会社の話 11

 金融機関なのであろうか……。K社で出版経営を学ぶうちに、取次とは金融機関なのではないか、と思うようになった。取次は出版社に対して、本が売れていないのに、お金を払ってくれる。しかし、本が売れているのに、お金を払ってくれないこともある。この摩訶不思議なシステムがどういうことか、ごく簡単に説明しよう。
 まず、A社が「XYZ」という新刊を出すとする。A社は刊行前に見本をもって取次Nをたずね、「XYZ」がいかに売れるかを仕入れ担当者にアピールし、「2000部、配本してください」というように配本希望部数を知らせる。配本希望日も知らせる。さらに、取次Tや取次Oなど、いくつかの取次をたずね、同じことをする。
 数日後にA社は各取次に電話をして、「XYZ」を何部配本してくれるのか、おうかがいをたてる。K社の場合、トーハンや日販、大阪屋、栗田など、大手取次のすべてに口座があったので、配本前はけっこう忙しかった。簡単にいうと、出版社と取次が契約関係にあることを、口座がある、といってよかろう。この「取次に口座を開く」ということが、新興の出版社にとっては、最大の難関だといえる。
 私はK社にいたとき、口座というものが、いかに古くから取次とつきあっていたかが基準となる「利権」のようなものになっている、と感じた。どう「利権」なのかというと、古くて伝統のある出版社と新しい出版社とでは、取引条件がかなり異なるのである。この条件の違いを知れば知るほど、新興の出版社は「やる気をなくす」ことになる。
 純粋に流通の面だけに注目すれば、本の流通に取次は必要なのたろう、とは思う。しかし、この「利権」はどうにかしてほしい。どうにかしないと、新しい出版社は「いかに取次とつきあわないで、本の流通を成立させるか」ということを真剣に考えはじめる。「いくら真剣に考えたって、できることには限界がある」などと鼻で笑っている輩は、トランスビューという出版社の設立から現在までの実情を、しっかりと知るべきだと思う。
 私は、トランスビューの工藤さんほど、出版営業や流通に関する知識も経験もない。とはいえ、経験がないからこそ、K社でイチから学んだことにより、取次という「ブラックボックス」の姿がおぼろげながら見えてきた、ともいえる。
 では、明日のお題は「利権」ということで……。

トークセッションのご案内

 21日の土曜日に、弊社が関わるトークセッションを開催します。ちょっと硬派な内容ですが、講師のおふたりはともに気さくな方で、硬いテーマを柔らかく話してくれることは確実です。

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JUNK 連続トークセッション
『冷戦文化論』(丸川哲史著、双風舎刊)出版記念

丸川哲史 × 米谷匡史
トークセッション『冷戦再考』

2005年5月21日(土) 18:30〜
ジュンク堂書店池袋本店にて。
入場料1000円(ドリンク付き)
ご予約:03-5956-6111
http://www.junkudo.co.jp/newevent/evtalk.html

 旧ソ連と東欧の崩壊により、東西の冷戦は終わったと一般的には考えられています。とりわけ日本においては、冷戦にコミットしていたという実感がとぼしく、傍観者として他人事のごとく冷戦を眺めていたというのが実情であったように思います。一方で、東アジア諸国から見た日本は、冷戦に参加し、加担し、主宰していた国として認識されています。
 『冷戦文化論』の著者である丸川哲史さんは、こうしたギャップがそれぞれの国における歴史認識の違いから生じていると考えました。そして丸川は、冷戦にコミットしていた事実を日本人に気づかせる手段として、冷戦期の文化を再検討することを選びました。
 北朝鮮問題や中国と台湾の対立、歴史認識をめぐる日韓の温度差や大規模な反日運動など、東アジア情勢はいま揺れています。不安定な要素を抱えながらも、多くの韓国人や中国人が日本に長期滞在し、多くの日本人が観光レベルで韓国や中国、台湾を訪れています。
 揺れる東アジアの現状を理解するためには、冷戦の再検討が欠かせません。
 いまだからこそ、冷戦を問題にしなければならないことの意味を、若手研究者の丸川哲史さんと米谷匡史さんに徹底討論していただきます。

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