害賠償請求否定された事例

排除措置

独占禁止法の禁止規定に違反する行為がある場合に,公正取引委員会が,一定手続により,当該違反行為を排除するために,事業者・事業者団体等に命ずる措置。排除措置の内容は,違反行為を排除するために必要範囲で公正取引委員会が決定する。違反行為の差止め(不作為命令)を中心に,同一行為の繰返しを予防するための措置,事後の監視をするための措置,取引先等への周知徹底等幅広い内容の措置が命じられている。命令を下す時点で,違反行為がすでになくなっている場合でも,公正取引委員会が特に必要があると認めるときは,当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。公正取引委員会は,排除措置を命ずるときは,事業者等に,あらかじめ意見を述べ証拠を提出する機会を与えなければならない。排除措置命令は,前提となる認定事実法令適用を示した文書によって行われる。排除措置命令に係る審判開始請求がなされた場合,公正取引委員会は,必要と認めるときは,排除措置命令の全部又は一部の執行を停止することができる。排除措置命令違反には過料が,確定した排除措置命令に従わない場合には罰則が科せられる。[株式会社有斐閣 法律学辞典第4版補訂版]

判例タイムズ1403号299頁

被告は,「セブンイレブン」の商標等を用いてコンビニエンス・ストアを展開する会社であり,原告は,そのフランチャイジーである。

公正取引委員会は,被告が,加盟店で廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で,見切り販売(被告が独自基準により定める販売期限が迫っている商品について,それまでの販売価格から値引きした価格で消費者に販売する行為)を行おうとし,又は行っている加盟者に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせ,加盟者が自らの合理的経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせており,それが独占禁止法19条に違反するとして,同法20条1項に基づいて,その行為を取りやめなければならないとする排除措置命令を行った。

原告は,上記排除措置命令を受けて,その4日後,経営する店舗で見切り販売を始めたが,被告の妨害により,その時点以前に見切り販売を実施できなかったことによって損害を受けたとして,独占禁止法25条に基づいて損害賠償を請求した。

本件の争点は,被告の妨害行為の有無及び損害であるが,本判決は,被告の妨害行為をいずれも否定したので,損害まで検討していない。

原告が主張する妨害行為は,共通妨害行為(被告の加盟者が共通して受けた行為)と個別的妨害行為(原告が具体的に受けた行為)に大別され,本判決も,原告の構成に従って妨害行為の有無を判示している。

ところで,独占禁止法25条に基づく損害賠償請求は,民法709条に基づく損害賠償請求とは異なり,独占禁止法49条1項が規定する排除措置命令等が確定した後であることを要し(同法26条1項),東京高等裁判所が第1審の専属管轄を有する(同法85条2号)。違反行為者は,故意又は過失がなかったことを証明して責任を免れることができず(同法25条2項),消滅時効は,排除措置命令確定時から3年とされるなど(同法26条2項),民法709条の不法行為とは訴訟手続・要件事実を異にしている。

本判決は,これらの諸規定に照らすと,同法25条に基づく損害賠償請求権は,排除措置命令において違反行為と認定された行為によるものに限って認められるとし,その前提に立って,共通妨害行為及び原告に対する妨害行為の有無を検討し,いずれもその存在を否定した。

本件で問題とされているのは,被告の加盟者への見切り販売の妨害行為であるが,被告は,この点に関して独占禁止法19条に違反するとして,同法20条1項に基づく排除措置命令を受けている。原告は,被告が排除措置命令を受けたことから,特段の事情がない限り,個別の加盟者に対してもそれに違反する行為があったとの事実上推定が働くと主張していた。

本判決は,独占禁止法25条に違反する行為があったかどうかは,個別事案によって異なり,排除措置命令も加盟者全体に違反行為があったと認定したわけではないとして,原告が主張する事実上の推定を採用せず,個別的に違反行為の有無を判断している。

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本件排除措置命令の主文及び理由は,前記認定したとおりであり,違反行為は「見切り販売を行おうとし,又は行っている加盟店に対し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせ,加盟者が自らの合理的な経営判断に基づいて廃棄に係るデイリー商品の原価相当額の負担を軽減する機会を失わせている行為」であって,同行為に当たるものとして,理由中に本件妨害行為1ないし3が記載されている。主文が抽象的な表現となっていることや,本件妨害行為1ないし3の記載の末尾に「など」と付されていることからすると,本件妨害行為1ないし3は例示と理解されるが,本件排除措置命令の前記記載に照らして,「被告が,かねてからデイリー商品は推奨価格で販売されるべきとの考え方に基づき,OFCをはじめとする従業員に対し周知徹底を図っていたこと」自体まで,違反行為とするものでないことは明らかである。

ところで,「デイリー商品を見切り処分する場合のガイドライン」の記載等の前記認定事実によれば,被告は,売れ残り廃棄ロスを減らす上で,本来実施しなければならないことは,単品管理をして,発注精度を高めることであり,見切り処分による販売を行うことは,廃棄ロスを減少させることにつながる反面,同一商品の価格が時間帯・店舗によって異なることによって,客の不信感を招くことも予想されるとの理解から,デイリー商品につき見切り販売を推奨しないとの経営方針を採用し,単品管理を徹底して,推奨価格を維持して販売することによって,セブン−イレブンのブランドイメージを高める方策を採っていることが認められる。被告は,コンビニエンス・ストア・チェーンとして,事業活動自由保障されており,自ら展開するセブン−イレブンにおいて,統一性のある店舗イメージを構築し,他の同種チェーンとの差別化を図ろうとすることは当然に認められるから,上記経営方針を採用していること自体,許されないということはできない。

他方,加盟店基本契約によれば,加盟者も独立した事業者とされており,加盟店基本契約上の義務に違反しない限り,自己の経営判断による事業活動をすることを妨げられず,その中には,商品の販売価格を自らの判断で決定することも含まれることは,加盟店基本契約30条1項の定めからも明らかである。

以上からすると,本件排除措置命令において違反行為とされた行為は,被告が,加盟者に対して,デイリー商品を推奨価格で販売するのが望ましい旨の助言や指導をする域を超えて,デイリー商品の見切り販売が加盟店基本契約に違反する行為であると指摘したり,見切り販売を行うことにより加盟店基本契約上の不利益が生じることを申し向けたり,被告の経営指導に従うようどう喝したりして,加盟店が有する商品の価格決定権の行使現実に妨げ,見切り販売の取りやめを余儀なくさせたと評価される行為(「本件違反行為」)であると解される。

原告は,違反行為といえるためには,1客観的に,加盟店が見切り販売を行うことを希望するであろう事情があり,かつ,2見切り販売の取りやめをせざるを得ない事情があれば足りると主張するが,違反行為の判断基準は上記のとおりと解するのが相当であり,上記主張は採用できない。

共通妨害行為について

原告が共通妨害行為として主張する各行為が,本件違反行為に当たるかを検討する(なお,原告が主張する各行為には,加盟店基本契約を締結する前の行為が含まれているが,これらも,契約締結後の見切り販売に対する妨害として作用している趣旨の主張と解される。)。

原告は,見切り販売の取りやめを余儀なくさせている行為として,(ア)研修時から開店に至る一連の妨害行為(商品廃棄のみを前提とする利益説明と研修,日常的指導),(イ)見切り販売を困難にする,商品廃棄を前提としたレジシステム,(ウ)推奨価格以外の価格で販売するときには,OFCに相談することを義務づけるシステムマニュアル,(エ)加盟店がデイリー商品を値下げした場合に,本部会計部署警報が鳴る装置の設置,(オ)廃棄当然という説明,(カ)見切り販売を否定する主張を繰り返し,(キ)定価販売に基づくブランドイメージの強調を主張する。

しかし,加盟店に対し,単品管理の徹底を勧める一方,見切り販売を勧めず,できる限り推奨価格を維持して販売するように助言・指導することが本件違反行為に当たらないことは前記のとおりであり,原告が主張する(ア)研修時から開店に至る一連の妨害行為,(ウ)システムマニュアル,(オ)廃棄当然という説明,(カ)見切り販売を否定する主張の繰り返し,(キ)定価販売に基づくブランドイメージの強調については,それらが上記助言や指導の域を超えるものと認めるに足りる証拠がない。

また,(イ)見切り販売を困難にする,商品廃棄を前提としたレジシステムについては,確かに,加盟店が見切り販売をする場合,バーコードスキャンだけでは足りず,手打ち登録をし,かつ,実在金額と帳簿上の在庫金額との乖離修正するための在庫変更報告書への追加登録をする必要があるものの,見切り販売に対応できない仕様であったとはいえない。なお,原告の供述によれば,原告も,加盟店基本契約締結時には,レジにおける手打ち登録,在庫変更報告書への追加登録の仕方を知っていたことが認められる。

