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LHCアトラス実験オフィシャルブログ このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-06-23

はやぶさとLHC

| 08:49 |

お絵描き役の秋本です。

探査機はやぶさ満身創痍ではありますが、小惑星イトカワからようやく地球に帰ってきました!はやぶさの運用チームの皆様、本当にお疲れ様でした!そしてもう一息、がんばってください!

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はやぶさ本体がバラバラになって燃えつきる様子、みなさんもご覧になられたかと思います。それはとてもきれいで、どこか切ないものでした。7年間も一生懸命にがんばってくれたのだから、そのままの姿で戻ってきてほしかったなあ、そのまま再び宇宙の旅に出てほしかったなあ……そう思います。そう思うのですが……一般的な実験では、実験の終了とともに実験装置はお払い箱になってしまいます。分解されて部品の一部は再利用され、残った部分はそのまま廃棄処分です。そう考えると、探査機としてのはやぶさの終わり方、みんなに温かく見守られながら、大気圏へ超高速で再突入するという貴重な実験を行って消えてしまうという最期も、悪くないのかもなあと思います。(もちろんはやぶさほどの実績を出してしまえば、戻ってくれば廃棄などされずに展示してもらえるようになるでしょうけれど。)


と、前置きはこれくらいにして、今回のお話は今までとはちょっと変わって実験装置、加速器についてのお話です。

加速器とは、電気を帯びた粒子(荷電粒子)をその名の通り加速させるための装置です。加速させる粒子には電子や陽電子のような素粒子から、もう少し大きい陽子、さらに大きい原子イオン化(電気を帯びた状態)したものまでさまざま。ATLAS実験で用いられる加速器LHCでは陽子の加速が基本にはなりますが、イオン化した重い原子(重イオンといいます)を加速させて実験する計画もあります。イオン化させた原子を加速させる……このフレーズ、最近のニュースでちらっと見ませんでしたか?そうです、はやぶさイオンエンジンです。

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LHCのメインとなる陽子を加速させるときとは異なりますが、イオンエンジンでもLHCで重イオンを加速させる場合でも、原子マイクロ波(ある波長の光です)を当てて原子の中にある電子を飛ばしてイオン化させ、プラスの電気を帯びた粒子を作ります。その電気を帯びた粒子をマイナスの電気を使って引っ張って加速させる、これが基本の原理になります。(加速器の場合、この方式に加えてさらに加速させるためのシンクロトロンと呼ばれる装置をメインに使っています。)加速器では粒子を加速することが直接の目的になるのに対して、イオンエンジンでは粒子を加速させる反作用の力で推進力を得ることが目的になります。宇宙を駆けたはやぶさと宇宙の始まりを再現しようとしているLHC、その根っこには同じ原理が用いられているのですね。

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と、今回は探査機はやぶさの話からむりやり素粒子物理学のお話につないでみました。

2010-02-22

反物質って何?

| 21:46 |

東京大学、秋本です。

ちょっと間が開いてしまいましたが、第3回目の「絵で見る物理学」。今回は反物質なんてものについてのお話です。

去年の5月に公開されたトム・ハンクスさん主演の映画「天使と悪魔」、憶えていらっしゃいますでしょうか?その「天使と悪魔」の舞台の一つとして、LHCを建設したCERN、欧州原子核研究機構が登場しているのはご存知の方も多いかと思います。CERN研究者が作り出した「反物質」をめぐって、バチカン市国を駆けまわるドタバタ大騒動……とかそんなお話だったと思うのですが、この「反物質」が今回のお話のテーマです。映画に出てきた反物質がどれだけ科学的に正しいのか?ということに関しては昨年、東京大学の早野先生がお話ししていますので、こちらもちらりとご覧下さい。

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で、そもそも反物質って何でしょうか?その説明にはまず「反粒子 antiparticle」というものの説明が必要になります。前回までのお話の中で素粒子がいっぱいいっぱい、出てきたかと思います。その素粒子たちには「質量がまったく同じだけど電気的な性質が正反対」なんて微妙なそっくりさんがいるんです。そのような素粒子のことを、反粒子と呼びます。例えばクォーク反粒子は反クォークニュートリノ反粒子は反ニュートリノ、電子の反粒子陽電子。直観的で分かりやすい名前です。そんな反粒子ですが、普通の粒子と同じように4つの力で、陽子や中性子を作って、原子をつくって、分子をつくって、物質をつくることができます。反陽子、反水素原子、反水分子、反たまごに反にわとりなどなど……。そのように反粒子でできた物質を反物質といいます。

