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LHCアトラス実験オフィシャルブログ このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-12-26

復活への足音

| 10:24 |

東大素粒子センターの石野です

12/20の徳宿さんの書き込みに、

> 3月末までにはセクター34のすべての磁石をトンネルに再配置する。
> 6月末までには冷却を完了させ、LHCへの入射を始められるようにする。
> このスケジュールでの仕事表ができており、交換部品、マンパワー等の目処も付いている。

という、ポジティブな文面がありましたが、それを裏付けるかのように 特に12月中、地下から修理、点検のため運び出した磁石を載せた、特殊荷台をひっぱるトラックが CERN 所内を走行している姿に出くわしました。多分、私らの使っているオフィスがその搬出口の隣に位置しているため、出会う確率が高いのかもしれません。

ダイポールマグネットは1台の長さが15mと大きく、CERN 所内の狭いコーナーを すれ違う際には、自分の車を端に寄せ、相手の通行を待つということが しばしば起こります。いつもだと、「あ?、もう、面倒。早く行ってくれ?」 と内心思っていましたが、今回ばかりは 早く元気になって戻ってきてね... という気持ちで数度見送りました。

ともあれ、2009年、夏のLHC復活を期待しながら ATLAS の調整、準備を進めます。ATLAS 自体は shutdown maintenance が4月頭まで続き、その後、宇宙線を利用した全体コミッショニングを再開する予定です。

2008-11-30

ビームはなくとも ... ATLAS Shutdown & Recovery [4]

| 02:01 |

東大素粒子センターの 石野 です。

[3] の後の事の推移と、事が収束していく様子を書いてみます。

TGC1 <<>> MDT 間を 1.5m 開く決心をした。TGC1 <<>> TGC3 の間には約1,000本のケーブルが走っており、その大半を抜き去らないと物理的にWheel間は離れていかないため、とにかくケーブルを抜きまくった。6人が2日間続けて作業にあたり、なんとか、必要な800本のケーブル抜き取り、巻き上げ、固定が終了。みんな、お疲れ様。

TGC1をオレンジ色の台車で移動させる前日、Big Wheel のメカニカルデザイン責任者の Raphael と一緒に周囲をチェックする。彼は緩め忘れたボルトがないか、外し忘れた Big Wheel 間接続部品がないか気になっている。2対の目で一緒に見回るのは、お互いのためにも良かろう、ということで、入念にチェック。すると ... いきなり、あってはいけない場所を這っている冷却水チューブを発見。これでは Wheel が20cm移動した後、なんらかの事故がおこる。移動は明日で良い処理方法もないので、熱源となっている電源を全て落とし、冷却水をストップさせ、チューブそのものをカットして、急場を凌いだ。さらに他に、問題はないかチェックをし、1周したところでツアー終了。明日を迎えることにした。 が、やっぱり気になる。一人で、もう1周する。ちょっと病気。これで大丈夫と自分に言い聞かせる。でもまだ心配。

翌日朝、台車移動の責任者 Aboud , 前出の Raphael プラス、Big Wheel 周辺各地で点検をする我々 ~15名で簡単な打ち合わせをし、あらかじめ決めた配置へ行く。携帯電話を各自持ち、電話会議システムに各人接続、お互いの交信を確認したところでスタート! 1cm / 1min で進み、様子をチェック。これを10回繰り返した。特に問題なし。次は 2cm / 1min に速度を上げ10cm 一気に進もうとしていたその最中、Raphael がストップと叫んだ。ハイ、確かに処理されていないケーブルが1本ありました。このままだと、その線は引きちぎれてしまいます。よくぞ、見つけてくれました。感謝。その線を処理し、10cm 移動のセットを4回繰り返した。特に問題おこらず。10cm / 1min. に速度をあげ、最終目的地まで移動。特に問題起こらず。 1本、見逃しはあったが、結果オーライ、、、 

その後、MDT Wheel上のファイバー交換作業スタート。


小さなゴンドラに人が乗り込み、それをクレーンでつってもらい、目的地へ行って作業。終わると次の目的地へ。夜は作業したファイバーからデータが読み出せることをテスト。これを5日間繰り返す。まぁ、地味だが、重要な作業。これも予定通り終了し、目的達成!! 作業途中で検出器にゴンドラがぶちあたり、測定器が破壊される ... というような事も心配したが、問題なく作業は終了した。

翌日、TGC1 <<>> MDT間をクローズ、後、MDT <<>> TGC2 の間を開き、同様のファイバー交換作業をMDTの逆面について行い、その後クローズ。

その後、TGC1 <<>> TGC3 の間を走っていたケーブル 800本を元に戻す作業に取りかかる。6人、4日間程度、作業を続けて接続自体は復帰。更にテストパルスを用いて接続間違いがないかどうかの試験を続けた。数カ所、間違いをみつけたり、接続が甘かった場所も発見されたが、総じて一発合格、問題のあった数カ所も比較的短時間で問題の所在がわかり、必要な修正を施し、この大作業大会はひとまず終了。


2009年3月、同じことを A-side でやる予定。 まぁ、なんとかなるでしょ!?

