『讀書好日』

富士川英郎

(1987年3月20日刊行,小澤書店,ISBN:なし)

第I〜II部は,またまた木下杢太郎,萩原朔太郎,そして堀辰雄ゲーテの『ファウスト』の翻訳史など.第III部の「グロートのこと」では,明治初期の日本の医学教育がなぜ“ドイツ語”によって行なわれたかを振り返る.明治に入り,蘭学がすたれるとともに,大勢は“英語”へと向かったが,医学教育だけは「徹底的にドイツ的な教育を行った」(p. 138)という.つまり,ドイツから教師を招聘し,ドイツ語による医学教育を叩き込んだ.そういう教育を受けたひとりが森鴎外だったそうだ.



第IV節は著者が伝記を著した「菅茶山」のエピソード.頼山陽とのつながりがおもしろい.頼山陽が『日本外史』を書き上げたのが自宅の座敷牢の中だったとは知らなかった.常軌を逸した挙動の末だったそうだ.著者は江戸時代の漢詩にとくに関心を向けているが,そういう分野を対象とした先人(国文学者)はほとんどいなかったとのこと.



さらに読む.第V部〜第VII部までは,知人・恩師の伝記記事だったり思い出だったり.ときどき知った名前が出てくる.最後の第VII部は,著者が生まれ育った鎌倉のエッセイ集だ.