泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

この国の発達のアセスメントはどこに向かうのだろう

 放課後等デイサービスのガイドラインで(「たとえば」と)推奨されているアセスメントツール「Vineland-2*1」を取り寄せてみる。これまで心理士に求められて購入してきた検査キットと比べれば、ずいぶん安い。保護者への半構造化面接によるので、マニュアルと用紙だけのもの。
 それでもマニュアルにはやっぱり「大学院で心理学を学んだ者が使うべき」という文言(「ソーシャルワークの大学院」も書かれていたが、心理色の薄い日本の福祉系大学院がこれに相当するとは言えないだろう)。もう見飽きた感がある。
 保護者からの面接で行うアセスメントすらも制限されるのか…。もちろんこれは翻訳なので、日本語版の内容について何を言っても仕方がない。素人による取り扱いが危険なのもわかる。ただ、日本の児童発達心理業界の皆さんにお聞きしたいのは、この国の障害児支援業界の現状を見て、いったいどのようにアセスメントの能力を底上げしていきたいと考えているのか、ということである。4年制大学の福祉系学部を出ても発達についての学習ほとんどゼロの福祉職ばかりで、続々と異業種からの参入や転職も増えていく業界で。
 高いスキルが求められるのは理解できるけれど、それならば現場の支援者がもっと力を高めていけるように研修機会を増やすとか、やるべきことがあるだろうに、ほとんどない。障害者福祉業界との接点を深めていこうという動きも見えない。「検査は心理士でなければ無理」と言って、今さら大学院に行けるはずもない多くの支援者を心理士に従えさせたいのだろうか。臨床心理士は累計でも3万人程度。障害児の放課後等デイは6000か所以上まで増加。どう考えたって、院卒の心理士がこれから現場にあふれていくとは思えない(給料も安いし)。
 公認心理師法の今後にも左右されるとはいえ、心理士はこれまで国家資格でなかったこともあり、福祉事業の中では明確な位置づけがなかった。児童発達支援事業であれ、放課後等デイサービスであれ、人員配置の要件などからすれば、心理士よりも社会福祉士介護福祉士のほうがずっと扱いは上である。障害福祉分野での従業歴をもたない人も多いので、管理責任者などのポストにつかせるまでにも長い時間を要することになり、その点でも雇いにくい(特に小さな事業所では)。
 日米で専門職の養成状況も福祉事業の制度化も大きく異なるのに、「検査」は担い手まで含めてがっつり標準化志向であるというのは無理がありすぎるのではないだろうか。もっと簡易な評価ツールでも活用していく習慣を現場に広めないと、障害児支援業界は発達を見る目が養えないと思う。検査に親しむというのは、子どもの育ちを分析的に見られるようになることでもあるわけで。フォーマルな評価を現場にとって縁のないものにしてしまうと、国が望んでいるような質の向上は期待できないのではないか。
 「発達」の自習に、いいかげんうんざり。

*1:本当はローマ数字