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non-conformity

2012-10-11

[]微笑む人

微笑む人

微笑む人

久しぶりの貫井徳郎。手元に「夜想」があるんですけど、途中で投げ出してしまいました。また読みますけど。

単行本の帯にはこうありました。

「僕のミステリーの最高到達点です。」

と。

「夜想」こそ投げ出してしまいましたが、「慟哭」「プリズム」「愚行録」と読んで、この著者がテーマを深く掘り下げて読者を思い気持ちにさせて尚最上の物語を読ませてくれる作家であると、心から信頼しているのです。その割に作品あんま読んでないんですけど。で、そんな貫井徳郎が上の文句です。そりゃあ読むよ。気になるもの。

描き方としては貫井徳郎自身の著作「愚行録」や、宮部みゆきの「理由」、恩田陸の「Q&A」のような、ルポタージュ風。ノンフィクションに見せかけたフィクション。ある殺人事件の真相を追い掛ける作家の記録です。

逮捕された犯人の友人知人に取材を重ね、取材を行う作家と同じく読者にもその犯人の人間像が色々と違った角度から見せられ、何が真実なのか分からなくなっていきます。この辺りは恩田陸「ユージニア」とかが近いですかね。

だから読み手としては物凄くハラハラして真相が気になって仕方ない訳ですよ。読ませる力も圧倒的ですし、もう最後が気になって仕方ない。で、です。最後には、出た!恩田陸的なあれ!です。

結論から言うともう、うやむやです。それが良し、とするのも分かります。僕自身恩田陸の作風は大好きです。ただ、この「微笑む人」は着地点がずるい!うやむやと言えばまだ聞こえは良いかもしれませんが、これ、投げっぱなしジャーマンですよ。着地点が「他人の心を真に理解しようなんて無理なんだ」っていうね。言いたいことは分かる。分かるけれど、作家がそれをやって良いのかと。それじゃあ物語成立しませんやん。それを言っちゃうとフィクションなんて書けないでしょうと。何て言うか、「それは言っちゃ駄目でしょ」ってのを言っちゃってる感じがするんですよ。

面白かったんだけどなー。最後がなんか納得できないんですよね。辿り着いた地点がフィクションを否定するものになってしまってる気がします。ちょっとそういう実験的と言うか、この作品で得た手応えを次にどう活かしてくれるのか楽しみにしていようと思います。

2012-10-09

[]プラチナデータ

プラチナデータ (幻冬舎文庫)

プラチナデータ (幻冬舎文庫)

最近どこの書店に言っても必ず売上ランキング上位に食い込んでいるこの作品。著者が東野圭吾とあらば、当然のような気もしますが、そんなに売れているのならば面白いのだろうと思い読んでみました。

読んでみて、確かに圧倒的な読み易さと分かり易さで、滅茶苦茶取っ付きやすいものであるのは充分に分かりました。読ませる、という点に関してはやはり売れっ子作家である著者の確かな腕を証明してくれたように感じました。

ただ、内容としてはどうなんでしょう。僕は東野圭吾の熱心なファンと言うわけではありませんので、ファンの方からすればこの作品はどういう評価、または位置づけになるのか興味深い所です。

そんなに面白いもんじゃ無かったように思うんです。乱暴ですけど。

物語の軸となるDNA捜査自体も然程目新しいものには思えませんし、登場人物の中でも物語に大きく関与する神楽のあの病気に関しても、どうしても必要だったのかと疑問が付いてしまいます。そもそも僕があの症例を題材にした物語を好きじゃないからかもしれませんが。物語の中であれを許してしまうと本当に何でもありになっちゃうと思うんですよね。あれによって読者も神楽自身も、神楽を疑うということから逃れられなくしているのは分かるんですけれど。

僕は文庫本の帯に書かれていた文句「人を愛する気持ちもDNAで決まるのか」という言葉に惹かれて手に取ったんですけれど、読み終わると帯の文句から想像していたのとだいぶ違いました。もっとこう、現実的で厳しい事実を曝しておいた後に人の心の温かさに救いを求めるような物語だと思っていたんですよね。切なさは無かったかなあ。最後のスズランとリュウの件はちょっと臭かった。

