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弁護士中山知行(神奈川県横浜市泉区)(横浜弁護士会所属) このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-05-06 労働者の降格処分が認められた事例 このエントリーを含むブックマーク このエントリーのブックマークコメント

労働者の降格処分が懲戒処分ではなく,人事権の行使としてなされた事例につき,使用者裁量権に逸脱・濫用はないとされた事例です。

なお,

一般論としては,原審判決が言うように,企業は,人員の配置や職位の決定について裁量を有するが,その裁量は権利濫用法理に服し合理的な理由と社会的相当性が求められるところ,人事権の行使あるいは業務命令等に基づく降格処分の権利濫用性判断は,「処分をするための企業の業務上の必要性と,従業員の受ける不利益の程度とを比較衡量して決定すベきである。また,企業の側に一定の必要性があっても,差別的取扱いや嫌がらせなどの不当な目的をもって行われる場合には,権利濫用に当たる」ということができます。

控訴審も,一般論としては,「人事権の行使については使用者に広範な裁量権が認められるべきところ,本件降格処分に裁量権の逸脱・濫用があるか否かの判断は,使用者側の業務上,組織上の必要性の有無・程度,労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か,労働者がそれにより被る不利益の性質・程度等の諸点を総合してなされるべきである」としています。


ところで,

人事権の行使として行われる降格には,職位を下位の職位に引き下げるものと,給与の減額を伴う職能資格を引き下げるものとに区別される。

両者は法的性質が異なるから,降格の適法性を判断するに当たっては,区別して論じる必要がある(学校法人聖望学園ほか事件・東京地判平21.4.27労判986号28頁)。

職位の引下げを意味する降格については,労働者の適性や能力の評価に基づいて,企業組織の中でどのように配置するかという使用者に委ねられた裁量判断に属する事柄であって,権利の濫用に当たらないかぎり違法とはならないと解されている(エクイタブル生命保険事件・東京地決平2.4.27労判565号79頁,バンク オブ アメリカ イリノイ事件・東京地判平7.12.4労判685号17頁)。この点につき,労働者の適性や能力を評価して企業組織の中でそれに見合った職務や職位に配置する人事権は,労働契約上予定されていると解されている(日本レストランシステム事件・大阪地判平16.1.23労判873号59頁)。裁量の逸脱・濫用は,「業務上・組織上の必要性の有無・程度,労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか,労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点」を考慮して判断すベきとされる(前掲・バンク オブ アメリカ イリノイ事件判決)。

他方,職能資格を低下させるような給与の減額を伴う降格については,労働契約の重要な部分の変更であるから,労働者の合意や就業規則上の合理的な規定など,契約上の根拠が必要であるアーク証券〔本訴〕事件・東京地判平12.1.31労判785号45頁,前掲・学校法人聖望学園ほか事件判決,スリムビューテイハウス事件・東京地判平20.2.29労判968号124頁など)。

契約・就業規則等の根拠がある場合であっても,当該契約の内容に沿った措置が採られる必要があり,裁量権の逸脱・濫用に当たらないかどうかが問題になる(エーシーニールセンコーポレーション事件・東京地判平16.3.31労判873号33頁,明治ドレスナー・アセットマネジメント事件・東京地判平18.9.29労判930号56頁,マナック事件・広島高判平13.5.23労判811号21頁)。

労働判例996号13頁



東京高等裁判所平成21年11月4日判決


【判示事項】

1 控訴人(一審被告社団Yの副課長であった被控訴人(一審原告)Xに対し,不適切な窓口対応が繰り返されたことなどからなされた係長への降格処分につき,懲戒処分ではなく人事権の行使として行われたものであり,人事権の行使については使用者に広範な裁量権が認められるべきところ,本件降格処分に裁量権の逸脱・濫用があるか否かの判断は,使用者側の業務上,組織上の必要性の有無・程度,労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か,労働者がそれにより被る不利益の性質・程度等の諸点を総合してなされるべきであるとされ,ただしそれが不当労働行為意思に基づく場合は,不利益取扱いとして無効になるとされた例

2 窓口対応や電話対応について会員や職員から複数の苦情が寄せられたことが事実として認定され,本件事情を総合すれば,本件降格処分にYの裁量権逸脱・濫用は認められず,また当該処分には十分な根拠があるから不当労働行為意思からなされたものともいえないとして,Yの控訴が認容され,上記事実が認められない等として本件降格処分を無効とし,Xの副課長としての地位確認,役職手当差額請求,慰謝料請求を認容した一審判決が取り消された例

       主   文

 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

 2 上記取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

       事実及び理由

中略

 第2 事案の概要

1 本件は,被控訴人が,被控訴人は平成18年10月18日付けで控訴人から控訴人足立支所業務課副課長から同業務課係長に任ずるとの命令を受けた(以下「本件降格処分」という。)ところ,本件降格処分は不当労働行為であって無効であるなどと主張して,本件降格処分の無効確認,控訴人足立支所業務課副課長たる雇用契約上の地位にあることの確認,本件降格処分により減額された役職手当の差額として平成18年11月から本判決確定まで毎月25日限り3862円の支払,不法行為による損害賠償として慰謝料300万円及びこれに対する不法行為後の日である平成19年5月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 原判決は,本件降格処分は無効であるとして,地位確認,役職手当の差額請求,慰謝料30万円及びこれに対する平成19年5月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で被控訴人の請求を認容し,本件降格処分の無効確認請求に係る訴えを却下し,その余の請求を棄却したところ,控訴人が控訴し,控訴人敗訴部分の取消しと取消しに係る被控訴人の請求部分の棄却を求めるものである。したがって,当審では,控訴人敗訴部分のみが審理の対象となる。

2 本件における争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,下記3に当事者の当審における主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1ないし3(原判決2頁20行目から12頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。〈以下,原判決を引用−編注〉

「1 争いのない事実及び弁論の全趣旨から明らかな事実(文中では「争いのない事実」と表記する。)

