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弁護士中山知行:神奈川県横浜市泉区在住 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-02-20 米国出張 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

今日から今週の土曜日まで米国出張です。

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弁護士中山知行

2017-02-12 過去の扶養料・養育費・婚姻費用の求償等 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

東京地方裁判所判決平成17年2月25日

子の養育料等の給付義務の終期を「子が大学卒業する月まで」とした離婚調停における合意は,子が成年に達した時点において学校教育法所定の「大学」に在籍しているか合理的な期間内に大学に進学することが相当程度の蓋然性をもって肯定できるとの特段の事情存在する場合を除き,子の成年に達する日の前日をもって終了するとの趣旨と解すべきである。

子の養育料の給付義務に関して「原則として年毎に総務庁統計局編集消費者物価指数東京都区部総合指数に基づいて増額する」とした離婚調停における合意から直ちに養育費の具体的増額分に係る金銭債権が発生するとはいえない。

過去の増額養育費の支払を求めることは,既に経過した期間における扶養料を遡及的に一括請求をするものであって許されない。

過去の養育料(扶養料)の請求については,扶養請求権の法的性格論と相俟って肯定説,否定説の両説があり,また,これを肯定する立場においてもその始期をいつとみるかに関して諸説が提唱されている(『新版注釈民法(25)』799頁以下)。また,扶養義務者間における過去の扶養料の請求について,これを認めうるか,また,その分担額の決定が訴訟事項か審判事項かについても議論のあるところである(前掲801頁以下)。本判決は,本件を扶養義務者間における求償の問題とみながら,請求時前に発生した過去の扶養料(増額分)に係る請求権の発生を否定したが,既に調停で具体的な請求権が発生していたとの前提を採るとすれば,扶養義務者間での求償の問題であることも考慮し,求償権(増額分の請求権)の発生を認め,その後に時効消滅あるいは反対債権による相殺の可否が検討されるベきとも考えられるところであろう。また,養育料の支払義務の終期として,子が「大学を卒業する月まで」との付款が離婚調停あるいは裁判上の和解において合意されることは実務上も散見されるところであるが,この付款の具体的内容をどのように理解するかは,契約当事者の合理的意思解釈の問題である。「大学」概念多義的なものであるし,いわゆる本邦の「大学」入学年齢制限はなく,外国への留学もさして珍しいものではなくなっている今日においては,上記の付款の意義を本判決のように解することが相当か否かは措くとしても,特段の事情のない限り,一定の合理的時期に養育料等の支払義務を消滅させあるいは建物返還する趣旨と解釈すべきであるとの点についてはさほど異論はないものと思われる。判例タイムズ1232号299頁

東京地方裁判所判決平成15年10月20日

原告X2と被告との間の子であるとする原告X1が,被告に対し認知請求をし,原告X2が,被告に対し,養育費,慰謝料及び弁護士費用の支払を求めた事案について,原告X1は被告の子であると認定して認知請求を認容し,被告には原告X1の養育費負担責任があるが,原告X2にも同様の責任があるから,同原告が過去の養育費を全て負担したとの理由により,あるいは,被告が自ら原告X1を認知しなかったことを理由に,被告に対し,債務不履行又は不法行為により損害賠償請求することは理由がないとして,原告X2の請求を棄却した事例。

最高裁判所第三小法廷判決昭和53年11月14日

離婚訴訟における財産分与と過去の婚姻費用分担の態様の斟酌:離婚訴訟において裁判所が財産分与を命ずるにあたつては、当事者の一方が婚姻継続中に過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができる。

離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法七七一条、七六八条三項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

東京家庭裁判所審判昭和50年1月31日

過去の扶養料の請求権者;財産分与及び過去の扶養料の給付義務の履行期:既に一方の扶養義務者甲が扶養権利者に対し扶養料を支出している場合には、甲において他方の扶養義務者乙に右扶養料中その負担部分を求償しうるが扶養権利者も、同人が右負担部分を甲から借り入れた場合と同視し、乙に対し、右負担部分の返還を求めることができる。;財産分与及び過去の扶養料の額と給付義務は、審判の確定によつて形成されるものであるが、その性質上、財産分与については離婚のとき、過去の扶養料については要扶養の時点に遡つてその効力を生じ、右給付義務の履行期が到来するものというべきである。

・・・しかして前段認定の事実関係のもとにおいて父である相手方は長女八重子の養育監護に要する費用の二分の一を負担すべきである。昭和四六年一一月から昭和四八年三月までの分は過去の扶養料として既に扶養義務者である申立人千賀子から支出されたものであり、本来は申立人千賀子から同等の扶養義務者である相手方に求償しうるものであるが、扶養権利者である長女八重子がその部分を母である申立人千賀子から借り入れた場合と同視し、父である相手方に対しその負担部分の返還を求めることもできるといわなくてはならない。

よつて当裁判所は申立人八重子に対し父である相手方が前記期間内の過去の扶養料として割合で一六か月分五八万二九四〇円を支払うことを相当と認める。

しかして右財産分与および過去の扶養料の額と給付義務は本審判の確定によつて形成されるものであるが、その性質上、財産分与は離婚のとき、過去の扶養料は要扶養の時点に遡つてその効力を生じ履行期が到来するものというべきであるから、前者については協議離婚の翌日である昭和四七年一月二六日から、後者については昭和四八年四月一日から、いずれもこれに対する支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものである。

福岡家庭裁判所小倉支部審判昭和47年3月31日

立替扶養料の求償請求の管轄裁判所;子の養育費支払義務と終期:扶養義務者が複数あり、そのうち一人のみが扶養権利者を扶養しており、過去の扶養料を他の扶養義務者に求償する場合、扶養義務者各自の分担の割合の協議ができていない限り、家庭裁判所が各自の資力その他一切の事情を考慮して審判すべきであると解する。;認知した父と親権者たる母とは生活保持義務者として、未成熟子が独立して生活する能力を具備するに至るまでその扶養料を分担すべきものと解すべきであり、すでに子が成年に達していても、貧血で通常の就職稼働ができない状態にあつた場合には、未だ独立して生活する能力を具備するに至つていないいわゆる未成熟子であつたとみるのが相当である。

本件申立のように、扶養義務者が複数であり、そのうち一人のみが扶養権利者を扶養してきた場合に過去の扶養料を他の扶養義務者に求償する場合、事件管轄が問題となるが、当裁判所は、このような場合も、現行法(民法八七八条、八七九条等)の趣旨に照らすとき、扶養義務者各自の分担の割合は、協議ができていない限り家庭裁判所が各自の資力その他一切の事情を考慮して審判で決定すべきであると解するので以下本件を家庭裁判所の審判の対象である扶養事件として審理する。

大阪高等裁判所判決昭和43年10月28日

家事審判・調停申立前に要扶養者の生活に要した費用を、現在及び将来の扶養料の請求から分離した独立の純粋に過去の扶養料として請求する場合には、通常の民事上の履行遅滞による損害賠償請求権として、地方裁判所の裁判事項に属する;扶養義務者の一人が扶養権利者に対し、自己の負担すべき額を超えて支出し、他の扶養義務者が十分な扶養の余力がありながら負担すべき額に満つるまで支出しない関係にある場合には、別段の事由がなければ、右負担の公平を是正するに足る不当利得返還ないし事務管理費用の償還請求権を扶養義務者の一方又は双方が取得する:扶養義務者相互間の求償関係は、一般の民事上の債権債務の関係にすぎないから、当事者間の契約によつて放棄免除等の処分をすることが許される。

最高裁判所第二小法廷判決昭和42年2月17日

過去の扶養料の求償と民法878条・879条:扶養権利者を扶養してきた扶養義務者が他の扶養義務者に対して求償する場合における各自の扶養分担額は、協議がととのわないかぎり、家庭裁判所が定めるべきであつて、通常裁判所が判決手続で定めることはできない。

判例タイムズ205号86頁

夫婦が離婚したのち、その間に生れた子を母親(原告・控訴人・被上告人)のみが扶養してきたので、父親に対し、過去5年余りの扶養料を求償した事案である。

一審は、扶養したのは母親ではなくて祖父であると認定して請求を棄却したが、原審は、原告が扶養してきたと認め「忠義(子)の扶養につき、扶養すべき者の順序、扶養の程度又は方法につき家庭裁判所の審判を経ていないが、忠義の扶養義務は、被控訴人(父親)においてその3分の2、控訴人(母親)においてその3分の1を負うべきものと解するを相当とする」と判定して、3分の2の求償を認容した。

