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本サイトは〈dagboek〉から【本】の情報を抽出した備忘メモです.(三中信宏)

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29-03-2017 戦地の図書館(書評)

[]『戦地の図書館:海を越えた一億四千万冊

モリー・グプティル・マニング[松尾恭子訳]

(2016年5月31日刊行,東京創元社,東京, 257 + lix pp., 本体価格2,500円, ISBN:9784488003845目次版元ページ

【書評】※Copyright 2017 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved


本はまさしく “武器”だった


本書のテーマである〈兵隊文庫(Armed Services Edition)〉の話はとてもおもしろい.第二次大戦中,ナチス・ドイツによる一億冊にのぼる大規模な “焚書・禁書” に対抗して,アメリカは最前線の兵士たちに計一億数千万冊もの大量の本を送り続けた.この1940年以降に始まったこのプロジェクトは,最初は「戦勝図書運動」なる図書館主体の民間ボランティアから始まり,戦火の拡大とともに「戦時図書審議会」が取り仕切る国家プロジェクトへと格上げされていった.


大戦前後の数年間(1943〜47年)に全1,322タイトルが出版された〈兵隊文庫〉が前線の兵士たちにもたらしたものはただごとではなく大きかった.第7章「砂漠に降る雨」の冒頭では太平洋戦争の場面が出てくる.


「兵士が地獄と呼ぶ太平洋の島々では,気分を高揚させるものが必要であり,未開の地での生活と過酷な戦いに耐えるためには,娯楽が欠かせなかった.島々への侵攻作戦が始まった当初から,読書は,兵士の数少ない娯楽のひとつだった.兵隊文庫は小さいため,携行しても邪魔にならず,ほんの数分でもそれを読むと,心を健全に保つことができた.陸軍特別業務部は,雨が降ろうが槍が降ろうが(あるいは両方が同時に降ろうが),できる限り早く,兵隊文庫を各島に届けるために最善を尽くした」(pp. 154-155)


本書によると,戦前のアメリカの出版社は重厚なハードカバー版が主体でペーパーバック版は軽んじられていた.ところが,第二次世界大戦で多くのアメリカ人が戦地へ赴くようになり,より小さくて薄い携帯性にすぐれたペーパーバックの需要が爆発的に高まったそうな.いかに多くの “活字” を最前線に早く大量に届けるかを目的とした〈兵隊文庫〉は,ステープラー留めの簡易製本されることもあったというから,本の “かたち” としては極限だったのだろう.


〈兵隊文庫〉の影響は戦後にも及んだ.戦地から帰還した元兵士たちは〈兵隊文庫〉で学んだおかげで,入学した大学では抜群の成績をおさめた.


「戦勝図書運動と戦時図書審議会の活動によって,兵士は本を読み,学ぶようになった.そのことが,戦後の兵士の人生を豊かなものにした.〈ニューヨーク・ポスト〉は一九四五年の春,誇らしげに述べている.『アメリカは,世界最高の読書軍団を有している』」(p. 245)


〈兵隊文庫〉には時間つぶしの娯楽本や小説ばかりではなく,“戦後” を見据えた本もたくさん含まれていたという.たとえばダレル・ハフとフランシス・ハフの『Twenty Careers of Tomorrow』(〈兵隊文庫〉no. 1002)は復員後にどのような職業に就くべきかを兵士たちに説いた本だった(p. 223).ダレル・ハフ ― 言うまでもなくかの名著:ダレル・ハフ[高木秀玄 訳/永美ハルオ イラスト]『統計でウソをつく法:数式を使わない統計学入門』(1968年7月24日刊行,講談社[ブルーバックス・B-124],東京, 223 pp., ISBN:9784061177208版元ページ)の著者である.


本書の「付録A」にはナチス・ドイツ時代に禁書だった著者一覧が挙げられ,「付録B」には〈兵隊文庫〉に収められた全リストが載っている.世界大戦という追い詰められた状況での「本の戦争」を目の当たりにしている気がした.著者は最後に記している:「そして,書籍は計り知れない力を持つ武器のひとつだった」(pp. 248-249).


三中信宏(2017年3月30日)

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