銀座ファースト法律事務所所長のつぶやき

弁護士田中清のブログ。最近気になることや、趣味のことなど雑記。

尼崎17 ある本庁刑事合議事件 その2

 この事件で、私が学んだ点は、「刑事の起訴状や判決の一文記載の意味は正確性を期するためであり、主語を省略しないためである。主語が不明確であれば、被告人に刑罰を科することができない。」ということです。
 したがって、「主語を必ず入れるという命題の下において、刑事判決の罪となる事実は、非常に秀でた文章である」ということです。そして、主語が抜けた「罪となるべき事実」を書けば、控訴審で破棄されるということを深く学びました。私は、主語の重要性をこれほど強く感じた事件はありませんでした。

 法律的な問題点として、この事件は、ピストルを撃った角度が窓面に対して20度くらいの角度で撃ち込んだというもので、壁際にD組員らが立っていたということを想定しない限り、殺害は不可能であり、殺人未遂については不能犯であり、無罪であるという主張をしていました。
 私は、高校生のときに学んだ三角関数を思い起こし、20度の角度で弾丸を撃ち込めば、D組員が、どの範囲に立っていれば死ぬ可能性があるかを計算しました。計算の結果、D組合員が窓から45センチメートル以内のところに立っていれば、殺害の結果を得ることができると結論付け、「被告人らは、D組員の殺害に至るかもしれない、それでもよい」という未必の故意が認められるとして被告人を有罪とし、1審判決通り、A被告人につき懲役10年、B被告人につき懲役8年の刑にしました。
 もう一つ、この事件は、昭和30年ころの事件でしたので、被告人の司法警察員に対する供述調書などが、毛筆で書かれていたことです。毛筆の調書は非常に読みにくく、苦労したことが印象的でした。
昭和40年以降の調書は、ボールペンや万年筆で書かれていましたし、平成に入ってからは、すべてワープロで調書が書かれていますので、非常に読みやすいのですが、昭和30年ころの調書が本当に読みにくいということを実体験しました。
 最後に、この元1審判決では、主語を書かなかったというだけで、約10年もの審理期間を要し、時間の浪費をしました。
 被告人や弁護人に掛けた迷惑の大きさを思うと、本当に申し訳ないと思いました。

  弁護士法人銀座ファースト法律事務所 弁護士 田中 清