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双風亭日乗はてな出張所 このページをアンテナに追加 RSSフィード

     編集屋の戯れ言

2005-09-25

護送船団&保身の権化としての新聞労連 03:42

 自称イカサマ・アナウンサーの松浦大悟さんが「不機嫌な日常」というブログをやっています。双風舎の著者の情報などがひんぱんかつていねい更新され、とてもお世話になっています。

 本日付の同ブログは、「『労働組合』という名のエゴ」というエントリーです*1。松浦さんは、月刊『マスコミ市民』に掲載された新聞労連委員長の美浦克教さんのインタビューをとりあげ、そのエゴさ加減を批判しています。

 同委員長の記者クラブも再販制度も必要だという話を読むと、かつては組合の良心ともいわれた新聞労連が、すでに労使一体化の荒波にすくわれ、護送船団方式の護持と保身に走り、もはや良識を失いつつあることがよくわかります。

 記者クラブの弊害については、宮台さんや神保哲生さんが何度も何度も指摘していることなので、ここではくわしく触れません。すでに市民(なんて言葉を使うのもイカサマくさいですね)から理解を得られそうにないと指摘しつつ、再販制度は必要だというのは、まったくもって会社側(業界側)の論理を代弁しているにすぎず、会社様があっての組合だということを、新聞労連委員長が素直に認めているとしか読めません。

 すこし脱線します。昨日、東大の安心・安全セミナーで、法政大学社会学部助教授の白田秀彰*2さんが「知的財産権/プライバシーの危機」という講義をしてくれました。とても面白かった! ご本人は「暴論」といっていたけれど、私には「正論」に聞こえました。レジュメのまとめ部分を引用します。

知的財産権/プライバシーの危機

情報社会への移行に伴って、「知的財産権やプライバシーが危機に晒されている」という言説が流布している。しかし、これへの対処が、知的財産権の強化やプライバシー保護の法的・制度的強化と結合するとき、情報社会への官僚組織による支配を強化・正当化する結果となる。

過度に「知的財産権/プライバシーの危機」を煽ることは、情報社会の民主的統治にとって、危険である。

問題は、ユビキタス社会を駆動する機構が、a 官僚組織によって支配されるのか、あるいはb ハッカーによって支配されるのか、である。統治に関心をもたない一般の人々は、いずれにしても被治者としての利益と不利益を享受するのであるから、問題は、いずれの統治形態が*マシ*であるのか、ということである。

aの支配については、事前的予測も事後的検証も困難であるが、bの支配については、事前的予測も事後的検証も容易である。ゆえに、論者は民主的な統治を可能とするbの支配のほうが望ましいと判断する。

 とても挑発的で、興味深い内容の講義でした。とりわけ、ふたつの論点が印象に残ります。ひとつめ。わいせつなものであれ何であれ、すべての情報は自由に公開されるべきであり、それが公開されることが「危険だ」という言説は、基本的にマユツバであること。これは、宮台さんがつねづねいっていることにつながります。ふたつめ。知的所有権だ個人情報保護だといっているが、その根拠となっている「法」というものは、フィクションで成り立っているということ。これは、仲正さんがしばしば指摘していることだし、宮台さんもいっていますね。

 さて、ここで話しを戻しましょう。セミナーに参加した某新聞の記者さんが白田さんに、新聞報道のインターネット化が進んでいるが、この先、紙媒体のメディアとしての新聞は生き残っていけるのか、という質問をしました。白田さんいわく、メディアというものは古くから栄枯盛衰を繰り返しているものであり、とりわけ紙媒体のメディアは発展しては滅びるという道を歩んできた。インターネットで各種の無料情報を読む人が激増するなかで、おカネを払って紙媒体の新聞を買う人は、減少の一途をたどることになろう。新聞がなくなる日に備えて、「有能な記者」という「個人」を「ブランド」として市場に売り出せるような準備をしておいたほうがいい。そういう主旨のことを、白田さんはいっていました(以上の白田発言の引用は、あくまでも私が聞き取った範囲で、かつ私の文責で書いています)。

 私も白田さんの予言(!?)は、かなり現実化するような気がします。白田さんは、出版については、「本」という「もの」が人びとの「所有欲」を満足させることから、今後も生き残る可能性がある、といいます。薄っぺらい紙としての新聞は、おそらく人びとの「所有欲」を満足させることができない、ということです。

 で、白田さんからこうした新聞の明るい未来(!?)が提示されると、なぜ新聞労連の委員長が、護送船団方式の記者クラブ制度と、利権確保の再販制度を護持すべきだというのかが見えてきます。保身ですね。組合員の権利がどうのこうのというよりも、利権を確保しないとみずからの生活自体がたちいかなくなる可能性がある。会社あっての組合なのだから……。そういう危機感が感じられます。いまは、個々の大新聞の記者さんたちに、そんな危機感はないのかもしれませんが。そのうち大波がやってきますよ〜。NHKみたいな。