本判決は、判示のような理由から、この原判決を破棄し、請求棄却の自判をしたものである。

過去の扶養料の求償請求にさいし、通常裁判所が扶養義務者間の扶養分担割合を定めうるか否かは問題である。

将来のそれについては家裁の審判のみが定めうることは当然であるが、過去の扶養料の求償は、事務管理ないし不当利得を請求原因とするものであり、将来の法律関係を形成するものではないがら、通常裁判所でも(あるいは、通常裁判所のみが)その分担割合を決定しうると考える余地があるからである。しかし、最高裁は、審判時から過去に遡つて家裁は婚姻費用の分担に関する処分をすることができるとしている(昭40・6・30大法廷決定・民集19巻4号1114頁)。

その趣旨からすれば、過去の扶養料についても、家裁がその分担割合を審判で定めうることは疑なく、そうなれば、家裁にのみ委せるのが民法878条・879条の条文に忠実な解釈であるということになる。


弁護士中山知行

2017-02-07 遺言について遺言無能力による無効の制度趣旨 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

判例タイムズ1423号24頁 土井文美論文から

・・・遺言について遺言無能力による制度趣旨をどう考えるのか,すなわち,最終意思尊重と,結果の合理性妥当性のどちらに重きを置くのかの価値判断によって異なるものと考えられよう。

我が国では遺言者の圧倒的多数高齢者で,死亡する前の最後の意思表明の機会として利用していることが多いことを考えると,遺言を作成したいという要望はできるだけ受け入れられるべきで,その意味では,遺言能力として必要なのは法律行為に最低限必要な能力である意思能力のみで足りるというべきであろう。

とはいえ,

財産行為における意思能力(事理弁識能力)の程度も,法律行為毎に相対的に考えるべきものなのであるから,遺言能力の場合に限って財産行為における能力と異質に低い程度のものとする必要まではないと考える。

(注:意思能力は有無のみで程度はないが,事理弁識能力は有無のほかに程度という概念が入る。)

遺言無能力による遺言無効の制度趣旨は,自己決定権の尊重のみではなく,それと同様に重要な,遺された相続人の公平や,社会秩序,財産規律等にあると考えられるし,最終意思の尊重といっても,判断能力が不十分な最終意思や自分が死亡後の効果についての最終意思は,本来の自己決定権とは別の問題というべきであろう。

その上で,高齢者の自己決定権の保護は,

裁判における判断基準をより精緻かつ透明性のあるものとすること

(すなわり,裁判において遺言能力を認定判断する場合に必要な間接事実が,どの事案においても,漏れなく収集され,適切に総合考慮ができるように工夫すべきである。例えば,個別的事実認定であることを強調するあまり,実際は,同じ病気,同じ症状,同じ経緯で遺言を行っているのに,総合的判断の名のもとに,根拠曖昧なまま有効無効が分かれることで,有効な遺言の予見可能性が損なわれてはならない),ひいては,

公証人が,公証実務において的確に遺言能力の判断ができるようにすることによって無効な遺言作成が予防できることで実現されるべきではないだろうか。

例えば,財産行為における意思能力判断の際の間接事実とは異なる次のような考慮が必要と思われる。

(1)本人の利害得失(対価の均衡や内容の合理性)については考慮要素に含める必要はない。この点は,財産行為と大きく異なるところである。

(2)相続人間の実質的な公平と乖離している場合(法定相続分と大きく異なる場合等)には,合理的理由があるか。

(3)遺言作成を自己に有利にするよう誘導した者が利益を受ける結果になっていないか,その場合には誘導の影響により遺言能力を否定すべき場合がないか。

(4)遺言において厳格な方式要求されているのは真意性を担保するためであることに鑑み,形式的のみならず,実質的にも方式を守った行為がなされているか(要式性にきちんとその人が応えられているか)。

2017-02-06 民法1031条:遺留分減殺請求 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

遺留分減殺 

現存積極的相続財産から贈与や遺贈を差し引くと遺留分の額に達しないという場合には,遺留分が侵害されたことになるから,遺留分権利者及びその承継人は,遺留分を保全するため,贈与や遺贈の履行を拒絶し,さらに,既に給付された財産返還請求することができる〔民1031〕。その順序は,遺留分を保全するのに必要な限度で,まず遺贈に対して行い,次に新しい贈与から順次古い贈与に対して及ぶものとされる〔民1033〜1035〕。減殺請求権一種形成権と解され,権利者の意思表示だけによって減殺の効果が発生する。この権利は,遺留分侵害の事実を知った時から1年以内,もし遺留分侵害の事実を知らなくても相続開始後10年以内に行使しなければならない〔民1042〕。

最高裁判所第一法廷決定平成24年1月26日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/945/081945_hanrei.pdf

【判示事項】 1 相続分の指定が遺留分減殺請求により減殺された場合の効果

       2 特別受益に当たる贈与についてされたいわゆる持戻し免除の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合における具体的相続分の算定方法

判決要旨】 1 遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には、遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が、その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される。

       2 特別受益に当たる贈与についてされた当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の被相続人の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合、当該贈与に係る財産の価額は、上記意思表示が遺留分を侵害する限度で、遺留分権利者である相続人の相続分に加算され、当該贈与を受けた相続人の相続分から控除される。

ところで,遺留分権利者の遺留分の額は,被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに遺留分割合を乗ずるなどして算定すべきところ(民法1028条ないし1030条,1044条),上記の遺留分制度趣旨等に鑑みれば,被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。したがって,前記事実関係の下においては,上記(1)のとおり本件遺言による相続分の指定が減殺されても,抗告人らの遺留分を確保するには足りないことになる。

本件遺留分減殺請求は,本件遺言により相続分を零とする指定を受けた共同相続人である抗告人らから,相続分全部の指定を受けた他の共同相続人である相手方らに対して行われたものであることからすれば,Aの遺産分割において抗告人らの遺留分を確保するのに必要な限度で相手方らに対するAの生前の財産処分行為を減殺することを,その趣旨とするものと解される。そうすると,本件遺留分減殺請求により,抗告人らの遺留分を侵害する本件持戻し免除の意思表示が減殺されることになるが,遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。持戻し免除の意思表示が上記の限度で失効した場合に,その限度で当該贈与に係る財産の価額を相続財産とみなして各共同相続人の具体的相続分を算定すると,上記価額が共同相続人全員に配分され,遺留分権利者において遺留分相当額の財産を確保し得ないこととなり,上記の遺留分制度の趣旨に反する結果となることは明らかである。


最高裁判所第三小法廷判決平成21年3月24日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/455/037455_hanrei.pdf

【判示事項】 相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合において,遺留分の侵害額の算定に当たり,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することの可否

【判決要旨】 相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され、遺留分の侵害額の算定にあたり、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。

最高裁判所第一小法廷判決平成14年11月5日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/260/052260_hanrei.pdf

【判示事項】 自己被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為と民法一〇三一条規定する遺贈又は贈与

【判決要旨】 自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法一〇三一条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできない。

最高裁判所第一小法廷判決平成13年11月22日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/231/052231_hanrei.pdf

【判示事項】 遺留分減殺請求権を債権者代位の目的とすることの可否

【判決要旨】 遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、これを第三者譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位の目的とすることができない。

最高裁判所第三小法廷判決平成12年5月30日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/407/062407_hanrei.pdf

【判示事項】 遺贈の対象不動産についてされた共同相続登記を遺留分減殺請求による持分の相続登記に更正することの可否

【判決要旨】 遺贈の対象不動産についてされた共同相続登記を右登記後の遺留分減殺請求による持分の相続登記に更正することはできない。

最高裁判所第一小法廷判決平成11年6月24日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/591/052591_hanrei.pdf

【判示事項】 遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与に基づき目的物占有した者の取得時効の援用と減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属

【判決要旨】 遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。

最高裁判所第一小法廷判決平成10年6月11日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/615/052615_hanrei.pdf

【判示事項】 一 遺産分割協議の申入れに遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべき場合

       二 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便留置期間の経過により差出人に還付された場合に意思表示の到達が認められた事例

【判決要旨】 一 被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合において、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべきである。

       二 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合において、受取人が、不在配達通知書の記載その他の事情から、その内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ、また、受取人に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができたなど判示の事情の下においては、右遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、受取人の了知可能状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められる。

最高裁判所第三小法廷判決平成10年3月24日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/811/052811_hanrei.pdf

【判示事項】 民法903条1項の定める相続人に対する贈与と遺留分減殺の対象

【判決要旨】 民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、同法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。

