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01-05-2018 京都学派 酔故伝(感想)

[]『京都学派 酔故伝

櫻井正一郎

(2017年9月15日刊行,京都大学学術出版会[学術選書・083],京都, viii+415 pp., 本体価格2,000円, ISBN:9784814001156目次 版元ページ

ベッドサイドブックとしてゆるゆる読んでいたので,読了するのになんと半年もかかってしまった.いやはや「酔故伝」という副題がピッタリすぎておもしろい.前半の約100余ページを占める第 I 部「實事求是 —— 文学研究の京都学派」と続く第 II 部「第二期の特徴」は,「京都学派」の草創期から続く第二期の全体を見わたす役割を担っている.数多くの人物が入れ代わり立ち代わり登場するのは予想していたとおり.ワタクシ的にはどこかに一枚でも人脈と文脈を可視化する “マップ(曼荼羅)” があればもっと見通しがよくなったのではないかと思う.著者自身も認めているように,本書の中核は全250ページに及ぶ第 III 部「京都学派人物列伝」にある.個人の伝記的情報を “点” としてとらえ,そのつながりを “線” として結ぶことにより,全体の鳥瞰図が導かれるのだろう.

本書で描かれている「京都学派」は人文社会系(東洋学,ドイツ文学,文化人類学, “今西学” など)が中心で,ワタクシにはぜんぜん見知らぬ個人名がほとんどだ.それにしても第二期の面々はどいつもこいつも “破滅的” な酒飲みだ.今の大学ではまちがいなく “野生絶滅” しているタイプの研究者ぞろい.とりわけ印象に残るのはドイツ文学の大山定一だ(pp. 199-212):「研究室にも書斎にも帰らずに呑んでいた」「深夜二時三時になると,カウンターに坐ったままでうつ伏せになって眠った」「気に入らない職務には従わなくなった」「五十歳代になってから,授業をする意欲をなくした」— これはタダモノではない(周囲にとってはタダゴトではなかったにちがいない).京都学派「第二期」を支えた吉川幸次郎・桑原武夫・今西錦司がケダモノのように呑んでは暴れていた傍らで,ひたすら静かに死ぬほど呑んでいた大山のような人物を多々いたことを本書で知る.「そのころは『文雅』が尊ばれていた.だからこそ大山が大学で教えていたころ,今では許されない職務の怠慢が大目に見られた」(p. 208)と著者は指摘している.

京都学派に “酒” を流し込んだ張本人は稀代の酒飲みとして有名な中国文学者・青木正兒だったと著者は言う:「[京都]学派の草創期は酒とは関わらなかったが,草創期の第一の弟子の時代になって学問が酒と関わり始めた.青木らの酒の第一の意義はこの点にあった.この意義は大きかった」(p. 351).こんな興味深い指摘も:

「[青木は]酒を楽しむために他事をすてて注意深く全条件を整えた.学問をするときもこれと寸分たがわなかった.細部にも隙を作らず,全精神を集中して,学問を楽しんだのだった.これほどに楽しんだ青木の酒は,青木の直後に続いた第二期の学者たちの酒ではなかった.新しい世代の酒は研究を進めるための,いわば機能としての酒になっていた.桑原,梅棹の酒がそうだった.有益な酒だったが青木の酒のように純粋ではなかった」(p. 368)

『陶然亭』と『花甲寿菜単』を再読しないと.

九鬼周造(pp. 316-345)について著者はさまざまな “伝説” — 「祇園のお茶屋から大学に講義に出かけた」(p. 316)などなど — をひとつひとつ論破していて納得した.「およそ遊里とは関係がない人がいた」(p. 345)という結びの言葉が響く.

本書は全体を通して言えば必ずしもきちんとオーガナイズされた構成ではなく,文章にもところどころ意味不明な箇所がなきにしもあらず.むしろ,きれいに刈り込まれていないことが本書の良さなのかもしれないと感じた.これだけのコンテンツがたった2,000円で読めるとは京大出版会は太っ腹だ.さて,本書の続きは何を読むべきかという問題が浮上する.京大出版会の “策略” にハマるとしたら,当然:古川安『化学者たちの京都学派:喜多源逸と日本の化学』(2017年12月刊行,京都大学学術出版会,京都, 本体価格3,800円, ISBN:9784814001224版元ページ)なのかもしれないが,“お水” とはやや無縁になる気がしないでもない.

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