 ちなみに私自身は、「それは甘い」と指摘されるのを覚悟でいいますが、再販制度は廃止してもいいのではないかと思っています。現状では、あくまでも「……のではないか」というふうに逃げざるを得ませんが、出版流通の利権を取り払い、もっと自由なかたちにすれば、おそらく読者には、いまよりメリットのあるかたちで本を届けることができるような気がします。あくまでも「気がします」と逃げておりますが……。再販制度維持を掲げる言説は、なぜか「逃げ口上」に聞こえますし、「少部数の良書が世に出回らなくなる」などと主張する大手・中堅出版社の方の言葉は、なぜか空疎かつマユツバに聞こえてなりません。利権保持のための安全地帯からの発言、とでもいいましょうか。 

 このブログを読んでいただいている方がたの、新聞の未来や記者クラブ制度、再販制度に関するご意見をお聞きしてみたいものです。

 

ichikinichikin 2005/09/25 11:44 おはようございます。白田先生の講義、刺激的でしたね。某新聞記者さんの質問に対して、「もう、パンドラの匣は、開けられてしまったんですね」という答え。不謹慎ながら、心の中で拍手してしまいました。先日、某出版社の社長と話をしていて、某新聞社の学芸部の記者さんが出版物について取材にこられ、ひとしきり社内の雰囲気を愚痴っていったそうです。取材をして原稿にしても、6割以上デスクに書き換えられてしまう。しかも論旨があべこべになる。それでも記名原稿にされてしまうということでした。社内で政治的な議論をしようとすると、「しーん」となってしまうそうです。ちょっと信じられませんが……。でも、給料が良すぎてやめられないそうです。まあ、伝聞ですんで、割り引いてください。いずれにせよ、ネットも含めて、オルタナティヴなジャーナリズムの必要性を強く感じました。なかなかお会いできませんね。次回は、ぜひ喫煙室でお会いしましょう。

kuriyamakoujikuriyamakouji 2005/09/25 20:43 二年以上前に中馬さんの「新聞は生き残れるか」(岩波新書)のbk1投稿書評を書いていたのですが、今、読み返してみて、何ら事情が全く変わっていないどころか、酷くなっているみたいですね、暗澹たる気持ちです。出版物は色々と流通整備に時間がかかりますが、新聞の再販維持制度撤退はすぐにでも出来るはずです。まず、ここが突破口だと思います。
http://www.bk1.co.jp/product/2315580/review/213927

lelelelelele 2005/09/26 00:23 ichikinさん、コメントをありがとうございます。「給料が良すぎてやめられない」というのは粋な発言ですね。まあ、世の中には給料の高さで仕事を選ぶ人がいてもいいし、最低限の生活費を稼ぎながら、わざわざ崖っぷちに立つような人(=私のこと)がいてもいいでしょう。でも、給料が高いところにいても、そこがつぶれたりリストラしたりする可能性があるわけですから、やはり自分の技に磨きをかけて、独り立ちしてもやっていけるように準備しておいたほうがいいと思います。あと、組織が大きければ大きいほど、給料はいいし、会社名という単なる「看板」やそれに基づく「権力」を、自分自身の力だと取り違えている人が多いですね。「組織」と「自分」の距離をつねに意識してほしい。自分は自立しても通用する能力があるんだから、署名記事がデスクにいじられたら、徹底的に抗ったりしてもいいのでは。とはいえ、組織もみずからの保身に都合のよい人材を「社畜」として雇いつづけ、育てつづけるので、なかなかそうもいかないのが実情なのかもしれませんね。私の周辺には、新聞やテレビの中にいながら、社畜化に抗っている人もたくさんいますが、そういう人は口をそろえて「うちの組織は手遅れだ」とか「どうしようもない」と愚痴っております。
葉っぱさん、コメントをどうも。書評、拝読しました。論旨に共感いたします。我が家にもときどき、新聞の勧誘が来るのですが、もう洗剤やチケット類の「叩き売り」といった感じで、物量作戦にて勧誘してきます。「うちの新聞は、ここがいいんですよ」とか一言でもいってくれたら、どこの新聞であれ、とってあげるのに……(マジです)。