(1) 被控訴人は,控訴人の従業員であり,個人加盟の労働組合である訴外全統一労働組合(以下「全統一」という。)に所属し,副中央執行委員長である。控訴人の同組合の従業員は,同組合の職場分会である東整振分会(以下「分会」という。)を構成している(以下,全統一は個人加盟の労働組合であるので,分会加盟の控訴人従業員個人の行為となる場合でも,表現簡略化のため,「分会は」と表記することがある。)。

 控訴人は,国土交通省関東運輸局管轄の公益社団法人である。

(2) 控訴人と分会は,例年,分会所属の組合員賃上げについては,団体交渉において協議して合意を形成し,決定していた。平成17年4月以降の賃上げ及び夏季賞与の決定について,全体として容易に合意に達しなかった。そこで全統一及び分会は,控訴人に対し,控訴人代表者出席の団体交渉を要求し,抗議を申し入れるなどし,さらに,平成17年11月30日,当時の控訴人代表者Pの経営する控訴人の会員会社訴外Q販売株式会社(以下「Q販売」という。)事務所に赴いて昇給及び賞与の支払等を求める申入れを行った。

(3) 同年12月2日,控訴人は,分会に対し,上記(2)の同年11月30日の抗議行動を,「多衆して押しかけ,不法に侵入し会長の面会強要と強談威迫行為を行い,もって同社の業務と共に振興会の業務を違法に妨害した」とする「抗議・警告文」を送付した。

 控訴人は,上記申入れ行動に参加していた被控訴人ほかの組合員に対し,抗議・警告し,他の4名に対しては同月6日,被控訴人に対しては同月22日,弁明書の提出を求める業務指示書を交付しようとした。被控訴人がこれに応ぜず,全統一及び分会がこの指示を不当労働行為であると抗議すると,控訴人は,弁明の権利を放棄したものとみなすと通告した。

(4) 控訴人は,被控訴人を副課長から係長職へ降格して当時勤務中の足立支所副課長から同支所係長へ降格する案を,全統一及び分会に対して提示した。全統一及び分会がこの案を不当労働行為であると抗議したが,控訴人は降格を行った(以下「本件降格」という。)。

2 争点

(1) 本件降格は相当な理由を有するか(争点1)

(2) 控訴人の被控訴人に対する不法行為の成否(争点2)

3 当事者の主張

(1) 争点1(本件降格は相当な理由を有するか)について

(控訴人の主張)

 本件降格は,処分ではなく,適正な人事権の行使として行ったものであり,社会通念上相当な理由がある。

 ア 降格に至る経緯

  (ア) 平成17年2月24日,控訴人は,財団法人センターから,「被控訴人が電話で車台番号を教えるので登録番号を教えてほしいと問合せてきたので,車台番号から登録番号を確認することができない旨回答したところ,被控訴人は怒って一方的に電話を切るという極めて遺憾な対応をされた。」旨の苦情を受けた。

  (イ) 同年8月19日,控訴人は,足立支部役員会において足立支部E副支部長から,「本年8月上旬ころ,街頭検査の準備のために街頭検査の応援者の名簿を足立支所にファクスして照会したところ,被控訴人から『いいんじゃないの。』という侮辱的言動を受けた。」旨の苦情を受けた。

  (ウ) 控訴人は,江戸川支部D職員から,「同月22日,事業場の移転に伴う変更届の提出に際し足立支所へ照会したら,被控訴人から『真ん中はあんたのとこで書くところじゃないんだよ。そんなことわからないのか,何年事務局やってるんだ。』等と侮辱的言動を受けた」旨苦情を受けた。

  (エ) 同月31日,控訴人は,墨田支部F職員から,「足立支所担当者と電話連絡の上,書留郵送した自動車整備士講習の申込みについて,被控訴人から電話で『なぜ送った。』『担当者はいない。』『休みだよ。』『知らねえよ。』等,侮辱的脅迫的言動を受けた。」旨の苦情を受けた。

  (オ) 同年9月1日,控訴人は,墨田支部会員J自動車から,「自動車整備士講習の申込みのために足立支所に出向いた際に不明な記入箇所を被控訴人に対して質問したところ,被控訴人は『こことこことこう書け。』と言って奥に入ってしまい出てこなくなり,20分ほど経過したころに不機嫌な顔で戻ってきたかと思うと,被控訴人から『1つでも欠けていたら受付ができない。』等と侮辱的言動を受けた。」旨の苦情を受けた。

  (カ) 同月22日,足立ブロック正副ブロック長会議において,被控訴人の電話対応及び窓口業務について,上記の支部だけでなくその他の支部会員など多方面からの苦情が寄せられたことから,この点をどう対処すべきかが議題に挙がり,まず,足立支所長から被控訴人に対して注意をして様子を見ることとし,その後も被控訴人の態度に変化が見られない場合には,段階を踏むということになった。

  (キ) 同月26日,足立支所M支所長が被控訴人に対して,別室において,被控訴人の窓口及び電話対応の悪さに対する苦情等について注意したところ,被控訴人は支所長に対し,「迷惑をかけて申し訳ない。」と謝罪した。

  (ク) 同年12月1日,控訴人は,足立支部L副支部長から,「翌日の会議準備のため足立支所にこれから行きたいと電話連絡したところ,電話に出た被控訴人から,『もういないよ。4時でおしまい。』と侮辱的言動を受けた。」旨の苦情を受けた。

  (ケ) 同月6日,控訴人は,被控訴人に対し,Q販売に多衆して押しかけた行動についての弁明書を同月9日までに提出するよう求める業務指示書を手交しようとしたが,被控訴人は当該指示書の受領を拒否した。

  (コ) 同月13日,控訴人は,被控訴人に対し,Q販売に押しかけた行動についての弁明書を同月16日までに提出するよう求める業務指示書を連絡便で送付した。

  (サ) 同月20日,足立ブロック正副ブロック長会議において,「指定部会長が,先日4時半ころ,書類が不足だったので足立支所に電話したところ,被控訴人から『もう終わりました。』と言われた。」旨の報告があった。

