第83期感想

感想を書く人が増えたのは良いことだ。あほみたいな感想が増えたことによっておれみたいなまともな人間の感想が際立つ。なんということを言うのだ。しかしまあ、どちらかといえば世界にはあほな人の方が多いように思うので、あほな人の感想を読むことは勉強になるはずだ。こころして読むべきだ。


ちなみに、以下を書いた時点で、『短編』掲示板の感想は流し読みし、掲示板以外の個人ブログに書いてあるものはまだ読んでません。という状態で書きました。


#1 悩ましき大問題

  • 『そんな自分が嫌で』と唐突に切り出してはいるが、どうしてこのような急展開で話が通じるかというと、「引っ込み思案なわたしは本当は自信を持って生きたいのだ」という物語的慣例が背景に存在するからだ。要するに「お約束」である。お約束に則った物語というのは諒解するのは容易だが深みに欠ける。逆に、深くない文章を書きたければお約束を踏襲するのが良い。
  • そういうわけで物語としては浅い。あっさーい。でもまあ、みんな誰もがそんなに深いこと考えているわけじゃないので、まあいいじゃん?って気分になってくる。だれよりも早く衣替えしてふたりで写メ撮ってちょっと自分変われて、みたいな。よかったねー、って。


#2 ボクカノ

  • euRekaさんが感想の中で「獣姦」と述べているがひどい変態だ。『耳』と『尻尾』という単語に反応してしまったのだろうか。しかも、『彼女』をもてあそぶ主人公はテロリストではなく、逆にテロリストに命を狙われている存在だ。『よく分からない獣を相手に獣姦するテロリスト』なんてものは作品中にまったく出てこないのだ。こうなってくると、感想というのはいったい何なのかよくわからなくなってくる。おまえただ自分の意見言いたいだけじゃねえのと言いたくなる。せめて書いてあることくらいちゃんと読めと。『変態コスプレごっこ』って書いてあるだろうが。というようなことは作者はぜったい口にしてはいけない台詞なので代わりにおれが言ってみた。
  • そのまま読んでみれば、主人公が買った(飼った)奴隷は実はテロリストの一味で、伝達系が定着するまでの三日間は主人公の言いなりになっていたが、時が熟し自爆した。主人公は奴隷制度をまったく改正する気のない政治家の孫だった。という話である。
  • 作品自体は、なんだか嫌なことばかり書いてあって、ただ露悪的なだけの話に読めなくもない。『伝達系』という単語だけだった、おれが反応したのは。


#3 私の好きなもの

  • リベルテだけにおそろしく自由な文体だな。さすがはリベルテ。あなどれん。
  • 全盲のひとは色という概念をどう理解しているのか不明だ。不明なものを書いているという自覚というか覚悟が作者にあるのだろうか。作者が全盲だという可能性は残っているにせよ。


#4 映画

  • 一読してひどく状況がわかりづらかった。というのも、我々の現実と微妙にちがう世界での物語を、何の説明もなく、その世界の常識が我々にとっても常識であるという前提で描かれているからだ。我々はとつぜん『クラウドロボット』などと言われても何のことやらさっぱりわからない。しかし、それが「存在するのだ」と思って読めば、つまり、その世界の住人になったつもりで読めば、ひどく「普通」な物語が立ち現れてくる。
  • たったひとりで映画を撮る主人公。都市も登場人物もミニチュアの人工物である。いつの間にか眠っていたせいで(おそらく徹夜がつづいたのだろう。なにしろすべてひとりで撮っているのだから)、人工の太陽に近づきすぎて目がくらんでしまう。その後、映画を撮り進めるうち、通り一遍の動きしかしないはずのクラウドロボットに妙な人間味を感じる。そして、そのクラウドロボットの中の一体の姿にかつて好きだった女性の姿を幻視する。降りて近くで見ようとすると暗転。暗転した理由は『ちょっと良く分からない』。この『ちょっと良く分からない』という感覚が良いじゃないか。せっかく主人公に寄り添うように読みすすめたにもかかわらず、『ちょっと良く分からない』と突き放されてしまうのだ。
  • それはそのまま主人公の性格にも当てはまるかもしれない。孤独に映画を撮りつつ、友人の夢や、かつて好きだった女性を夢見る。人間を避けつつ、人間を求める。その両価性がおれのこころもちを揺さぶる。