さらに,(エ)加盟店がデイリー商品を値下げした場合に,本部の会計部署に警報が鳴る装置の設置についても,弁論の全趣旨によれば,専ら見切り販売を制限することを目的とするものとはいえず,これによりデイリー商品の見切り販売の事実が被告に判明する仕組みとなっていたとしても,デイリー商品を推奨価格で販売するよう助言・指導することは許されるのであるから,上記装置の存在をもって,本件違反行為に当たるとまではいえない。

個別的妨害行為について

原告は,平成21年6月22日に公正取引委員会が本件排除措置命令をしたことを報道で知って,同月26日から見切り販売を実施し,現在までそれを継続しているところ,本件は,見切り販売の取りやめを余儀なくされたことに基づく損害賠償であるから,原告が見切り販売実施後に受けたとする妨害行為は直接の審理の対象とはならない。そこで,まず,見切り販売実施前の被告の行為について検討する。

この点につき,原告は,本件排除措置命令がされていることから,特段の事情がない限り,個別の加盟者に対しても本件違反行為に当たる行為があったとの事実上の推定が働くと主張するが,個別の加盟者に対して本件違反行為に当たる具体的行為があったかどうかは,事柄性質上個別の事案によって異なることが明らかであり,本件排除措置命令も,加盟者全体に対して本件違反行為があったと認定しているわけではないから,本件排除措置命令の存在により,原告に対する本件違反行為に当たる行為があったことが事実上推定されるとはいえない。

原告は,加盟店基本契約締結前のトレーニングや管理委託期間中からデイリー商品の値下げはできないとする考え方を刷り込まれていたため,開店当初から,デイリー商品の見切り販売は禁止されているという認識が相当程度強固となっていたと主張し,これに沿う陳述や供述をする。

しかしながら,被告は,研修はもとより管理委託期間も実践的な経営手腕を身に付けさせるトレーニング期間と位置づけており,それらの機会に,単品管理をして発注精度を高めるという被告の基本的考え方を理解させ,その技術習得させる方針の下に研修や実践訓練を行うことが許されないものではなく,その結果として見切り販売についての言及がなかったとしても,これにより直ちに見切り販売禁止の指導がされたとはいえない。原告としては,これらの研修及び管理委託期間中の指導を通じて,被告が単品管理を重視しており,デイリー商品の見切り販売を推奨しない考え方であることを認識することになるが,他方では,管理委託契約締結前に被告から要点の概説を用いて,加盟者が商品の売価を自ら決めることになることの説明を受けており,見切り販売が契約違反であるとか,それによって契約解除等の不利益を受けるといった指導がされたことを認めるに足りる証拠もない。

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2016-05-29 公職選挙法違反被告事件 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

青森地方裁判所判決平成27年5月29日

前回選挙事務局長を務めた被告人らが選挙人への電話かけの報酬として運動員らに現金供与した公職選挙法違反の事案につき、電話かけには選挙対策組織一定の関与があったものの、深い関与をしたとまではいえず、その選挙運動として行われたのではないことなどを理由として、懲役刑執行猶予された事例

公職選挙法

(買収及び利害誘導罪)

第二百二十一条  次の各号に掲げる行為をした者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

一  当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき

二  当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対しその者又はその者と関係のある社寺、学校会社組合市町村等に対する用水、小作債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して誘導をしたとき。

三  投票をし若しくはしないこと、選挙運動をし若しくはやめたこと又はその周旋勧誘をしたことの報酬とする目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し第一号に掲げる行為をしたとき。

四  第一号若しくは前号の供与、供応接待を受け若しくは要求し、第一号若しくは前号の申込みを承諾し又は第二号の誘導に応じ若しくはこれを促したとき。

五  第一号から第三号までに掲げる行為をさせる目的をもつて選挙運動者に対し金銭若しくは物品の交付、交付の申込み若しくは約束をし又は選挙運動者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき。

六  前各号に掲げる行為に関し周旋又は勧誘をしたとき。

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       主   文

 被告人A1を懲役1年8月に,被告人B1を懲役8月に処する。

 被告人両名に対し,この裁判が確定した日から5年間それぞれその刑の執行を猶予する。

 訴訟費用は,その2分の1ずつを各被告人の負担とする。

       理   由

 【罪となるべき事実

 被告人両名は,いずれも平成26年12月14日施行衆議院議員総選挙に際し,衆議院選挙区選出議員選挙青森県第1区から立候補し,かつ,衆議院比例代表選出議員選挙東北選挙区における衆議院名簿登載者として維新の党が届け出たC1の選挙運動者であるが,

第1 被告人両名は,共謀の上,

 1 D1ほか9名が選挙運動をしたことの報酬とする目的及び上記C1に当選を得させる目的をもって,上記D1らに対し,同人らが上記青森県第1区の選挙人に電話をかけて上記C1への投票を呼び掛ける選挙運動をしたこと及び引き続き同様の選挙運動をすることの報酬として,別表1記載のとおり,同日,青森市以下略所在プレハブ小屋において,現金合計102万7125円を供与し,

 2 E1ほか16名が選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって,同人らに対し,同人らが上記選挙区の選挙人に電話をかけて上記C1への投票を呼び掛ける選挙運動をしたことの報酬として,別表2記載のとおり,同日及び同月15日,同所ほか1か所において,現金合計44万6625円を供与し,

第2 被告人A1は,F1と共謀の上,

 1 G1ほか4名が選挙運動をしたことの報酬とする目的及び上記C1に当選を得させる目的をもって,上記G1らに対し,同人らが上記選挙区の選挙人に電話をかけて上記C1への投票を呼び掛ける選挙運動をしたこと及び引き続き同様の選挙運動をすることの報酬として,別表3記載のとおり,同月14日,青森県五所川原市(以下略)所在のプレハブ小屋において,現金合計32万6100円を供与し,

 2 H1ほか8名が選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって,同人らに対し,同人らが上記選挙区の選挙人に電話をかけて上記C1への投票を呼び掛ける選挙運動をしたことの報酬として,別表4記載のとおり,同月9日から同月14日までの間,同所において,現金合計40万7475円を供与した。

本件では、量刑の前提事実として、本件電話かけが選挙対策組織(以下「選対」と略記する)の選挙運動として行われたのか、それともA1個人として行われたのかが争われたが、本判決は、以下のような理由から、本件電話かけは選対の明示的意思決定によるものと評価することも、実質的に選対の意思決定によるものと評価することもできないとした。

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2 選対による本件電話かけへの関与

(1)明示的意思決定の有無

 本判決は、選対幹部らが選対会議等において本件電話かけを行う旨の明示的意思決定がない一方、E3(選対幹事長)やF3(事務局長)などの選対幹部らが集まってB1を選対の電話作戦担当とすることを決めた事実はあるものの、この電話作戦は本件電話かけと同一のものとはいえず、本件電話かけが選対の明示的意思決定によるものとみることはできないとした。

(2)実質的に選対の選挙運動と評価できるか否か

 本判決は、次に、黙示の意思決定がある場合など、選対が本件電話かけに深い関与をしたと認められるかどうかを検討した結果、今回選挙における被告人両名の地位立場、本件電話かけに関する選対関係者らの認識等、人的・物的態勢等から本件電話かけには選対の一定の関与があったが、選対が本件電話かけに深い関与をしたとまでは認められず、本件電話かけが実質的に選対の選挙運動であったと評価することはできないとした。

(3)量刑理由

 本件電話かけは、長期間かつ終日にわたる徹底したものであったこと、選対の一定の関与により、迅速に人的・物的態勢等を整えて大規模に実行することが可能となった側面もあることなども考慮すると、選挙の公正を害した程度にはいずれも大きいとしたものの、本件買収は、いわゆる運動買収であって、投票自体を買う投票買収ほど直接的な形で選挙の公正を害するものではないなどとして,被告人両名に対しては、執行猶予が相当であるとした。

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2016-05-28 追加判決請求事件(裁判の脱漏) このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

ちょっと面白い知財高裁判例がありましたので紹介したいと思います。

知的財産高等裁判所判決平成27年5月28日

平成20年11月26日付け知財高等裁判所判決には裁判の脱漏があるとして追加判決を求めた事案。裁判所は,民訴法258条1項により裁判の脱漏を主張する者は,当該裁判が係属している裁判所に追加判決の申立てをすればよく,「訴状」を提出して新たに民事訴訟形式により追加判決を求めることは許されず,しかも原告は前訴の被控訴人(1審被告)を相手方として前訴の追加判決の申立てをするのではなく,「国を被告として本訴請求趣旨のとおりの裁判」を求めるというのであり,このような形式の訴訟は,およそ不適法な訴えであるとして,原告の請求を却下した事例

       主   文

 1 本件訴えを却下する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

       事実及び理由

第1 請求の趣旨及び原因

 別紙「訴状」写し(以下「本件訴状」という。)のとおりである。

第2 当裁判所の判断

 1 本件は,原告が,当庁平成20年(ネ)第10067号事件(以下「前訴」という。)について当庁が平成20年11月26日にした判決(本件訴状の別紙1。以下「本件判決」という。)には裁判の脱漏があると主張して,本件訴状の「請求の趣旨」第1項記載の追加判決を求めるものである。

