『Cogwheels of the Mind: The Story of Venn Diagrams』

Anthony W. F. Edwards
(2004年刊行,The Johns Hopkins University Press, Baltimore, xvi+110 pp., ISBN:0801874343 [hbk] → 書評・目次版元ページ

予期しないアッパーカットを喰らうとその影響は何年も続くことがある.数年前に京都で開催された合評会:Togetter -「文化系統学・文化進化研究の現在―『文化系統学への招待』合評会」の体験を今でも思い出す.評者のひとりだった伊勢田哲治さんのまとめ「『文化系統学への招待』合評会報告」[pdf] の最後に,「どうでもよい点」としてワタクシが「ヴェン図」と書いたのは「オイラー図」ではないかと指摘され,虚をつかれたワタクシはその場でノックアウトされた.伊勢田さんの指摘はぜんぜん「どうでもよい」ことではなく,ワタクシが中学校以来ずーーーっと信じてきたことががらがらと音を立てて崩れたその喪失感はその後何年も続くことになる.

そう,「ヴェン図(Venn diagram)」と「オイラー図(Euler diagram)」とは別物であって,部分集合の包含関係を図示するダイアグラムとして広く使われているアノ図は正しくはオイラー図と呼ぶべきだったわけね.このアッパーカットは効く効く.真夏の京都の蒸し暑さの中でノックダウンされたワタクシは,その後,けっしてその間違いを犯すことなく現在に至っている.もうすぐ出る『思考の体系学』でもちゃんと「オイラー図」で通しているほどだ.

オイラー図とはちがって「正しいヴェン図」を描くのは大仕事だ.このことは統計学者 Anthony W. F. Edwards の本書に詳しい.R なみなさんは「VennDiagram」というパッケージを試してみるといい(n=1〜5のヴェン図が作図できる).ヴェン図については以下のサイトでも詳しく考察されている:Frank Ruskey and Mark Weston 1997-2005. A Survey of Venn Diagrams

【教訓】たまにアッパーカットを喰らうと自分が「何も知らない」ことがわかる.