2011-04-20 遺留分減殺等請求事件

遺留分減殺請求の具体的事例として取り上げます。
遺言を書く人は,抵当権が付いていても,無視して,その不動産を遺贈する遺言を書いている場合が多いです。
【判示事項】
亡Aの遺産につき,同人のした遺言により遺留分を侵害されたと主張する原告が,被告に対し,遺留分侵害額相当の価額弁償金の支払を求めた事案について,認定した亡Aの遺産及びその評価額を前提とし,被告が支払を受けた生命保険の特別受益性及び被告により引き出された預金の特別受益額について,原告の主張額であると仮定して,遺留分侵害額を試算してみると,被告が原告に対して支払うべき価額弁償金はないとして請求を棄却した事例
中略
第2 事案の概要
1 請求の類型(訴訟物)
原告は,平成17年6月10日,死亡したA(以下「A」という。)の長女,被告は,Aの長男,訴外B(被告の長男。以下「B」という。),訴外C(被告の長女。以下「C」という。)及び訴外D(被告の二女。以下「D」という。)は,いずれも,Aの養子であり,Aの法定相続人は,この5人である(別紙相続関係説明図参照)。
本件は,別紙遺産目録記載のAの遺産につき,Aがした相続させる旨の遺言によって,自己の遺留分(遺留分率は,1/5×1/2=1/10)が侵害されたと主張する原告が,被告に対し,遺留分侵害額(別紙1の遺留分侵害額計算表の原告主張額欄のとおり,1814万2450円)に相当する価額弁償請求権の行使をする事案である。
2 争いがない事実等
1) Aは,平成17年6月10日,死亡した。Aと原告,被告,B,C及びDの身分関係は,別紙相続関係説明図記載のとおりである。
2) Aの遺産(積極財産)は,別紙遺産目録記載1ないし4の財産(以下,別紙遺産目録記載の財産については,「1(1)の土地」「3の現金・預貯金」などともいう。)である。
3) 平成14年9月5日,東京法務局所属公証人Eによって,麹町公証役場において,要旨,下記の内容の遺言公正証書(甲1の2)が作成され,Aは,公正証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
記
1 1(1)の土地を原告及び被告に,2分の1ずつの割合により相続させる(甲1の2の1条。この3)の項での条文は,甲1の2の条文を示す。)。
2 1(2)ないし(4)の土地の各持分を,被告及びBに,2分の1ずつの割合により相続させる(2条)。
3 1(5)及び(6)の土地の各持分を,C及びDに,2分の1ずつの割合により相続させる(3条)。
4 上記1ないし3を除く一切の財産を被告に相続させる(4条。なお,4条に基づき,被告は,1(7)ないし(10)の土地,2(1)ないし(3)の建物,3の現金・預貯金,4の年金未収入金を取得した。)。
4) 被告,B,C及びDは,本件遺言に従い,上記各不動産につき,自己の取得分につき,それぞれ,相続に基づく所有権移転登記を経由した。
5) 被告は,Aから,平成15年11月1日,別紙贈与財産目録記載1の土地及び建物部分の生前贈与を受けた。
6) 被告は,平成17年8月4日,別紙贈与財産目録記載2の生命保険金の支払を受けた。
7) 原告は,本件訴状及び訴状訂正申立書をもって,被告に対し,遺留分減殺請求の意思表示をし,主位的に,別紙遺産目録記載1及び2の各不動産につき,持分移転登記を求め,被告が価額弁償の意思表示をした場合に備えて,予備的に,価額弁償金の支払請求をした(顕著な事実)。
8) 被告は,原告に対し,第21回弁論準備手続期日(平成21年4月24日)において,価額弁償の意思表示した(顕著な事実)。
9) 別紙遺産目録記載1及び2の各不動産の評価(価額弁償金の評価を含む。)を平成17年度の固定資産税評価額によることで,当事者間に争いはない(第21回弁論準備手続調書参照)。
3 主要な争点及び当事者の主張
原告の遺留分侵害額に関する当事者双方の主張額は,別紙1の遺留分侵害額計算表のとおりであり,原告主張の遺留分侵害額の割付については,別紙2の遺留分超過額計算表及び別紙3の遺留分侵害額割付表のとおりである(遺留分侵害額の割付については,受遺者の遺留分を超える部分のみが減殺の対象となるため,遺留分侵害額を各受遺者の遺留分超過額の割合に応じて割り付けて,減殺すべことになる(最判平10.2.26民集52巻1号274頁参照)。)。
(積極財産)
1) 1(1)の土地の評価額
【原告】 2085万1736円