#5 バイクで走る

  • 『バイクのヘッドライトで照らされている方向へと疾走した』なんだこの描写は。当たり前じゃないか。ヘッドライトってそういうものだろう。ヘッドライトで照らしてる方向と逆に向かって走るなんて状況はあり得ないんだぜ。
  • そりゃバイクがあったら海に向かうし、海に行けば「幸せだけど何かが足りない」と感じるし、そうなってくるとただ道を歩いてるだけの女性に感動するのだ。そりゃそうだ。そりゃそうだ、と感じるのがつまりお約束なのだ。


#6 ケイ

  • 『実は、キミのこと世界中でいちばん嫌いだったかもしれない』ここだけ泣ける。どうして我々は好きでもないあなたを護るのだろうか、なんて柄にもなくセンチメンタルな気分になりさえする。


#7 nikki

  • 日記です。冒頭に天気のことが書いてあるので日記なのです。
  • ノローグにとどまらず、もう少し外の世界とのふれあいが書かれていると膨らむんじゃないかと思った。全体的にはうまくまとまっている。天気にはじまり天気におわる。天気はわたしのこころもちを反映している。でも。世界にはわたししか居ないわけじゃない。
  • 膨らむんじゃないかっておまえ。


#8 ベイビィポータブルボム

  • きました。さいこう。
  • 少女たちのゲリラ戦。ここで「ガール」とか言い出すと、とたんに古川日出男になりそうだ。
  • なにがいいって、『志穂はボブを整えて指揮官の顔になる』が良いんだ。ぜったい可愛いもんこの子。


#9 ラストシーンはせつなくて


#10 夏の続き

  • 夏ってあの『夏』だよな。いやな感じがしたことは覚えている。
  • 「水を差された話」として提示されたならかなりレベル高い。おれはこういう経験ないが、たしかに水を差された気分になるだろうな、と思う。
  • しかし、これを読んだ読者から発せられる「だから何なの?」という設問が、単に「水を差された話」から「小説」にクラスチェンジできるか否かの重要なカギであるように思う。思うがよくわからない。小説って一体何なのか。
  • 同作者の「ケチャ」は小説だったなあ、という感覚。この感覚を煮詰めればなにかわかるだろうか。


#11 確変男になりたいよう

  • 面白いなあ。いわゆる内輪ネタではあるが、パチスロ知識に乏しいおれでも楽しめた。あるいはエヴァのことは知っていたからかも。それに、パチスロのことはわからないが、主人公のことやバアさんのことはわかったぞ。という、つまりきちんと作品してるってわけだ。ネタは内輪であっても。


#12 エゴいスタア

  • きました。超絶言語感覚。おれは、この人は実は日本語を勉強中の外国人ではないかと疑っているのだ。
  • なにを言っているのかほとんどなにもわからないが状況としてはうっすらわかるような気がしないでもないような。なんかたぶんチャットとか家族の絆とか? ほんとにうっすらとしかわからん。
  • 作者が解説したら、すっごいつまらない内容なんだろうな。たぶんね。


#13 夏の魔物

  • 『小学生の私にとっては』なんていう台詞、小学生はぜったい言わないと思うのだが、そのあたりも含めて「これは創作である」と言い張るのかどうか作者はどう考えているのか、と思うが、そもそもこの作者はだいぶ早い段階で掲示板において「自分の作品はあまり何も考えずに書いてます(笑)」みたいなことを言っていたので、たぶん何も考えていないのだろうと想像する。じゃなければ『対したことじゃない』なんてミスライティングをしないだろう。しないよね。するかな。
  • ところで、この雑多な文章というのはどことなく#12に近い匂いを感じるな。解体した結果なのか、そもそも構築できなかっただけなのか、わからんが。


#14 超宇宙戦機ボルティック・ドライオン

  • あは。ショート・ショート。オチている。
  • しかし、このオチってのは既に存在していて、そのバージョン違いでしかないという印象は拭えない。


#15 ふえるワカメ

  • 思索系、と思いきや会話。噛み合わない会話。わかるようでわからないワカメという比喩。
  • 全体的に煙に巻かれた気分。


#16 コント「ブランコと僕」

  • なぜ登場人物の名前がごっつのメンバーなのだろうか。ただの好みか。
  • 暗い! タイトルの『コント』が残酷さを助長する。
  • で?、っていう。


#17 赤い糸

  • すごい。三十歳男の行動力とかひとりの時間の楽しみ方とか女の子に対する優しさとか下心とか乙女的なきもちとか。もちろん、音絵ちゃんのかわいらしさとか面倒臭さも描かれているけれど、それも含めて、最終的にはやはり三十歳男の人間像が描き出される構成になっている。
  • 褒めたりないなあ。


