ディーノ・ブッツァーティ「タタール人の砂漠」

将校である主人公は砂漠の砦に配属される。誰もその場所を知らぬ砦は、砂漠という無人の荒野に面していて、どこからも襲撃される気配がないのだが、どこかきなくさい。その異様な雰囲気に疑問を感じながらも、いつ終わるともない任務を全うしようとする。
忍び寄ってくる敵軍への恐怖からなのか、不可解な出来事が頻発し、どんどんと精神的に追いつめられてゆく主人公。そんな、絶えず敵が襲いかかってくるのではないかという妄想めいた不安と闘う、異様な物語である。

短編の名手にしては珍しい長編。ブッツァーティの腕ならば長さを1/5にはできそうな気はするんだけど、その恐怖と不安がねちっこく忍び寄ってくる感じというのは長編ならではなのかもしれない。
得体の知れない不安とは、あきらかに生の苦痛と死の恐怖を喚起させる。それを克服するには、やはり死によるしかないという救いのないテーマ設定を、どう読み取るのかが本書と対峙したときの問題だ。

そう言う意味では、自分はまだ、ブッツァーティの読み方をしらないのかもしれない。
どうにもならない救いようのない現実、その未来は、やはり茫漠たる砂漠のように眼前に広がっている。