1(1)の土地には,Aを賃貸人,原告及びF(以下「F」という。)を借地人とする借地権が設定されており(甲24),遺産の対象地は,いわゆる底地権であるから,その評価は,土地の評価額から借地権の評価額を控除した金額となる。借地権割合は,60%であるので,底地権は,上記土地の評価額の40%相当額とすべきである。そうすると,1(1)の土地の評価額は,平成17年度の固定資産税評価額5212万9340円(甲42の1)に底地割合0.4を乗じた2085万1736円となる。なお,上記借地権の地代月額3万円(年額36万円)は,固定資産税額・都市計画税額の2.6ないし2.7倍に相当し,適正である(甲36の1・2)。なお,共有不動産に抵当権が設定されている場合には,不動産の評価から被担保債権額を控除して評価すべきではない。
【被告】 0円
一般に,地上建物の所有者がその敷地を相続により取得し,地上建物の所有者に当該相続人に加えて,当該相続人と生計を一にする配偶者が含まれているケースでは,自己使用を前提として,当該敷地を更地として評価するのが相当であると解されるところ,本件のように,本件遺言によって,1(1)の土地の持分権2分の1を相続した原告が,同土地の地上建物(世田谷区(以下略)所在の建物で,通称,△△△マンションとよればれる建物(乙1)。以下「△△△マンション」という。)を,その夫であるFとともに共有している場合(原告の共有持分が5分の1,Fのそれが5分の4),これは,上記のケースに該当するから,1(1)の土地は,更地として評価すべきである。また,そもそも,上記借地権の地代は,月額3万円(年額36万円)という極端に低い金額であり,上記土地の適正な対価とはいえないから(乙46),この点からも,上記土地については,更地評価が相当である。
ところで,この更地として評価されるべき1(1)の土地には,原告及びFを連帯債務者とする被担保債権額を6350万円とする抵当権が設定されており(甲3),これは,1(1)の土地の評価額(平成17年度の固定資産税評価額)5212万9340円(甲42の1)を超えるから,結局,1(1)の土地は,オーバーローン不動産として0円として評価すべきことになる。
2) 1(5)ないし(7)の土地の評価額
【原告】
別紙1の遺留分侵害額計算表の原告主張額欄のとおりである。
【被告】 0円
極度額3億0500万円,債務者被告,根抵当権者・株式会社東京三菱銀行,共同担保目録(や)第3788号の根抵当権(甲7ないし9,なお,乙49参照)の被担保債権額(相続開始当時)は,2億3793万5189円(乙48)であり,これは,共同担保に係る抵当権の設定されている,1(5)ないし(7)の土地及び世田谷区(以下略)○○○○番○及び○○他,家屋番号○○○○番○の建物の評価額合計2億1475万4940円(甲43ないし45,乙50)を超えるから,これらの不動産の評価は,0円となる。
3) 1(9)及び(10)の土地並びに2(3)の建物の評価額
【原告】
別紙1の遺留分侵害額計算表の原告主張額欄のとおりである。
【被告】 0円
債権額2億3000万円,損害金年14%,債務者・被告,抵当権者・三銀保証キャピタル株式会社,共同担保目録(の)第7361−901号の抵当権(甲14ないし16参照)の被担保債権額(相続開始当時)は,1億3395万1199円であり(乙51),これは,共同担保に係る抵当権の設定されている,1(9)及び(10)の土地並びに2(3)の建物,×××○丁目○○○番○○の土地及び×××○丁目○○○番○○の建物の評価額合計9404万0652円(甲47,48,50,乙52,54)を超えるから,これらの不動産の評価は,0円となる。
(特別受益)
4) 1(1)の土地の借地権の評価額
【原告】 625万5520円
1(1)の土地についての借地権の準共有持分割合は,△△△マンションの共有持分割合と同様の原告2割,F8割であるから,同土地に設定された借地権の評価額は,その2割に相当する金額とすべきである。そうすると,5212万9340円(甲42の1)に借地割合0.6を乗じ,さらに,共有持分割合0.2を乗じると,625万5520円となる。
【被告】 0円
前記1)の被告の主張のとおり,1(1)の土地を更地として評価すべきである以上,原告が有する借地権の評価は問題とはならないが,原告主張のように,借地権の準共有持分割合をその地上建物である△△△マンションの共有持分割合で決することに合理的根拠はない。
5) 1(1)の土地の抵当権設定の評価額