  (シ) 同月22日,控訴人は,被控訴人に対し,Q販売に押しかけた行動についての弁明書を同月28日までに提出するよう求め,同年11月30日の被控訴人の年次有給休暇申請を受理できない旨を付言した「業務指示書」を,足立支所長を通じて手交した。

  (ス) 同年12月28日,被控訴人は,控訴人に対して,業務指示書ヘの質問書を提出した。

  (セ) 平成18年2月15日,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人の窓口対応等について会員その他から寄せられた苦情等についての弁明書を同月22日までに提出するように求める業務指示書を足立支所長を通じて手交した。

  (ソ) 同月28日,控訴人は,被控訴人に対し,上記苦情等についての弁明書を同年3月7日までに提出するように求める業務指示書を足立支所長を通じて再度手交した。

  (タ) 同月7日,被控訴人は,控訴人に対して,同年2月28日付け業務指示書について,「いつ控訴人がどのような弁明書の提出を求めたのかの説明がなければ回答しない」旨の書面を提出した。

  (チ) 同年3月15日,控訴人は,平成17年12月22日付け及び平成18年2月15日付けで行った業務指示について,被控訴人が当を得ない主張を繰り返し,弁明書を提出しないことから,被控訴人に対して,念のため,同一内容の「業務指示書」を手交し,同年3月22日までに弁明書を提出するよう求めた。

  (ツ) 同月22日,被控訴人は,控訴人に対して,「仮名に対する事実確認はできない」旨の業務指示についての返答書を提出した。なお,当該業務指示書には,日時,場所,具体的言動等を特定した苦情内容が記載されており,申告者についても実名は記載していないものの,担当部署,役職等から十分特定可能であった。

  (テ) 同月31日,控訴人は,被控訴人に対して,「被控訴人が弁明の権利を放棄したものとみなす」旨の通知書を足立支所長を通じて手交した。

  (ト) 同年6月26日,控訴人は,東整振分会のR分会長及びS分会執行委員に対し,被控訴人の足立支所副課長から足立支所係長への降格等を記載した組合員の人事異動案を文書で提示した。

 イ 本件降格処分の正当性・合理性

  (ア) 以上のとおり,被控訴人は,控訴人の業務遂行に関して,平成17年2月から同年9月までの間に,他の支所や組合員からその対応や適切な業務処理を行わなかったことで多くの苦情が寄せられた。そこで,控訴人において注意を促したところ,被控訴人は1度は申し訳ないと謝罪の態度を示したが,その後,上記(ク)(サ)のとおり,反省をしているとは思えない言動が認められたため,被控訴人の窓口対応等の態度について弁明を求める業務指示を行った。しかし,被控訴人は業務指示に従わずさらに控訴人から重ねて弁明の機会を与えたにもかかわらず,弁明をしようとせず,業務遂行に対する反省の態度が認められなかったので,控訴人は,上記ア(ト)のとおり,平成18年6月に本件降格を決定した。

  (イ) 本件降格は,その職務態度が副課長にふさわしくないとの判断に基づくものである。被控訴人は,控訴人の最大の目的である会員に対し,サービスを著しく欠いた対応をし,まず足立ブロックという会員相互の集まりでその勤務態度が問題となった。控訴人はいったん注意をし,その後の被控訴人の対応を見て処遇を決めることにしたところ,被控訴人がさらに同様な勤務態度を取ったので,本来懲戒処分相当であるが,被控訴人にとって最も穏やかな人事権の行使である降格を行ったものである。本件降格は,以上の経緯を経て被控訴人の業務遂行能力の欠如に対して行われたもので,その理由の合理性,手続の正当性を備えた正当な人事権の行使である。

(被控訴人の主張)

 本件降格は,理由のない,違法・無効なものである。

 ア Q販売への抗議行動の件

  (ア) 正当かつ適法な組合活動であること

 控訴人は,被控訴人に対して前記争いのない事実(3)の業務指示書(〈証拠略〉)で,同(2)のQ販売への抗議行動に対する弁明書の提出を要求した。しかし,当該抗議行動は,当時の控訴人の代表者会長の勤務先に対し(代表者会長は,控訴人事務所に常勤しているわけではない。),全統一及び分会として抗議するために,組合活動として集団で抗議に出向いたものである。したがって,適法な組合活動として行われた行為について,参加した個人に対して事実関係の説明や釈明を求め,その責任を問うのは,労組法1条2項,8条に照らしても,違法・不当である。

  (イ) 業務妨害の結果を生じていないこと

 当日の抗議行動は時間にして40分程度であり,当時,Q販売から抗議行動への中止の要請も,事務所内への立入禁止の通告も受けた事実もない。これまでに,全統一及び分会が同社から直接に抗議や苦情を受けた事実もない。

 イ Iセンターの件(控訴人の主張ア(ア))

 被控訴人はこのようなやりとりをしたことはない。控訴人が証拠とするのは,乙11の電子メールだけであるが,これは差出人も不明であり,その特定は控訴人が拒否している。電話の相手方を被控訴人と判断した根拠は何も記載されていない。当時,この電子メールの記載内容について,被控訴人が控訴人から事実関係の確認はおろか,注意・指導も受けたことがないことは争いがない。控訴人は,電話の相手方が被控訴人ではないことを知っていたか,あるいはそのような電話自体がなかったことを知っていた。

 ウ 足立支部副支部長の件(控訴人の主張ア(イ))

