電王戦第4局塚田九段が持将棋引き分けに持ち込む

 プロ棋士側が1勝2敗と追い込まれての第4局はベテランの塚田九段が登場、コンピュータ将棋側はあの米長前会長を破ったボンクラーズ改めPuella αであった。今回は将棋の内容よりも塚田九段が劣勢から入玉を目指して、ついには230手もの長手数に及んだ勝負を持将棋引き分けに持ち込むという壮絶な戦いぶりが際立った一戦となった。これでプロ棋士側の勝ち越しはなくなったものの負け越しを食い止め、最終第5局の三浦八段に望みをつなぐこととなった。

将棋電王戦、塚田九段が執念の引き分け…第4局(YOMIURI ONLINE)
プロとコンピューターは引き分け 将棋電王戦第4局(朝日新聞digital)
将棋電王戦第四局、塚田九段が執念で引き分けに..(マイナビニュース)

 入玉とか持将棋とか、電王戦に関心はあっても将棋を知らない人にとっては、こんな将棋があるのかという驚きもあったかと思う。派手な王手や詰みばかりではないことが、図らずも電王戦の緊迫した勝負の中で現れた。逃げてばかりで消極的に見えるかもしれないが、真剣勝負の中で互いに負けまいとする駆け引きの中では起こりうるものである。もっとも入玉をちらつかせながら相手の攻めを牽制するという高等戦術もある。実際にお互い入玉してしまうと詰めは不可能になるので、あとは駒の数を点数化して、事実上その点数による判定に持ち込まれるルールになっている。そのルールの中での戦いが展開されたのである。


 コンピュータ将棋は入玉に弱い、というかあまりそういう状況を想定していない、データ不足という面があるとは言われてきた。だから人間側は入玉を目指せばコンピュータに勝てるみたいに言うのはそう単純ではない。いくら入玉したくても実力差があれば到底それは実現しない。実力が拮抗していてお互いが攻め切れない状況から可能になり、ある意味局面はエンドレスの泥沼化していくのである。初めから入玉を狙うとか「コンピュータ将棋の弱点を突く」などという単純なものではない。


 例によって本局のポイントの局面をいくつか挙げてみる。先手のPuella αのやや強引に見える1筋からの仕掛けからそこで得た銀を後手の左辺の攻め駒を逆に攻めるようになり▲41金で後手の飛車を詰ましてしまう。ここで形勢が容易ならずと見た塚田九段は△13玉と入玉を目指すことに方針転換をした。この時点でその善悪はともかく(実際にこの後、駒の損得では相当苦しくなる)、この手は勝負手に見えた。



 駒割りでは相当苦しいのは後手陣が焦土化していることでもわかる。しかし後手玉は入玉を達成し、事実上詰まされることはなくなる。そうしてここからじわじわと左辺にいる敵玉に迫ろうというつもりなのだが、なんとここでPuella αも入玉を目指す▲77玉と上がる。こうした指し回しはこれまでのコンピュータ将棋にはなかったとのことで、対人間用に入玉模様の戦いもできるようになってきたようだ。もし双方入玉となると自駒の点数による勝敗判定となる。大駒の飛車角は各5点、小駒の金銀桂香歩は各1点として計算する。小駒はどれも1点になるのが微妙なポイントになる。総計24点なければ負けとなるルールである。そこで点数稼ぎのための特殊な指し方も必要になってくる。



 入玉は果たしたものの後手は10点くらい点数が足りない。周囲の取れそうな駒をかき集めても24点に届かなくて絶望かと思われた。ここまでかつては「攻め100%」と言われていた塚田九段は全く攻める場面がなかった。しかしここでわずかな隙に攻めに転じてPuella αの馬を金銀4枚を打ち付けて獲得する(第3図)。大駒なのでここで5点を得て、あっというまに点差が縮まりそうな状況になり持将棋に近づく。



そして最後にようやく24点を獲得して持将棋引き分けに持ち込んだのである。230手という囲碁の対局かと間違うほどの長手数の激闘であった。泥沼的に見えて批判する人もいるかもしれないが、これも人間ならではの勝負術の1つには違いない。ベテランの塚田九段ならではの戦いぶりだったともいえる。局後には、団体戦なので第5局の三浦八段に託す前に負けるわけにはいかない、という心境を語っていたのが印象的であった。