民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。けだし、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法一〇四四条、九〇三条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。本件についてこれをみると、相続人である被上告人B1に対する4の土地並びに2及び5の土地の持分各四分の一の贈与は、格別の事情の主張立証もない本件においては、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与に当たるものと推定されるところ、右各土地に対する減殺請求を認めることが同被上告人に酷であるなどの特段の事情の存在を認定することなく、直ちに右各土地が遺留分減殺の対象にならないことが明らかであるとした原審の判断には、法令解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。



最高裁判所第三小法廷判決平成10年3月10日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/808/052808_hanrei.pdf

【判示事項】 遺留分減殺請求を受けるよりも前に遺贈の目的を譲渡した受遺者が遺留分権利者に対してすべき価額弁償の額の算定

【判決要旨】 遺留分減殺請求を受けるよりも前に遺贈の目的を譲渡した受遺者が遺留分権利者に対して価額弁償すべき額は、譲渡の価額がその当時において客観的に相当と認められるものであったときは、右価額を基準として算定すべきである。

最高裁判所第三小法廷判決平成8年11月26日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/519/052519_hanrei.pdf

【判示事項】 被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額の算定

【判決要旨】 被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の侵害額は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し同人負担すべき相続債務の額を加算して算定する。

最高裁判所第二小法廷判決平成8年1月26日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/857/055857_hanrei.pdf

【判示事項】 遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利の性質

【判決要旨】 遺言者の財産全部の包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。

最高裁判所第一小法廷判決平成4年11月16日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/305/065305_hanrei.pdf

【判示事項】 遺贈に対する遺留分減殺請求について価額による弁償が行われた場合と所得税法九条一項一号の遺贈

【判決要旨】 法人に対する遺贈について、遺留分権利者による減殺の請求がされた場合であっても、これに対して民法一〇四一条一項の価額による弁償が行われたときは、右遺贈は、所得税法五九条一項一号の遺贈に当たる。

最高裁判所第三小法廷判決昭和44年1月28日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/268/070268_hanrei.pdf

【判示事項】 遺留分減殺請求権の性質

【判決要旨】 遺留分権利者の減殺請求権は形成権である。

第八章 遺留分

Chapter VIII Legally Reserved Portion

(遺留分の帰属及びその割合)

(Entitlement and Amount of Legally Reserved Portion)

第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。

Article 1028 Heirs other than siblings shall receive, as legally reserved portion, an amount equivalent to the ratio prescribed in each of the following items in accordance with the divisions listed therein:

一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一

(i) in the case where only lineal ascendants are heirs, one third of the decedent's property;

二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

(ii) in cases other than that referred to in the preceding item (i), one half of the decedent's property.

(遺留分の算定)

(Calculation of Legally Reserved Portion)

第千二十九条 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

Article 1029 (1) Total legally reserved portion shall be calculated as the value of any gifts made by the decedent added to the value of the property held by the decedent at the time of commencement of inheritance minus the entire amount of obligations.

2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

(2) The determination of the value of conditional rights or rights of an uncertain duration shall be made in accordance with an evaluation by an appraiser appointed by the family court.

第千三十条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

Article 1030 Only a gift made within one year before the commencement of inheritance shall be included in the amount calculated pursuant to the provisions of the preceding Article. A gift made before one year prior to commencement shall be included in the amount calculated pursuant to the provisions of the preceding Article if it was made with the knowledge of both parties that it would cause harm to a claimant for legally reserved portion.

(遺贈又は贈与の減殺請求)

(Claim for Abatement of Gift or Testamentary Gift)

第千三十一条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

Article 1031 A claimant for legally reserved portion, or his/her heir, may claim for abatement of a testamentary gift, or gift referred to in the preceding Article, to the extent necessary to preserve that legally reserved portion.

遺留分

1 意義 一定の相続人のために法律上必ず留保されなければならない遺産の一定割合〔民1028〜1044〕。近代法では遺言自由原則が認められ,被相続人は自己の財産を遺言によって自由に死後処分できるとするのが原則であるが,他方,近親者の相続期待利益保護し,また,被相続人死亡後の遺族の生活保障するために,相続財産の一定部分を一定範囲の遺族のために留保させるのが遺留分の制度である。したがって,遺留分は,被相続人からみれば,財産処分の自由に対する制約を意味し,相続人からみれば,相続により期待できる最小限度の財産の確保を意味する。

2 遺留分権利者と遺留分の割合 遺留分の保障を受ける者(遺留分権利者)は,被相続人の配偶者直系卑属及び直系尊属だけに限られ,兄弟姉妹は除外される〔民1028〕。遺留分の割合は,直系尊属のみが相続人であるときは,被相続人の財産の3分の1,その他の場合には,2分の1である。

3 算定 相続開始のときの財産額に相続開始前1年間の生前贈与(及びそれ以前の贈与でも当事者双方が遺留分を侵害することを知ってした贈与)を加え,そこから債務全額を控除したものが遺留分算定の基礎となる額である〔民1029・1030〕。この額に遺留分の割合を乗ずると遺留分が算出される。

4 遺留分による減殺 現存の積極的相続財産から贈与や遺贈を差し引くと遺留分の額に達しないという場合には,遺留分が侵害されたことになるから,遺留分権利者及びその承継人は,遺留分を保全するため,贈与や遺贈の履行を拒絶し,さらに,既に給付された財産の返還を請求することができる〔民1031〕。その順序は,遺留分を保全するのに必要な限度で,まず遺贈に対して行い,次に新しい贈与から順次古い贈与に対して及ぶものとされる〔民1033〜1035〕。減殺請求権は一種の形成権と解され,権利者の意思表示だけによって減殺の効果が発生する。この権利は,遺留分侵害の事実を知った時から1年以内,もし遺留分侵害の事実を知らなくても相続開始後10年以内に行使しなければならない〔民1042〕。

5 放棄 遺留分権利者は,相続が開始する前に,遺留分を放棄することができる。しかし,無制限にこれを許すと,被相続人が遺留分権利者を強制して遺留分を放棄させるおそれがあるので,遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要である〔民1043〕。

[株式会社有斐閣 法律学辞典第4版補訂版]

弁護士中山知行

2017-02-05 民法910条:相続開始後認知によって相続人となった者の遺産分割 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

民法910条は,「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは,価額のみによる支払の請求権を有する。」として,相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権を定めている。

本件規定は,相続開始後に認知により相続人となった者が遺産分割を請求するに当たり,既に分割等が終了している場合に,分割のやり直しを避け,一方で分割の効力を維持しつつ,他方で被認知者の保護のため価額による支払請求を認めたものと説明されている。すなわち,「認知は,出生の時にさかのぼってその効力を生ずる」(民法784条本文)ので,生まれた時から被認知者は相続人であったと扱われ,その者を除外してされた遺産分割は効力を持たないはずであるが,他方認知の遡及効制限される(同条ただし書)ので,遺産分割が既に終了していた場合には,分割によって取得した他の相続人の権利は害されないことになりそうである。本件規定は,その不都合を救済するため民法784条ただし書の例外として価額支払請求という解決を図ったものである。しかし,本件規定に基づく価額支払請求権については,具体的な内容や効果解釈に委ねられている上,本件規定が定められて以降現在に至るまで本件規定に基づく処理につき判断の示された判例下級審裁判例はそれほどみられず,本件の争点を含めて多数の論点について見解対立している状況にある。

(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)

(Claim of Payment for Value of Person Affiliated after Commencement of Inheritance)

第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

Article 910 In the case where a person who becomes an heir through affiliation after the commencement of inheritance intends to apply for a division of the inherited property, if other heirs have already divided the inherited property or made another disposition, he/she shall only have a claim of payment for value.

最高裁判所第二小法廷判決平成28年2月26日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/705/085705_hanrei.pdf

民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時+民法910条に基づく価額の支払債務履行遅滞となる時期:相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の支払を請求した時である。;民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は、履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。

(1) 相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。

なぜならば,民法910条の規定は,相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには,当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって,他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものであるところ,認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに,その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが,当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである。

そうすると,本件の価額の支払請求に係る遺産の価額算定の基準時は,上告人が被上告人らに対して価額の支払を請求した日である平成23年5月6日ということになる。

(2) また,民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,期限の定めのない債務であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。

そうすると,本件の価額の支払請求に係る遅延損害金の起算日は,上告人が被上告人らに対して価額の支払を請求した日の翌日である平成23年5月7日ということになる。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_en/detail?id=1445

Judgment concerning the base time for calculating the value of estate in the case where a claim for payment of value is filed under Article 910 of the Civil Code.

1. Where a person who has become an heir through filiation after the commencement of succession files a claim for payment of value against other co-heirs under Article 910 of the Civil Code, the base time for calculating the value of estate is the time when the claim for payment of value is filed.

