『高学歴女子の貧困:女子は学歴で「幸せ」になれるか?』

大理奈穂子・栗田隆子大野左紀子水月昭道(監修)

(2014年2月20日刊行,光文社[光文社新書・681],東京,187 pp., 本体価格740円,ISBN:9784334037840目次版元ページ

190ページ足らずの薄さなので速攻読了.著者ひとりひとりの人生経験にもとづく各章は,ルポルタージュとしても興味深い.本書の著者たちは,理系の大学院生やポスドクではなく,人文・社会系そして芸術系の研究分野がはらむ問題点を挙げている.とくに[専業]非常勤講師問題がクローズアップされている点が文系での特徴だろう.大学や研究機関に属さずに研究を進める上でのさまざまな障害,そして “女性” であることのしがらみが綴られている.

大野左紀子さんは「貧乏ではあっても貧困ではなかった」と書いている.金銭的な貧乏と精神的な貧困とのちがいを言わんとしているにちがいない.その一方で,「貧すれば鈍する」ことも事実.金銭的に追い詰められることの負の波及は確かにある.本書を読むと,“高学歴〔女子〕ワーキングプア” というひとつのキーワードでは掬いきれないほど関連するあまたの未解決問題や背後に隠れた文脈がずるずると引きずり出されてくる読後感が残る.深く冥く淀んだ淵を覗きこむような感じ.

したがって,本書では何らかの解決策が提示されているわけではない.むしろ,読者に問題を突きつける本.そのためにも,あと百ページは増やしてサンブルサイズを大きくしてほしかった.単なる統計データではなく,その背後にあるストーリーのひとつひとつが議論を深める上で大事だろうから.

Cf.: 著者のひとりである大野左紀子さんによる紹介記事:Ohnoblog 2「新書『高学歴女子の貧困 女子は学歴で「幸せ」になれるか?』発売のお知らせ」(2014年2月16日)



追記】本書を含む水月昭道氏の3冊の著書『高学歴ワーキングプア』『ホームレス博士』『高学歴女子の貧困』を全部読んだワタクシの感想文が,いずれも「サンプル数の不足」あるいは「サンプリング・バイアス」に言及しているのはおそらく共通する要因があるからだろう.アンケートや体験談を踏まえて何かモノを言うというのは,読者ウケはするだろうが,サンプリングの仕方をよほどよく考えないと「言いたいことが言えてしまう」危険性がある.[2014年2月23日]