身内びいきってすごいのね:差別と偏見の心理学(2)

人が集まれば「閥」が出来るものです.派閥争いのような,集団と集団の争いはどこでも見受けられます.一般に人間は自分の集団の価値を高く,多集団の価値を低く評価します.これは内集団バイアスとして広く知られています.こういうと難しいですが,いわゆる,身びいきのことです.近年,この内集団バイアスが差別を生み出す基本的メカニズムのひとつだと考えられています.そこで,今日は低学年の小学生における内集団バイアスについて取り上げた論文を紹介いたします.

Bigler, R., Jones, L. C., Lobliner, D. B. (1997). Social categorization and the formation of intergroup attitudes, Child Development, 68, 530-543.

子どもの内集団バイアス,いわゆる身びいきについて調べるため,Bigler はサマースクールに参加した子どもに対して実験を行いました(*1).実験には6-9歳の白人の小学生61が参加しましした.3つの異なるサマースクールのプログラムが用意され,それぞれに別の子どもたちが参加しました.どのプログラムでも子どもの半数には青色の服,半数には黄色の服を着せました.当然,3つのプログラムへの子どもたちの割り当てはランダムに行われました.また実験に先立ち測定した簡単な分類課題の成績(*2)は3つのプログラムでほぼ同じでした(*3).

3つのプログラムうち,2つでは,子どもたちを違う色の服を着たのふたつの集団にわけ,子どもたちが自分が集団の構成員であることを強く意識するような働きかけがなされました.例えば,何かの遊具を使う順番も,一方の集団が先で,もう一方があとにさせたり,食事もそれぞれのグループでとらせたりしました.やることなすこと集団単位名わけですね.さらに,2つの集団で成績を競わせるゲームをしたり,名前を呼ぶときにも例えば「青組のトムくん」などと集団に属していることを明示したりしました.

これらの2つのプログラムの一方では,こどもの髪の色で2つの集団に分け(金髪 vs. 黒髪),それぞれに青,黄色の服を着せました.もうひとつのプログラムでは,子どもたちはランダムにふたつに分けられ,それぞれに青い服,黄色い服を着せられました.つまり,集団への降り分け方が生まれつきの身体的な要因(髪の毛)とランダムのふたつがあったわけです.

なお,もうひとつ,子どもたちに集団の構成員であることを意識させる働きかけをしないプログラムもありました.なお,このプログラムでも,ランダムに半分の子どもには青い服,もう半分には黄色い服を与えました.これが統制条件として機能します.

プログラムを開始して4週間後,子どもたちは,自分の所属する集団(以下,内集団)と他の集団(以下,外集団)についていくつか質問を受けました.

まず,内集団から外集団に移りたいか,という質問には80%が「NO」と答えました.移りたいといった子も,「(自分のグループの色である)青色が嫌い」とか「(外集団に)お姉ちゃんがいるから」といった他愛もない理由でした.

また,今後,内集団と外集団が競争するときどちらが勝つか聞かれると,67%の子どもが内集団が(自分の集団が)勝つと答えました.

さらに,子どもたちは,青色と黄色のラベルの付いたジェリービーンズの瓶を見せられました.それぞれの瓶には同じ数だけビーンズが入っています.実験者はこのビーンズは,先週良いことをしたご褒美を青色集団,黄色集団ごとにまとめたものだと告げ,こどもたちにいくつビーンズが入っているかを答えさせました.集計の結果,平均して内集団のビーンズ数を,外集団の1.5倍も多く答えることがわかりました.

なお,これらの3種類の質問に対する結果はプログラムによって変化しませんでした.統制群ですら同じパタンが得られたのです.すなわち,同じ色の服を来ているだけで自分の集団を高く評価してしまうことがわかりました.髪の色による振り分けを除き,子どもたちは2つの集団にランダムに振り分けられます.ですから,2つの集団は基本的には等質なのです.それでも,同じ服というだけで身びいきが観察されたのは驚くべき結果です.

ただし,内集団を高く評価する傾向があったとしても,外集団に偏見をもつ,あるいは差別をするかどうかはわかりません.偏見や差別が生ずるには,少なくとも,外集団をネガティブに評価するようにはなっているでしょう.そこで,Biglerらは,5つの良い意味の特性(頭がよい,かわいい,など)と5つの悪い特性(自分勝手,意地悪,など)について,内集団,外集団のメンバーにどれくらい当てはまるか4件法でたずねました.例えば,「青集団の(全員 / 大半 / 何人か / 0人)は,頭がよい.」という質問に,人数が多いものを選ぶほど得点が高くなります.

データの集計では,良い特性については,内集団から外集団の得点を引いたものを,悪い特性については,逆に,外集団から内集団の得点を引いたものを求めました.ですから,内集団を良く/外集団を悪く評価するなら得点は正の値をとり,逆に外集団を良く/内集団を悪く評価するなら負の値を取ります.変化幅は±4で,理論的にバイアスがない状態は0となります.

集計の結果,良い特性,悪い特性とも,髪の色群とシャツ群とも平均点が0より大きく,値が0と変わらなかった統制群より高くなりました.

この結果は外集団に対しネガティブな評価が生ずるには,髪の色群とシャツ群のように,集団として機能させる必要があることを示唆しています.統制群のようにただグループを分けただけでは,自分のグループを好むようになっても,外集団をネガティブに評価するまではいたらないようです.

Biglerの実験結果をまとめると2点になるでしょうか.まず,(1)なんの意味もないランダムに決められた集団でさえ内集団バイアスが生ずること,そして,(2)それらが集団として機能するなら,ただ外集団と言うだけで(例えば,自分と違う色の服を着ているだけで),ネガティブな評価すら与えることです.

当たり前ですがこの実験のプログラム中に,外集団を憎むようにし向けているわけではありません.また,どちらか一方のグループを応援するといったこともありません.それでもこのような結果が得られるのです.ですから,この結果は,集団をつくるという行為のみで,あるいは内集団と外集団という区別を認知するだけで偏見が生まれることを強く示唆しています.これが引いては差別を生み出すのかもしれません.

さて,なぜ集団をつくるだけで偏見が生まれてしまうのでしょうか?人間は基本的には単独で生活できません.集団で生活する生き物です.このような生活形態を持つ以上偏見や差別は出てきて当然なのでしょうか?それをどうにかしようと思うだけ無駄なのでしょうか?

次回はこのへんの話を取り上げたいと思います.

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(*1)「楽しいはずのサマースクールで実験なんてやって良いんですか?」と思う方もいるかもしれません.ところが,そもそもこのサマースクール自体,新しい教育プログラムや子どもの心理を調べるために開催されたものなんですね.親は実験の目的を告知されますし,実験参加への同意書がなければ,子どもたちを実験に組み入れることは出来ません.ともかくどかーっと子どもを集めて,室の高いデータを取るためには有効な方法かもしれません.ただ,倫理的な部分にかなり気を配らないとヤバイことになるので細心の注意が必要です.

(*2)2つのカテゴリーに分かれる,4つのことなるものの絵を見せられて(例,柴犬,シェパード,三毛猫,ペルシャネコ),正しいカテゴリーに分けることが求められた.

(*3)自尊感情とかも取ってて,理論的にも応用的にも重要なんですが,複雑になりすぎるので略.また,プログラム終了後にもここに書いた以外にいろいろ測定してるんですが複雑になりすぎる&傾向として大きな違いはないので略.