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Skepticism is beautiful このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-12-18

誤用される「プラセボ効果」

プラセボ効果またはプラシーボ効果とは、有効成分を含まない薬(偽薬・プラセボ)を摂ったことによって生じたと考えられる効果のことです*1。比較的狭い定義をするとすれば比較対照実験において統制群プラセボ群に認められた効果といったところでしょうか。


典型的誤用例1:効果がないのに効果があると思い込む

自動車の燃費改善グッズとか、パワー向上グッズの話題でよく出ます。「○○でパワーが上がるなんてありえん。プラセボ効果だろ!」みたいな感じで使われます *2。思い込みとでも呼ぶのが適切でしょう。

プラセボ効果は効果がないものを効果があると思い込むことではありません。効果はあります。効果がないはずのものを使ったのに効果があるという話です。


典型的誤用例2:自己暗示効果の言い換え

プラセボ効果が「これを飲めば症状が良くなる」と、効果を信じる自己暗示によって起こる症状改善であるということはよく言われる話ですが、証拠は得られていません。そのため、現在のところ「404 Not Found | シーサー株式会社」という主張をすることも可能です。

もちろん、自己暗示の効果かもしれませんが、「プラセボ効果とは自己暗示のことである」といえるだけの信頼できる根拠があるわけではないということが重要です。つまり、現時点で「信ずる者は救われる」とか「その薬には効果がないなんて正しいことを教えるのは、プラセボ効果を阻害するのでよくない」といった主張が妥当だとはいえません。


あまり見ない誤用例:ステレオタイプの言い換え

「あなたの性格はこうです」という風に言われた場合、肯定も否定も難しくないが、無視するのは難しい。そう言われたことによって、それを言われる前のあなたとあとのあなたでは何かが変わってしまっている。「傷がついた」という言い方をしてもよい。

血液型で性格が決まるのではなく、「血液型で性格が決まる」という言説を聞かされることで、性格が決まるというわけだ。これならばわかる。

404 Blog Not Found:血液型占いが「当たってしまう」一番の理由(の候補)

ここで使われた誤用です。言及先エントリの話は血液型ステレオタイプですね。自己暗示的な意味合いを持たせてプラセボ効果を使ったものだと考えられますが、微妙に特殊な用法です。


そもそもプラセボ効果とは何なのか

最も定義らしい定義は、最初に書いたように「比較対照実験*3において統制群プラセボ*4に認められた効果」でしょう。しかし、こう考えたとき、プラセボ効果とは何なのか?という疑問には殆ど答えられないことに気付きます。実のところ、プラセボ効果を「あるひとつの効果」として考えるのが適切なのか?という疑問も提起されています。「病状の改善」と「痛みの低減」のように性質の違うものを、同じ効果の結果として考えるのは適切ではないかもしれません。

もっと言えば、様々なメカニズムで起こった症状改善効果をごった煮したものがプラセボ効果であるとも言えてしまいます。


効果のメカニズム候補

では、プラセボ効果と呼ばれる効果に何が含まれる可能性があるのでしょうか。ここでは「比較対照実験において統制群プラセボ群に認められた効果」という定義でプラセボ効果を捉えたとき、そこに含まれるかもしれない候補をあげます*5

もっとも良く信じられている、「効果があると信じていたから効果がない薬を飲んでも効いた」というパターンです。

  • 条件付け

自己暗示の一種ともいえるかもしれませんが、自己暗示よりももっと本能よりの話で、薬を飲むと症状が改善するという経験を何度も繰り返すことにより、薬を飲むことが症状改善のきっかけになってしまったという可能性です。

ストレスによって症状が悪化するということはよくいわれます。ストレスによって免疫機能は落ちるため、ストレスが解消され免疫機能が正常に戻れば症状は改善するかもしれません。治療を受けることや、やるべきことをやったという安心感からストレスが低減され、症状が改善するということも考えられるでしょう*6

  • 思い込み

客観的にはなにも変わっていないにも関わらず、「治療を受けたから良くなっているはずだ」という思い込みで、客観的な判断ができない要素(例えば痛みなど自己申告によるしかないもの)が改善したと報告される可能性です。

