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本サイトは〈dagboek〉から【本】の情報を抽出した備忘メモです.(三中信宏)

sinds 9 januari 2005

26-11-2006 蘭とドリアン

[]『カラー版 ドリアン−果物の王

塚谷裕一

(2006年10月25日刊行,中央公論新社[中公新書1870], ISBN:4121018702


【書評】

※Copyright 2006 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved

さくっと読了した.「ドリアン臭」がどこからか漂ってきそうな本.なぜって,著者自身が東南アジアでひたすらドリアンを喰いまくっているから.その旺盛な食慾は本書を埋めるおびただしい果実写真から読者にもびしびしと伝わってくる.第1章に出てくる“わんこドリアン”の逸話にいたっては,“gastronome”と賞賛すべきか,それとも“gastromanie”とあきれるべきか.


もちろん,本書は「喰う話」ばかりではない.第2章でのドリアンの発芽やその後の生育についての実験,第3章でのドリアンとその近縁群の東南アジアでの地理的分布と味覚の相互比較,そして第6章でのドリアン臭の原因となる化学物質など,ドリアンをとりまく生物学の話題がうまくまとめられている.


しかし,何よりも第4章で取り上げられている,日本の戦前戦後の「果実食文化史」がたいへんおもしろい(しかも意表をつく)テーマだ.かつて書かれたさまざまな文学作品や記録をひもときながら,著者は戦前よりも戦後の方が日本は「貧しくなった」のではないかと言う:


日本が貧しくなったのは,戦後の一時的な現象であって,それ以前の大正期から昭和初期には,さまざまな海外の品が街々に溢れていたのだった.(p. 112)


果物もその例外ではなく,バナナやマンゴーやバニラの例を挙げながら,著者は果物食文化における「文化の途絶」(p. 158)を論じる.


本書には,戦前から戦中にかけての歴史的エピソードがいくつも出てくる.中でも,植物地理学者である E. J. H. Corner が提唱した「ドリアン説」に関連して,彼の著書『思い出の昭南博物館』(1982年刊行,中公新書)への言及がある(pp. 71-73).第二次世界大戦中に日本軍によって占領されたシンガポールのラッフルズ博物館をめぐる史的挿話の集成本だ.以前から,この本は買わないとな,読まないとな,と思いつつどういうわけだか,現在にいたるまでその機会がない.今度こそ手にとってみよう.


個人的な経験をいえば,ぼく自身は「生ドリアン」を食べたことがない.たまたま東南アジアのフィールド調査に行った同僚が持ち帰った「干しドリアン」や本書の第5章にも出てくる「ドリアン羊羹」を口にしたことがある程度だ.嗚呼,ドリアンを喰いたいな.※そうそう,名古屋の浅間にある喫茶店〈にしわき〉では,生ドリアンをかけた「ドリアンかき氷」(p. 170)があるそうだ.また,ナゴヤかよっ(必修? 選択?).


—— ドリアン本を“食べて”,やっと少し元気が出てきた気がする.


目次


三中信宏(26 November 2006)


[]『カラー版 ドリアン−果物の王

塚谷裕一

(2006年10月25日刊行,中央公論新社[中公新書1870], ISBN:4121018702


【目次】

1. おいしいドリアン

 1-1 ドリアンは臭くない 2

 1-2 ドリアンが臭いと感じる人もいる 4

 1-3 香りの感じ方 7

 1-4 ドリアンの香りをめぐる論争 12

 1-5 おいしいドリアンの選び方 16

 1-6 いよいよ食べる番 21

2. ドリアンの植物学

 2-1 ドリアンの可食部 —— 仮種皮 28

 2-2 ドリアンの種子を蒔くと —— 1 変な発芽 36

 2-3 ドリアンの種子を蒔くと —— 2 成長開始 40

 2-4 ドリアンの種子を蒔くと —— 3 ドリアンの葉 46

 2-5 ドリアンの鉢植え栽培 51

 2-6 ドリアンの地植え栽培 57

 2-7 幹生果という性質 64

 2-8 ドリアン説 68

3. ドリアンのいろいろ

 3-1 分類学の約束 76

 3-2 ドリアン属のふるさととオランウータン 79

 3-3 食用になる近縁種 —— 1 カラントゲンとパパゲン 85

 3-4 食用になる近縁種 —— 2 さまざまな個性 90

 3-5 ドリアンの品種 96

4. ドリアンの果物史

 4-1 豊かなアジアと戦前の日本の憧憬 106

 4-2 失われた豊かなアジアの記憶 111

 4-3 バナナの知られざる歴史 116

 4-4 日本に入らないおいしいバナナ 120

 4-5 昭和一桁の頃のドリアン —— 1 『果物通』 123

 4-6 昭和一桁の頃のドリアン —— 2 『マレー蘭印紀行』=忘れられたサオ 130

 4-7 大戦末期のドリアン 136

 4-8 『浮雲』にみる東南アジアの森林資源開発 139

 4-9 戦後日本における果物復活の足取り —— 1 グレープフルーツからの始まり 145

 4-10 戦後日本における果物復活の足取り —— 2 マンゴスチン 150

 4-11 戦後日本における果物復活の足取り —— 3 マンゴー 153

5. ドリアンのいろいろな食べ方

 5-1 ドリアン羊羹 160

 5-2 ドリアンかき氷 168

 5-3 食べ合わせ 173

6. ドリアンの栄養成分と香気成分

 6-1 ドリアンの栄養素 182

 6-2 ドリアンの脂肪分 186

 6-3 ドリアンの香り成分 —— 1 香りの秘密と個人差 191

 6-4 ドリアンの香り成分 —— 2 複雑な香り 195


[]『インカの野生蘭

高野潤

(2006年8月25日刊行,新潮社,ISBN:4103015713


アマゾン源流生活』(2006年1月11日刊行,平凡社,ISBN:4582832970目次書評)の著者によるアンデスの「蘭」の本.午前中に読了.熱帯高山地帯の雲霧林に咲く野生蘭の生態写真が主だが,本文はやっぱり“源流生活”的だ.ナランホをはじめ南米の果実たちが食慾をそそる.



【目次】

はじめに 12

Graphics インカの野生蘭 I 18

第1章 野生蘭を求めて 49

Graphics インカの野生蘭 II 66

第2章 雨の雲霧林を行く 97

第3章 インカとアンディ・スユ 113

第4章 「霧の男」チャチャポヤス文明 145

第5章 豊潤な雲霧林 183

おわりに 202