北京・胡同逍遥

北京、胡同で暮らした十数年間の雑記 by 多田麻美/ Asami Tada

外国人との共生の大切さを感じる二冊

日本に一時帰国する時の大きな楽しみの一つは、新しい本との出会い。
先回の帰国中でも貴重な出会いがたくさんあったが、その中で、以下の2冊は奇しくも似通ったテーマと傾向で書かれていて、興味を覚えた。

一つは中国の文化に造詣が深いライター兼翻訳家の小林さゆりさんが翻訳された
『在日中国人33人のそれでも私たちが日本を好きな理由』(趙海成著、CCCメディアハウス)

もう一冊は友人が執筆陣に加わった
『日本人のここがカッコイイ!』(加藤恭子編、文春新書)
だ。

インタビューを通じ、日本に滞在する外国人の日本での体験や日本に対する見方を紹介した両書は、
いずれも日本の市場受けを狙ったと思われるタイトルから想像されるような「日本賛美」の内容でただ終始してはいない。
本当は同時に、耳が痛くなるような、日本社会への鋭く、本音の、「自らの行動を伴う」批判も含んでいる。

もちろん両者には差もある。恐らく趙氏個人の考えや嗜好が強く反映されている『在日中国人33人の〜』は、何らかの方面で成功を収めた在日中国人たちが主な対象で、改革開放後の日中交流の歴史を理解する手助けにもなるような内容だ。

一方、『日本人のここが〜』は編者の授業に参加した多くの受講者によって書かれたもので、中国に限らず、世界のあちこちから日本にきた外国人が生活の中で実感したことに多くの紙面が割かれている。また、前者に感じる「偉人伝」的要素はあまりない。

だが、いずれからも日本に住む外国人のアイディア、行動力、体験から導き出された信条や生き方などが読み取れ、思わぬ刺激を受けた。

『在日中国人33人の〜』では、外国人の視点から政治に参加しようとしたり、外国人でも安心して利用できる託児所を作ったり、メディア人として日本での報道に影響を与えたり、といった人々が紹介されている。彼らは日本で軽んじられたり、見過ごされたりしている制度や視点や価値観を自らの行動を通して補っているようにみえる。

一方、『日本人のここが〜』では、日本人に知られていない祖国の食文化を紹介したり、日本社会のストレスの多さを自国と比べたり、日本の女性に対するイメージを誤解に満ちたものとして客観的に分析・批判したり。ありふれた分析や、同感しかねる感想もあるけれど、反省が必要な、耳の痛い指摘も少なくない。

この二冊を読んで、正直なところ、タイトルからだけでは、本の価値は判断できない、と改めて思った。
多文化の共生は、何といい刺激を社会に与えることか。
日本社会を日本以外の常識で見てくれたり、日本の社会が見落としている需要や「社会をより良くする方法」に気づいたりすることができる「在日外国人」という存在は、やっぱりとても貴重だ。
でも、このことに日本のどれだけの人が気づいているだろう?

情報も商品もこれだけ国境を越えて浸透しているのに、
人だけは「観光と買い物をしてくれて、ついでに不足分の労働力を補ってくれれば十分」とばかりに、難民、移民に不寛容な社会。

それでも外国の人が好んで来てくれるうちはいいけど、来てくれなくなったらどうする?
経済がいい時、円安の時だけ外国人が来る社会、なんてちょっと悲しすぎる。