2. With regard to the obligation of the other co-heirs to pay value under Article 910 of the Civil Code, a delay in performance would arise when the obligors receive a request for performance.

管轄について

論旨外事項であるが,本件規定に基づく価額の支払請求については,前提問題として,通常の民事訴訟手続によるべきか,家庭裁判所審判手続によるべきか,という点自体にも見解の対立がある。

家事事件手続法39条(審判事項)は,「家庭裁判所は,この編に定めるところにより,別表第一及び別表第二に掲げる事項並びに同編に定める事項について,審判をする。」としているところ,これは,家庭裁判所が家事審判の手続で審判をする事項を限定列挙したものと解されている。同法は,別表第一及び別表第二に民法910条の価額の支払請求を掲げていないことから,通常の民事訴訟の手続によることを前提とするものと考えられ,学説上も通常の民事訴訟の手続によるべきとするものが一般的と思われる。本件は,地方裁判所を第1審として訴えが提起されているところ,本判決では管轄の点を特に問題とすることなく判断がされていることから,通常の民事訴訟の手続によるべきとする上記の一般的な見解を前提としているものと考えられる。判例タイムズ1423号124頁


最高裁判所第二小法廷判決昭和54年3月23日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/278/053278_hanrei.pdf

母の死亡による相続につき遺産の分割その他の処分後に共同相続人である子の存在が明らかになった場合と民法784条但書、910条の類推適用の可否:母の死亡による相続について、共同相続人である子の存在が遺産の分割その他処分後に明らかになつたとしても、民法784条但書、910条を類推適用することはできない。

相続財産に属する不動産につき単独所有権移転登記をした共同相続人の一人及び同人から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者に対し、他の共同相続人は登記を経なくとも相続による持分の取得を対抗することができるものと解すべきである。けだし、共同相続人の一人がほしいままに単独所有権移転の登記をしても他の共同相続人の持分に関する限り無効の登記であり、登記に公信力のない結果第三取得者も他の共同相続人の持分に関する限りその権利を取得することはできないからである(最高裁判所昭和三五年(オ)第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁参照)。そして、母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として、母の認知をまたず分娩の事実により当然に発生するものと解すべきであつて(最高裁判所昭和三五年(オ)第一一八九号同三七年四月二七日第二小法廷判決・民集一六巻七号一二四七頁参照)、母子関係が存在する場合には認知によつて形成される父子関係に関する民法七八四条但書を類推適用すべきではなく、また、同法九一〇条は、取引安全と被認知者の保護との調整をはかる規定ではなく、共同相続人の既得権と被認知者の保護との調整をはかる規定であつて、遺産分割その他の処分のなされたときに当該相続人の他に共同相続人が存在しなかつた場合における当該相続人の保護をはかるところに主眼があり、第三取得者は右相続人が保護される場合にその結果として保護されるのにすぎないのであるから、相続人の存在が遺産分割その他の処分後に明らかになつた場合については同法条を類推適用することができないものと解するのが相当である。

本件についてこれをみると、原審が適法に確定したところによれば、Aには、B(大正二年四月二八日生)、上告人(同六年一月五日生)、C(同八年三月三〇日生)の三子があつたところ、B及び上告人についてはDとその妻Eの三女及び四女として、CについてはFとその妻Gの長女として出生届がされ、Cは昭和一五年四月八日に実母のAと養子縁組をしたので、昭和四四年八月二八日Aの死亡により、B及び上告人は非嫡出子として、Cは養子として本件各土地を含む遺産を共同相続(相続分はCが二分の一、Bと上告人は各四分の一)したのであるが、Cは戸籍上では自己が唯一の相続人になつていたところから、上告人及びBの了解を得ることなく、昭和四五年六月日本件各土地について自己単独の相続登記を経たうえ、同年一二月一四日登記簿の記載のとおりCの単独所有であるものと信じていた被上告人H及び同Iに本件各土地を売り渡したものであり、他方、上告人はAの死亡後検察官被告としてAとの間の母子関係存在確認の訴を提起し、上告人勝訴の判決が昭和四九年九月二〇日確定したというのである。右事実関係のもとにおいては、被上告人らは、民法七八四条但書、九一〇条の類推適用によつて、保護されるべきものではなく、上告人及びBにおいてCの単独所有権の登記の作出について有責である場合に民法九四条二項の類推適用によつて保護される余地があるにとどまるものと解すべきものである。

判例タイムズ384号83頁

共同相続人の1部を除外してなされた遺産の分割あるいは共同相続人の1部の者による勝手な処分の効力如何については、(1)分割当時に存在した共同相続人を除外してなされた分割・処分は無効であり、除外された共同相続人は改めて分割を行なうことを請求することができることについては問題はない。

これに対し、(2)分割当時、共同相続人としての資格を有しなかつたが後に共同相続人としての資格を認められた者が現われた場合は、(a)認知によつて相続人となつた者については、910条の明文の規定があるが、(b)その他の場合(例えば、被相続人相手に、離縁又は離婚無効の訴を提起している者、父を定める訴を提起している者等)については、910条の類推適用を肯定する説と否定する説と折衷説(戸籍に現われていない相続人を除外してされた審判の場合に限って、910条の類推適用を肯定する説とがある。

母子関係の存在が処分後に判明した場合については、認知((2)(a)の場合に準じて910条の類推適用を肯定する説(我妻・前掲250頁、鈴木・相続法講義137頁)と、やはり(1)として扱い、処分を無効とすべきであるとする説(昭32・6・21家庭局長回答・家裁月報9巻6号119頁、泉・前掲119頁)とがあるが、本判決は後説をとることを明らかにしたものとして注目される。

本判決はその理由として、民法910条は、取引の安全と被認知者の保護との調整をはかる規定ではなく、共同相続人の既得権と被認知者の相続権との調整をはかる規定である、と説示している。

このように解した場合には、Y1Y2の保護は、民法94条2項の類推適用の要件を充す場合に限られることになる。

弁護士中山知行

2017-02-04 民法884条:相続回復請求権 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

相続回復請求権

(Right to Claim for Recovery of Inheritance)

第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人相続権侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。

Article 884 If the right to claim for recovery of inheritance is not exercised within five years of the time an heir or his/her legal representative becomes aware of the fact that the inheritance right has been infringed, that right shall be extinguished by prescription. The right shall also be extinguished if twenty years have pass :

最高裁判所第一法廷判決平成11年7月19日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/575/052575_hanrei.pdf

共同相続人相互の間で一部の者が他の者を共同相続人でないものとしてその相続権を侵害している場合に相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者が立証すべき事項:共同相続人相互の間で一部の者が他の者を共同相続人でないものとしてその相続権を侵害している場合において、相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、当該相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的事由があったことを立証すべきである。

1 共同相続人のうちの一人又は数人が、相続財産のうち自己本来の相続持分を超える部分について、当該部分の表見相続人として当該部分の真正共同相続人の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し、真正共同相続人の相続権を侵害している場合にも民法八八四条適用される。しかし、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、他に共同相続人がいること、ひいて相続財産のうち自己の本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りながらその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、又はその部分についてもその者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由があるわけではないにもかかわらずその部分もまた自己の持分に属するものであると称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されている場合には当たらず、相続回復請求権の消滅時効を援用して真正共同相続人からの侵害の排除の請求を拒むことはできない(最高裁昭和四八年(オ)第八五四号同五三年一二月二〇日大法廷判決・民集三二巻九号一六七四頁)。

 2 真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が他に共同相続人がいることを知っていたかどうか及び本来の持分を超える部分についてもその者に相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由があったかどうかは、当該相続権侵害の開始時点を基準として判断すべきである。

 そして、【要旨】相続回復請求権の消滅時効を援用しようとする者は、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人が、右の相続権侵害の開始時点において、他に共同相続人がいることを知らず、かつ、これを知らなかったことに合理的な事由があったこと(以下「善意かつ合理的事由の存在」という。)を主張立証しなければならないと解すべきである。なお、このことは、真正共同相続人の相続権を侵害している共同相続人において、相続権侵害の事実状態が現に存在することを知っていたかどうか、又はこれを知らなかったことに合理的な事由があったかどうかにかかわりないものというべきである。

 3 これを本件について見ると、次のとおりである。

 (一) 民法八八四条にいう相続権が侵害されたというためには、侵害者において相続権侵害の意思があることを要せず、客観的に相続権侵害の事実状態が存在すれば足りると解すべきであるから(最高裁昭和三七年(オ)第一二五八号同三九年二月二七日第一小法廷判決・民集一八巻二号三八三頁参照)、本件における上告人の相続権侵害は、大垣市が本件登記手続をしたことにより、本件登記の時に始まったというべきである。