 被控訴人はこのような発言をしていない。この点に関する証拠は,足立ブロック正副ブロック長会議概要(〈証拠略〉)の,「E副支部長から被控訴人の電話応対が悪いとの苦情があった」との記述関係者の陳述書であるが,同副支部長が電話をかけた要件という街頭検査について,被控訴人は足立支所に着任して以来,これに関する業務を担当したことがなく,これに関する問合せを受けたとしても,勝手に自分の判断で「いいんじゃないの」などと返答することが考えられない。被控訴人の記憶では,「担当者が不在なので渡しておく。」と返答しており,E副支部長が記憶を混同しているか,他の人物の言動との勘違いである。また,電話でのやり取りの一部分だけを切り取って,「いいんじゃないの」という発言がされた文脈を離れて,会話の一方当事者が抱いた感情的不快感を取り上げて,相手を注意・問責するというのは,それ自体不合理であり,処分理由たり得ない。

 エ 江戸川支部D職員の件(控訴人の主張ア(ウ))

 被控訴人は,支部の変更届の用紙についてD氏から問合せがあり,押印の箇所を教えたことはあるが,D氏が「私は昔からここに押している。」と言い張り,間違った箇所を主張したので,「昔から変わっていない。」と正しい押印箇所を教えた。しかし,D氏が問題にしているようなやりとりはなかった。そもそも,控訴人の主張では,会員企業の所属支部の変更に伴う変更届(〈証拠略〉)について,現に所属している支部と移動先の支部名とを同じに記載した変更届が提出された際,担当のD氏が「江戸川支部での受付方の確認をしようと足立支所に電話した。」というが,一見して明らかに誤記載であることが理解できるから,江戸川支部の上司や同僚ではなく,足立支所に電話で説明を求める理由がない。持参した会員企業に対して,適切な記載に修正するように指導すれば足りる。もともと,D氏は,20年以上も支部の事務員として勤務してきたベテランで,変更届のような一般的な書類の記載方法や意味がわからないことはあり得ない。

 また,注意を受けた側の,言い方がきつかったという一方的な言い分のみを根拠にして,これに対して全く被控訴人を注意・指導もしていないのに,処分をすることは不当である。

 オ 墨田支部F職員の件(控訴人の主張ア(エ))

 被控訴人はこのようなやりとりはしていない。講習申込みについては,案内(〈証拠略〉)に郵送による受付は行わない旨記載されている。被控訴人は,同職員に対して,郵送は認められていないので困る旨述べただけであり,同職員はこれを了解し,その後は郵送していない。控訴人の主張は被控訴人の言動を悪意で脚色し,誇張している。仮に控訴人主張の言動を前提としても,その内容自体,言葉遣いとしてぞんざいであるとか,礼儀をわきまえない,あるいは社会常識に欠ける失礼な言動とはいえても,相手を侮辱するとか脅迫するものではない。

 カ 墨田支部会員の件(控訴人の主張ア(オ))

 被控訴人はこのようなことは言っていないが,これも上記オ同様,言葉遣いとしてぞんざいであるとか,礼儀をわきまえない,あるいは社会常識に欠ける失礼な言動とはいえても,相手を侮辱するとか脅迫するものではない。

 キ 足立支部副支部長の件(控訴人の主張ア(キ))

 被控訴人は,同支部L副支部長からそのような電話を受けた事実がない。同副支部長は,他人の言動を被控訴人のものと間違えている可能性が高い。また,控訴人の主張を前提としても,上記オ同様に,言葉遣いとしてぞんざいであるとか,礼儀をわきまえない,あるいは社会常識に欠ける失礼な言動という程度のものにすぎない。

 ク 業務指示書の受領拒否の件

 控訴人は,平成17年12月6日又は7日に,被控訴人がM足立支所長から業務指示書を交付されながらその受領を拒否し,改めて同月22日に業務指示書を受領しながら指定期限までに弁明書を提出しなかったと主張する。しかし,被控訴人は,そのいずれの日にも業務指示書を交付されようとした事実自体がない。

(2) 争点2(控訴人の被控訴人に対する不法行為の成否)について

(被控訴人の主張)

 ア 本件降格は,控訴人のP会長の経営するQ販売への申入れ行動に対する報復として行われたものである。控訴人のG常務理事は,全統一及び分会が上記申入れ行動及び国土交通省に対しても抗議・申入れ行動を行ったことによって面子を汚されたとして,その報復として,行動参加者に対して業務指示書を乱発し,弁明書の提出を求め,その延長線上で,弁明書の提出拒否を理由として被控訴人に対し本件降格を行った。控訴人には,別組合として全国一般東京一般労働組合東整振都整商分会(以下「オアシス分会」という。)があり,同理事は,オアシス分会に肩入れする一方,分会に対しては激しい嫌悪感憎悪感情を抱いていて,そのため被控訴人への処分に固執しているのは明白である。

 イ 本件降格は上記のように,同理事が,被控訴人の組合活動を嫌悪し,被控訴人に対する個人的な憎悪感情の発露として行われたもので,その動機・目的自体が違法・不当である。そして,業務指示の根拠となっている被控訴人の具体的な行動もいずれも事実が認められず,内容に照らしても理由がない。被控訴人は,被控訴人に対する業務指示・弁明書の提出要求が組合活動に対する牽制・抑止手段として働くことを期待しつつこれを実行しており,これ自体不当労働行為であり,弁明書の提出拒否を理由とする本件降格も不当労働行為であり,人事権の濫用として不法行為に当たる。

 ウ 控訴人は,事実を歪曲して被控訴人を誹謗中傷した上,本件降格を行ったものであり,これら一連の行為はその全体が被控訴人に対する名誉権侵害及び不当労働行為の不法行為となる。これら不法行為により被控訴人が被った精神的損害を慰謝するための金額は300万円を下らない。

(控訴人の主張)

 ア 不当労働行為の不存在

  (ア) 全統一及び分会は不当労働行為の客体でないこと

 被控訴人は,本件降格を不当労働行為であると主張している。ところで,被控訴人は「全統一及び東整振分会が」控訴人に対して不当労働行為であるとの抗議をしたと主張するが,不当労働行為の客体は,全統一なのか分会なのか,あるいはその両方なのか明らかでない。加えて,分会は労組法上の保護適格を有する独自の団体なのかも明らかでないし,そもそも全統一は,控訴人との関係において,労組法所定の労働組合としての実質的な要件,手続的要件を具備していない。控訴人は,全統一との間ではもとより,分会構成員以外の全統一構成員と労働契約はもとより,直接にも間接にも使用従属関係を有したことはないからである。