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その反粒子ですが「粒子と反粒子が出会うとエネルギーを出して消えちゃう」という対消滅なんて性質を持っています。また逆に「大きなエネルギーがあると、そこから粒子と反粒子が生まれる」対生成なんて性質も持っています。この対消滅の時に生まれるエネルギーはとってもとーーっても大きいもので、消えちゃった粒子と反粒子の質量が大きければ大きいほど、大きなエネルギーが生まれます。例えばもし「まんじゅう」と「反まんじゅう」、この二つが出会って対消滅して生まれるエネルギーはなんと、日本国内の原子力発電所で作られるエネルギー1.5日分と同じくらいになります*1。まんじゅう怖い!?

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「なんでこの世界は反物質がほとんどないんだろう?反物質ばっかりの世界でもいいじゃーん!」なーんて疑問を思い浮かべる人もいるかもしれません。実は、そんな疑問を解決するためにもLHCはがんばっているんです。そこらへんのことはまた今度、機会があればお話ししたいと思います。がんばれLHC!がんばれATLAS

そして今回のお話の反粒子のおかげで、みなさんの知っている素粒子の数が一気に2倍くらいに増えました。やったね!

*1原子力発電所エネルギーの数値は資源エネルギー庁長官官房総合政策課編「総合エネルギー統計」の2008年度の数値2.248*10^18J/year、まんじゅうは1個50gで計算しています。

2009-11-11

力って何?

| 21:10 |

東京大学、秋本です。

突然ですが、力ってなんでしょう?「絵で見て知ってしまおう物理学」第2回目の今回は前回お話しした素粒子、その素粒子どうしに働くの「力」のお話です。

素粒子に働く力といっても私達の身の回りでイメージできるような、素粒子がぶつかってぐいぐい押したり押されたり、して力を伝えているわけではありません。素粒子に働く力というのは、素粒子どうしが「あなた大好き!ねえこっち来てよー」とか「おまえ嫌い!あっちいけー」とか言い合ってる……わけでは多分ないのですが、お互いに「何か」をやり取りして、その結果、お互いに近づく力が働いたり、遠ざかる力が働いたりしています。これを素粒子物理学では「相互作用」と呼んでいたりします。

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この相互作用ですが、それぞれ電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用、そして重力相互作用と、全部で4つの種類があって、それぞれ違う性質をもっているんです。例えば、強い相互作用は遠くには届かないけれどとっても強い力が働く、だとか、重力相互作用はどこまでも遠くに届くけど力はとっても弱い、だとかです。

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そしてそれぞれ、電磁相互作用は光子 photon(光のことです、やっとでてきた!)、弱い相互作用はウィークボソン weak boson、強い相互作用はグルーオン gluon、重力相互作用は……実はまだ見つかっていないのですが重力子 gravitonと呼んでいる粒子、がそれぞれの相互作用でやり取り(先程のたとえでいうところの「言葉」の掛け合いですね)されています。それによって、素粒子どうしがお互いに力を及ぼし合って、近づいたり離れたり姿を変えたりなど、いろいろな現象を起こしているのです。このような力を媒介する粒子たちはゲージ粒子と呼ばれていて、やはりこれも素粒子だったりします。

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私たちが身の回りで「力」と聞いて思い浮かべるものも、結局のところ、今回お話しした相互作用がそれはもう積もりに積もって成り立っているんですね。

「言葉は力だ!」なあんていってたりしますが、言葉を「お互いに共通の何かを用いてコミュニケーションをとる手段」と考えれば、実は物理学的にもそれほど間違ってなかったりするのかもしれません。

2009-11-04

素粒子って何?

| 12:54 |

東京大学の秋本です。

今回から始めるつもりの「素粒子物理学、ヒッグス粒子、LHCATLAS……いろいろ絵で見て知ってしまおう!」な企画ですが、第一回目の今回はまず「素粒子って何?」というお話から始めてみましょう。

素粒子とは、物を構成する一番小さい単位のことをいいます。それはつまり、皆さんの身体も、着ている服も、その手に持っているお菓子も、みんなみんな素粒子の集まり!ということです。

物理になじみのない人でも、分子だとか原子だとかそういう言葉は聞いたことがあると思います。たとえば、水。これは水分子がたくさんたくさん、集まってできているものです。そんな水の分子は、酸素原子1つと水素原子2つがくっついてできています。

