『〆切本』

左右社編集部
(2016年9月20日刊行,左右社,東京, 366 pp., 本体価格2,300円, ISBN:9784865281538版元ページ

一年の中でも今の時期は妖怪 “〆切” に憑依されてしまう人も多いだろう.このエッセイ集には “毒” と “薬” がある.外山滋比古「のばせばのびる、か」から:

  1. 「ことしは無理だ、一年論文留年をしようという気持ちをおこす学生がかならず何人かあらわれる。いま急いで不本意な論文を提出するより、もう一年じっくり時間をかけて悔いのない論文を完成しよう。この空想は甘美である」(p. 279)
  2. 「何が何でも書き上げろ。死んだつもりで書け。でき栄えなど自分で気にするのは生意気である。ことしかけないのなら、来年はもっと書きにくい。来年になれば名論文が書けるようになると思うのは幻想にすぎない.来年のいまごろになれば、いまとまったく同じ気持になる」(p. 279)
  3. 「仕事にかかるのは気迫だが、仕事をし終えるには諦めが必要である。大論文を書こうと思ったら決して完成しない。できるだけの努力はする。あとはもう運を天にまかせる。不出来であってもしかたがない.そう思い切るのである。色気をすてる。そうすれば案ずるより生むはやすし,である」(p.280)
  4. 「仕事を先にのばせば、いくらでものびる。そしてのびた仕事ほど、やりにくくなる。あがりもおもしろくない。兵は拙速をたっとぶ。どうせ上々の首尾などということは叶えられないことだとあきらめる」(p. 282)― 拙速主義!
  5. 「今日できることがあったら、してしまえ。明日までのばすな。忙しい人は、すぐに手をつける。ひまな人は明日に期待をかける」(pp. 282-283)― けだし名言だなあ.