 したがって、被上告人らが相続回復請求権の消滅時効を援用するためには、Cの相続人であり、従前地の所有名義人とされた被上告人K、同G、同H、E(被上告人Lにつき)及びF(被上告人B及び同Mにつき)について、本件登記の時点における前記の善意かつ合理的事由の存在をそれぞれ主張立証しなければならない。

 (二) 原判決は、被上告人らに悪意ないし過失はなかったと判示しているが、上告人と被上告人G及び同Hが両親を同じくすることは証拠上明らかであり、同Hが上告人と特に親しくしていた事実も認定されていることにかんがみると、右判示にいう悪意ないし過失は、本件登記に上告人の相続権を侵害する部分が存することについての悪意ないし過失、すなわち本件登記が存在することを知っていたこと、又は本件登記の存在を知らなかったことに合理的な事由がなかったことをいうものと解され、前記の善意かつ合理的事由の存在について正当に認定判断しているものとは認められない(原判決は、被上告人G及び同Hについては、同被上告人らが本件登記が存在することを知っていたかどうか、又は本件登記の存在を知らなかったことに合理的な事由があったかどうかのみを判断して、右の善意かつ合理的事由の存在について認定判断をしておらず、被上告人Kについては、信義則違反の主張に対する判示部分において、同被上告人が本件登記の存在を知らなかったこと及び上告人の身分関係について正確に分からなかったことを認定しているものの、同被上告人が他の共同相続人である上告人の存在を知らなかったことについての合理的事由の存在を認定判断していない。)。また、被上告人L、同B及び同Mについては、その被相続人であるE、Fについて右の善意かつ合理的事由の存在を認定判断すべきであるのに、原判決は、これについて何ら認定判断をしていない。

 (三) そうすると、被上告人らによる消滅時効の援用を認めた原審の判断は、民法八八四条の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人敗訴部分は、破棄を免れない。そして、被上告人らが相続回復請求権の消滅時効の援用をするための要件の存否について更に審理判断させるため、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_en/detail?id=445

Judgment upon the matters to be proved by a person who is invoking extinctive prescription of the restoration of inheritance in cases where, among the joint heirs, some are infringing upon the others' rights claiming that they are not joint heirs.

A person who is invoking extinctive prescription of the restoration of inheritance in cases where, among the joint heirs, some are infringing upon the others' rights, claiming that they are not joint heirs, must prove that those joint heirs who are in infringement of the right to inheritance of the genuine heirs were not aware that there were other joint heirs and that there was a reasonable ground to believe so at the beginning of their infringement of the right to inheritance.

最高裁判所第三小法廷判決平成7年12月5日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/119/076119_hanrei.pdf

単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人から不動産を譲り受けた者と相続回復請求権の消滅時効の援用:相続財産である不動産について単独名義で相続の登記を経由した共同相続人の一人甲が、甲の本来の相続持分を超える部分が他の相続人に属することを知っていたか、又は右部分を含めて甲が単独相続をしたと信ずるにつき合理的な事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用することができない場合には、甲から右不動産を譲り受けた第三者も右時効を援用することはできない。

共同相続人のうちの一人である甲が、他に共同相続人がいること、ひいては相続財産のうち甲の本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属するものであることを知りながら、又はその部分についても甲に相続による持分があるものと信ずべき合理的な事由がないにもかかわらず、その部分もまた自己の持分に属するものと称し、これを占有管理している場合は、もともと相続回復請求制度の適用が予定されている場合には当たらず、甲は、相続権を侵害されている他の共同相続人からの侵害の排除の請求に対し、民法八八四条の規定する相続回復請求権の消滅時効の援用を認められるべき者に当たらない(最高裁昭和四八年(オ)第八五四号同五三年一二月二〇日大法廷判決・民集三二巻九号一六七四頁参照)。そして、共同相続の場合において相続回復請求制度の問題として扱うかどうかを決する右のような悪意又は合理的事由の存否は、甲から相続財産を譲り受けた第三者がいるときであっても甲について判断すべきであるから、相続財産である不動産について単独相続の登記を経由した甲が、甲の本来の相続持分を超える部分が他の共同相続人に属することを知っていたか、又は右部分を含めて甲が単独相続をしたと信ずるにつき合理的な事由がないために、他の共同相続人に対して相続回復請求権の消滅時効を援用することができない場合には、甲から右不動産を譲り受けた第三者も右時効を援用することはできないというべきである。


昭和54年4月17日は相続回復請求権について最高裁判例オンパレードがあった日です。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/list1?filter%5BcourtName%5D=&filter%5BcourtType%5D=%E6%9C%80%E9%AB%98&filter%5BbranchName%5D=&filter%5BjikenGengo%5D=&filter%5BjikenYear%5D=&filter%5BjikenCode%5D=&filter%5BjikenNumber%5D=&filter%5BjudgeDateMode%5D=1&filter%5BjudgeGengoFrom%5D=%E6%98%AD%E5%92%8C&filter%5BjudgeYearFrom%5D=54&filter%5BjudgeMonthFrom%5D=4&filter%5BjudgeDayFrom%5D=17&filter%5BjudgeGengoTo%5D=&filter%5BjudgeYearTo%5D=&filter%5BjudgeMonthTo%5D=&filter%5BjudgeDayTo%5D=&filter%5Btext1%5D=&filter%5Btext2%5D=&filter%5Btext3%5D=&filter%5Btext4%5D=&filter%5Btext5%5D=&filter%5Btext6%5D=&filter%5Btext7%5D=&filter%5Btext8%5D=&filter%5Btext9%5D=&action_search=%E6%A4%9C%E7%B4%A2

最高裁判所第三小法廷判決昭和54年4月17日

共同相続人の一人が単独名義の相続登記をすることにより他の共同相続人の相続権を侵害したとして更正登記を求める請求について、民法884条の適用がないとされた事例:共同相続人の一人甲が他の相続人乙の相続放棄申述書を偽造して無効の相続放棄の申述をし甲の単独名義による相続登記が経由された場合には、乙が甲に対し相続による共有関係の回復を求めるための右登記の更正登記手続請求には、民法884条の適用が排除される。

原審の適法に確定した事実関係によれば、訴外亡福吉の相続財産である一審判決別紙目録記載の不動産につき上告人達衛及び被上告人らは相続持分各三分の一の割合により相続権を取得したところ、被上告人ら名義による相続放棄があったものとしてこれらの不動産につき右上告人のみの単独名義による相続の登記が経由されているが、右相続放棄は、右上告人が偽造した相続放棄中述書によってされたものであって、被上告人らの意思に基づくものでなく無効であり、右上告人は、共同相続人として被上告人らのいることを知りながら右各不動産につき被上告人らの意思に基づかずに単独名義の相続の登記をすることによって、被上告人らの相続権を侵害している、というのである。右事実関係のもとにおいては、被上告人らから右上告人に対し相続による共有関係の回復を求めるため右登記を右上告人及び被上告人らの持分各三分の一の登記に更正登記手続をすることを求める請求については、民法八八四条の適用がないものと解するのが相当であり(最高裁昭和四八年(オ)第八五四号同五三年一二月二〇日大法廷判決・民集三二巻九号)、ひいて、右目録記載の不動産につき右上告人から贈与を原因とする所有権移転登記をうけた上告人慎二に対し右登記を上告人慎二の共有持分三分の一の部分についてのみの移転登記に更正登記手続をすることを求める被上告人らの請求についても、同条の適用をみる余地はないというべきである。そうすると、上告人らは被上告人らの本件請求を同条の規定を援用して拒むことができないものであり、原審の判断は結論においてこれを是認することができる。

最高裁判所第三小法廷判決昭和54年4月17日

共同相続人間の相続財産に関する紛争につき民法884条の適用がないとされた事例:共同相続人の1人甲のみが相続財産を占有管理してきたが、甲は他に共同相続人として乙がいることを知つており、そのため、甲は、相続不動産の一部につき第三者から買受けの申入れがあつた際に、乙の所在不明により相続登記と買主への所有権移転登記が困難であるところから、売却をとりやめた、という事実関係のもとでは、甲と乙との相続財産に関する紛争については、民法884条の適用はなく、甲は乙の相続持分権侵害排除請求ないし遺産分割請求に対し、同条所定の消滅時効を援用することはできない。