2008-11-19

ビームはなくとも ... ATLAS Shutdown & Recovery [3]

| 08:18 |

東大素粒子センターの 石野 です。

10/20 に Big Wheel の移動が終わり(黄色の矢印)、その次の週に End-cap トロイド磁石(緑色の矢印)、更に次の週の月曜日 11/03 に Small Wheel の移動(水色の矢印)を終え、下記の写真の様な配置になり、各所へのアクセスが可能になった。



写真には写っていないが、その更に内側に Calorimeter が存在しており、そいつもメインテナンスのために、数m 表側に引き出され、現在、電源関係のメインテナンスが進行中である。

Big Wheel は前に書いた通り、オレンジ色の台車にのって移動するが、他のブツはエアパレットと空圧シリンダーの組み合わせで移動する。緑色矢印の End-cap トロイド磁石は重量が240トンもあるが、移動する際の様子を見ていると、その質量を感じるのが難しい位 スムースに動いていく。

さて、ここまで書いたのはATLASのジュネーブ側で起こった出来事だが、逆サイドのアトラスジュラ側でも平行してシャットダウン作業が進められた。(どうでも良い話だが、ATLAS近傍でビーム軸は東西方向を向く。西側、東側と呼ぶのが普通だと思うが、実際にはジュラ側、ジュネーブ側という言い方をする。) 
 間抜けな話というのはあるモノで ... データを送信するためのファイバーが各所で用いられているが、とある検出器のファイバーの放射線耐性が不十分でATLASで3年使うと濁って使い物にならなくなる、という試験結果が1年程前に明らかになった。あろうことか、その間抜けな主は MDT Big Wheel で TGC に挟まれている検出器である。明らかになったタイミングは、インストールはすべて終わった後である。



MDT の内部にアクセスして、そのファイバーを交換するためには、TGC1-MDT の間をあけてやったり、MDT-TGC2 の間をあけてやらねばならない。しかしながら TGC1-TGC3 の間には1,000本のケーブルが引かれている。TGC1, 2, 3 の間のヒットコインシデンスを取るために、Wheel の間の橋渡しをするケーブルを這っている。TGC - MDT の間に人がアクセス出来るように ~1.5m の空間を作ってやるためには、これらのケーブルをほとんど抜く必要がある。可能性として、そういう事は想定していたが、あくまで可能性と思っていた。 が、いきなり、そんな機会に恵まれてしまった。

というわけで、せっかくここまでシステムを作り上げて来たのに、、、 せっかく 1st Beam で予定通りのタイミング性能 他が確かめられたのに、、、 大量のケーブルを抜くのか、と一瞬泣き言を言いたくもなったが、MDT が無ければ MUON がない、MUON がなければ物理も poor だ 。。。 と、納得し、人を配置し、システム破壊 = ケーブル抜きに取りかかった。

2008-11-17

ビームはなくとも ... ATLAS Shutdown & Recovery [2]

| 02:42 |

東大素粒子センターの 石野 です

10/20 8:30 a.m. 2008年 ATLAS シャットダウンプロジェクトの第一歩として、ジュネーブ側のEnd-Cap に位置する Muon 検出器、通称 Big Wheel がメインテナンスポジションへの移動を開始した。


多分、背景説明が少し必要。まずは、Big Wheel と呼んでいる物体(上記写真 CERN 提供)。これは直径25mの48角形、 つまり 巨大で ほぼ円形状をしている、 というわけで  Big Wheel というニックネームのついた構造体である。台形をしたものが  TGC ( = Thin Gap Chamber ) と呼ばれるガス検出器 ( 1m x 2m ) でイスラエル、日本が共同で3600台、1999年頃から2006年中頃までかけて作成し続けた。ポイントはここにある。
  移動中、何かの間違いで事故を起こして激突、破壊という目にあったら、保険がいくらかかっていようとも、お金をいくら積んだとしても、リーズナブルな時間内にブツは戻ってこない。THE END 従って この様な移動のオペレーション時は緊張が走る。今まで、多分 ... 40~50回、移動の立ち会いをしてきたが、毎回、とても緊張する 。。。 緊張するべきだが、セオリー通り、慣れてきた頃に危ない経験をしたこともあった。割と早い時期にそういう目にあい、以来、手順、人の配置等、方法論を確立させたこともあり、本当に危険な目には合っていない。それでも、移動途中で障害物に気付いた等のヒヤリとする場面には日常的に遭遇する。なにせ敵は直径25mの物体、ひと目で危険を察知することは不可能である。油断は禁物。


