会社の話 19


 いま、宮台真司×北田暁大著『限界の思考』の編集作業をしている。
 どうせなら、作業の進行具合をブログで書いてみようか。いままでの作業を振り返って書くよりも、臨場感があるし、わかりやすいかもしれない。具体的に書ける部分もあるし、ぼやかして書かざるを得ない部分もあるが、あくまでも「書ける範囲で」ということで書いてみよう。
 とはいえ、すでに作業の途中となっているので、これまでの作業を簡単に振り返っておこう。

 『限界の思考』(以下、『限界』)は、対談記録である。だから、企画の仕込みは「だれとだれが、どんなテーマで、いつどこで、何回くらい、対談するのか」を決めることからはじまる。だからまず私は、宮台さんと北田さんが、「現代思想が限界に達しつつあるいま、社会学はその限界を乗り越える何かを提示できるのか」というテーマで、昨年の3月から9月にかけて3回ほど、都内の書店(ABC、リブロ、紀伊國屋)で対談する、ということを決めた。
 すべての対談時には、録音機(オリンパス・ヴォイストレック DM-1を愛用)を2機ほどまわしつつ、司会進行などを担当した。

 ちなみに、『限界』の場合、3回の対談を書店でおこない、最後の1回は本年4月末に、聴衆なしで台東区谷中のあるレンタル・スペースにて語っていただいた(これらは、『限界』の第1章から第4章)。さらに、最終対談がおわってから、近所の酒場で一杯やりながら、おふたりの話を聞いた(これは附録として掲載)。

 この対談記録の起こしをはじめるところから、実務的な編集作業がはじまる。テープ起こしを外注すると、かなり高額なので、『日常・共同体・アイロニー』以降は自分で起こしている。どうやって起こすのかというと、まず上記の録音機にはパソコン用の音声ソフトが付いている。これが、ひじょうに便利なソフトだ。記憶媒体スマートメディアなので、音声データは簡単にパソコンへ転送できる。転送したデータを、音声ソフトで再生しながら、テキストエディター(秀丸)に文字を打ち込む。
 データの転送は簡単だが、実際に音声を文字に直すのは、とても根気がいる作業である。ただただ、そのまま起こすのなら容易だが、この段階で本に掲載しても恥ずかしくない文章にしておかないと、あとで困る。著者にも申し訳ない。だから、起こしの段階で頭をひねりつつ、話し言葉をうまく利用しながら、本に掲載できるレベルの文章に仕上げる。
 こうして書き上げた原稿を、著者にテキストデータで送信し、加筆や修正、削除などをやってもらう。『限界』の場合は、著者が宮台さんと北田さんのふたりなので、おふたりに同じデータを送り、自分の発言部分を直していただくべくお願いする。
 ここまでは、私のペースで作業ができるからよい。問題はここからである。

 宮台さんも北田さんも、大学で教えながら、テレビに出たりラジオに出たり、雑誌の連載をもっていたりする超多忙な人物だ。かなり早めにデータ原稿を送っているものの、なかなか原稿がかえってこない。かえってこないということ自体は、おふたりとも忙しいのだから、仕方のないこと。私が送った原稿に手をつけていただく順番を、じっと待つしかない。意外にあっさりと、あきらめがつく。
 ここで編集者としての私が頭を捻らなければいけないのは、「いかに既存の仕事をぶっちぎってまで、双風舎の原稿にかかわってもらえるようなモチベーションを、おふたりにもっていただくか」ということである。まあ、当たり前といえば当たり前のこと。
 編集者と著者との関係で、マスコミなどで流布しているイメージは、たとえば編集者が土産をもって著者宅を訪ね、原稿をもらうまでねばるとか、ひんぱんに電話を入れて催促するとか、著者を某ホテルの一室に缶詰(監禁?)してしまう、といったものかもしれない。
 おカネと時間があれば、そういう月並み(定石なのであろうか!?)な手段を使えよう。でも、私にはカネも時間もあまりない。カネがないことについては、すでにこれまでのブログで書いた。時間がないということは、こういうことだ。

 双風舎の場合、ある本の編集がはじまるということは、ある本の営業がはじまることを意味する。編集作業が空いた時間は、ほとんど営業に充当されるようになる。中規模以上の出版社だと、たいてい編集と営業が分離しているので、こういったアクロバティックな編集と営業の同時進行など、する必要がなかろう。
 新刊営業は、新刊のキャッチコピーをつくり、紹介文をつくり、チラシをつくることからはじまる。で、チラシには書影を入れたいので、営業をはじめる前に、デザイナーへ装丁の依頼をする。装丁のラフができたら、それを挿入して、チラシが完成。このチラシをもって、書店をまわることになる。
 書店人の方がたは、休みが不規則なので、かならずアポをとる。こうして「何日の何時に、どこの書店」というスケジュールを組みながら、地方の書店については、力を入れて書いた紹介文とともにチラシをファックスで送信する。私が直接、チラシをもってまわる書店は、都内の大手書店にかぎられている(というか、物理的にそれしかまわれない)。残りの書店については、首都圏はJRCに、関西圏は「るな工房」に、営業代行を依頼している。

 今日は、ここまで書いて力が尽きた。いま『限界』の脚注を作成しているのだが、項目数が316もある。1項目が100文字だとして、400字詰め原稿用紙で80枚分くらいの分量。8割くらいおわったものの、まだ先は長い……。
 「実況!」などと書きながら、ブログの内容はぜんぜん「実況!」でなくなった。タイトルに偽りあり、とお思いの方、申し訳ありません。明日以降、できるだけ早く、ほんとうに実況できるようにしてみます。