  (イ) 不当労働行為意思の不存在

 本件降格は前記のとおり正当な控訴人の人事権の範囲内の処分であり,その目的は専ら企業の信用,名誉等企業秩序の回復にあったのであるから,被控訴人にとっても社会通念上の受忍限度内にあった。したがって,仮に本件降格が被控訴人にとって不利益であり,全統一に対する打撃であったとしても,控訴人の企業秩序の回復の必要性は明白かつ喫緊のものであったから,控訴人には企業運営上の合理的意思がありこそすれ,不当労働行為の意思は存在せず,その主観的な要件を欠く。

 イ このように,本件降格は正当な控訴人の人事権の範囲内の処分であり,不当労働行為も成立しないから,不法行為を構成することもない。」

〈以上,引用−編注〉

3 当事者の当審における主張

(1) 控訴人

 控訴人は,平成17年2月から同年12月にかけて控訴人に申し入れられた被控訴人の勤務態度に対する一連の苦情等について,被控訴人に注意して勤務態度の改善を求めたにもかかわらず,その後も被控訴人は勤務態度を改善することなく,被控訴人の勤務態度に対する苦情が相次いで控訴人に寄せられた。そこで,控訴人は,業務運営の適正化及び組織内部の秩序維持のため,被控訴人を窓口業務の責任者である副課長としての役職から係長に降格させたのであり,本件降格処分は適正手続の下で行われた正当な人事権の行使である。

(2) 被控訴人

 本件降格処分は,被控訴人が所属する組合が行った控訴人の会長と国土交通省ヘの抗議,申入れ行動を端緒として,これに対する報復措置として行われた一連の業務指示・弁明書の提出要求の延長線上のものであり,被控訴人に対する業務指示・弁明書の提出要求,とりわけ平成18年3月15日のものは数年以上前の事柄を問題にしている点において,正当性に乏しいものであり,このような業務指示は,業務命令の形式をとりつつ正当な組合活動に対する牽制・抑止手段としての効果を生じることを期待してこれを実行するものであることは明白である。このような業務指示は,それ自体が不当労働行為として違法であり,したがって,弁明書の提出拒否を口実とする本件降格処分もまた不当労働行為であって,人事権の濫用として不法行為に当たることは明白である。

 第3 当裁判所の判断

1 上記争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,当審におけるL証人の証言は,同人が自動車分解整備事業場を廃業して控訴人から退会しており,控訴人と現在何の利害関係もない者であることなどに照らし,全体として信用が置けるものである。また,乙3号証(議事録)の記載内容についても,当審におけるM証人の証言に照らし,概ね正確であると判断できるものである。

(1) 控訴人の組織及び業務の概要

 ア 控訴人は,国土交通省所管の社団法人で,自動車分解整備事業を行う会員のため,自動車分解整備事業の運営の改善に関して相談に応じたり,自動車分解整備に関する技術の向上のための研修講習会を開く,自動車整備士の養成と自動車整備技能登録試験を実施することなどをその主な業務とするものである。その会員は,東京都内に住所又は事業所を有し,控訴人の目的に賛同して入会した者であって,支部に所属して自動車分解整備事業を行うもの(正会員)のほか,賛助会員及び特別会員がおり(会員数約4700名),控訴人は,主として,これらの会員からの会費により運営されている。

 イ 控訴人の会員は,行政区単位とする地域支部34支部と整備事業の業態に応じた業態支部1支部に分かれてグループを形作っている。更に地域支部は国の自動車検査登録事務所ごとにブロックを形成している。

 控訴人の足立ブロックは,台東区墨田区荒川区江東区足立区葛飾区及び江戸川区の7支部(会員数約1300名)で構成されている。

 そして,各支部は,それぞれ支部事務所を設けて,1控訴人及びブロック事業への協力のほか,2会員の入退会の手続,3法令遵守に係る現地指導等の実施と協力,4各種研修講習の実施協力,5会員の親睦協調の促進等の事業を実施している。そして,うち18の支部では,支部独自に専従の事務員を雇用して,会員が控訴人の事業を利用するための利便に供している。特に足立ブロックの各支部では,すべてに専従の事務員を置いている。

(2) 控訴人の事務局の概要

 ア 控訴人の事務局は,東京都渋谷区本町の自動車整備教育会館に総務部,事業部及び教育部を置き(本部と呼称されている。),東京運輸支局と各自動車検査登録事務所の隣接地に支所を置いている。そして,支所では,本部の出先機関として,自動車分解整備事業場に関する相談受付,整備主任者等法令研修の申込みの受付,自動車整備士講習の申込みの受付などを行うほか,自動車検査登録に関係する自動車重量税等印紙の頒布自動車税の納税確認,検査予約の確認,軽二輪の届出の受付などを行っている。支所業務は,部長又は次長である支所長が統括し,課長又は副課長が次席者としてこれを補佐するという態勢が執られている。

 イ 控訴人の人事規程によると,控訴人における役職は,事務局長,部長,次長,課長,副課長,係長及び主任に分かれている。副課長は,係長以下を統括し,課長を補佐する役職である。職員の昇格,降格及び配置は専務理事が決定し,会長が任免するものとされている。なお,給与規程により,事務局長ないし係長については本給に一定率を乗じた金額である役職手当が支給されており,その率は課長が本給額の14%,副課長が13%,係長が12%などとなっている。この役職手当と本給を合算したものが基本給であり,基本給は賞与や退職金算定の基礎となる。ちなみに,被控訴人の本件降格処分当時の本給額の1%に相当する金額は3862円であった。