kuriyamakoujikuriyamakouji 2005/09/26 09:32 >「うちの新聞は、ここがいいんですよ」
このことを勧誘員に言ったことがありました。開口一番「どの新聞も同じだから、契約を細切れに変えてサービスをしてもらったほうがお徳ですよ」ってマジに勧誘をするのです。
それで、怒ったんです。でも僕の怒りの内容を理解出来ない。
「営業の基本は取り扱い商品のコンテンツを説明するのでしょう」
内容について「喋くり」から営業が始る。NHKの受信料の徴収も同じ。
そのときの勧誘員は新聞記事はサンケイも朝日も同じとマジに信じていたのです。僕もちょうどヒマだったんで、テレビ番組は同じだけれど、記事は違うんだよ、連載もあるし、連載記事を楽しみにして購読する人もいるし、親切に教えてあげました。僕もアルバイトで新聞配達をやったことがあるし、勧誘の経験があります。宅配制度と再販が記事内容を痩せたものにしていることは事実です。記者たちが街や村に出て、取材も兼ねて勧誘の営業をするのも一案です。せめて社員教育の一環としてもやるべきでしょうね、出版社も大手は最初から、編集と営業がわかれている。少なくとも編集の人も営業を体験させるべきでしょうね。

lelelelelele 2005/09/26 10:43 葉っぱさん、まいどです。日本の大マスコミは、すでにご指摘のような「上層エリート」&「下層ニート」、中間は「下請アルバイト」のような構造がガッチリできているので、これを変えるのは無理だと思います。新聞にしろテレビにしろ、プロパーの方がたは数日のみ、免罪符的に「下層ニート」の世界(勧誘、配達、集金など)を体験するだけで、現場のことなんて知ったことではありません。上級職で入った税務署員が、若くして免罪符的に税務署長をやるようなものですね(上級国家公務員の場合、「税務署長」が大マスコミの「下層ニート」的な位置づけであるのがすごい)。そもそも大マスコミに就職しようとする学生の志望動機で、「権力の番犬としての報道にたずさわりたい」とか「本物のジャーナリストになりたい」などというのはごく少数であり、いまや「給料が高くて、生活が安定する」とか「朝●や■売というブランドがかっこいい」「福利厚生が充実している」というのがほとんどなのでは。そういう人のほうが、組織としては使いやすいし。行く末は、「権力の番犬」ならぬ「権力のペット」。いやいやペットになる前に、インターネットに屠られてしまうかもしれませぬ。
こうした構造的な問題なので、再販制をなくし、記者クラブをなくし、つぶれそうな組織をガラガラポンする、というのがペット化防止の近道かもしれませんね。
とりあえず、新聞よりもN●Kのほうが、事態は深刻なようですが……。

白田白田 2005/09/29 11:42 こんにちは。白田です。

セミナーの時にさまざまな暴論をブッたわけですが、当日の議論をいささか補強するかもしれないテキストを書きました。セミナーでの議論で「全く納得できないよ!」と思われた方が読まれれば、納得できない度がいささか下がるのではないかと期待しています。

http://orion.mt.tama.hosie.ac.jp/hideaki/hackermanifesto.htm

をご覧ください。

kuriyamakoujikuriyamakouji 2005/09/29 12:34 白田さん、はじめまして、
すごく読みたいと思い、ご紹介のURLをコピペしたのですが、
表示されないのです。
leleleさんが紹介の先生のHPは表示できます。
だから、hackermanifestoのURLが原因だと思いますが、
他の方はちゃんと表示出来たでしょうか。

白田白田 2005/09/29 16:42 あ、hoseiのつづりが hosieになってます。正しいURLは、
http://orion.mt.tama.hosei.ac.jp/hideaki/hackermanifesto.htm
です。

kuriyamakoujikuriyamakouji 2005/09/29 18:19 白田さん、読むことが出来ました。いや〜あ、面白かったです。
もうとても懇切丁寧な誤解説で、ハッカー階級VSベクトル階級っていう
マッピングにはびっくりしました。このテクストを僕のブログに紹介させて下さい。後で…。

エスペラエスペラ 2005/11/20 10:57 はじめまして。
『マスコミ市民』の編集のお手伝いをしているものです。
ご指摘の記事は私たちも色々と考えるものがあったので、先日、三浦さん、神保さんなどをお招きしてパネルディスカッションを行いました。ややテーマを大きくしすぎて議論を深めるという感じにはなりませんでしたが、それでも双方の対立点や一般の人からの質問なども出て、それなりによいものにはなりました。
1月号で質疑を含めて掲載する予定ですので、ご興味があればぜひお読みください。
http://homepage3.nifty.com/masukomi-shimin/
http://tespera.exblog.jp/

lelelelelele 2005/11/20 14:02 エスペラさん、コメントをありがとうございます。カンボジア滞在中にお世話になった野中さんは、私ら夫婦の婚姻届の保証人なのでした。笑
1月号、拝読させていただきます。

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