【原告】 0円
0円と評価すべきである。
【被告】 5212万9340円
前記1)の被告の主張のとおり,1(1)の土地に設定されている抵当権の被担保債権額は,6350万円であり,これは,1(1)の土地の評価額5212万9340円を超えているところ,その連帯債務者は,原告及びFであり,原告は,被担保債権全額について債務を負う以上,同土地に設定された抵当権は,同土地全体の価値を把握しており,原告は,1(1)の土地の抵当権設定について,その土地の評価額相当の利益を受けているというべきである。
したがって,上記に関する原告の特別受益額は,5212万9340円全額となる。
6) 被告が支払を受けた生命保険金(別紙贈与財産目録記載2)の特別受益性
【原告】 2250万6418円
別紙贈与財産目録記載2の生命保険金は,一時払の変額個人年金保険であり,一般の生命保険のように,保険金受取人の生活保障のためのものではない。Aの合理的意思としても,上記保険金を被告に取得させようとしたものではなく,単に相続税対策の方策としてなされたものであり,このことに,上記生命保険の保険料2000万円が,Aの預金から支払われていること(争いがない。)も併せ考慮すると,上記生命保険金は,Aの遺産に属するものというべきである。被告は,自らの子3名(B,C及びD)をAの養子とし,被告側の法定相続割合を増やし,本件遺産を独占していると評価し得るような状態であるから,保険金受取人である被告と原告との間で生じる不公平は,民法903条の趣旨に照らして到底是認することができない著しいものであると評価すべき特段の事情(最決平16.10.29民集58巻7号1979頁参照)があるというべきである。
【被告】 0円
上記生命保険金は,法的には,受取人である被告の固有財産であり,特別受益には,当たらないし,本件では,原告が主張する特段の事情も存しない。
7) 被告により引き出された預金のうち,特別受益となる金額
【原告】 5118万8282円
平成14年9月11日から平成17年6月10日(A死亡日)までの間に,被告によって引き下ろされた預金合計7859万3371円のうち,被告において,その使途を特定し,合理的と考えられる2709万7959円(上記6)の生命保険の保険料2000万円に,乙2ないし乙5の金額の合計額)を除いた5149万5412円は,いわば使途不明金であり,その全額を被告の特別受益と考えるべきである。なお,上記預金の引き出し期間が平成14年から平成17年にまたがるので,上記特別受益を平成14年の生前贈与と見て,平成17年度を100とした場合の平成14年の消費者物価指数100.6(甲51)で引き直すと(51,495,412×100/100.6=51,188,282(円未満切捨て)),別紙1の遺留分侵害額計算表の原告主張額欄のとおり,5118万8282円となる。
【被告】 2244万3968円
使途不明金とされる7668万0032円のうち,使途が明確な5351万1400円(これは,葬儀関連費用,所得税・固定資産税等の税金,火災保険料等の保険料,NHK受信料,電気代等の光熱費,食費等の支出であり,被告がAの委任又はAのための事務管理により支出したものであり,使途は明確である。)及び被告の固有財産(被告の所有不動産からの家賃収入分である。)59万円を差し引いた2257万8632円が,被告の特別受益と考えるべきである。なお,上記特別受益を原告主張の方法と同様の方法で引き直すと,別紙1の遺留分侵害額計算表の被告主張額欄のとおり,2244万3968円となる。
8) 被告の抵当権設定に係る特別受益となる金額
【原告】 0円
0円とすべきである。
【被告】
別紙1の遺留分侵害額計算表の被告主張額欄のとおりである。
(消極財産)
9) 被告主張の保証金の評価額
【原告】 0円
下記被告の主張は,争う。
【被告】 2533万9012円
Aの債務として,別紙贈与財産目録記載1の◇◇ビル1階の賃借人株式会社Gに対する保証金返還債務3269万5500円が存在する(乙43)。契約期間満了(平成21年12月9日・乙53)により,保証金返還債務が発生すると仮定し,中間利息控除を年5%で計算すると,2533万9012円(相続開始時である平成17年6月10日から上記平成21年12月9日までの約4年半の22.5%(5(%)×4.5(年)=22.5(%))を100%から引いた77.5%を上記3269万5500円に乗じた金額)となる(円未満切捨て)。