原審の適法に確定した事実関係によれば、訴外吉彦の死後、その共同相続人である被上告人、上告人ら三名のうち上告人らのみが相続財産を占有管理していたが、上告人らは、上告人らのほかに、所在は不明であるものの共同相続人として被上告人がいることを知つており、そのため、上告人らは、相続財産に属する本件不動産の一部について第三者から買受の申入れがあつた際、被上告人の所在不明により相続登記及び第三者への所有権移転登記が困難であるところから、その売却を取りやめた、というのである。ところで、共同相続人相互間における相続持分権侵害による紛争について民法884条の適用を当然に否定すべき理由はないが、右の述べた事実関係のもとでは、上告人らと被上告人との間の相続財産に関する本件紛争については同条の適用がないものと解するのが相当であり(最高裁昭和四八年(オ)第八五四号同五三年一二月二〇日大法廷判決・民集三二巻九号)、上告人らは、被上告人の相続持分権侵害排除請求ないし遺産分割請求に対して民法884条所定の消滅時効を援用してこれを拒むことができないものといわなければならない。原審の判断は、被上告人の相続持分権が否定されないとする結論において、これを是認することができる。

最高裁判所第三小法廷判決昭和54年4月17日

共同相続人の1人が単独名義の相続登記をすることにより他の共同相続人の相続権を侵害したとして相続財産に対する持分権の確認を求める請求について、民法884条の適用がある場合:共同相続人の1人甲が共同相続人乙がいることを知りながら甲の単独名義による相続登記が経由された場合において、乙名義の甲あての「相続に関し5万円を受領したので一切の権利譲渡する」との書面が存在するが、右書面は乙の意思に基づき作成されたものではなく、他に乙が甲に自己の持分権を取得させることを承諾したことも認められないが、甲は右書面が乙の意思に基づいて作成されたものと信じていたもので、かつ、そのように信じたことが客観的にも無理からぬとされるような事情があるなど、乙の相続持分権が甲に帰属したと信ぜられるべき合理的理由が備わつているときは、乙の甲に対する右持分権の確認請求につき民法884条が適用される。

最高裁判所第三小法廷判決昭和54年4月17日

共同相続人の1人が単独名義の相続登記をすることにより他の共同相続人の相続権を侵害したとして更正登記を求める請求について民法884条の適用がないとされた事例:共同相続人の1人甲が他の相続人乙の承諾を得ることなく、司法書士に乙名義で相続放棄の申述をすることを依頼し、その依頼に基づく申述によつて乙の相続放棄がされたとの理由で、甲の単独名義による相続登記が経由されたものであるときは、乙が甲に対し相続による共有関係の回復を求めるための右登記の更正登記手続請求には、民法884条の適用が排除される。

最高裁判所大法廷判決昭和53年12月20日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/218/053218_hanrei.pdf

共同相続人の1人によつて相続権を侵害された共同相続人のその侵害の排除を求める請求と民法884条の適用:共同相続人の1人によつて相続権を侵害された共同相続人のその侵害の排除を求める請求について民法884条の適用が排除される場合:共同相続人の1人が、相続財産のうち自己の本来の相続持分をこえる部分につき、他の共同相続人の相続権を否定し、その部分も自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、他の共同相続人の相続権を侵害している場合に、他の共同相続人からのその侵害の排除を求める請求については、民法884条の適用がある。:共同相続人のうちの1人が、相続財産のうち自己の本来の相続持分をこえる部分につき、他の共同相続人の相続権を否定し、その部分も自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、他の共同相続人の相続権を侵害しても、右共同相続人の1人において、その本来の持分を他の共同相続人の持分に属することを知りながら、又はその部分が共同相続人の1人の持分に属するものと信ぜられるべき合理的事由がないのに、その部分もまた自己の持分に属すると称してこれを占有管理している場合には、他の共同相続人からのその侵害の排除を求める請求について民法884条の適用が排除される。

相続回復請求権

真正の相続人が,表見相続人に対し,相続権の確認を求め,あわせて相続財産の返還など相続権の侵害を排除して相続権の回復を求める権利〔民884〕。この請求権は,5年の時効期間で消滅し,また,相続開始後20年を経過すると請求権を行使できなくなる。民法は権利行使の期間を制限する規定を置くだけなので,相続回復請求権の性質,請求の相手方範囲などについて争いがある。学説には,相続財産全体の一括返還請求が認められる点に,相続回復請求権の存在意義があるとするものがあるが,実務上は一括請求は認められていない。それゆえ,むしろ個々の財産の返還請求につき期間制限を設ける点にのみ意味があるとする見解もある。また,表見相続人から権利を取得した第三者に対する返還請求は期間制限に服さないとするのが判例の立場である(大判昭和4・4・2民集8・237)が,学説にはこれに反対するものが多い。

[株式会社有斐閣 法律学辞典第4版補訂版]


弁護士中山知行

2017-02-03 民法951条:相続人があることが明かでないとき このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

Article 951 If it is not evident whether an heir exists, an estate that would be inherited shall be as a juridical person.


最高裁判所第二小法廷判決平成9年9月12日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/539/052539_hanrei.pdf

遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、民法九五一条にいう「相続人のあることが明かでないとき」には当たらない。

遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、民法九五一条にいう「相続人のあることが明かでないとき」には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条から九五九条までの同法第五編第六章の規定は、相続財産の帰属すべき者が明らかでない場合におけるその管理、清算等の方法を定めたものであるところ、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し(同法九九〇条)、遺言者の死亡の時から原則として同人財産に属した一切の権利義務を承継するのであって、相続財産全部の包括受遺者が存在する場合には前記各規定による諸手続を行わせる必要はないからである。

そうすると、右とは異なり、Aには相続財産全部の包括受遺者である上告人Cが存在するにもかかわらず、Aに相続人が存在しなかったことをもって、同人の相続財産について民法九五一条以下に規定された相続人の不存在の場合に関する手続が行われなければならないものとした原審の前記判断は、法令解釈適用を誤ったものというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_en/detail?id=362

Judgment concerning whether or not, a situation where a testator has no heir but there is a testamentary donee by universal succession who is entitled to the testator's property in whole should be regarded as falling under cases where "it is not evident whether an heir exists" for the purpose of in Article 951 of the Civil Code.

The situation where a testator has no heir but there is a testamentary donee by universal succession who is entitled to the testator's property in whole does not fall under the case where "it is not evident whether an heir exists" as set forth in Article 951 of the Civil Code.

最高裁判所第一小法廷判決平成11年1月21日

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/240/052240_hanrei.pdf

被相続人から抵当権の設定を受けた相続債権者が相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することの可否:相続債権者は、被相続人から抵当権の設定を受けていても、被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き、相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することができない。

1 相続人が存在しない場合(法定相続人の全員が相続の放棄をした場合を含む。)には、利害関係人等の請求によって選任される相続財産の管理人が相続財産の清算を行う。管理人は、債権申出期間の公告をした上で(民法九五七条一項)、相続財産をもって、各相続債権者に、その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない(同条二項において準用する九二九条本文)。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することができない(同条ただし書)。この「優先権を有する債権者の権利」に当たるというためには、対抗要件を必要とする権利については、被相続人の死亡の時までに対抗要件を具備していることを要すると解するのが相当である。相続債権者間の優劣は、相続開始の時点である被相続人の死亡の時を基準として決するのが当然だからである。この理は、所論の引用する判例大審院昭和一三年(オ)第二三八五号同一四年一二月二一日判決・民集一八巻一六二一頁)が、限定承認がされた場合について、現在の民法九二九条に相当する旧民法一〇三一条の解釈として判示するところであって、相続人が存在しない場合についてこれと別異に解すべき根拠を見いだすことができない。

 したがって、相続人が存在しない場合には(限定承認がされた場合も同じ。)、相続債権者は、被相続人からその生前に抵当権の設定を受けていたとしても、被相続人の死亡の時点において設定登記がされていなければ、他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく優先権を対抗することができないし、被相続人の死亡後に設定登記がされたとしても、これによって優先権を取得することはない(被相続人の死亡前にされた抵当権設定の仮登記に基づいて被相続人の死亡後に本登記がされた場合を除く。)。

 2 相続財産の管理人は、すべての相続債権者及び受遺者のために法律に従って弁済を行うのであるから、弁済に際して、他の相続債権者及び受遺者に対して対抗することができない抵当権の優先権を承認することは許されない。そして、優先権の承認されない抵当権の設定登記がされると、そのことがその相続財産の換価(民法九五七条二項において準用する九三二条本文)をするのに障害となり、管理人による相続財産の清算に著しい支障を来すことが明らかである。したがって、管理人は、被相続人から抵当権の設定を受けた者からの設定登記手続請求を拒絶することができるし、また、これを拒絶する義務を他の相続債権者及び受遺者に対して負うものというべきである。

 以上の理由により、相続債権者は、被相続人から抵当権の設定を受けていても、被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き、相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することができないと解するのが相当である。限定承認がされた場合における限定承認者に対する設定登記手続請求も、これと同様である(前掲大審院判例を参照)。なお、原判決の引用する判例(最高裁昭和二七年(オ)第五一九号同二九年九月一〇日第二小法廷判決・裁判民事一五号五一三頁)は、本件の問題とは事案を異にし、右に説示したところと抵触するものではない。

 3 したがって、被上告人には、本件根抵当権につき、上告人に対し、本件仮登記に基づく本登記手続を請求する権利がないものというべきである。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_en/detail?id=427

Judgment concerning whether or not it is allowable for the creditor of the decedent for whom the decedent established a mortgage before death to request the juridical person of the inherited property to perform the procedure to register the establishment of the mortgage.