(3) 控訴人の足立支所の概要

 足立支所は,10名程度の人員が稼働し,トップは支所長で,その下に被控訴人が副課長として配属されている。他の職員は一般の職員である。このうち男性は,支所長,被控訴人と若手の職員1名の3名のみである。足立支所の副課長は,支所長を補佐するとともに,窓口対応の責任者的立場にあるが,自身で窓口対応や電話対応にも当たるものである。

(4) 被控訴人の経歴,役職等

 ア 被控訴人は,昭和54年に控訴人に就職し,平成10年8月5日に品川支所業務課係長,平成12年5月22日に事業部事業課副課長,平成14年3月7日に教育部講習課副課長,平成16年11月25日に足立支所業務課副課長に任命された。

 イ 被控訴人は,個人加盟の労働組合である全統一労働組合(全統一)に所属し,副中央執行委員長である。控訴人の同組合の従業員は,同組合の職場分会である東整振分会(分会)を構成している。被控訴人は分会の書記長でもある。

(5) 被控訴人に関して寄せられた苦情

 ア 財団法人Iセンターからの苦情

 平成17年1月から,控訴人は,財団法人Iセンター(以下「Iセンター」という。)が行う料金収受,預託確認等の業務を受託することになったところ,Iセンターから控訴人のA専務理事に対し,平成17年2月24日,電子メールにより「振興会専用回線で車台番号から登録番号を教えてほしいとの問合せが入り,コンタクトセンターでは確認ができないと回答したところ怒って一方的に切断された。車台番号,登録番号は個人情報のため照会には応じられないことになっている。専用回線にこのような問合せがあった振興会は東京振興会・足立支所甲野様。今後このような質問への回答はまったく受け付けません。今後このような対応が続くようでしたら受付拒否も検討せざるを得ないと思います。」旨の苦情があった。

 イ 控訴人の会員等から本部に寄せられた苦情

  (ア) 被控訴人に関しては,以下のような苦情が本部に寄せられた。

a 控訴人のC総務部長(以下「C部長」という。)は,平成17年9月2日,江戸川支部事務局職員のD(以下「D」という。)から,電話で,会員事業場の変更届の記入方法を電話で足立支所に問い合わせたところ,被控訴人から「そんなこと分からないのか。何年事務局やってるんだ。」などと怒鳴りつけられたという苦情を受け付けた。

b C部長は,同日,自動車整備教育会館で行われた会議の終了後に,足立ブロックの役員から,「足立支部の役員会でE副支部長(以下「E副支部長」という。)から足立支所の被控訴人の言動は目に余るとの報告があり,このことを申し入れる署名運動を起こそうという意見まで出たが,役員会の結果は支部長預かりということになった。」という話を聞いた。

c C部長は,同月5日,墨田支部事務局職員のF(以下「F」という。)から,電話で,「D職員から電話があったことと思うが,同様のことが私にもあった。整備士講習の申込みの受付方法をめぐり融通のきかない対応があった。墨田支部会員からも同様の苦情を聞いている。被控訴人の言動には私なりに注意を促してきたが相変わらず治らない。」という苦情を受け付けた。

  (イ) 控訴人の常務理事であるG(以下「G理事」という。)は,苦情を申し立てた会員らを謝罪を兼ねて訪問し,以下のとおり事情を聴取した。

a Fは,同年10月25日,G理事に対し,「平成17年8月下旬の整備士講習の受講申込みに際し,支部では受講申込みを受け付けないでほしいとの要請があった,以前は支部でも受け付けており,支部でまとめて足立支所に申し込んでいた,同月30日に支部会員から講習の申込書を足立支所にどうしても持参できないので何とかならないかとの相談を受けた,そこで,足立支所のH係員に連絡したところ,「間違いがなければ送っていただいて結構です。」との返事をもらったため,申込書と受講料を書留郵便で郵送した,翌31日に被控訴人から電話で「なぜ送った。Hはいない。休みだよ。」と言われ,「Hさんに話して送った。」と言ったら「知らねえよ。」と言われた,その後にも他の会員(墨田支部のJ自動車)から同様の申出が支部事務所にあったが断った,その会員はやむを得ず自分で足立支所に申込みに行ったが,被控訴人から『何だよ。抜けているんじゃないか。』と鬼のような形相で言われ,奥に入ったきり出てこないで,20分ほど経って出てきて,『抜けていたら送り返すぞ。』と言われるなど非常に不愉快な目にあったと聞いた。」などと話した。

b Dは,同年10月30日,G理事に対し,「平成17年8月22日午後2時ころ,自動車分解整備事業場を移転する件で江東支部が支部移動を承認した旨の変更届を会員が持参した,受入支部欄にも江東支部の記載があったため,会員を待たせて江戸川支部としての受付確認のため足立支所に電話で問い合わせた,電話に出た係員は,『真ん中はあんたのとこで書くところじゃないんだよ。』,『そんなこと分からないのか。何年事務局やってるんだ。』などと怒鳴り散らし,全く馬鹿扱いのすごい言い方だった,後で電話の相手が被控訴人であると教えてもらった,他にも支部会員から足立支所には応対の悪いのがいる,一文字違っても持って帰って書き直してこいと言われたと聞いた。」などと話した。

c J自動車の者は,同年11月17日,G理事に対し,『Fから支部では整備士講習の申込みの受付ができないと言われたので,同年9月1日に足立支所に申込みに行った,申込みに来たことを言うと奥から担当者(被控訴人)が出てきて『こことここをこう書け』と言って奥に入ったきり出てこなかった,20分ほど経ったころ嫌な顔をして出てきて『一つでも欠けていたら受付ができない。』と言った,『岩倉の定員枠はまだ大丈夫ですか。』と聞くと,『まだ分からないが,申込みが少ないから大丈夫だよ。』と言った,整備士手帳を作りたいと申し出たが,『書類がない。岩倉で書いてくれる。そうしろ。』と言った,怒鳴るような言い方で初対面の口のききようではなかった,怖くてもう顔を合わせたくない。」などと話した。

d 足立支部のK支部長(以下「K支部長」という。)は,同年11月24日,G理事に対し,「平成17年9月に実施される首都高速加平出口での街頭検査が足立支部の当番なのでE副支部長に街頭検査を担当してもらった,E副支部長が応援者をお願いして8月上旬ころに検査当日の応援者の氏名や作業服のサイズなどについて足立支所の確認をとろうとファックスで報告したところ,被控訴人から『いいんじゃないの。』という人を小馬鹿にするような返事が返ってきたのでかちんときて立腹した,E副支部長は,そのやりとりをK支部長に報告し,再度足立支所に連絡して電話に出た被控訴人に『そんな話し方はないだろう。』と注意したところ,被控訴人は『すみません。』と謝った。」,「足立支所全体が昨年からおかしくなっている。支部の会員から,我々が会費を払っているのにとんでもないことだという声があり,是非直してほしい。その原因は被控訴人である。」などと話した。

