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映画 ブレードランナー2049

この世界観は本当に好きだ。工場跡のような巨大な廃墟と降り続く雨。濡れてしまうと人間も無機物も同じようにもの悲しく見える。空飛ぶ自動車、すべてがエネルギーでコントロールされる建物や住居。未来の世界のはずなのだが、人々が集う場所に踊る文字は日本語、ハングル、中国語。退廃的な匂いは、どこかアジア的な繁華街のようだ。前作のブレードランナーを観たときは、妙に日本的な未来世界に不思議さを感じたが、今回はそうでもなく、自然に不思議なパラレルワールドを受け入れている自分に気がついた。考えて見れば、西暦2000年という響きがまさにSFでしかなかった時代をとうに過ぎ、いまや2017年。タイトルの2049年まで生きている確率はかなり高い。それでも、あの退廃的SFワールドは映像が素晴らしい。そして、ライアン・ゴズリングは本当に好きだなあ。哀しみがすべてに染みついているけれど、それは人間の本質なのだよなあと感じさせてくれた。ハリソン・フォードは言うまでもないし。
レプリカントのアイデアは、カズオ・イシグロの「私を離さないで」にも通じる。人間を、つまり自分たちだけを特別なものにしようとする意思は、ずっと昔の奴隷制のころから変わっていない。自分の民族だけを、白人だけを、侍だけを、金持ちだけを、というバリエーションはいくつかあるが人間の本質は変わらない。そのために記憶を操作しようと考えるのはよくわかる。子どもの整形をごまかすために、親も整形をするという発想は記憶の、歴史の改変だ。そして、一つの思い出を頼りにいい人生を送ることができるが、その記憶というものは曖昧で、それが事実かどうかと疑い出すと切りがない。人間とは何なのかと科学的に掘り下げていっても、すべてが解明できないことに、人間が人間たる秘密があるのだろう。しばらく、この「読後感」に浸っていたい、いい映画だった。
http://www.bladerunner2049.jp/