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じゃあ原子素粒子!というわけではありません。原子もよく調べてみると、もっともっと小さなものが集まってできていたんです。原子は、原子核とそのまわりに捕まっている電子でできています。そんな原子核も、陽子 proton と中性子 neutron とよばれる粒からできています。そしてそんな陽子や中性子が、3つのクォーク quark と呼ばれる「素粒子」から構成されているのです。

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そんなクォークや、原子核の周りをまわっていた電子が、素粒子と呼ばれるものです。クォークは全部で6種類、レプトン lepton(電子の仲間の素粒子のこと、カミオカンデで有名になったニュートリノ neutrino もこれに含まれます)も全部で6種類、あることになっています。もともと6種類ずつ全部見つかっていたわけではなく、昨年ノーベル物理学賞を受賞された小林誠先生と益川敏英先生が「クォークとレプトンが6種類ずつあると、CP対称性の破れが理論的に説明できていいよ!」と予言されていました。そしてその後の実験で、実際に6種類ずつのクォークとレプトンが発見されたのです。

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と、12個の素粒子がでてきましたが、これで全部というわけではありません。皆さんが日常的に目にしている光はクォークとレプトンのどれでもありません。じゃあどれなの?どういうものなの?ということで、続きは次回に。

2009-09-26

はじめまして!

| 07:14 |

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ブログ移転後初の記事で若干緊張しますが……

みなさまはじめまして!東京大学医学系研究科の秋本祐希です。

一昨年、東京大学理学系研究科で素粒子実験(アクシオンと呼ばれる素粒子に関するものです)で博士号をいただいた後、現在はマブチデザインオフィスというデザイン事務所で働く傍ら、東大医学部のGCOE特任研究員として横山先生と一緒に科学コミュニケーションに関する研究をしています。

これからちょくちょくと、素粒子物理学LHC、ALTASに関する解説や旬なトピックスなどを描かせていただくつもりです。どうぞよろしくお願いいたします!


というわけで、第1回目は自己紹介もかねて大学院時代に研究していた素粒子、アクシオンの紹介をさせていただきます。

みなさんはアクシオン(axion)って粒子、知っていますか?知らないですよね!
日常生活では決して出てくることはありませんけれど、宇宙の質量の25%をしめるといわれている暗黒物質の候補として、物理学の世界ではたまーに聞く名前です。今回はそんなよくわからない粒子アクシオンを、ほんの少しだけ、知ってみっちゃいましょう。

自然界は4つの力によって支配されていますが、そのうちのひとつ、強い力を考えるための理論が量子色力学(QCD)です。QCDという理論は強い力をとても上手に説明することができるのですが、それでもまだわかっていない部分があるんです。そのうちのひとつが、アクシオンを生み出すことになる強いCP問題です。

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強いCP問題を説明する前に、CP対称性についてちょっとだけ。CP対称性とは、「粒子の運動の方向と電荷をひっくり返しても、物理法則がおかしなことにならない」ということです。そして、強い力ではCP対称性を保存するような実験結果しかないのに、QCDではCP対称性を破ることができるようになっています。これを強いCP問題と呼ぶんです。

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この問題をなんとかするために、「Peccei-Quinn広域対称性の導入とその自発的破れ」なんてものが考え出されました。ちょっと難しいのですが、ちゃちゃっと簡単に説明すると、これによってQCDにおいてCP対称性を破る部分を消して、CP対称性を保つことができるんです。そして新しい対称性が自発的に破れることで、新しい粒子アクシオンが現れるのです。

ちょっとわかりにくいところがあるかと思いますが、「対称性が自発的に破れると新しい粒子が生まれる」というルールがある、と考えてもらえるといいかもしれませんです。対称性だとか自発的破れだとか、ちょっとまえにニュースで聞かれた方も多いと思いますが、これは、昨年ノーベル物理学賞を受賞された南部先生の「自発的対称性の破れとHiggs粒子」の関係と同じものですね。

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そのようにして現れたアクシオンですが、光子と非常に弱いながらもお互いに反応するので、見つけようとする場合には、光子との反応を使ったものとなっています。特に、磁場(実は担い手は光子なんです)とアクシオンの反応によって光子を作る逆プリマコフ変換を利用した実験がいっぱいあります。

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このアクシオンを見つけるために、東京大学蓑輪研究室「すみこ」とCERN「CAST」があれやこれやと競争を繰り広げているのですが、そのお話はまた別の機会に。