  (ウ) その後,G理事は,同年12月1日,K支部長から,「足立支部副支部長で足立ブロック指定工場部会長でもあるL(以下「L」という。)が,同日午後4時30分ころ,『指定整備記録簿が欲しいのでこれから買いに行きたい。』と足立支所に電話をしたところ,電話に出た被控訴人から『もういないよ。4時でおしまい。』と言われて立腹している。」との苦情を受け付けた。翌2日,M支所長(以下『M支所長」という。)がLに謝罪の電話を入れたところ,Lから「被控訴人の顔は見たくない。次の会議には連れてくるな。」と言われた。

(6) 被控訴人をめぐる足立支部の対応

 ア 平成17年8月19日に開かれた足立支部役員会において,被控訴人の会員に対する応対の悪さが問題として取り上げられた。すなわち,E副支部長が同年9月の街頭検査を担当することになったため,8月上旬ころに検査当日の応援者の氏名や作業服のサイズなどについて足立支所に確認のためファックスで報告したところ,被控訴人から「いいんじゃないの。」と人を小馬鹿にするような返答があったというものである。役員会では,署名運動を起こそうという意見まで出たが,最終的には支部長預かりということになった。

 イ 同年9月22日,足立支所会議室で開かれた足立ブロックの正副ブロック長会議において,被控訴人について,同年8月19日の足立支部役員会での上記苦情を始め,支部会員や支部事務局から被控訴人の電話や窓口での応対に関する苦情が出ていることを踏まえて,足立ブロックとしての対応が協議された。その際,墨田支部長からは「すべての対応が悪い。講習の申込みに行った人は鬼のような顔で言われた。」,「事務局を含め会員の苦情が多い。」,江戸川支部長からは「支部事務局が足立支所Hさんに電話連絡のうえ書類を送ったが怒られた。」などこもごも被控訴人の窓口対応等について不満が出された。そして,協議の結果,まずM支所長から被控訴人に注意してもらい,その後の様子を見ることになった。なお,注意した結果については,N副理事長(以下「N副理事長」という。),Oブロック長(以下「Oブロック長」という。)がM支所長から報告を受けることとし,他の会議メンバーはこの件に関する対応をN副理事長,Oブロック長に一任した。

 ウ 同月26日,M支所長は,被控訴人に対し,上記正副ブロック長会議で被控訴人の窓口対応について苦情が出たことを伝え,注意した。

 エ 同年12月20日に開かれた足立ブロックの正副ブロック長会議の冒頭において,上記(5)イ(ウ)の出来事を受けて,再び被控訴人の問題が取り上げられたところ,控訴人の乙山次郎会長から,本部に任せてほしいという趣旨の発言がされた。

(7) 11月30日の全統一等による抗議行動とそれに対する控訴人の対応

 ア 全統一及び分会は,平成17年11月30日,当時の控訴人代表者Pの経営する控訴人の会員会社Q販売事務所に赴いて昇給及び賞与の支払等を求める申入れを行った。被控訴人は,上記申入れ行動に参加した。

 イ 控訴人は,同年12月2日,全統一及び分会に対し,上記抗議行動について抗議・警告した。控訴人は,同月6日,上記抗議行動に参加した被控訴人その他4名の分会役員に対し抗議・警告するとともに,弁明書の提出を指示した。被控訴人が上記指示書を受け取らなかったため,控訴人は,同月13日,22日,被控訴人に重ねて業務指示書を交付して弁明書の提出を求めた。これに対し,被控訴人は,同月28日,「当日は年次有給休暇を取得しており業務の状態ではなかったことであるので,私個人が弁明する理由も内容もない。」などと記載した「業務指示書ヘの質問」を提出した。

 ウ 控訴人は,同年3月15日,被控訴人に対し,被控訴人の足立支所における窓口対応に関し会員その他から寄せられた苦情について弁明書の提出を求めた平成18年2月15日付け業務指示(下記(8)ア)と併せて平成17年12月22日付け業務指示を重ねて行い,弁明書の提出を求めた。しかし,被控訴人は,「平成17年12月22日付け業務指示については文書を提出している。」などと記載した文書を提出したのみで積極的に弁明することはなかった。

(8) 本件降格処分に至る経過

 ア 控訴人は,平成18年2月15日,被控訴人の足立支所における窓口対応に関し会員その他から寄せられた苦情について弁明書の提出を求める業務指示を行った。被控訴人からは指定の期日までに弁明書の提出がないため,同月28日,再度の業務指示を行った。これに対し,被控訴人は,同年3月7日,「この指示書は意味不明の文言に終始している。直接に説明をしていただきたい。」などと記載した文書を控訴人に提出した。

 イ 控訴人は,同月15日,被控訴人に対し,上記(7)の抗議行動に関する平成17年12月22日付け業務指示と併せて平成18年2月15日付け業務指示を改めて行い,弁明書の提出を求めた。これに対し,被控訴人は,同年3月22日,「2月15日付け業務指示書は休暇取得していたため受け取れない。個人名が仮名になっているため事実確認ができないので,個人名を明らかにすることを求める。」などと記載した文書を控訴人に提出したのみで,積極的に弁明することはなかった。