 2 そこで,検討するに,裁判の脱漏とは,裁判所が請求の一部について裁判をしなかったことをいい,裁判所が裁判を脱漏したときは,その残された一部分は,なおその裁判所に係属していることになるから(民事訴訟法258条1項),裁判の脱漏を主張する者は,当該裁判が当該裁判所に係属していることを前提として,当該裁判所に追加判決の申立てをすればよく,「訴状」を提出して,新たに民事訴訟の形式により追加判決を求めることは許されない。

 しかも,原告は,前訴の被控訴人(第1審被告)であった住石マテリアル株式会社(旧商号 住友石炭鉱業株式会社)を相手方として前訴の追加判決の申立てをするのではなく,本件訴状記載のとおり,「国を被告として本訴請求の趣旨のとおりの裁判」を求めるというのであるから,全く新たな民事訴訟を提起して「追加判決」を求めるものであることが明らかである。

 このような形式の訴訟は,民事訴訟上認められた適法手続でなく,およそ不適法な訴えであって,その不備を補正することができないから,民事訴訟法140条に基づき,口頭弁論を経ないで本件訴えを却下することとする。

 よって,主文のとおり判決する。

    知的財産高等裁判所第2部

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2016-05-27 背任被告事件 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京高等裁判所判決平成27年5月27日

弁護士である被告人が,会社から委任された根抵当権設定登記抹消登記手続を怠り,第三者債権譲渡を原因とする根抵当権設定登記の移転登記手続を完了して,会社に財産上の損害を与えたとして背任罪により起訴された事案について,控訴審が,抹消に同意したとする根抵当権者である会社代表取締役証言の信用性を認めて有罪とした第一審判決には,同取締役の証言に基づいて対価の現金が同社に支払われたと認定した点において経験則論理違反があるなどとして,事実誤認理由として同判決を破棄し,被告人に無罪を言い渡した事例

原判決は「罪となるべき事実」の項で,要旨「被告人は当時弁護士であり,有限会社A代表取締役Bから,同社所有の浜松市内の複数土地及び建物(以下「本件物件」という)に設定されたC株式会社の極度額2億円の根抵当権(以下「本件根抵当権」という)を抹消するため,C等を被告とする債務不存在確認請求,本件根抵当権設定登記の抹消登記手続請求等の訴訟行為及び和解等の委任を受け,同社代表取締役Dとの和解交渉の結果,平成19年12月26日,同人から本件根抵当権の抹消の同意を得て,Aのためその設定登記の抹消登記手続を完了すべき任務を有していたものであるが,Eらの利益を図る目的で,その任務に背き,同手続をすることなく,情を知らないG司法書士らを介して,平成20年2月5日,債権譲渡を原因とするCからEに対する本件根抵当権設定登記の移転登記手続を完了し,もってAに財産上の損害を与えた」という事実を認定した。

これに対し弁護人は,被告人には,任務違背も第三者図利目的もなく,Aには財産上の損害も生じていないから,被告人は無罪であるのに,本件背任罪を認定して被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある旨主張する。

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本判決は,第一審判決のいう前記「客観的事実関係」があるからといって,それがD証言の信用性を動かし難いほど裏付けるとはいえず,むしろ,C社との和解の合意書もなければ授受した金銭領収証存在しないこと,現金授受があったとされる会合に立ち会った司法書士は,3000万円の存在や授受を目撃していないばかりか,関係者から被告人に対し「約束が違う」などの発言があるなどのその場のやり取り等から当日は抹消手続ができる状況にないと考えて辞去したこと,被告人は,予定した3000万円に相当する現金が用意できないまま,会合に臨んでいたことなどからすれば,3000万円を受領して抹消に同意したと述べるD証言の信用性には重大な疑問があり,その証言に基づいて,3000万円がCに支払われたと認定することは,経験則,論理則に反するとした。その上で,証拠に照らして事実関係を具体的に検討し,D証言の信用性を全面的否定した。その結果,和解契約の成立,和解金支払の事実を否定し,根抵当権設定登記を抹消できる状況になっていたとはいえないから,被告人に同抹消登記手続を完了すべき任務が生じていたとはいえないとし,事実誤認の論旨を認めて,原判決を破棄し被告人に無罪を言い渡した。

本件は,民事紛争を背景とする取引関係者の証言についての信用性判断問題となった事例で,根抵当権の抹消を巡る紛争に,弁護士(被告人)が関与していながら,受任事件ファイルや交渉メモが存在せず,被告人自身がその場その場で自己に都合の良いような一貫性を欠く供述をしており,会合に出席した関係者は,中には暴力団関係者もおり,実態と異なる領収証や日付を遡らせた契約書を作成するなど,信用性に疑義のある証拠ばかりで,事実関係を正確に確定することができないとされた。

経済取引に絡んで背後に暴力団関係者が暗躍し,虚実取り混ぜて種々の証言をするような事案は,しばしば実務に登場するところであり,核になるような物的証拠や証言がないために容易に動かし難い事実を確定することができず,証人の信用性判断にも困難が生じて,事実認定難渋することが少なくない。本件は,このような事案の一つであり,本判決は,この種の事件において動かし難い事実を確定する際には,慎重な検討を要し,その確定した事実に対する見方評価にも様々なものがあり得ることを具体的かつ詳細に示したものであり,第一審の事実認定において,安易に登場する人物の証言の信用性を肯定することがないように警鐘を鳴らした。(LIC提供

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2016-05-26 従業員が適合性原則・説明義務に違反する方法で金融商品を販売 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京地方裁判所判決平成27年5月26日

原告被告(原告の元従業員)に対し,被告が適合性原則説明義務に違反する方法金融商品販売したため,原告が当該顧客から損害賠償請求訴訟を提起され,同訴訟の和解で当該顧客に損害金を支払ったことから,使用者の被用者に対する求償金の支払,及び原告の被告に対するインセンティブ報酬付与理由がなくなったとして,不当利得返還請求権に基づく,同報酬相当額の支払いを各求めた事案。裁判所は,被告の当該顧客に対する取引は適合性原則・説明義務に違反したものと認められるとし,原告が別件和解で支払った和解金のうちの本件金融商品の相当額,及び本件取引のインセンティブ報酬相当額の合計額の支払いを被告に命じた事例

事案の要旨

本件は,原告が,原告の従業員であった被告に対し,被告が顧客に対し適合性原則及び説明義務に違反する方法で金融商品を販売したため,原告は当該顧客から使用者責任に基づく損害賠償請求訴訟を提起され,同訴訟の和解において当該顧客に生じた損害を支払ったなどとして,使用者の被用者に対する求償権(民法715条3項)に基づき,求償金(1023万4142円)及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成26年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,原告は被告に対し正当な営業活動を行うことを条件として取引の収益に応じたインセンティブ報酬を付与していたところ,前記のように適合性原則及び説明義務に違反する方法で金融商品を販売していたことから,同販売に関して同報酬を付与する理由はなくなったなどとして,不当利得返還請求権に基づき,同販売に関して支払った報酬相当額である44万2692円及びこれに対する前記同様の遅延損害金の支払を求めた事案である。

裁判所の判断

(1) 前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

   ア 本件WF債の性質

     本件WF債は,英国において設立された銀行が発行体となり,世界水資源に関連する50ないし60の企業株式投資する投資ファンド純資産価額を指数化したものを参照ポートフォリオとし,これに高度な金融工学計算式をあてはめ,おおむね2倍のレバレッジをかけて連動させたデリバティブ金融派生商品)を組み込んだ米ドル建ての債券私募債)である。

     したがって,同債券の価格変動要因として投資家調査・判断すべき対象は,参照ポートフォリオとされたファンドの純資産価額の変動要因である水資源関連企業の動向(株価の動き),レバレッジ効果による影響の大きさ,発行体の信用度,対米ドルの為替変動の要因,流通市場がないことによる流動性リスク(被告との相対取引)等の多岐にわたり,ファンドの純資産価額が発行日を基準に上昇すれば,おおむね2倍の割合によるクーポン(利息)が年1回支払われ,満期に全額の償還が受けられるが,発行日を基準に下落した場合にはクーポンの支払はなく,満期の償還金額もおおむね2倍の割合で欠損が生じるおそれがある。

   イ Bの属性

     Bは,本件取引当時29歳で,大学文学部卒業後に児童教育関連の企業に就職し,同社を退職後の平成17年9月からは,出版会社に勤務しており,本件取引当時,年収400万円程度の給与所得があった。

     Bは,平成19年5月14日,原告に対する証券総合サービス申込書において,投資経験はなし,資産運用期間は中期,投資方針は値上がり益重視,推定年収は500〜1000万円,金融資産は1000〜2000万円の各欄にチェックして同申込書を原告に提出した。