The inheritance obligee for whom the decedent established a mortgage before death may not request the juridical person of the inherited property to perform the procedure to register the establishment of the mortgage unless a provisional registration has been completed by the time of the decedent's death.


第六章 相続人の不存在

Chapter VI Nonexistence of Heir

(相続財産法人の成立)

(Formation of Juridical Person for Inherited Property)

第九百五十一条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

Article 951 If it is not evident whether an heir exists, an estate that would be inherited shall be as a juridical person.

(相続財産の管理人の選任)

(Appointment of Administrator of Inherited Property)

第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

Article 952 (1) In the case referred to in the preceding Article, the family court shall appoint an administrator of inherited property upon the application of an interested party or a public prosecutor.

2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。

(2) If an administrator of inherited property has been appointed pursuant to the provisions of the preceding paragraph, the family court shall give public notice of this without delay.

(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)

(Provisions Relating to Administrator of Absentee's Property to be Applied Mutatis Mutandis)

第九百五十三条 第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。

Article 953 The provisions of Articles 27 to 29 inclusive shall apply mutatis mutandis to the administrator of inherited property referred to in paragraph (1) of the preceding Article (in this Chapter, 'administrator of inherited property').

(相続財産の管理人の報告)

(Reporting by Administrator of Inherited Property)

第九百五十四条 相続財産の管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。

Article 954 If there is an application by an inheritance obligee or donee, an administrator of inherited property shall report the status of the inherited property to the person who has made the application.


弁護士中山知行

2017-02-02 縁組意思:養子縁組無効確認訴訟 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

先日の最高裁判決ですが,結局,縁組意思については,従来の解釈をそのまま採用しながら,相続税節税目的は,その縁組意思とは併存しうるものであるとしました。

The Supreme Court ruling of the other day, while adopting the conventional adoptive intention interpretation as it is, the inheritance tax saving purpose is supposed to coexist with the adoptive intention. Adoptive intention and taxpaying purposes do not reject each other.

平成29年1月31日最高裁判所第三小法廷判決

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/480/086480_hanrei.pdf

1 原審の適法に確定した事実関係概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人X1は亡Aの長女であり,被上告人X2はAの二女である。

上告人は,平成23年▲月,Aの長男であるBとその妻であるCとの間の長男として出生した。

Aは,平成24年3月に妻と死別した。

(2) Aは,平成24年4月,B,C及び上告人と共にAの自宅を訪れた税理士等から,上告人をAの養子とした場合遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受けた。

その後,養子となる上告人の親権者としてB及びCが,養親となる者としてAが,証人としてAの弟夫婦が,それぞれ署名押印して,養子縁組届に係る届書が作成され,平成24年▲月▲日,世田谷区長に提出された。

2 本件は,被上告人らが,上告人に対して,本件養子縁組は縁組をする意思を欠くものであると主張して,その無効確認を求める事案である。

3 原審は,本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした上で,かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして,被上告人らの請求を認容した。

4 しかしながら,民法802条1号の解釈に関する原審の上記判断是認することができない。その理由は,次のとおりである。

養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

そして,前記事実関係の下においては,本件養子縁組について,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

5 以上によれば,被上告人らの請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人らの請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人らの控訴を棄却すべきである。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。



弁護士中山知行

2017-01-31 遺言に関する渉外事件の準拠法 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

遺言方式の準拠法に関する法律

昭和三十九年六月十日法律第百号)

最終改正平成一八年六月二一日法律第七八号

趣旨

第一条  この法律は、遺言の方式の準拠法に関し必要な事項を定めるものとする。

(準拠法)

二条  遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。

一  行為地法

二  遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法

三  遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法

四  遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法

五  不動産に関する遺言について、その不動産の所在地

(Applicable Law)

Article 2 A will shall be valid in terms of form if its form complies with any of the following laws:

(i) the law of the place where the act was performed (lex loci actus);

(ii) the law of the country where the testator had nationality, either at the time he/she made the will or at the time of his/her death;

(iii) the law of the place where the testator had domicile, either at the time he/she made the will or at the time of his/her death;

(iv) the law of the place where the testator had habitual residence, either at the time he/she made the will or at the time of his/her death; or

(v) in the case of a will concerning real property, the law of the place where the real property is located.

第三条  遺言を取り消す遺言については、前条の規定によるほか、その方式が、従前の遺言を同条の規定により有効とする法のいずれかに適合するときも、方式に関し有効とする。

(共同遺言)

四条  前二条の規定は、二人以上の者が同一の証書でした遺言の方式についても、適用する。

(方式の範囲

五条  遺言者の年齢、国籍その他の人的資格による遺言の方式の制限は、方式の範囲に属するものとする。遺言が有効であるために必要とされる証人が有すべき資格についても、同様とする。

本国法)

六条  遺言者が地域により法を異にする国の国籍を有した場合には、第二条第二号の規定の適用については、その国の規則に従い遺言者が属した地域の法を、そのような規則がないときは遺言者が最も密接な関係を有した地域の法を、遺言者が国籍を有した国の法とする。

(住所地法)

七条  第二条第三号の規定の適用については、遺言者が特定の地に住所を有したかどうかは、その地の法によつて定める。

2  第二条第三号の規定の適用については、遺言の成立又は死亡の当時における遺言者の住所が知れないときは、遺言者がその当時居所を有した地の法を遺言者がその当時住所を有した地の法とする。

(公序)

八条  外国法によるべき場合において、その規定の適用が明らかに公の秩序に反するときは、これを適用しない。


法の適用に関する通則法

(平成十八年六月二十一日法律第七十八号)

法例明治三十一年法律第十号)の全部を改正する。

第六節 相続

(相続)

第三十六条  相続は、被相続人の本国法による。

(遺言)

第三十七条  遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。

2  遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。

Section 6 Inheritance

(Inheritance)

Article 36 Inheritance shall be governed by the national law of the decedent.

(Will)

Article 37 (1) The formation and effect of a will shall be governed by the national law of a testator at the time of the formation.

(2) The rescission of a will shall be governed by the national law of a testator at the time of the rescission.

意思表示瑕疵による取消は37条1項

取消能力,取消の意志表示の瑕疵,取消の効力発生時期は37条2項


民事訴訟法

被告の住所等による管轄権

第三条の二  裁判所は、人に対する訴えについて、その住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合にはその居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には訴えの提起前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。

2  裁判所は、大使公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人に対する訴えについて、前項の規定にかかわらず、管轄権を有する。

3  裁判所は、法人その他の社団又は財団に対する訴えについて、その主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき、事務所若しくは営業所がない場合又はその所在地が知れない場合には代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるときは、管轄権を有する。

契約上の債務に関する訴え等の管轄権)

第三条の三  次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定めるときは、日本の裁判所に提起することができる。

一  契約上の債務の履行の請求目的とする訴え又は契約上の債務に関して行われた事務管理若しくは生じた不当利得に係る請求、契約上の債務の不履行による損害賠償の請求その他契約上の債務に関する請求を目的とする訴え 契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき、又は契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき。

二  手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え 手形又は小切手の支払地が日本国内にあるとき。

三  財産権上の訴え 請求の目的が日本国内にあるとき、又は当該訴えが金銭の支払を請求するものである場合には差し押さえることができる被告の財産が日本国内にあるとき(その財産の価額が著しく低いときを除く。)。

四  事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの 当該事務所又は営業所が日本国内にあるとき。

五  日本において事業を行う者(日本において取引継続してする外国会社会社法 (平成十七年法律第八十六号)第二条第二号 に規定する外国会社をいう。)を含む。)に対する訴え 当該訴えがその者の日本における業務に関するものであるとき。