オリジナルのホーソン効果は、工場作業の作業効率が、実験で設定された環境によってではなく、実験で注目されていること自体が原因で作業効率が上がるという話です*7。今回の話では、比較対照実験の被験者であること自体が症状の改善に影響を与える可能性を想定しています。

  • 自然治癒

多くの病気では、なにもしなくても良くなるということが起こります。風邪は典型的で、薬で症状を抑えることはできても治癒はできないという例で知られています*8。何もしなくとも症状が改善するわけですから、プラセボが与えられていたかどうかは関係ありません。

  • 平均への回帰

比較対照実験では、起きにくい問題ではありますが、それでも排除できるわけではありません。多くの病気は、悪い状態と良い状態をふらふらしながら、改善又は悪化します。悪い状態の方が医者にかかるように動機付けられるため、結果的に医師は症状が改善しているところに出会いやすい状態になります*9。これもまた、プラセボが与えられていたかどうかは関係ありません。


器質性の疾患にはプラセボ効果はあらわれないという話は多いものの、主観的な痛み低減効果が存在するということについては、ほぼ確実に認められています。痛み低減効果については、プラセボが脳内麻薬とも言われるエンドルフィン(または類似のもの)の分泌を促すとする研究結果があり、説得力のある話として受け入れられています。このことは、痛みの低減が自己暗示又は条件付けによって起こった可能性を示唆しています。

しかし、「no title」などの論文をみると、*10それ以外の要因が無視できないほど大きいのではないかと考えることもできます。


つまり、「プラセボ効果」はまだ良く分かっていない、これからの研究課題なのです。


Loading...」という記事もとても興味深いので是非そちらもどうぞ。


追記(2008/12/21)

プラセボ効果メカニズムがはっきりしたものではないという結論から、誤用であるという指摘まで無意味だと考える方がいらっしゃるようなので追記。

誤用例1については、完全にプラセボ効果とは別の話なのでいいとして、誤用例2については、メカニズムがはっきり確定していないものなのに「メカニズム自己暗示である」として話を進めればそれは誤用でしょうということです。

といいつつ、正直なところ誤用の話にはそんなに興味がなく、「プラセボ効果って心身相関なの?」という個人的疑問から調べ始め、今のところこんな理解が妥当かな?と思ったところをまとめるのが目的だったんです。

*1:実際の使い方としては、「薬」に限らず治療一般で使うようです

*2:ここら辺はインチキ商品(ニセ科学商品)が非常に多く、燃費改善グッズについては、大手にも排除勧告が出たりしたこともあります。

*3:「実薬」と「偽薬=プラセボ」を与えるという以外は条件をなるべく同一にして効果の差を見る

*4プラセボを与えられた群

*5:思いついたものだけなので、もっとあるかもしれません

*6:でも、正直なところストレス免疫の話について、私はさっぱりわかりません。何がどこまで妥当な話なのでしょうか?

*7:オリジナルのホーソン工場実験の設定が適切ではなく、結論を下すのに十分なデータなどないという批判もあります。

*8:効果の無い代替医療が効果的に見える問題の大きな要因1です

*9:効果の無い代替医療が効果的に見える問題の大きな要因2です

*10:メタ分析によって、痛みの低減以外に関しては、無治療群とプラセボ群に有意な差がないという結論を出した論文

2008-01-11

あるある商法(又はみのもんた症候群)

高ポリフェノールココアが悪玉コレステロールを抑えることをヒトで確認 - GIGAZINE

ポリフェノールが悪玉コレステロールを抑える」という実験結果については、実験に問題がなければ意味のある研究結果だということは間違いない。

今後、高ポリフェノールココアを用いたメタボリックシンドローム対応商品への応用が期待されています。「メタボリックシンドロームに効くココア」なんて出たら確かにバカ売れしそう。

しかし、これはどうだろうか。

このような「バカ売れ」は、私達の間では「みのもんた症候群」と呼ばれて危険視されている。以前、テレビでココアの健康効果が宣伝された際は、内科で血糖値異常の患者が増えたそうである。ココアが健康にいいということで、甘いココアをガブガブ飲んだ「健康マニア」がそれなりに居たようなのである。