   ウ 本件取引の経過

     Bは,実父から預かった約5000万円の資金の運用等を検討する中で,同年6月頃,被告に対し,金融商品の取引を開始したい意向を示したことから,被告は同月16日,原告が開催する本件ペガサスFの投資セミナーに出席するようBに伝え,Bはこれに参加した。Bは,同日のセミナー終了後,被告から本件WF債を紹介され,その際,水資源関連企業の業績に対する被告の見立てについて説明を受け,本件WF債に興味を持つに至った。

     Bは,同月21日,被告を含む原告の従業員3名と面談し,被告からは,本件WF債の最終提案書を用いて運用成績に関する過去の実績(月次リターン等)が好調であることなどの説明を受けた。その際,被告は,本件WF債について複数のリスク要因が存在することに関しては一般的な説明に止めた。

     Bは,同日,本件WF債を購入する意向を示し,本件WF債に関する商品内容・性格の説明及び取引リスク(信用リスク,価格変動リスク,流動性リスク,償還時元本欠損リスク,為替変動リスク,税制リスク及びレバレッジリスク)の説明を受けてこれらを理解した旨の記載がある重要事項説明及び取引に関する確認書を作成して原告に提出した。

     Bは,同月29日,原告から本件WF債を2口購入した(本件取引)。

  (2) 適合性原則違反

    前記(1)アで認定した事実によれば,本件WF債は,複数の価格変動要因とそれに応じたリスクについて,的確な情報収集及び分析判断をして購入や売却の適否を決定することを要することに加え,流通市場が確立していないことから,保有者が値下がり局面で売却を希望した場合には証券会社との相対取引により買取価格が時価評価を下回る価格となるおそれがあるという流動性リスクも十分に検討できる知識及び判断能力要求されるものであり,豊富な投資知識・経験を要する複雑でリスクの高い金融商品であるといえる。他方で,Bは自ら申告したところによっても投資経験は全くなく,本件WF債に関して豊富な投資知識を有する者と同等程度に適切な判断を行うだけの情報収集能力や分析判断能力を有しているとは認めることができない。また,本件取引において購入した本件WF債の価格は2459万4000円であり,Bが申告した金融資産額(1000万円から2000万円)を超える取引を行っていることが認められる。

    これらの事実及び弁論の全趣旨によれば,Bに対し,本件WF債の購入を勧誘した被告の行為は,前記のような高いリスクを伴う商品特性や投資規模・価格のいずれの点からみても,Bの知識・経験及び財産の状況等の実情に照らして過大な危険を伴い,Bの保護に欠ける取引であったものと認めるのが相当であり,適合性の原則を著しく逸脱したものと判断されてもやむを得ないものであったというべきである。

  (3) 説明義務違反

    被告は,金融商品の販売をするに当たり,当該金融商品のリスク等について,顧客の知識,経験,財産の状況等に照らして,当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度の説明義務を負う。

    前記(1)ウで認定した事実によれば,被告はBに対し,本件WF債の仕組みについては概略を理解できる程度の説明を行い(平成19年6月16日),その危険性については各リスク要因の意味を理解できる程度の説明を一応は行った(同月21日)と認められる。しかし,Bには,これまでに投資経験がなく,本件WF債のリスクなどについての情報収集能力や分析判断能力を十分有しているとはいえないことからすると,本件WF債を購入して自己責任で取引を行うに際しては,前記の限度にとどまらず,各リスク要因がいかなる場合に本件WF債の価値にどの程度影響するのかという点や,各リスク要因についての見通しが複雑に交錯した場合にいかなる価格変動が予測されると判断すべきか困難な場合があることなどについてまで知ることが必要であるというべきであるところ,被告がBに対し,これらについてまで具体的な説明を十分に行ったことを認めることはできず,この点で,被告のBに対する勧誘・販売には説明義務違反の違法があると認めるのが相当である。

 2 争点(2)(原告の被告に対する求償金の額(求償権行使制限の有無))について

  (1) 前記前提事実(4)の別件和解の経過からすれば,原告が,本件取引によって生じたBの損害について,別件和解に基づき民法715条1項の責任として損害の賠償をしたことによって負担した実質的な損失額は,1398万7933円(和解金3220万円から本件金融商品の時価評価額合計約1821万2067円を控除した残額)のうち1023万4142円(別件和解時と本件取引時の本件WF債の時価差額1888万2142円から為替変動に起因する損害額864万8000円を控除した残額)であると認められる。

  (2) この点,被告は,原告の利益会社の存続のため,原告の指示指導に従い,上司が同席して確認の上で本件取引を行ったのであるから,原告の求償権の行使は制限されるべきであると主張する。

    しかし,証拠によれば,原告は,新入社員向けの研修として,原告において扱う金融商品や営業員のコンプライアンス等についての説明を行っており,被告も同研修を受けていたことが認められる一方,被告の前記主張を認めるに足りる証拠は存在せず,弁論の全趣旨によっても,信義則上,原告の求償権の行使を制限するのが相当であると認めるに足りる事情があると認めることはできない。

  (3) よって,被告は,原告に対し,1023万4142円の求償債務及びこれに対する遅延損害金の支払債務を負うと認められる。

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2016-05-25 公判前整理手続でアリバイが主張されていた場合の被告人質問の制限 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

最高裁判所第二小法廷決定平成27年5月25日

公判前整理手続で明示された主張に関しその内容を更に具体化する被告人質問等を刑訴法295条1項により制限することはできないとされた事例:「公訴事実記載の日時には犯行場所にはおらず,自宅ないしその付近にいた」旨のアリバイ主張が明示されたが,それ以上に具体的な主張は明示されず,裁判所も釈明を求めなかったなどの本件公判前整理手続の経過等に照らすと,前記主張の内容に関し弁護人が更に具体的な供述を求める行為及びこれに対する被告人の供述を刑訴法295条1項により制限することはできない。

「被告人又は弁護人は,刑訴法316条の17第1項所定の主張明示義務を負うのであるから,公判期日においてすることを予定している主張があるにもかかわらず,これを明示しないということは許されない。」という当然の前提を確認した上,「公判前整理手続終了後の新たな主張を制限する規定はなく,公判期日で新たな主張に沿った被告人の供述を当然に制限できるとは解し得ないものの,公判前整理手続における被告人又は弁護人の予定主張の明示状況(裁判所の求釈明に対する釈明の状況を含む。),新たな主張がされるに至った経緯,新たな主張の内容等の諸般の事情総合的に考慮し,前記主張明示義務に違反したものと認められ,かつ,公判前整理手続で明示されなかった主張に関して被告人の供述を求める行為(質問)やこれに応じた被告人の供述を許すことが,公判前整理手続を行った意味を失わせるものと認められる場合(例えば,公判前整理手続において,裁判所の求釈明にもかかわらず,『アリバイの主張をする予定である。具体的内容は被告人質問において明らかにする。』という限度でしか主張を明示しなかったような場合)には,新たな主張に係る事項の重要性等も踏まえた上で,公判期日でその具体的内容に関する質問や被告人の供述が,刑訴法295条1項により制限されることがあり得るというべきである。」

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所論に鑑み,弁護人の被告人に対する供述を求める行為(質問)及びこれに応じた被告人の供述の一部を制限した第1審裁判所の措置適法性について,職権により判断する。

 1 記録及び原判決認定によれば,第1審裁判所における審理の経過は,次のとおりである。

 (1) 被告人は,「平成24年4月25日午後5時50分頃,和歌山市内の路上において,真実被害者が運転する普通乗用自動車故意に被告人の身体を接触させたのに,被害者の過失により同車に接触されて右腕を負傷したように装い,その頃,同市内の駐車場において,同人に対し,治療費名目で金員を要求し,よって,同日午後5時55分頃,同人から現金5000円の交付を受けた。」旨の詐欺の公訴事実(以下「本件公訴事実」という。)のほか,同年5月及び7月の同種詐欺2件につき公訴を提起され,第1審裁判所は,いずれも公判前整理手続に付した。

 (2) 公判前整理手続中,本件公訴事実につき,弁護人は,公判期日でする予定の主張として,犯人性を否認し,「被告人は,平成23年8月頃,和歌山県内へ行ったが,それ以来,平成24年7月18日まで同県内には来ていない。」「被告人は,本件公訴事実記載の日時において,犯行場所にはおらず,大阪市西成区内の自宅ないしその付近に存在した。」旨のアリバイの主張を明示したが,それ以上に具体的な主張は明示せず,第1審裁判所がその点につき釈明を求めることもなかった。以上を受け,第1審裁判所は,本件公訴事実に係る争点の整理結果を「争点は,被告人が本件詐欺行為を行った犯人であるか否かである。」と確認した。