六  船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴え 船舶が日本国内にあるとき。

七  会社その他の社団又は財団に関する訴えで次に掲げるもの 社団又は財団が法人である場合にはそれが日本の法令により設立されたものであるとき、法人でない場合にはその主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき。

イ 会社その他の社団からの社員若しくは社員であった者に対する訴え、社員からの社員若しくは社員であった者に対する訴え又は社員であった者からの社員に対する訴えで、社員としての資格に基づくもの

ロ 社団又は財団からの役員又は役員であった者に対する訴えで役員としての資格に基づくもの

ハ 会社からの発起人若しくは発起人であった者又は検査役若しくは検査役であった者に対する訴えで発起人又は検査役としての資格に基づくもの

ニ 会社その他の社団の債権者からの社員又は社員であった者に対する訴えで社員としての資格に基づくもの

八  不法行為に関する訴え 不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。

九  船舶の衝突その他海上事故に基づく損害賠償の訴え 損害を受けた船舶が最初に到達した地が日本国内にあるとき。

十  海難救助に関する訴え 海難救助があった地又は救助された船舶が最初に到達した地が日本国内にあるとき。

十一  不動産に関する訴え 不動産が日本国内にあるとき。

十二  相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え 相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)。

十三  相続債権その他相続財産負担に関する訴えで前号に掲げる訴えに該当しないもの 同号に定めるとき。

(管轄権に関する合意

第三条の七  当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に訴えを提起することができるかについて定めることができる。

2  前項の合意は、一定法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。

3  第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

4  外国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意は、その裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができないときは、これを援用することができない。

5  将来において生ずる消費者契約に関する紛争対象とする第一項の合意は、次に掲げる場合に限り、その効力を有する。

一  消費者契約の締結の時において消費者が住所を有していた国の裁判所に訴えを提起することができる旨の合意(その国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなす。)であるとき。

二  消費者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業者が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、消費者が当該合意を援用したとき。

6  将来において生ずる個別労働関係民事紛争を対象とする第一項の合意は、次に掲げる場合に限り、その効力を有する。

一  労働契約の終了の時にされた合意であって、その時における労務の提供の地がある国の裁判所に訴えを提起することができる旨を定めたもの(その国の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意については、次号に掲げる場合を除き、その国以外の国の裁判所にも訴えを提起することを妨げない旨の合意とみなす。)であるとき。

二  労働者が当該合意に基づき合意された国の裁判所に訴えを提起したとき、又は事業主が日本若しくは外国の裁判所に訴えを提起した場合において、労働者が当該合意を援用したとき。

(応訴による管轄権)

第三条の八  被告が日本の裁判所が管轄権を有しない旨の抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、裁判所は、管轄権を有する。


弁護士中山知行

2017-01-30 遺言による認知を受けたものがとる手続は訴訟 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

民法910条によって相続人となったものが採るべき手続は,遺産分割調停審判ではなく訴訟手続

Procedures that should be adopted by those who became heirs under Article 910 of the Civil Code are legal proceedings at a district court, not a mediation of inheritance division and family court judgment.

相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権

(Claim of Payment for Value of Person Affiliated after Commencement of Inheritance)

第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

Article 910 In the case where a person who becomes an heir through affiliation after the commencement of inheritance intends to apply for a division of the inherited property, if other heirs have already divided the inherited property or made another disposition, he/she shall only have a claim of payment for value.


名古屋高等裁判所金沢支部決定平成4年4月22日

遺産分割後、遺言により認知を受けた相続人が行う民法910条による遺産相続分相当の価額請求について家事審判法9条1項乙類10号を類推適用するのは相当でなく、同請求は訴訟事項とみるのが相当であるとした事例:相続開始後の被認知者からの価額請求を求める申立てが乙類審判事件として立件され、付調停後、調停不成立となり、審判で、乙類審判事件でないことを理由却下された場合でも、同申立ては、民法153条の催告には該当するから、その審判係属中継続して時効中断の効力を有するし、また、本件のような場合、家事審判法26条2項を類推適用して、却下審判ないしその抗告審の決定の正本を受領した日から2週間以内に訴えを提起したときは、審判申立ての時にその訴えの提起があったものとみなすのが相当であるとした事例

裁判所判断

 1 抗告人は,本件は,家事審判法9条1項乙類10号の類推適用により審判事項に該当する旨主張する。

   しかし,本件は,被相続人島田静六(静六)の遺産分割後,同人の遺言により認知を受けた抗告人が,民法910条により静六の相続人である相手方に対し遺産相続分相当の価額請求をした事案であるところ,家事審判法9条1項乙類10号に規定されている民法907条2項及び3項の規定による遺産の分割に関する処分とはいえない。また,家事審判法9条1項乙類10号は,その規定の形式趣旨等からして,民法910条による分割請求の場合にまで類推適用するのは相当でない。さらに本件は,他の審判条項にも該当せず,結局訴訟事件とみるのが相当であるから,本件審判申立は不適法といわざるをえない。

   したがって,抗告人の右主張は採用できない。

 2 抗告人は,「抗告人は,昭和59年7月16日静六から認知を受け,平成元年4月11日本件審判申立をしたところ,家事調停に付され,平成3年10月14日不調になり,同年11月22日本件審判申立を却下する旨の審判を受けた。相続開始後の被認知者の価額請求権は,認知があったときから5年間で消滅時効にかかると解されているところ,抗告人は,右5年間の消滅時効期間内に本件審判申立をしたのに,家事調停に付され,同調停が長引いたため,不調になった時点では既に右消滅時効期間が経過してしまった。しかも,抗告人は,却下するとの原審判を受けたため,民法149条により時効中断の効力を受けることもできなくなった。したがって,原審判は,抗告人の訴権を一方的に奪う結果となるものであるから,憲法32条の何人も裁判を受ける権利を奪われないとの規定に違反するものである。」旨主張する。

   一件記録によれば,抗告人は,昭和58年7月21日死亡した静六から遺言により認知を受け,昭和59年7月16日遺言執行者からその旨の届出がなされたこと,抗告人の代理人であった○○弁護士は,本件が訴訟事件か家事審判事件であるかにつき,裁判所にも相談のうえ,まず家庭裁判所へ家事審判の申立をし,後日訴訟事件であるということになれば,地方裁判所へ訴訟を提起する方針を立て,抗告人にもその旨報告し,平成元年4月11El,原審裁判所へ本件審判申立をしたところ,乙類審判事件として立件されたこと,本件審判は同月13日家事調停に付され,調停期日が開かれたが,平成3年10月14日不調となり,同年11月21日家事審判事項に当たらないとして本件審判申立を却下する旨の審判がなされたこと,抗告人は同月29日本件抗告をしたことが認められる。

 すると,抗告人主張のとおり,抗告人は,認知を受けてから5年間の消滅時効期間内に本件家事審判の申立をしたが,却下するとの原審判を受け,当審も右原審判を是認するものであるから,同申立は民法149条による裁判上の請求としての時効中断の効力のないことは明らかであるが,同法153条の催告には該当するから,本件審判の係属中継続して時効中断の効力を有するというべきである(最高裁昭和38年10月30日判決民集17巻9号1252頁参照)。したがって,抗告人が,本件抗告決定正本を受領後,6か月以内に民事訴訟を提起して,時効中断の効力を維持させる余地がある。

 また,家事審判法26条2項によれば,家事調停事件において,不調になった場合,一定の場合を除き,当事者がその旨の通知を受けた日から2週間以内に訴を提起したときは,調停の申立の時にその訴の提起があったものとみなされることになっている。もっとも,乙類審判事件については,調停が成立しない場合,当然に審判に移行するから,もともと右26条2項の適用はないと考えられるが,しかし,本件のように乙類審判事件として立件されるべきでないのに原審裁判所の受付段階での見解によって同事件として立件され,付調停後,調停不調となった場合には,乙類審判事件であっても,調停が不調になった場合に調停申立をしたことによる出訴期間,時効中断等の点での不利益をさけるために設けられた同条2項を類推適用して,調停不調ないしその通知を受けた日から2週間以内に訴を提起したときは,本件審判申立の時に訴の提起があったものとみなすのが相当であり,さらに,審判で乙類審判事件でないとして却下されたような場合,右却下審判ないしその抗告審の決定の各正本を受領した日から2週間以内に訴を提起したときは,右審判申立の時にその訴の提起があったものとみなすのが相当である。

   以上のとおり,抗告人は,民事訴訟を提起できる余地があるから,原審判が一方的に抗告人の裁判権を奪ったとの抗告人の右主張は採用できない。

弁護士中山知行