 ウ 控訴人は,同年3月31日,被控訴人に対し,弁明の権利を放棄したものとみなす旨を通知した。

 エ 控訴人は,被控訴人がその窓口対応に対する会員等からの度重なる苦情についてM支所長から注意があったにもかかわらず,その後も適切でない窓口対応があったため,副課長という役職にふさわしくないと判断して,被控訴人を係長に降格することとし,同年10月18日,被控訴人に対し,足立支所業務課係長に任ずる旨の辞令を発した(本件降格処分)。

2 ところで,本件降格処分は,足立支所業務課副課長から同業務課係長に役職を引き下げるものであるが,懲戒処分として行われたものではなく,控訴人の人事権の行使として行われたものである。このような人事権は,労働者を特定の職務やポストのために雇い入れるのではなく,職業能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては,労働契約上,使用者の権限として当然に予定されているということができ,その権限の行使については使用者に広範な裁量権が認められるというべきである。そうすると,本件では,本件降格処分について,その人事権行使に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かという観点から判断していくべきである。そして,その判断は,使用者側の人事権行使についての業務上,組織上の必要性の有無・程度,労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か,労働者がそれにより被る不利益の性質・程度等の諸点を総合してなされるべきものである。ただし,それが不当労働行為の意思に基づいてされたものと認められる場合は,強行規定としての不利益取扱禁止規定(労働組合法7条1号)に違反するものとして,無効になるというべきである。もっとも,この不当労働行為の意思に基づいてされたものであるかどうかの認定判断は,本件降格処分を正当と認めるに足りる根拠事実がどの程度認められるか否かによって左右されるものであり,処分を正当と認める根拠事実が十分認められるようなときは,不当労働行為の意思に基づくものであることは否定されるというべきである。

3 以下,上記の観点に立って検討する。この点については,以下の点を指摘することができる。

 1 控訴人は,社団法人であって主として自動車分解整備事業を行う者を会員とし,その業務は,会員である自動車分解整備業者に対し,その事業の運営等に関し,各種のサービスを提供することを主たる目的とし,その事業は主として会員の会費によってまかなわれているものである。被控訴人の勤務する支所の業務も,自動車分解整備事業場に関する相談受付,整備主任者等法令研修の申込みの受付,自動車整備士講習の申込みの受付,自動車検査登録に関係する自動車重量税等印紙の頒布,自動車税の納税確認,検査予約の確認など,会員に対するサービス業務が中心で,そのための窓口対応や電話対応が相当な比重を占めるものである。

 2 被控訴人が就いていた副課長というポストは,10名程度の人員で構成される足立支所では,支所長に次ぐ管理職ポストであり,窓口の責任者的立場にあるのであるから,当然他の職員に対して模範となるべき立場にあり,また,他の職員を指導することが期待される地位にあったものである。そして,被控訴人自身も窓口対応や電話対応に当たっていたものである。

 3 ところが,被控訴人の窓口対応,電話対応をめぐって,会員ないし支部事務局職員から苦情が複数控訴人に直接寄せられた。また,平成17年8月19日の足立支部役員会の席上,被控訴人の言動の悪さは目に余る,署名運動を起こそうという意見まで出たし,同年9月22日の足立ブロックの正副ブロック長会議でも,被控訴人の窓口対応の悪さに対して会員からの苦情が続出していることを踏まえて足立ブロックとしての対応が議題となって協議されたのである。そして,その結果,M支所長が被控訴人に対し上記会議で出た窓口対応等の苦情を伝えて注意をしたのである。ところが,その後再び会員から被控訴人の窓口対応についての苦情が出た。そして,12月20日の足立ブロックの正副プロック長会議でも,再びこの問題が取り上げられるに至ったのである。

 このように,控訴人は会員に対し各種サービスを提供する事業を行っているもので,窓口対応,電話対応は重要な仕事であるところ,被控訴人は,足立支所で支所長の地位に次ぐ地位にあって,他の支所の職員に対し,指導したり,仕事をする上で模範となるべき地位にあるにもかかわらず,被控訴人の窓口対応,電話対応の悪さが会員や支部事務局の職員らの間で問題となり,足立ブロックの正副ブロック長会議等で何度も取り上げられるまでに至ったのである。そうすると,会員の会費によって活動がまかなわれ,会員に対するサービスを業務とする控訴人にとっては,このような会員の不満,苦情に対処して何らかの対応措置をとるべき業務上の必要性が大きいことは容易に看取することができる(何らの対応措置もとらないで放置すれば,不満が高じて会員が脱会するというような事態も考えられるのである。)。また,足立支所のナンバー2で,他の職員を指導したり,仕事の上で模範になるべきポストに会員から苦情が続出している者を就けておくことが組織上の観点からふさわしくない,また,被控訴人は,副課長(窓口対応の責任者であり,他の職員を指導したり,他の職員の模範になるベき立場にある。)としての能力・適性に欠けると判断したことが,合理性を欠く判断であるとはいえないことが明らかである。そして,これらの点に,本件降格処分は,副課長から1ランク下の係長に降格するだけのもので,役職手当上の不利益もわずか本給額の1パーセント(3862円)の違いにすぎないこと等を総合すると,控訴人が本件降格処分をしたことにつき,裁量権の逸脱又は濫用があるとは認め難いというべきである。なお,上記に照らすと,本件降格処分には十分な根拠があると認められるものであるから,被控訴人が,全統一の副執行委員長及び分会の書記長を務め,同組合において当時の控訴人代表者の経営する事務所に赴いて組合行動をしたりし,それに対して控訴人が全統一及び分会に抗議・警告をし,その後,弁明を求める業務指示を発したりしているなどの事実があるとしても,本件降格処分が,被控訴人の組合活動を嫌悪して,不当労働行為意思からされたものであるとは認め難いといわなければならない。

 そうすると,被控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないことになる。

4 結論

 よって,本件控訴は理由があるから,控訴人敗訴部分を取り消し,上記取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。