 (3) 公判手続中,本件公訴事実につき,冒頭手続及び弁護人の冒頭陳述において,被告人及び弁護人は,いずれも前記予定主張と同趣旨の陳述をするにとどまっていたところ,被告人質問において,被告人が,「その日時には,自宅でテレビを見ていた。知人夫婦と会う約束があったことから,午後4時30分頃,西成の同知人方に行った。」との供述をし,弁護人が更に詳しい供述を求め,被告人もこれに応じた供述を行おうとした(以下「本件質問等」という。)。これに対し,検察官が「公判前整理手続における主張以外のことであって,本件の立証事項とは関連性がない。」旨を述べて異議を申し立て,第1審裁判所は,異議を容れ,本件質問等を制限した。なお,被告人は,最終陳述において,「平成24年4月25日午後4時30分から,20分ないし25分の間に,福祉で世話になった知人夫婦と話をしており,私から梅干し蜂蜜の品物を送ったりしたという事実がある。私にはそういう現場に存在できなかったという事実もある。」旨の前記アリバイの主張の具体的な内容を陳述しており,第1審裁判所がこれを制限することはなかった。

 2 公判前整理手続は,充実した公判の審理を継続的計画的かつ迅速に行うため,事件の争点及び証拠を整理する手続であり,訴訟関係人は,その実施に関して協力する義務を負う上,被告人又は弁護人は,刑訴法316条の17第1項所定の主張明示義務を負うのであるから,公判期日においてすることを予定している主張があるにもかかわらず,これを明示しないということは許されない。こうしてみると,公判前整理手続終了後の新たな主張を制限する規定はなく,公判期日で新たな主張に沿った被告人の供述を当然に制限できるとは解し得ないものの,公判前整理手続における被告人又は弁護人の予定主張の明示状況(裁判所の求釈明に対する釈明の状況を含む。),新たな主張がされるに至った経緯,新たな主張の内容等の諸般の事情を総合的に考慮し,前記主張明示義務に違反したものと認められ,かつ,公判前整理手続で明示されなかった主張に関して被告人の供述を求める行為(質問)やこれに応じた被告人の供述を許すことが,公判前整理手続を行った意味を失わせるものと認められる場合(例えば,公判前整理手続において,裁判所の求釈明にもかかわらず,「アリバイの主張をする予定である。具体的内容は被告人質問において明らかにする。」という限度でしか主張を明示しなかったような場合)には,新たな主張に係る事項の重要性等も踏まえた上で,公判期日でその具体的内容に関する質問や被告人の供述が,刑訴法295条1項により制限されることがあり得るというべきである。

 3 本件質問等は,被告人が公判前整理手続において明示していた「本件公訴事実記載の日時において,大阪市西成区内の自宅ないしその付近にいた。」旨のアリバイの主張に関し,具体的な供述を求め,これに対する被告人の供述がされようとしたものにすぎないところ,本件質問等が刑訴法295条1項所定の「事件に関係のない事項にわたる」ものでないことは明らかである。また,前記1(2)のような公判前整理手続の経過及び結果,並びに,被告人が公判期日で供述しようとした内容に照らすと,前記主張明示義務に違反したものとも,本件質問等を許すことが公判前整理手続を行った意味を失わせるものとも認められず,本件質問等を同条項により制限することはできない。そうすると,検察官の異議申立てを容れて本件質問等を制限した第1審裁判所の措置は是認できず,原判決が同措置は同条項に反するとまではいえない旨判示した点は,同条項の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。

 もっとも,原判決は,本件質問等を制限した措置が違法であったとしても,被告人が,最終陳述において,前記アリバイの主張の具体的な内容を陳述しており,この陳述は制限されなかったことなどを指摘し,前記法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼすものではない旨判示しており,その結論は相当であるから,原判決に,判決に影響を及ぼすべき違法があるとはいえない。

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2016-05-24 公正証書遺言無効確認訴訟でどうしたら勝てるか このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

公正証書遺言無効確認訴訟で勝つにはどうしたらいいでしょうか。

裁判所は,遺言能力法律行為能力ではなく,遺言能力=意思能力と考えています。

そして,意思能力というのは,問題となっている行為ごとに判断されることになるのですが,一般的には,10歳未満の幼児泥酔者などは意思能力がないとされています。民法では,意思能力のない者のした法律行為は,当然に無効です。

ところで,民法961条は遺言能力を15歳としていますので,普通に考えれば,認知症患者でも,遺言能力は15歳の客観的能力を基準にすべきだと思いますが,裁判所はそうは考えていません。

例えば,長谷川式簡易知能評価スケールミニメンタルステート試験で10点以下でも,多くの裁判例は,遺言能力=意思能力あり,と認定してしまいます。

長谷川式簡易知能評価スケールとミニメンタルステート試験で10点以下と言えば,自分が何歳で,今日がいつか,ここはどこか,など基本的身の回りのことがほとんど認識できなくなっているような状態です。10歳未満の子供でも簡単に答えられるようなことが答えられなくなっている状態です。

裁判で,公正証書遺言を作成した時点で遺言者に意思能力がなかったと立証するのは,かなり大変な作業になります。一応,公証人と2人の証人が遺言能力を確認したという建前になっていますから。

これを覆すためには,例えば,医師意見書や鑑定書が必要となってくるでしょうし,入通院のカルテも全部取り寄せ翻訳をつけて裁判所に提出せねばなりません。

ほかに遺言能力がないことの立証に役立つ資料としては,介護認定審査会資料というものがあります。

例えば,http://www.city.kokubunji.tokyo.jp/download/koureisha/1004554.html

ところで,公正証書遺言作成時には,遺言者は,公証人に遺言内容を口授しなければならないことになっています。

この「口授」は,客観的な行為です。ですから,「意思能力」という主観的なものより,立証しやすいといえます。

http://d.hatena.ne.jp/kusunokilaw/20160402

裁判で,公正証書遺言が無効とされた事例のいくつかは,この「口授」の要件を重視しています。

裁判の参考資料として役に立つものとしては

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/96-5/SHIKANO.HTM

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2016-05-23 連帯保証契約当時主債務者が経営破綻状態にあったとはいえない このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京高等裁判所判決平成25年5月23日

連帯保証契約締結当時、主債務者経営破綻状態にあったとはいえないとして、連帯保証人による連帯保証契約の錯誤無効の主張を排斥した事例:メインバンク継続して支援する方針を有している等の本件事実関係のもとにおいては、連帯保証契約の締結当時、主たる債務者が倒産必至の状況・破綻状態にあったということはできない。;連帯保証契約の締結当時、連帯保証人が、連帯保証契約の相手方に対し,「大丈夫か」と発言したとしても、それによって、主たる債務者が破綻状態にないことを連帯保証契約の前提とする旨の連帯保証人の動機が表示されたと解することはできない。

金融法務事情2006号86頁

本件は、訴外株式会社がZ信用組合から融資を受けた借入金について、本件会社委託に基づき信用保証をしたX信用保証協会が、その保証債務を履行したとして、本件会社の信用保証委託契約上の債務を連帯保証したY(個人)に対し、当該連帯保証契約に基づき、求償債権1500万円余の支払を求めたところ、Yが、X信用保証協会とYとの間の連帯保証契約は錯誤(動機の錯誤)により無効である等と主張して、これを争った事案である。

本件の争点は、(1)本件連帯保証契約が動機の錯誤により無効か否か、(2)X信用保証協会による保証債務履行請求権利濫用に当たるか否かである。

錯誤無効の成否について

(1) 被控訴人は、本件連帯保証契約当時、本件会社が破綻状態にあり、現実に連帯保証債務の履行をしなければならない可能性が高いことを知っていれば、連帯保証をする意思はなかったのであって、本件会社が破綻状態にあることを全く認識していなかったから、本件連帯保証契約を締結するに当たり、被控訴人には動機の錯誤があったと主張する。

(2) 上記認定のとおり、本件会社は、長年にわたって債務超過の状態が続き、特に平成14年3月期には経常損失を出すようになり、平成15年3月期及び平成16年3月期はいずれも2000万円を超える経常損失を計上し、平成17年3月期は経常利益を計上したものの、これは債権免除益を算入した結果であって、実質的には約1300万円の経常損失が出ている状況であり、同年4月以降も、毎月の収支が数十万円から数百万円程度赤字の状態が続いていた。そして、同年9月末には主要な取引先であったB商事が倒産したため、同社が本件会社宛に振り出していた4200万円の約束手形の買戻義務を負うことになったほか、それまで1500万円から2000万円程度あった売上が半減するという影響に見舞われたのであって、本件会社は、本件貸付当時、資金繰りに窮し、極めて厳しい経営環境にあったといえる。

