総選挙を占う 民主政権下でのハイブリッド型ファシズム独裁の作り方


 さて、選挙だ。小生のような浮動票に属する人間には、いつもどの政党に入れるのか、あるいは誰に入れるのか、よくわからない。洞ヶ峠を決め込むか、あるいは、関ヶ原の戦いで松尾山に陣取った小早川秀秋の心境で「徳川も豊臣もどちらも泥だ」(司馬遼太郎)と、どうせ誰もが泥、悪なのだから、より泥が少なく、悪が少ない方に入れるような方法しかない。あるいは、どこかに遊びに行って、棄権するかだろう。

 今回の選挙は、独裁系 vs 半民主牛義系 との戦いといえそうだ。
 安倍政権は、いかにも独裁政権の属性をまとっていた。

 1.やたら憲法を変えたがる (注、筆者は憲法改正が反対ではないが、自民党案のような明治憲法に回帰し、臣民になるのはごめんこうむる)
 2.マスコミを電波法、ほかで抑圧する
 3.国民の自由の言論を制限する
 4.国民を二分し、敵はファシストとか、あんな連中と呼ぶ
 4.やたら対外危機を煽る
 5.クローニー資本主義(縁故主義のこと=私物化と称されている)、あるいは腐敗臭

 こういう人間は今の世界では、外交時に対処しやすい。互いの考えていること、志向が理解できるからである。世界の国の多くが独裁系の人間が頭にいる。見よ。安倍とオバマは決して友達ではないが、トランプとはいいトモダチだ。

 さて、小池希望の党、党首だが、国民の意識、不満を吸い上げるのはうまそうだ。言葉の使い方も安倍氏よりもずっと上だろう。政策実行力は ? とはいえ。そもそも、彼女は小生がいたシンクタンクの前の前の事務局の前任者だった。石川啄木の「じっと手を見る」とか、「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ」という短歌が心にしみる。
 
 とはいえ、ごまめの歯ぎしりのように、民主主義政権下、ファシズム独裁を作り上げたチャべスの例をあげてみる。まったく国柄が違うとはいえ、いくつか参考になる事例があると思う。なお、Wedge report に掲載したものの抜粋である。

ファシズムは民主主義と共にやってくる
 ファシズムは民主主義と共にやってくる。それは歴史の示すところである。政権に就くや議会を無力化し、憲法を停止するか、改変し、一党独裁とする。ところが、民主主義のもと、それが可能なことを証明した国がある。欧米にファシズムの臭いが立ち込める中、一足先にファシズム独裁を築きあげたベネズエラケーススタディしてみた。

ファシズムを産む土壌
 ファシズムは旧体制を一掃し、外交を含め、社会の仕組みを180度変える。それを可能にするためには、既存政党への幻滅、経済の崩壊など、国民の不満がふつふつとたぎっていることが必要条件である。そして人々の憎悪を焚きつけ、国を分裂させる才能あるパフォーマーの存在が十分条件ベネズエラの場合も同様だ。  

 1990年後半、過酷な新自由主義により格差は拡大していた。ベネズエラの唯一そして最大の輸出原資の原油価格はバレル14ドル〜19ドル前後と低迷していた。貧困層は50%前後だった。

 そんなとき、貧者のためのボリバル革命を唱える、政治の素人の単純明快な言葉は、国民の耳に甘い誘惑となって響いた。「既存政党を一掃する」、「支配階層を撲滅する」、「金持ちは許さない」。また、日本を含む海外の左翼系の研究者やマスコミにも、ある意味自らのアイデンティティを証明するものとして魅力的であった。賛美さえした。

人気のあるうちに憲法を変えろ
 独裁者(チャべス)は、98年に大統領選に勝利し(得票率56.2%)、99年2月に政権を樹立すると、新憲法制定議会選を実施して大勝利を収めた。チャべス派128人、与党はたったの6人。

 社会主義色が濃い新憲法が99年12月15日に制定された。大統領権限の強化を狙い、5年の任期を6年、再選を可能とし、議会は二院制から一院制に改められた。国名さえ変えた。「ベネズエラ共和国」から「ベネズエラ・ボリバル共和国」。日本が「日本・大和国」と改変したようなものである。

 ボリバルとは、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビアの独立の父で南米統一を目指したシモン・ボリバルのことである。チャべスは、自身を英雄の再来と自認していた。 

 その後、南米の領主となるため、国家予算をカリブ海地域と南米の左翼系の政府の支援にあてた。周辺国にとっては、寛容な打出の小槌となった。偶然、新憲法が承認されたその日はバルガス地方に豪雨があり、土砂崩れなどで8000人の死者が出た。ベネズエラでは二つの意味で「バルガスの悲劇」と呼ばれている。

大統領令(=授権法)を活用し、大企業を影響下に置け

 2000年11月、議会は、大統領に期限つきの授権法を付与した。大統領が単独で政令を発布し法律を施工(議員定数5分3で承認)するもので、ナチスドイツの全権委任法が授権法としては名高い。翌年、独裁者は矢継ぎ早に炭化水素法、土地・農村開発法など49の大統領政令を発布した。