さて、この巨大なものは どのように動くのか? まず、この Big Wheel どのように支えられているのかを理解するために最初の写真を見ると、時計の2時と10時に相当するあたりで、構造体の腕が横へ伸びているのがわかります。Big Wheel はこの腕2本で支えられています( << 十字懸垂をしている感じ ... )。この腕を上記写真のオレンジ色の台車( シャリオ = chariot )にのせ、ゆっくりとレールの上を6m移動させてやる。移動スピードは 1cm/min. から 15cm/1min. まで変速可能で、最初の 5cm は 1cm/min. で走りだし、各部に配置した人々からの OK の声を聞いたら、5cm/min. 、10cm/min. 、 15cm/min. と速度を上げ一定速度で運転する。走行距離、目的地までの距離、2台の(=両側の)台車の synchronization の状態 (通常0.5mm 以内で制御されている)、これらを慎重にモニターしつつ、障害物が無いことを確認しつつ、何とも言えない時間を過ごす。15cm/min. で BigWheel が移動している時は、形容しようの無い迫力がある。そして、目的地10cm手前で減速し、最後は最低速度で目的地に達する。

今回も、事故なくスムースに全作業を終えることが出来た。めでたし、めでたし。
あ?、よかった!

2008-11-15

ビームはなくとも ... ATLAS Shutdown & Recovery [1]

| 14:57 |

東大素粒子センターの 石野 です

LHC 運転再開は 2009年の春 ? ... 果報は寝て待ちたいところだが、世の中、そう甘くはない。

9月下旬 ATLASコミッショニング with 宇宙線 
まず1ヶ月強の間、システムを崩すことなく、宇宙線を利用した測定器のコミッショニング、特に衝突点近傍に位置する、トラッカーを通過する宇宙線が降ってきたイベントをかき集めることにした。このプロジェクトは成功を収め 9/13 から 10/26 の間に 220Million イベントものデータを記録した。


もちろん、我らが TGC も宇宙線到来のタイミングを測定器システム全体に告げるトリガーを発行する重要な役割を担い、システム全体のコミッショニングに大きな貢献をした。トリガーは重要なんです。 ( No good trigger ? , throw garbage away !! ) 

10月下旬 ATLAS解体 for メインテナンス開始
ここまでは 各サブシステムの目的が良い精度で同じ方向を向くため、話は単純である。大変なのは この後で、上記アクティヴィティーと平行して6ヶ月のシャットダウン期間をいかに有効利用するか、ディスカッションを戦わせた。

 アトラス測定器は約10種類の検出器の総合体であり、我らが TGC 検出器も One of them である。どの sub-system も重要であり、何が欠けても目指す物理に支障がもたらされる。それは皆、知っている。しかしながら、その一方で10年つきあってきた 我が検出器は1番かわいい、そして、常に完璧な姿で、理想通り、稼働して欲しいと思っている。1st Beam や 宇宙線を利用して取得した大量のデータは、各サブシステムに何らかの不具合箇所があることも示唆する。普段、公衆の面前では口にしないが、コーヒー飲みつつそそのかすと、皆、自分のシステムが抱える心配事を語りはじめる。(持病を語り出すと止まらない という人がいるが ... ちょっとアレを思い出す。)

そして、このシャットダウン期間は その手の心配事をクリーンアップするチャンス! である。十分な作業時間が欲しい、マンパワーが欲しい、なるべく早いタイミングで修理して長期間のテストをしたい、 ... etc. etc. もう、皆、わがままいっぱいになる。良い環境、良い条件を得るためには、他のサブシステムのことなど眼中になくなる。特に今回は、1st beam の前後を含んで、約3ヶ月位、状態確保、現状維持という強い制限がかかった後でもあり、皆のわがまま度は かなり高かった様な気がする。すったもんだの末、テクニカルコーディネーションの強いリーダーシップにも助けられ、議論は収束。4月頃までのアトラス解体、復帰シナリオは完成し、10/20 最初のパーツ、TGC を含む Big-Wheel A-side がメインテナンスポジションへ移動を開始した。