しかし、本件会社は、平成17年3月期において、債権免除益を算入した結果とはいえ、経常利益及び当期利益を計上し、売上高も前期と比較して倍増させていたほか、参加人に対して2億1250万円を超える貸付残高があったものの、延滞等の発生もなく、債務者区分は要注意先とされるにとどまっていたのであり、参加人は、本件会社をメインバンクとして継続して支援していく方針であった。参加人は、その方針の下、B商事の倒産の影響で平成17年12月末までに5600万円の資金不足が発生する見込みであるとして融資を要請されたことに対し、これに応じて、本件貸付けを含めてその時点までに合計5600万円を速やかに融資しているほか、本件貸付後にも同月中に1130万円、平成18年1月中に2210万円の資金が必要であるとして追加融資を要請されたことに対し、参加人は、速やかに対応し、平成17年12月12日に1130万円を貸し付け、かつ、同月30日に2210万円の貸付けを行うことを予定していた。そして、それらの貸付けについては第三者保証人を付けることが要求されていたものの、これは金融実務において通常の融資条件といえるものであり、秋山が最終的に保証を拒絶した経緯があるとはいえ、本件会社にとってその条件に応じることが特に困難であったとする事情は認められない。また、本件会社は、主要な取引先であったB商事の倒産の影響を受けながらも、平成18年3月期の売上高は約1億8000万円を見込んでおり、この額は平成17年3月期には及ばないものの、平成15年3月期及び平成16年3月期を大きく上回っていて、平成18年4月以降においては、厳しい経営環境であるが、作業効率改善販路の期待などから売上の改善が見込まれていたといえるのである。

(3) 以上の説示に照らすと、本件会社は、本件貸付当時、したがって本件連帯保証契約当時、多額の資金不足の発生が懸念されていたとはいえ、倒産が必至の状況であったとか、破綻状態にあったということはできない。

確かに、本件会社は、本件貸付の約1か月後に手形不渡りを出して倒産している。しかし、これは、平成17年12月30日に予定されていた2210万円の融資が、保証人となることを依頼されていた秋山の拒否により実行されなかったため、資金ショートを起こしたことが直後の原因であることがうかがわれるところ、その直前の同月12日に実行された1130万円の融資については、秋山の保証が得られているのであり、少なくとも本件貸付当時において、本件会社にとって第三者保証人の徴求が特に困難であったといえないことは明らかである。

したがって、本件連帯保証契約当時、本件会社が破綻状態にあることを前提として、その事実を認識していなかったことから動機の錯誤があったとする被控訴人の主張は、理由がないというべきである。

(4) 更に付言すると、仮に本件連帯保証契約を締結するに当たり、被控訴人についてその主張するような動機の錯誤があったとしても、その動機が表示されていたと解することはできない。なぜなら、上記認定のとおり、本件連帯保証契約締結の際、被控訴人は、参加人の融資担当者に対し、本件会社は大丈夫かと質問したところ、融資担当者から資金繰り計画に基づき融資を行い、取引先の協力を得たり、経費の圧縮等の努力をしているから大丈夫である旨の返答を得たのであるが、その当時、参加人は、本件会社のメイクバンクとして実際に支援を続けていく方針であったし、本件会社が取引先の協力を得たり、経費の圧縮等の努力をしているということも、本件会社が控訴人や参加人に提出した今後の運営方針に関する書面の記載符号する内容であって、融資担当者の説明に何ら不自然、不合理な点は見受けられない。そうすると、被控訴人は、「大丈夫か」という発言をしているが、その一般的意味に照らしても、その発言において本件会社が破綻状態にないことを前提とするという被控訴人の動機が表示されているものと解することはできない。なお、被控訴人本人は、原審において、参加人の融資担当者から、本件会社は絶対に大丈夫であり、本件会社を支援するのが使命であると言われた旨供述するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

また、被控訴人は、主債務者である本件会社と密接な関係がなく、その経営や債務の返済について深い利害関係を有していたわけでもないとして、本件連帯保証契約締結の際、本件会社が破綻状態にないことを信ずるとの動機を黙示的に表示していたと主張する。しかし、被控訴人は、本件会社やその代表的である乙山と何らの取引もなく、面識もなかったとはいえ、本件会社の取引先の代表者である秋山から本件会社のために保証人となることを依頼され、秋山から商売上世話になったことがあったことから保証を引き受けたというのであって、被控訴人が住職従事する傍ら2つの会社を経営し、保証取引の経験もあったことを踏まえれば、主債務者と直接の関係がなくとも、上記のような経緯で保証を引き受けるというのは特異な事柄ではなく、商取引上において通常にあり得ることといえるのである。そうすると、上記のような経緯で保証を引き受けた被控訴人について、参加人の融資担当者とのやり取りに照らしても、主債務者である本件会社が破綻状態にないことを信ずるとの動機が黙示的に表示されていたと解することはできないというべきである。

(5) 以上のとおり、本件連帯保証契約の錯誤無効をいう被控訴人の主張は理由がない。

権利の濫用について

被控訴人は、控訴人が本件会社について倒産必至の状況にあることを認識し、あるいは容易に認識できたにもかかわらず、被控訴人を連帯保証人とする信用保証の委託に応じ、被控訴人に対して連帯保証債務の履行を請求することは権利の濫用であると主張する。

しかし、上記のとおり、本件連帯保証契約当時、本件会社が倒産必至の状況にあるとは認められないばかりか、仮にそうであったとしても、控訴人がこの事実を認識し、又は容易に認識できたことを認めるべき的確な証拠はないのであって、被控訴人の主張は採用することができない。

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2016-05-22 代表取締役が権限濫用して手形の裏書きをした場合 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京高等裁判所判決平成26年5月22日

代表取締役権限濫用して約束手形に裏書をした場合会社が当該手形の所持人に対して手形債務を負わないとした第1審判決が控訴審において是認された事例;会社の手形債務を被保全債権とする手形所持人の同社に対する債権仮差押命令の申立てについて不法行為責任を認めた第1審判決が控訴審において是認された事例:代表取締役が権限を濫用して約束手形に裏書をした場合に会社が当該手形の所持人に対して手形債務を負わないとした第1審判決は、代表取締役から裏書譲渡を受けた当該手形の所持人において、代表取締役の当該裏書に係る権限濫用を知り、または、知り得べきであったと認められる原判示ないし本判示の事実関係の下においては、また、代表取締役の当該裏書に係る利益相反行為に対し取締役会承認がないことについて悪意であったと認められる本判示の事実関係の下においては、これを是認することができる。;会社の手形債務を被保全債権とする手形所持人の同社に対する債権仮差押命令の申立てについて不法行為責任を認めた第1審判決は、手形所持人において、当該手形債務に係る請求債権を行使することができない地位にあったにもかかわらず、当該仮差押命令の申立てをしたものであって、その過失の存在を妨げる事情も見当たらない原判示ないし本判示の事実関係の下においては、これを是認することができる。

金融商事判例1446号27頁

X(株式会社X)が、Z(Z株式会社)を振出人、Xを受取人とし、X名義の第1裏書に係る「本件裏書」がある額面金額3億6,725万6,446円の約束手形である「本件手形」の所持者であるY(Y株式会社)に対し、本件裏書の偽造および手形債務の原因関係不存在などを主張して、本件手形の遡求権(償還請求権)に基づく「本件手形債務」の不存在の確認を求める「本件確認請求」と、本件手形債務に係る「本件手形債権」が存在しないにもかかわらず、Yが本件手形債権(の一部)を被保全権利としてXに対する違法な本件債権仮差押命令の申立てをしたことについて、Yに故意または過失があったと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求める「本件損害賠償請求」とからなる事案。

第1審の原判決は、本件裏書はXの当時の代表者であったAが権限を濫用して行ったものであるが、その事実を知らなかったことについてYに過失があったから、XはYに対して本件手形債務を負わないと認め、本件確認請求を認容したほか、Yの本件仮差押命令の申立ては違法であって、これによってXが損害を被ったと認め、XがYに対して198万8,118円および遅延損害金の支払いを求める限度で本件損害賠償請求を認容した。

原判決に対し、X・Yの双方が控訴を提起したが、その控訴審の本判決は、原判決を相当として、X・Yの控訴をいずれも棄却した。

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取締役会決議の欠缺と1審被告の悪意について

(1) 本件裏書は、1審原告が梅彦個人の債務を保証する趣旨で、梅彦が1審原告の代表取締役として本件貸金債務の支払を担保するためにしたものであるから、会社と取締役との利益相反取引会社法356条1項3号)に該当することが明らかであり、取締役会の承認が必要であるところ(同法365条1項)、本件裏書について1審原告の取締役会の承認はない。

(2) 取締役と会社との間の利益相反取引のうち、取締役が会社を代表して自己のために会社以外の第三者とした取引については、取引の安全見地により善意の第三者を保護する必要があるから、会社においてその取引の無効を主張するには、取締役の利益相反行為となる取引について取締役会の承認を受けなかったことのほか、相手方である第三者の悪意を主張立証すべきである(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3511頁)。

そこで、1審被告において、本件裏書が1審原告と梅彦との利益相反取引に該当し、かつ、1審原告の取締役会の承認を受けていないことについて悪意であったか否かについて検討すると、本件裏書は、1審原告が代表取締役である梅彦個人の債務を保証する趣旨で、その支払を担保するためにされたものであるから、1審原告と梅彦との利益相反取引に該当することが明白であり、この点は、1審被告も当然に認識していたといえる。