食品に含まれる1成分だけを取り出して、それが健康に寄与する可能性を云々する。そして、他に含まれる成分は都合よく無視する。これが、「あるある」や「おもいっきりテレビ」で行われている、「演出」の正体だ。

この方法を使えば、何だって健康食品のように宣伝できる*1

消費者は、自衛のためにもこういった宣伝文句に流されずに、実体を知る努力が必要な時代になっている。口を開けて待っているだけでは、被害者になってしまう可能性も十分あるのだから。

*1:逆に、何だって危険な食品のように扇動することもできる

2007-07-25

予防原則の弊害

業者に利用される予防原則的考え方

世の中に蔓延している健康商法には、「〜は健康にいい」という直球の他に、「〜は危険だ」という情報を流し、「だから自然由来のものを選びましょう」という話に繋げ、高い商品を売るものもある。

さて、前者については「根拠なし」である程度納得言ってもらえる場合があるが、後者は結構難しい問題だ。ある程度与太話に慣れている人であれば、妄言だと感じるような話でも、一般の人には不安を与える場合が多い*1

そもそも、ある物質が「絶対安全だ」などと保証することは原理的にできるはずもない。

予防原則は分かりやすい

実際に、科学的にある程度妥当な根拠がなくても、危険だと指摘されたものは避けるということは、それなりにまともな機関もやっていることだ*2

これは、「予防原則*3」という考え方である。本当にリスクがあるかは分からないけど、とりあえず避けとけば安全だよね…というのは、とても分かりやすい*4

世界情勢でいうと、EU系は「予防原則」に肯定的な態度であり、アメリカは否定的な態度である。

予防原則にも問題はある

しかし、予防原則には忘れられがちだが非常に重要な問題点がある。それは、予防原則を適用することによって生じるリスクの考慮である。下手するとこれは矛盾にもなってしまう。

どういうことか?予防原則によってある物質を規制した場合の副作用が(明確な根拠がなくても)予測できるのならば、予防原則での規制も予防原則の観点から予防されなければならない。

つまり、予防原則の立場から予防原則的対応が禁止されるという矛盾だ。

ちょっと荒唐無稽に感じるだろうか?いやしかし、現実としてそうすべきだったこともあるのである。以下のページを見て頂きたい。能天気なDDTの全面規制によって、いったい何百万人の命が脅かされ、何十万人の命が奪われたか*5

http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak386_390.html#zakkan388

DDTについては、予防原則を適用する副作用が予見できたのであるから、予防原則的対応を予防する必要があった。…とはいえ、こんなに酷い話はそうあるものではないのだが。

リスク管理にならざるをえない

結局は「予防することによって増加するリスク」の考慮はきちんとしているのか?とういうところが重要となってくる。世の中は複雑なので、こういったリスクは多くの場合トレードオフ関係になるのが普通だ。

例えば、医薬品なんかはその最たるものである。厳密な予防原則の立場に立ってしまうと、(副作用があるのが当然の)医薬品は全く使えなくなってしまう。

問題が確実でも不確実でもリスクとベネフィットの比較は不可避なのである。つまり、リスク論とならざるをえない。

ところで、EUは予防原則を妄信しているような愚鈍な集団なのだろうか。実態を見るとどうやら違う。実際のところは予防原則的な勧告を出すものの、運用をリスク論に基づいたものになるよう努力しているようだ。逆にアメリカが予防原則的対応をとることもあったりする。

まとめ

予防原則に忠実に行動すると逆効果(より酷い状況)になる場合もある。だから、単純に予防原則で動いてはいけない。現実的には、難しくともリスク管理といった考え方が不可避である。

*1:ここら辺のマッチポンプは霊感商法と本当に似てますよね。水子の霊だ→お払い。地獄に落ちるわよ→墓石。

*2:例えばWHOなど。電磁波についての予防原則的勧告を出した。

*3:予防原則の定義は難しく専門家の間でも色々と議論があるようだ。しかし、今回は一般市民の感覚でいく。

*4:この分かりやすさは、おそらく良い・ダメの二分法であることから来ているのであろう。

*5:ここまで多いと逆に感覚が麻痺してしまって軽く捉える人もいるかもしれないが、大惨事といってもいいものだと思われる。