 その中で最も重要なのは、石油公社にかかわる法令だった。政府へのローヤルティの支払いを16.7%から30%に引き上げ、その資金を貧困撲滅などの社会開発資金に充当する。さらに、公社の人事に手をつけようとし始めた。能力ではなく、親チャべスか否かを重視するポリティカル・アポイントメント(政治任命)を推し進める。

 この年には、99年当時80%もあった支持率が50%前後に急落した。格差是正が軌道に乗らない。不況である。原油価格は低迷を続けている。独裁と社会主義への反発も高まった。

 このような状況下、2002年には、民主主義者、旧支配層、テクノクラート、知識人らによる、チャべス追い落としクーデターが起き、その後、石油公社主体のゼネラルストライキ、大統領罷免要求へと続き、2004年には大統領信任投票が行われた。独裁者は58%の信任を得て勝利した。

 4年の間に石油公社の利益を様々な貧困撲滅などの社会事業に充てたことが、貧困層に支持されたからである。この年には原油価格もバレル32ドルに上がっていた。

反対派は失業させろ
 チャべスは反対派をファシストと呼び、徹底的に締め上げた。チャべス追放を求めた石油公社の社員1万9000人(全従業員のほぼ半分)を解雇した。

 さらに、240万人を超える大統領罷免要求署名リストが選挙管理委員会から政府に渡された。チャべス派の議員の一人タスコンがそれをインターネットに公開した。署名者は2度と国営企業で就職できなくなった。入室さえ断られることがある。ベネズエラでは、それをタスコンのリストという。

選挙主義を21世紀型社会主義と潤色せよ

 筆者は、2012年の大統領選挙で、偶々野党のエンリケ・カプリエスの演説集会に紛れ込んだことがある。若者たちで物凄い熱気だった。その90%が大学生であった。けれども、家庭を持つような大人はさほど多くはない。なぜか?

 独裁者は電力、電話通信、セメント、ガラス、鉄鋼、オリノコ重油、製紙、コーヒーなどの企業、そしてホテル、スーパーマーケット、建物など1200前後の外資や民間企業を接収し、国営化した。

 国営化の目的は企業を自身の支配下に置くことである。職員は選挙の囚人となる。チャべス派への投票が義務づけられるとともに、選挙キャンペーンに動員される。収益は与党の選挙費用に使う。ある石油関連の企業では、選挙前に給与の数パーセントが選挙対策費として徴収されていた。

 さらに、与党が有利になるように選挙地図を塗り替え、反対派の知事が当選した県には予算配分を過少化する。

支持者たちを政府依存症にせよ

 独裁者は石油公社の収益を様々な社会開発事業(15ほど)に使った。公社内に住宅建設、食糧供給などの関連部門、関連会社が創設され、2011年社員数は12万人を超え、肥大化した。主な事業(ミッション)をあげる。

バリオ・アデントロ:貧困地区での無償医療
ロビンソン:識字運動
メルカル:安価に食品を販売する食糧販売店
ビビエンダ:無償の家屋の提供

 これらの事業に2011年には400億ドル弱もの資金を費やし、貧困層は30%を切った。当時、原油価格は100ドルを超え、独裁者にとってもベネズエラにとっても我が世の春であった。

 けれども、人口は3000万人の国で、誰もが恩恵にあずかれるわけではない。たとえば、11年〜12年建てられた家屋は35万軒ほどである。

 これらの恩恵にあずかった者はテレビで独裁者に感謝の念を述べる。幸運のクジを引き当てなかったものは不満を述べ、独裁者はすぐに担当大臣に対処するよう命じる。あるいは別のプロジェクトを立ち上げる。住民は、次は自分の番かと期待する。結果が出ない前から新規プロジェクトを次々に立ち上げる。こうして幻想の王国ができあがる。

 実際、選挙の前には、住民たちは、道路を封鎖し、タイヤを燃やし、独裁者におねだりをする。筆者は、私有地を占拠に行く人びとをよく見かけた。単独者も家族もいる。散歩に行くように楽しそうに歩いて行く。タスコンのリストに載って就職できずに運転手になっている友人がいう。

 「まったく、厚顔無恥だよ。選挙だからね。中にはそれを仕事にしている者がいるんだから。ほら彼らだよ。自分の家があるのに他人の土地を占拠して、家を政府につくらせてそれをもらい、今度は他人に売るんだ」

 南米の最貧国に陥った今、別の友がこういう。

 「ほかの南米ならば、確実に内戦になっているよ。でもベネズエラ人は、政府からほんのちょっとしたものをもらって、浜辺でビールさえ飲めればそれで満足なんだ」

 政府にとって、最も御しやすい人々なのである。

敵が攻めて来ると言い続けろ
 「ヤンキーは悪魔だ」「米国のポチのコロンビアが攻めて来る」。「CIAが暗殺計画を練った」。支持率が下がった時は、根拠なくそう言い続ける。ときには軍隊をコロンビア国境に張り付け、米国の外交官を追放し、危機を演出した。
 
 今回の選挙は、北朝鮮神風選挙と安倍氏は思っただろうが、自爆選挙となりそうな様相である。