(原告の特別受益額)
10) 原告の特別受益額
【原告】 1668万1388円
原告の特別受益額は,別紙1の遺留分侵害額計算表の原告主張額欄のとおりである。
なお,1(1)の土地に対する抵当権設定による原告の特別受益を考慮するとしても,1(1)の土地に設定されている被担保債権に係る債務は,Fとの連帯債務であり,かつ,その負担割合は,地上建物(△△△マンション)の共有持分割合である5分の1に過ぎないから,1042万5868円(52,129,340×1/5=10,425,868)となる(これに,前記4)の1(1)の土地の借地権の評価額625万5520円を加えると,1668万1388円になる。)。
【被告】 5212万9340円
原告の特別受益額は,別紙1の遺留分侵害額計算表の被告主張額欄のとおり,1(1)の土地に対する抵当権設定による原告の特別受益額5212万9340円である(前記1)の被告の主張のとおり,同土地を底地としてではなく,更地として評価すべきである以上,同土地の借地権相当額は特別受益に該当しない。)。
なお,上記の1(1)の土地に対する抵当権設定の評価額は,原告が主張する本件土地に関する借地権の存否によって左右されないというべきである。上記借地権がなかったとすると,1(1)の土地の抵当権の実行によって,同土地上の△△△マンションは,同土地の占有権原なく存立することになるため,同土地は更地評価されるべきであり,その土地の価値を把握している上記抵当権設定の評価額も,同土地の更地評価額となる。
他方で,△△△マンションにも,抵当権(上記抵当権と共同抵当権の関係に立つ。)が設定されており,一括競売の結果,同一人が上記土地建物を取得することとなり,上記借地権は,混同により消滅する。つまり,競落人は,利用権の制限のない土地を取得することができるので,上記抵当権設定の評価額も,同土地の更地評価額となる。
以上のとおり,上記の1(1)の土地に対する抵当権設定の評価額は,原告が主張する本件土地に関する借地権の存否によって左右されないのである。
(原告の遺留分侵害額)
11) 原告が本件遺言によって遺留分の侵害を受けたといえるのか,また,その侵害額
【原告】 1814万2450円
原告の遺留分侵害額は,別紙1の遺留分侵害額計算表の原告主張額欄のとおり,1814万2450円である。
【被告】 0円
原告の遺留分侵害額は,別紙1の遺留分侵害額計算表の被告主張額欄のとおり,−2264万8323円となり,被告が,原告に対して,支払うべき価額弁償金はない。
第3 争点に対する裁判所の判断
以下の争点に対する判断においては,価額弁償請求の基準時として,当事者間に争いがない,Aの相続開始時である平成17年の固定資産評価額を基準として(第21回弁論準備手続調書参照),検討することとする。
1 1(1)の土地の評価額
この点,原告は,1(1)の土地には,Aを賃貸人,原告及びFを借地人とする借地権が設定されているから,底地権として評価すべきであると主張する。
確かに,甲24(土地賃貸借契約書)の真正な成立については,その書面の体裁(公証人役場の確定日付が付されている。)及び内容並びに証拠(甲35の1・2,原告)によって,これを認めることができる。そうすると,特段の事情がない限り,甲24(土地賃貸借契約の締結に関しては,いわゆる処分証書である。)によって,その内容どおりの契約を認めることができ,Aと原告及びFとの間で借地契約(甲24の第1条には,「居住用賃貸マンションの建設を目的として貸借する」との建物所有目的の記載がある。)の締結を認めることができる。このことは,上記当事者が,親族であり(争いがない。),その間で,権利金の授受がなされていないこと(弁論の全趣旨),甲24は,住宅金融公庫(当時)から建物建築資金の借入れを行うために作成されたものであること(原告)を考慮しても,左右されず,このほか,上記認定を左右する特段の事情は見当たらない。
したがって,1(1)の土地には,Aを賃貸人,原告及びFを借地人とする借地権が設定されているものと認めるのが相当である。
しかしながら,1(1)の土地には,原告及びFを連帯債務者とする被担保債権額を6350万円とする抵当権が設定されており(甲3),これは,1(1)の土地の評価額(平成17年度の固定資産税評価額)5212万9340円(甲42の1)を超えるから,結局,1(1)の土地は,オーバーローン不動産として0円として評価するのが相当である(上記被担保債権額は,上記抵当権の設定された平成13年当時の金額であり,Aの相続開始時である平成17年には,弁済によって上記金額は,減少している可能性があるが,この点は,原告において主張・立証すべき事項であると考える。本件では,その主張・立証はない。)。