次に、本件裏書の原因関係である本件貸付けに当たり、梅彦は、本件貸金の使途については1審原告のために必要であるとのみ1審被告に説明し、それ以上に具体的な使途を伝えていなかったし、1審被告もそれ以上の説明を求めなかったこと、梅彦は、1審被告に対し、本件貸付けが明るみに出ないよう会計書類記載しないことを求め、1審被告もこれに応じているが、その際に特段の異議を述べたり、疑問を呈した形跡もないこと、本件裏書は1審原告と梅彦との利益相反取引に該当するが、梅彦から取締役会の決議など社内的な了解を得ていることの言及はなく、1審被告もこの点を何ら問い質していないこと、以上の事情が認められるところ、本件貸付けは、これに至る経緯からして適切又は正常な取引とはいえない背景があり、その債務の支払を担保するためにされた本件裏書についても同様であり、1審被告もこの点を認識していたと解され、これらを総合すると、本件裏書については梅彦が1審原告の社内的な了解を得ずに独断でしたことを1審被告において当然に認識できたといえるから、1審被告は、1審原告の取締役会の承認を受けていないことについて悪意であったと推認できるというべきである。

1審被告は、1審原告の経営は梅彦らの創業者一族によって独断的に行われ、他の取締役は実質的に関与していなかったから、本件裏書について、取締役会の決議は不要であったか、あるいは取締役会の事前の承認があったといえると主張する。しかし、1審原告の経営について1審被告の主張するような実態一定程度存していたとしても、1審原告には職務権限規程が置かれていて、代表取締役の行為に縛りがかけられていることに照らすと、代表取締役個人の巨額の債務の保証やその支払担保のための手形の裏書行為についてまで、取締役会決議が不要とされていたとか、取締役会の事前の承認があったと解することはできず、また、そのような事実を認めるに足りる証拠もない。

そうすると、1審被告の主張を考慮しても、1審被告は、本件裏書が1審原告と梅彦との利益相反取引に該当し、かつ、1審原告の取締役会の承認を受けていないことについて悪意であったことを認めることができるというべきである。

(3) 1審被告は、1審原告の架空在庫作出やそれを隠ぺいするための融資という経緯をたどって本件裏書が行われたとして、1審原告が取締役会決議の欠缺を主張することは信義則に反すると主張するが、上記認定の事情に照らすと、1審被告には相応の帰責事由が存すると解されるから、1審原告の主張が信義則に反するということはできず、1審被告の主張を採用することはできない。

(4) したがって、1審原告は、本件裏書を受けた1審被告に対し、取締役会決議の欠缺による本件裏書の無効を主張することができるから、本件手形に基づく手形債務を負うことはない。

梅彦の権限濫用と1審被告の過失について

(1) 本件裏書は、梅彦個人の本件貸金債務を1審原告において保証する趣旨でその支払の担保のために、梅彦が1審原告の代表取締役として行ったものである。1審原告の職務権限規程では、債務の保証、1億円以上の有価証券の譲渡(裏書譲渡も当然これに含まれると解される。)や貸付け等について取締役会の承認が必要であるが、梅彦は、この規程に反し、本件裏書について取締役会の承認を得ず、承認を得るための手続もとらなかったのであり、しかも、本件貸付けの目的はZに対する融資であって、1審原告の利益を図るものとは必ずしもいえないことを併せると、本件裏書は、梅彦が自己ないし第三者の利益を図って代表取締役としての権限を濫用した手形行為であるということができる。

1審被告は、本件貸付けは1審原告の上場廃止を防ぐために行われたのであり、本件裏書はそれに係る債務の支払担保のために行われたのであるから、梅彦の権限濫用に当たらないと主張する。そして、梅彦は、本件貸付けを受けてZに融資することとした理由について、Zには架空在庫を処理して1審原告の上場に協力してもらった恩義があったとともに、Zが倒産すれば架空在庫が明るみに出て1審原告が上場廃止に追い込まれる危険があったからであると供述する(乙24、原審証人梅彦)。

しかし、1審原告の架空在庫の作出のほか、上場に当たっての架空在庫の解消についてもZが協力したことは、上記認定のとおりであるが、架空在庫の規模は本件全証拠によっても明らかでない。梅彦やZの代表者である丁田春助は、1審原告の上場前においてZが抱えていた架空在庫は3億円から3億5000万円程度であったと供述するが(原審証人梅彦、同丁田春助)、それを裏付ける証拠はなく、1審原告の帳簿上、平成9年から上場年の平成12年にかけて、Zに対する在庫高が1億4100万円、9754万円、3363万円と推移していることに照らすと、同人らの数額に関する供述は信用性に欠けるといわざるを得ない。また、この在庫高の全てが架空在庫であるのかも明らかでなく、実体の伴った在庫も存する可能性があることを考えると、Zが1審原告のために抱えていた架空在庫は、少なくとも梅彦らが供述するような規模には至っていないと認められる。そうすると、梅彦において、Zに対し1審原告の上場に協力してもらった恩義があったと感じていて、かつ、Zが倒産すれば1審原告の架空在庫が明るみに出ると懸念していたからといって、1審被告から4億円を超える巨額の借入れを行い、その相当部分をZに対する融資に充てることがそのまま1審原告の利益に適うということはできない。しかも、1審原告の架空在庫が明るみに出ることによって、上場廃止の危険が生ずるといえるかも証拠上は定かでない。

以上によれば、本件裏書が梅彦の権限濫用に当たらない旨の1審被告の主張は採用できないことになる。

(2) 株式会社の代表取締役が自己又は第三者の利益を図るため、代表権限を濫用して手形行為をした場合において、相手方が代表取締役の真意を知り又は知り得べきものであったときは、民法93条ただし書の規定類推し、その手形行為は効力を生じず、株式会社は代表取締役の手形行為を無効として手形上の責任を免れることができると解される(最高裁第一小法廷昭和38年9月5日判決・民集17巻8号909頁、最高裁第一小法廷昭和53年2月16日判決・裁判民事123号65頁参照)。

そこで、1審被告が梅彦の権限濫用の事実を知り又は知ることができたか否かについて検討すると、本件裏書の原因関係である本件貸付けに際し、梅彦は1審原告のために必要であると説明していることが認められるが、これを前提とすると、その後の1審被告との関係における本件の推移等として、1審原告が借主となるのではなく、梅彦個人が借主となったこと、さらに梅彦が1審原告の代表取締役に就任した後も梅彦個人が借主となる貸付けが続けられたことは、いかにも不自然というべきである。また、多額の借入れでありながら、梅彦はその用途を具体的に説明せず、1審被告もそれ以上の説明を求めなかったし、1審被告は、本件貸付けが明るみに出ないように梅彦から求められて会計書類に本件貸付けを記載しないことにしたというのであり、しかも、本件裏書が梅彦と1審原告との利益相反取引に当たることは明らかでありながら、1審被告は、1審原告の取締役会の承認が得られているかどうかについて確かめず、梅彦にもこの点を何ら問い質していないことも認められる。これらの事情によれば、本件貸付け自体が正常な、あるいは通常の取引とは思われないし、その債務の支払担保としてされた本件裏書についても、同様の指摘が当てはまるのであり、1審被告は、これらの事情を了知した上で、本件貸付けや本件裏書に応じたと推認できるというべきである。

そうすると、以上を総合して、1審被告は、本件裏書について、梅彦がその権限を濫用して行うことを知っていたか、そうでないとしても、少なくとも知り得べきであった(知らないことに過失があった)というべきである。

(3) 1審被告は、1審原告が梅彦の権限濫用による法的効果を主張することは信義則に反すると主張するが、上記認定の事情に照らすと、1審被告には相応の帰責事由があるといえるから、1審被告の主張は採用の限りでない。

(4) したがって、1審原告は、この点からしても、本件裏書を受けた1審被告に対し、本件手形に基づく手形債務を負っていないことになる。

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2016-05-21 直接雇用関係がないから,安全配慮義務がない? このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

にべもない・味も素っ気もない判決です。

東京高等裁判所判決平成27年5月21日

福島第一原子力発電所における放射性物質放出事故の復旧作業中に死亡したAの相続人(妻)が,電力会社ら元方事業者に対し損害賠償を求めた訴訟で,原審の請求棄却に対し,原告控訴した事案。控訴審も,電力会社が直接雇用関係にないAに対し,控訴人が主張する安全配慮義務を負うことはなく,また,控訴人の主張する被控訴人らの具体的な注意義務違反行為とAの死亡の間に因果関係が認められないとして,控訴を棄却した事例

労働経済判例速報2253号6頁

       主   文

 1 本件控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の負担とする。

       事実及び理由

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人らは,各自,控訴人に対し,3080万円及びこれに対する平成23年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 本件は,控訴人の夫である亡A(以下「A」という。)が福島第一原子力発電所における放射性物質放出事故の復旧作業中に死亡したことにつき,被控訴人らに安全配慮義務違反があったとして,Aを相続した控訴人が被控訴人らに対し,選択的に共同不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として,各自3080万円(慰謝料及び弁護士費用の合計)及びこれに対するAの死亡日である平成23年5月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

