『江崎悌三随筆集』

江崎悌三(著)/江崎シャルロッテ(編)

(1958年12月14日刊行,北隆館,東京,x+345 pp.)

前から探していた昆虫学エッセイ集だったが,人間ドック後に立ち寄った天久保学園古書センターにて運よく安くゲットできた.江崎悌三の没後翌年に刊行された121のエッセイをまとめた本.手元に:上野益三他(編)『江崎悌三著作集(全三巻)』(1984思索社)がある.『随筆集』との重複がどれくらいあるのか確かめていないが,ざっと見るかぎり随筆集は新聞や雑誌などに寄稿した短報・エッセイの集成のようだ.それにしても相当な切手マニアですなあ.本書の前の所有者は農水省果樹試験場興津支場にいた是永龍二さん.サインの下に「34.12.24 静岡」とメモあり.

回顧的エッセイを読む楽しみのひとつは,意外な「人脈」が垣間見えるところだ.待ち時間にぱらぱらめくっていたらこんな一節があった:

「また小学校の昆虫採集仲間には高坂正顕氏がいた」(p. 4)

ここに登場する「高坂正顕」とはのちに京大人文研所長としていわゆる「京都学派」の一翼を担った人物で,保守派論客・高坂正堯の父親でもある.ほんのちょっとした一文からも背後にひそむ人のつながりが広がる.