漢字の軌範は教育産業がリードする

『小学学習漢字の正しい書き方』旺文社発行のもの。(c)1977とある。

「美しい書き方」ではなく、「正しい書き方」の本である。

 文部省は今年(昭和五十二年)七月、小・中学校の新しい学習指導要領を告示しました。学習指導要領というのは、みなさんが勉強するそれぞれの学校において、先生がたが、実際の授業で何を、どのように教えたらよいかを考えるさいに、その手引き、または基準となるものです。
 この新しい学習指導要領において、今回、初めて、小学校で習う漢字(教育漢字=九九六字)についての統一された字体といってよい「標準字体」が決められました。これは、現在みなさんが使っているいろいろな教科書の字体(教科書体と呼ばれています)が、同じ教科書体でありながら、教科書をつくっている会社によって微妙にちがっているため、そのことから起こってくるみなさんの疑問や混乱をなくそうとの考えから決められたものです。

とある。

これは、学習指導要領の

漢字の指導においては,学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とすること。

(52年)

http://www.nicer.go.jp/guideline/old/s52e/chap2-1.htm

漢字の指導においては,学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とすること。

(現行)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301/03122601/002.htm

を根拠としているのだが、それには許容範囲は記されていない。


この、『小学学習漢字の正しい書き方』が示す規準は、過剰なものと思える。

「耳」は第五画めが第六画めのタテ棒の右に少しつき出ますが、耳を部分として使っている漢字ではつき出ていません。注意してください。
 聞(二年) 取(三年) 最(四年) 職(五年) 聖(六年)

などというのには、どういう意味があるのか。


画像に出している「世」の字体についての注記など、「美しさ」を求めているのなら、まだ分るけれど*1、こうでなければ正しくない、という書きぶりは、頭を抱えたくなる。


今日、これを書いているのは、
http://d.hatena.ne.jp/hituzinosanpo/20081123/1227367955
に刺戟されたからだが、
h ttp://tvf2007.jp/movie2/vote2007.php?itemid=134
http://www.jvc-victor.co.jp/tvf/archive/grandprize/tvfgrand_29a.html (Adobe Flash で、現在再生できない)
で、文部科学省の人が、「保」について、「口」よりも「木」の橫画が短いから間違い、と言ったのには、驚いた。
「筆写の楷書では,いろいろな書き方があるもの」の「(1)長短に関する例」には、入らないのか。

「保」は、「(3)つけるか,はなすかに関する例」で、「木」でも「ホ」でもよい、という風に画いてあり、ここに挙げてある字体ではどちらも、橫画が「口」よりも長いけれど、だからといって、短ければ駄目だとはならないだろう。

私の立場は

他の漢字と紛れなければそれでよい、というもの。
「取」などを「耳又」で書いてはいけない、というのが不可解なのは、「耳又」と「〓又」で、違う文字になることがないからだ。
(といっても、単純ではないのですけれどもね。)

書誌

A5判、110頁。

後記

常用漢字の字体の説明だけではなく、教科書用字体のことについても、そこまで、その字体を遵守せねば誤字と見なされるのかについて、どこかで、ちゃんと基準を示した方がよさそうにも思う。
止めるか、突き拔けるかについて、突き抜けてはおかしい場合もあるだろうから、それを明示しておく、と。

*1:私は字が下手なので、よく分らないが。