映画化もされるみたいですね。テンポも良いし、映像化するにはもってこいでしょう。

東野圭吾という名前のせいでどうしてもハードルが上がってしまいますが、読み易いし気軽に読書するには丁度良い書籍だと思います。読んで損したとは思いません。

2012-09-23

[]ソロモンの偽証 第2部

ソロモンの偽証 第II部 決意

ソロモンの偽証 第II部 決意

楽しみにしていた第2部。1部はこちら

またしても、この1冊が凶器になりそうな分厚さ。買った帰り道、鞄が重たかったぜ。

さて、この第2部「決意」ですが、第1部「事件」で事件のあらましとそこに関わる人間たちを描き切り、ついに物語が大きく動き出しました。

それは事件のあった中学校の生徒たちが事件の真相を解明すべく、いや、大人たちに任せていたばっかりにうやむやになってしまった真相を、自らの手で掴みたいと強く願いその結果として学校内裁判を起こす、という行動に出ます。

裁判に向けて、判事、検事、弁護人、裁判員裁定され、検事や弁護人は審理に向けて事件の関係者たちを片っ端から当たって行きます。そこには、検事VS弁護人の形ではなく、互いに協力し合い、それぞれの視点から事件を浮かび上がらせることで共に真実を見る、という協力体制があり、そこに彼らの切なる願いが込められているように感じます。

第1部で描かれた事件、その予想できる真相は、自殺とされた彼が本当に自殺だったのか、または学校内の生徒による虐めによる殺人だったのか、という、いわば2択でした。しかーし!この第2部を読むと、とんでもないところに真実が隠れているように思えてきます。

他校の生徒でありながら、虐めの張本人とされる生徒の弁護人を引き受けた謎の少年、神原。第1部でも少し出ていましたが、彼の本格的な登場により、読者の疑問は彼と自殺した少年、柏原の関係に大きく集まるでしょう。実際多くの描写が、神原くんこそが真実を知る為のキーマンであるということを物語っています。

ああ、本当にどうなるんだ。

第1部でこれでもかと登場人物の人生を描き切ったからこそ、大きく動くこの第2部の展開にも違和感なく読み進めることができました。それぞれののキャラクターがしっかり読者に入っているからこそ、登場人物たち、特に裁判に向けて力強く動き出した中学生たちの変化がとても眩いものに感じられます。だからか、ちょっと青春小説的な感じもしますね。

第2部を読む限り、なんだか真相はとても痛々しいものになりそうな気がしてしまいます。しかし、学生たちが傷付くだけの終わり方はしないで欲しいし、宮部みゆきさんはそんな書き方しないだろうという期待感もあります。

とにかく真相を知りたい!

こんな早く第2部読むんじゃなかった。楽しみだけど待つのつらいぜ。

2012-09-19

[]鍵泥棒のメソッド

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全俺待望の内田けんじ監督最新作品「鍵泥棒のメソッド」観てきました。なんかもう安心して観れるわ。面白いに決まってるだろって感じで。ちなみに前作「アフタースクール」の感想はこちら

35歳にして定職にも就かず売れない役者として冴えない生活を送る自分の人生に嫌気がさした桜井、殺し屋として高額な報酬を受け取り金に困ることなくリッチな生活を送るコンドウ、ひょんなことからこの二人の人生が入れ替わってしまったことによって巻き起こる騒動を描いたサスペンスコメディです。

浪費癖があり何事にもなんかだらしない桜井と、生真面目で几帳面そして努力家であるコンドウが入れ替わることにより、桜井によるなんかだらしない殺し屋と、コンドウの几帳面で努力家の中年役者志望が誕生し、これまでのそれぞれの生活がガラリと色を変え、それぞれ個人の特色が現れた生活になって行く様がとても面白かったです。特にコンドウはもう・・・。とても怠惰な桜井による人生だったものが生真面目なコンドウがその生活を送ることによってみるみる改善されていく。役者としても受けが良く、アルバイトも真面目に頑張り、礼儀正しく、そして彼と結婚したいと言う女性まで現れる。