   原審は,被控訴人らはいずれもAに対して控訴人の主張する安全配慮義務を負っていたものとは認められないとして,控訴人の請求を全部棄却した。

   そこで控訴人がこれを不服として,本件控訴を提起した。

 2 前提となる事実

   原判決4頁8行目の「甲7」を「甲1,7,11の81」に改めるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の「1 前提事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,略語は,特に断らない限り,原判決の例による。

 3 争点及び争点に関する当事者の主張

   原判決9頁26行目の「40分事」を「40分頃」に,18頁1行目の「以下「B」という」を「以下「B監督」という」に,19頁21行目の「B(以下「B監督」という。)」を「B監督」にそれぞれ改め,20頁1行目の「B」の次に「監督」を加え,後記4のとおり当審における控訴人の主張を付け加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の「2 本件の争点及びこれらに関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。

 4 当審における控訴人の主張

  (1) 原審は,控訴人の申請した証人尋問や控訴人の本人尋問を行わないまま判決した。原審の審理は審理不尽であり,そのためAの死亡原因があいまいになり,その責任所在があいまいになったと考える。

  (2) 原判決は,被控訴人Y1に対する請求根拠につき,控訴人の不法行為責任の主張を曲解している。控訴人は,被控訴人Y1に対し,「特別社会的接触関係」に基づく責任を追及するとともに,不法行為責任を問うている。本件原発内には放射性物質が充満し,収束作業は,死と背中合わせの過酷労働環境の中での緊急時の作業である。被控訴人Y1は,本件原発事故を発生させた者として,本件原発事故の収束作業の責任を負っており,上記の過酷な状況下で本件原発内の収束作業に従事するすべての労働者に対して,生命健康安全危害を加えられないようにする不法行為上の法的義務を負っている。不法行為責任は,この義務に違反して加害が行われたときの当然の責任である。何人も他人の生命,身体,財産侵害しないように配慮すべき注意義務を負っており,この注意義務に違反すれば不法行為責任を問われるのは当然であるところ,本件における注意義務の具体的内容は,原判決において「安全衛生教育実施すべき義務」「事前の健康診断を実施すべき義務」「熱中症防止対策等を実施すべき義務」「医療体制を構築すべき義務」としてまとめられている控訴人の主張のとおりである。

    また,被控訴人Y1が負う本件原発内の収束作業に従事するすべての労働者に対して損害を加えてはならないという法的義務は,原判決がまとめるような法令上の義務に限定されない,より幅広い注意義務であり,その主なものは,労災事故が発生した場合の医療体制を十分に整備し,被災労働者が適切な治療を受けることができるようにしておく注意義務及び熱中症対策等を十分に講ずべき注意義務である。

    上記のほかに,被控訴人Y1が負っている法令上の義務の違反は,被控訴人Y1の不法行為性を一層強化する。被控訴人Y1は,元方事業者として,労衛法上,Aら収束作業に従事しているすべての労働者に対して不法行為責任を負うものである。原判決が被控訴人Y1を労衛法上の元方事業者には当たらないとするのは誤った判断である。

    原判決は,Aの心筋梗塞が電離放射線を受けたことによる健康上の障害によるものではないと判断しているが,この判断は,およそ電離則の設けられた趣旨を無視するものである。被控訴人Y1がAに対して,電動ファン保護マスクやクールベスト等の身体冷却用の適切な保護具,保護衣,作業衣を使用させていなかったためAが心筋梗塞に罹患したものであることは明白であり,電離則違反の行為は,労働者を死亡に至らせた場合には,被控訴人Y1の不法行為責任を認定するうえでの重要な要素である。

  (3) 原判決は,控訴人が被控訴人Y2の不法行為責任を主張していたことを正しく理解せず,単なる法令に基づく安全配慮義務違反としてまとめ,判断している。しかし,元方事業者である被控訴人Y2は,第4次下請のC建設に雇用されたAに対しても,不法行為法上の一般的注意義務である安全配慮義務を負っている。放射性物質が飛散する中で就労させる元方事業者の不法行為上の注意義務は,その就労の危険性に比例して高度化するものと考えなければならない。被控訴人Y2は,Aに対し,熱中症の罹患を防止するための教育をせず,Aが収束作業に従事する際,医師による何らの健康診断を実施せず,電動ファン付防護マスクやクールベストを支給せず,心筋梗塞で倒れた際の治療や救命のための対応手順を定めておらず,3人が同室で身体の疲労の回復を図ることのできない宿舎しか確保しなかった。このためAは,水分等の適切な補給の知識や,身体の変調があらわれたときの適切な休憩に関する知識を得ることができず,過酷な作業に従事すると2回目の心筋梗塞に罹患する可能性があったのに就労を拒否できず,救命延命措置が遅れ,身体の疲労の回復を図ることができない状態で就労したことにより,死亡するに至ったものである。したがって,被控訴人Y2は,過酷な労働現場で収束作業に従事する労働者に対して負う高度な注意義務に違反し,Aを死亡させたものである。

  (4) 控訴人は,被控訴人Y3及び被控訴人Y4に対しても,不法行為責任を併せて主張しているが,原判決では不法行為責任については言及されていない。控訴人の主張する不法行為上の注意義務の内容及び違反の内容は,原判決が「特別な社会的接触関係」に基づく義務としてまとめたものと同一である。

  (5) 控訴人と被控訴人らとが特別な社会的接触の関係に入ったことは,原審において主張したとおりであり,被控訴人らは,Aに対し安全配慮義務を負っている。これを認めない原判決の判断は不当である。

  (6) 被控訴人らは,それぞれ,熱中症予防対策をすべき注意義務を負っていたところ,これに違反して十分な対策を行わなかった。Aの死因には熱中症が関係していると解されるのであり,Aが熱中症に罹患したとは認められないとする原判決の認定は妥当ではない。

第3 当裁判所の判断

 1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。

   その理由は,後記2のとおり補正し,後記3のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付け加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

 2 原判決の補正

  (1) 原判決21頁10行目の「本件工事のために」の次に「現地事務所に」を加える。

  (2) 原判決23頁2行目から4行目を次のとおり改める。

    「 作業の際には,Aは,防護服(タイベック),綿及びゴム手袋,全面マスク,ヘルメット並びに長靴を着用し,タイベックと手袋,タイベックと全面マスクをそれぞれテーピングするという装備であった。」

  (3) 原判決23頁8行目の「甲11の」の次に「78及び同」を加える。

  (4) 原判決38頁1行目の「被告Y2」を「被控訴人Y3」に改める。

 3 当審における控訴人の主張に対する判断

  (1) 控訴人は,被控訴人らがそれぞれ負う安全配慮義務に違反したことにより,不法行為責任を負うと主張する。

    しかし,控訴人主張のとおり被控訴人Y1において本件原発事故を収束させるべきであり,その収束作業の作業環境が過酷な状況にあるとしても,そのことから当然に被控訴人Y1が,直接の契約関係にないAに対しても控訴人主張の内容の安全配慮義務を負うということはできないし,前記引用に係る原判決が認定した本件の具体的事情の下で,被控訴人Y1がAとの関係で控訴人の主張する不法行為上の具体的な安全配慮義務を負うと認めることはできない。その余の被控訴人らについても,それぞれがAとの関係において控訴人主張の注意義務を負っているとは認められないことないし注意義務違反の行為があったと認められないことは,原判決において説示するとおりである。

    また,控訴人の主張する被控訴人らの具体的な注意義務違反行為とAの死亡との間に因果関係が認められないことも,原判決において説示するとおりである。

  (2) 控訴人は,控訴人と被控訴人らとが特別な社会的接触関係に入ったとは認められないとした原判決の判断は不当であると主張する。しかし,Aが本件原発において就労するに至る経緯及びAが従事した作業内容に係る被控訴人らの指揮監督の実情等からすると,被控訴人らとAとの間に安全配慮義務を負うべき特別な社会的接触の関係があると認めることはできないというべきであり,この点についての原判決の判断は相当である。

  (3) 控訴人は,被控訴人らがそれぞれ熱中症予防対策をすべき注意義務に違反したと主張するが,Aの死亡原因に熱中症が影響を与えていることを認めるに足りる証拠はなく,控訴人の主張は採用することはできない。

    控訴人は,熱中症対策について,被控訴人Y1に注意義務を課さなければ,重層的下請構造において労災事故が発生しても,誰も責任を負わないこととなり,Aについて労災認定がされたにもかかわらず,誰も責任を負わないというのは不合理で不正義であると主張する。しかし,労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付は,関係者に過失ないし安全配慮義務違反があるかどうかを要件としておらず,制度の趣旨を異にするものであるから,控訴人の上記の非難は当たらない。

第4 結論

   以上によれば,控訴人の請求は理由がないからいずれも棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。

   よって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第24民事

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