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16-10-2005 『誰も読まなかったコペルニクス』書評

[]『誰も読まなかったコペルニクス:科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険

オーウェン・ギンガリッチ

(2005年9月30日刊行,早川書房,ISBN:4152086734


【書評(まとめて)】

※Copyright 2005 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

メイン・タイトルを見ただけではイマイチ魅力が感じられなかったが,サブタイトルに惹かれて即購入.科学史の上で文字通りの“コペルニクス的展開”のきっかけとなった著書『天球の回転について』の刊本に書き込まれたこれまた文字通りの“マルジナリア”を手がかりにして,コペルニクスを中心とする当時の科学者のネットワークをたどろうとする.著者の眼のつけどころのユニークさもさることながら,広範囲におよぶ書誌学的フィールドワークが読みどころだろう.十分に期待できる内容だ.単に天文学史に関心のある読者だけではなく,一般の本好き(あるいは“理系的書痴”)にとってもきっと楽しめる読み物だと思う.

この本の主たる目的は,コペルニクスの『天球の回転について』が,アーサー・ケストラーがかつて指摘したような「誰にも読まれなかった本」などではけっしてなく,むしろヨーロッパ世界の中で所有者から所有者に刊本が受け継がれる過程で,さまざまな読まれ方と受容のされ方を経験してきたことを示す点にあった.『回転について』に書き込まれたマルジナリアを通じての天文学的知識の伝搬の可能性に関して,著者は言う:


これは,「見えない大学」,すなわち公の大学教育の枠外にあった16世紀の天文学研究の情報交換網の存在を示す,驚くべき確証と言える.「見えない大学」は,通常の制度や組織の境界線を超越した師弟関係から成り立っていた.そうした絆が存在した事実は,学究的な追跡調査により現在ではもちろん明らかにされているが,このような社会組織的構造は,正式に体系化されたものでも,大学に根ざしたものでもなかった.(p. 232)


本書のタネ本である:Owen Gingerich『An Annotated Census of Copernicus' De Revolutionibus (Nürenberg 1543 and Basel 1566)』(2002年刊行,E. J. Brill,ISBN:9004114661)は,世界中に現存している600冊に及ぶ『回転について』を網羅的にリストアップしたものだという.このような書誌情報のデータベースがあってはじめて本書を書くことができたのだろう.

コペルニクス的に打倒されてしまったプトレマイオス天文学は,惑星の軌道を説明するにあたって,「周転円(epicycle)」というアドホック仮説の積み重ねをしていたという通説が一般に流布しているが,それはまったくのでたらめであるという iconoclastic な指摘に目が覚める(第4章).そーかそーか,epicycle はマボロシだったのか.しかし,そういう天文学史プロパーの話題だけではなく,本書のいたるところに,このコペルニクス本をめぐる盗難・競売・散逸などの“図書ネタ”が散りばめられていて,それを拾い読むのも一興だ.

現存する刊本をことごとく調べ挙げるという著者のやり方は,有名なグーテンベルク聖書に関する同様の研究を思い出させる.たとえば,富田修二『グーテンベルク聖書の行方』(1992年3月20日刊行,図書出版社[ビブリオフィル叢書],ISBN:4809905047)は,現存する「48部」のグーテンベルク聖書を逐一枚挙している.それに比べると十倍以上の現存数のある『回転について』(初版と第2版)を対象として同様の調査をするのに30年もの年月を要したというのは納得できる.ダーウィンの『種の起源』の初版は1000部あまり出版されたわけだが,あるオークションに臨席した著者はその古書価格の高騰はリーズナブルではないと言う:


かつて,ダーウィンの『種の起源』の初版1000部は発売初日に完売したが,その版はとくに珍しくはなかったので,サザビーズがつけた予想最高入札価格3万5000ドルはきわめて妥当と言える.それなのに,例の二人の電話入札者による競り合いで,15万ドルというまったく馬鹿げた値段になった.ベテランの収集家ならこの古典をすでに所有しているだろうし,こんなに無茶な金額をはたいて手に入れようとする研究機関などどこにもないだろう.この二人の入札者が初心者なのは明らかだった.(p. 280)


グーテンベルク聖書やコペルニクス本のような数十〜数百部しか現存していない超稀覯書と比較すれば,千部あまり「も」刷られている『種の起源』初版などはけっして稀覯書とは呼べないのかもしれない.この本には,たった15部しか印刷されていない図書カタログとか,これまで世界でたった2部しか発見されていないパンフレットなどの超々稀覯書も登場する.

本書の巻末に付けられた『回転について』の所在リストをひとつひとつ見ていくと,ある書物の刊本がそれぞれたどった系譜と伝搬の“物語”がいくつも聞こえてきそうだ.

備考:コペルニクスの『天球の回転について』の写本は日本にも所蔵されている.たとえば,金沢工業大学〈工学の曙〉文庫というデジタルライブラリーでは,同大学が所蔵している写本(1543年,初版)のページをオンライン公開している(→該当ページ).他にも,広島商科大学に紹介記事がある.

三中信宏(15/October/2005)

目次


Alex FetcherAlex Fetcher 2007/11/01 06:44 Great site!
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