この点,原告は,共有不動産に抵当権が設定されている場合には,不動産の評価から被担保債権額を控除して評価すべきではない旨主張する。しかしながら,遺留分の算定は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額が基準となるべきところ(民法1029条1項),相続開始時に,抵当権付き不動産であれば,もともと抵当権の負担のある不動産として相続されたものであるから,抵当権の被担保債権額を控除するのが遺留分の算定としては,合理的であり,そのことで,遺留分権利者の相続に対する期待権が不当に侵害されるとはいえない。他方で,実質的に考えても,抵当権付き不動産について,その被担保債権額を控除しないとすれば,将来の抵当権実行のリスクを一方的に他の共同相続人に負担させることになり,相当ではない。したがって,上記原告の主張は,採用し得ない。
よって,1(1)の土地は,オーバーローン不動産として0円として評価するのが相当である。
2 1(5)ないし(7)の土地の評価額
前示のとおり,抵当権付き不動産については,不動産の評価から当該抵当権の被担保債権額を控除して評価すべきである。証拠(甲7ないし9,43ないし45,乙48ないし50)及び弁論の全趣旨によれば,前記第2の3,2)の被告の主張のとおりであると認められる。
よって,いずれの不動産も0円と評価すべきである。
3 1(9)及び(10)の土地並びに2(3)の建物の評価額
前示のとおり,抵当権付き不動産については,不動産の評価から当該抵当権の被担保債権額を控除して評価すべきである。証拠(甲14ないし16,47,48,50,乙51,52,54)及び弁論の全趣旨によれば,前記第2の3,3)の被告の主張のとおり(ただし,9404万0652円を9218万0102円と読み替える。けだし,2(3)の建物のAの持分は,2分の1であるから,その評価額372万1100円(甲50)を2で除した186万0550円を加算すべきだからである。)であると認められる。
よって,いずれの不動産も0円と評価すべきである。
4 特別受益−1(1)の土地の借地権の評価額及び1(1)の土地の抵当権設定の評価額
1(1)の土地に,原告及びFがAから借地権の設定を受けたことは,(その評価額をどのように解するのかは別として)Aから原告への特別受益に該当すると解する余地がある。その一方で,Aが,原告及びFの借入れのため,A所有の1(1)の土地に抵当権の設定(物上保証)をしたことは,Aから原告への特別受益に該当すると解する余地がある。そこで,検討するに,上記の借地権は,そもそも,1(1)の土地上の建物(△△△マンション)の建設資金を住宅金融公庫から借り入れるために設定されたものであり,その後,その借入れのため,1(1)の土地に抵当権が設定されたという事実経過(甲3,原告)に照らすと,Aの原告に対する物上保証が特別受益に該当するのであれば,上記借地権の設定を独立してAから原告への特別受益と評価すべきではない。
さて,Aからの原告に対する物上保証が特別受益に該当するのか,また,その評価額について検討するに,被相続人から相続人への物上保証の設定は,贈与に準じて特別受益に該当すると解するのが相当である。そして,前認定のとおり,1(1)の土地に設定されている抵当権の被担保債権額は,6350万円であり,これは,1(1)の土地の評価額5212万9340円を超えているのであるから,原告は,1(1)の土地の価値を上限として,被担保債権額につき,被相続人から特別受益を受けたものと解するのが相当である(なお,平成13年当時,1(1)の土地が,オーバーローン不動産であったとは考えられないから,その被担保債権額である6350万円を,平成17年度を100とした場合の平成13年の消費者物価指数101.5(甲51)で引き直すと(63,500,000×100/101.5=62,561,576(円未満切捨て)),6256万1576円となるが,被告主張額の限度で認めることとする。)。
