「著者献呈本の運命さまざま」

古書店経由で購入した本が「著者献呈本」である確率は小さくない.自筆サイン本ならば著者の知人に贈られたものであることがわかる.その一方で,「謹呈カード」がはさまれたものはもう少し “縁” が薄い知り合いへの儀礼的な献呈本なのだろうと推察される.古書流通ルートの乗りやすいのは,自筆サイン献呈本ではなく,儀礼的謹呈本の方だろう.

ワタクシが入手した古書もそれだった.高価な研究書をあえて献呈する著者は,謹呈カードと近況報告を挟み込んで相手に贈った.しかし,それら全部を挟み込んだまま古書店に売られていた.贈った相手が不義理をしたのか,それとも何かの理由で蔵書整理をしたのか.理由はわからないが,せめて謹呈カードと近況報告文は抜いた上で古書店に処分した方がよろしかろうと感じたしだい.たまに謹呈先の氏名が書かれたケースさえある.ページを開いたこともなかったのか.

もちろん,ワタクシ個人的には,目の前の古書に残されたさまざまな「断片情報」からその “トークン本” の来歴を推測するのは悦楽の時であることはまちがいない.Cf: 古沢和宏『痕跡本のすすめ』(2012年2月17日刊行,太田出版,東京,160 pp., 本体価格1,300円,ISBN:9784778312978版元ページ古書五つ葉文庫)をかつて読んで書いた書評:三中信宏「痕跡本」の愉しみと戒め」(2012年2月19日).