環境とはその人生を送るその人が作るものなんだと、気付かされました。

銭湯で石鹸で滑って転んじゃって頭を強く打ったショックで記憶を失ってしまい、その隙に桜井によってそれまでの殺し屋として金に困らない人生を取り上げられた挙句、自分をどうしようもないどん底の生活を送る人生の敗北者であると信じたコンドウ、それでもその中からなんとか立て直そうと懸命に努力し、その生活を助けてくれる女性と出会い、なんか丸ごと人生が救われていく様はとても感動的で胸が温かくなりました。

それに引き換え桜井の適当っぷりは凄かったです。几帳面で生真面目、とても細やかな仕事が可能な殺し屋コンドウの名前が汚されちゃう。なんか知らんけど恥ずかしくなった。俺か!と。でもこの桜井、堺雅人が演じてるんですけど、似合いますね〜こういう男前なんだけど情けなくて駄目な男。

対するコンドウは香川照之。記憶を失う前、殺し屋としての彼はとても殺気立って目つきも怖く無機質な感じが凄くしてましたが、桜井として売れない役者としてド貧乏な生活を送る彼はとても温かくて優しく、そして生来の生真面目さが前面に押し出されてます。つねにシャツはジーンズの中にイン。なんだかとても可愛い。広末涼子演じるヒロインが惚れるのは充分に分かります。

愛する人と共にする人生の温かみを知ったコンドウ、その彼が記憶を取り戻した時、桜井に対して口にする「俺がお前を助けてやる。その代わりお前の人生俺が貰うぞ」はなんだか感動しました。

例えお金が無くても仕事が無くても、愛する人と共にがんばれる人生は多分、何物にも代え難いし、もしかすると手に入れにくいものなのかもしれない。だからこそこの人だと思える人が居るなら、その人を大切にしなくちゃいけない。

物に溢れ、金で買えないものは無いとさえ言われる今の世の中で、人生を送るうえでとても大切なものを映したハッピーな映画です。

これまでの内田けんじ作品に比べると「やられた!」感は確かに無いですけれど、笑いどころは満載ですし、何より観終わった後のほっこり感はこれまでに無いほどだと思います。

落ち込んだ時とか観ると良いかもしれないですね。

すごく楽しい時間でした。是非。

2012-09-07

[]ソロモンの偽証 第1部

ソロモンの偽証 第I部 事件

ソロモンの偽証 第I部 事件

分厚い。この下手したらこれで人を殺せるんじゃないかってくらいの厚さで1890円。正直、文芸書の単行本にしては高い値段だとは思いますが、これはこの値段の価値は充分にあるし、これから続く第2部、第3部と同じ値段の予定のようですが、買いなのは間違いありません。

とにかく面白い。本当にそれに尽きます。1890円なんて惜しくない。

舞台は1990年のとある公立中学校。

クリスマス・イブのその夜、一人の生徒が学校内の敷地で死んだ。

警察は死因を自殺と断定。しかし学校内には死因は虐めによるものとの噂が絶えない。そしてとある告発状を皮切りにマスコミの介入によって警察、学校の隠蔽工作を疑われますます真実は見えなくなっていく。一体真実はどこにあるのか。

言ってしまえばただこれだけのストーリーを700ページ超に渡って、しかもこの第1部は事件のあらましと登場人物の紹介、という3部作の中でのプロローグ的な立ち位置でしかないのに濃密な書き込みによって物凄く読み応えのある作品に仕上げています。宮部みゆき、恐るべし、です。

登場人物は本当に多いんですが、それぞれのキャラクターの性格、言動、生い立ちまで事細かに描き分けられており、混乱することなく読み進められます。しかもそれぞれの登場人物の章によって読者の視点(感情移入)も二転三転させられ、最初は学校、警察側の言い分に理解を示し死んだ生徒の死因は自殺と読者側も納得させられながらも、読み進むにつれ、不良生徒、マスコミ、被害者遺族の登場により、一度形を持ってハッキリとしていたものがどんどんと、もやがかかって見えなくなっていく様を体験させられます。

ただ、真実が知りたい。

この書籍に登場する誰もが強く願っているそれを、読者もまた強く強く思わされます。そして早く続きが読みたい!と。

第2部、決意は9月20日発売予定。楽しみ。