ところで,1(1)の土地に設定されている抵当権の被担保債権に係る債務者は,原告とF(連帯債務者)である(甲3)。1(1)の土地に設定された抵当権は,いうまでもなく住宅金融公庫の被担保債権を担保するためのものであり,その被担保債権全額について,原告は,上記のとおり,Fと連帯して債務を負う以上,同土地に設定された抵当権によって,被担保債権相当額(ただし,1(1)の土地の評価額を上限とする額)の利益を受けたものと認められる。このように解しても,Fと原告は,生計を一にする夫婦であり,FがAから受けた抵当権設定による利益についても,Aから原告への贈与と同視することができるので,何ら不当ではない。
したがって,上記に関する原告の特別受益額は,5212万9340円全額となる(1(1)の土地に,原告及びFがAから借地権の設定を受けたことは,独立してAから原告への特別受益に該当すると解すべきではなく,0円と評価すべきである。)。
この点,原告は,1(1)の土地に設定されている被担保債権に係る債務者は,Fとの連帯債務であり,かつ,その負担割合は,地上建物(△△△マンション)の共有持分割合である5分の1に過ぎない旨主張する。しかしながら,原告は,Aから抵当権の設定を受けることで初めて,住宅金融公庫から借入れを受けることができたものであり,その返済については,連帯債務者として被担保債権全額の支払義務を負う立場にある以上,原告が受けた利益がその5分の1であるということはあり得ず,上記原告の主張は,採用し得ない。
よって,Aから原告に対して5212万9340円相当額の贈与があったものとして,同金額を基礎財産の価額に算入すべきである。
5 被告の抵当権設定に係る特別受益となる金額
ここでは,被告が支払を受けた生命保険金(別紙贈与財産目録記載2)の特別受益性及び被告により引き出された預金の特別受益額についての判断は,ひとまず措いて,被告の抵当権設定に係る特別受益となる金額について検討を加えることとする。
別紙1の遺留分侵害額計算表の「証拠(争いがない事実)」欄記載の理由により,1(5)ないし(7),(9),(10)の土地及び2(3)の建物の各抵当権設定は,いずれも,被告に対する特別受益となるものであり,その額は,被告主張額のとおりであると認める。
6 消極財産−被告主張の保証金の評価額
保証金(敷金を含む。)返還債務は,遺留分の算定において,控除の対象となる消極財産に含まれるものと解するのが相当である。
ところで,保証金の額は,乙43によると,3269万5500円であると認められる(賃借人の債務不履行がないものと仮定する。)。そして,賃借人との賃貸借契約の賃貸期間は,平成21年12月9日までであり(乙53),仮に,この時点で,契約が終了したとすると,保証金(ここでは,敷金の返還時期についても,保証金のそれと同様に考える。)の約定上の返還時期は,明渡完了(ここでは,契約終了と同時に明渡しが完了したものと仮定する。)から6か月以内とされているから(第7条の(3)),平成22年6月9日となる(平成17年6月9日から平成22年6月10日までは,5年と1日であるが,ここでは,近似的に5年として計算する。)。上記3269万5500円をAの相続開始時である平成17年6月10日現在の価値に引き直す必要があるところ,ホフマン式単利計算法(X:現在価値,A:引直しの対象金額,n:年,r:年利率(民事法定利率年5%))は,次のとおりである(顕著な事実)。
(計算式)
X=A/(1+nr)
上記数字を上記式に代入すると,次のとおりとなる。
32,695,500/(1+5×0.05)≒26,156,400
被告の主張額は,2533万9012円であり,上記2615万6400円より少ない金額であるから,被告主張額をもって,保証金返還債務の評価額であると認める。
7 原告の特別受益額
前示のとおり,5212万9340円であると認めるのが相当である。
8 原告の遺留分侵害額
以上の認定及び当事者間に争いがない遺産及びその評価額を前提とし,かつ,前記で判断を留保した,被告が支払を受けた生命保険金の特別受益性及び被告により引き出された預金の特別受益額について,原告の主張額のとおりであると仮定して,遺留分侵害額を試算してみると,別紙4の遺留分侵害額計算表(裁判所試算額)のとおり,−1752万3250円となり、被告が,原告に対して,支払うべき価額弁償金はないことになる。
そうすると,被告が支払を受けた生命保険金の特別受益性及び被告により引き出された預金の特別受益額について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないことに帰する。