#18 午後五時四十五分の悲鳴

  • おれだってあの人の心臓の鼓動をチシツしたい。
  • すごい物語展開。こんなの書けない。この飄々とした雰囲気も。
  • これもまた褒めたりない。


#19 恋心談議

  • オチありきでそのオチも容易に予想できなおかつ途中の描写(というか台詞)にはありきたりな内容しか書かれていないとなると、これはもう一体何を目的とした文章なのかよくわからない。


#20 『幻獣料亭』

  • 食べ物の描写はうまい、というか、おれ自身こういう描写ができないので、そんなおれが読んでも違和感がないほどにはうまく書けていると思う。
  • しかしオチがなあ。そんな突然旅立たれても。短絡的というか。前提となる情報が何もないので。


#21 イゾル

  • ゾルデとトリスタンの物語にケータイ小説のスパイスを振りかけたという。まあイゾルデとトリスタンは読んだことないのでWikipediaを見ただけですが。


#22 箱庭

  • おれは箱庭というものの通常の形を知らないのが、通常ではないと書いてあるのだからそうなんだろう。見たことはないが、箱庭療法とは概ねのところ、非言語的な自己表現を通して自己と向き合う、あるいはセラピストの視点からすると、クライエントの非言語的表出を観察することでクライエントの精神病理を理解する、といったところだろうか。そのような箱庭の存在意義からすると、作中の『箱庭』はずいぶんと奇妙な位置づけにある。それは主人公とその彼女の行く末を暗示する、いわば水晶玉やタロットカードのような、占いの道具のような存在であるように描かれている。であるから、なぜ『箱庭』なのか、という疑問が生じる。なぜ箱庭を選んだのか。せめて、最初に人形を選ぶところくらい、主人公にやらせておいたなら、もう少し箱庭的な展開になったのかもしれない。
  • もうひとつわからないのが『彼』の存在である。途中の、彼との対話になにか意味はあるのだろうか。箱庭をくれただけのミステリアスな存在として扱ってもよかったんじゃないか。彼について語る必要があったのだろうか。
  • まあ何れにせよ、『あぁ、だから君が一番愛しい――』くるってやがる。


#23 夏の鐘

  • 『一瞬だけ、世界が自分のものになったような気がする。それが夏だね』いいわぁ。
  • なんか良い。としか言えない。なんか良い。ラストの三行とか。ほわん、とする。いや、ひょわん、かな。


#24 飼育の関係

  • 麺麭。なんだこれは。パンか。
  • 『飼育』というのはどことなく、いや、全面的に、エロチックなかほりがするね。


#25 師の教え

  • 『突き動かされるように両脚で地面を蹴り同時に体を丸め飛込み気味の前転をした』なんだかなあ。動きの描写がうまくない。説明過多なのでは。
  • なんだか、師匠とか弟子とか敵討ちとかいってるのと『電車』ってフレーズがやけに対照的で、いや、なんか中国の奥地的な話なのかも。だとしても。
  • しかしこれ、師匠の死亡フラグに見えなくもないな。


#26 その信仰は崩れない

  • 死にかけてから『俺の話を聞いてくれ』などと言い出すのなら、最初から「あなたを現実世界に連れ戻しにきました」ってことを前面に押し出していけよっていう。ゲームの世界から廃人を連れ戻すことが目的なんだから、別にゲームのルールに則る必要はなくて、もっとバンバン違法なことやりまくっていいはずだし、そもそもお前は誰に依頼されてそれをしているんだ?、っていう。①オフィシャル(ゲーム会社とか)に依頼されたなら、超法規的な行動を可能とする許可があるはずだし、②ゲーマーの家族に依頼されたにしても、依頼を完遂させるためにあらゆる手段をとるのがプロだろう。とすれば、③個人的な思想に基づいて、「ゲームのルールに則って彼らを救い出すのがわたしの責務である!」みたいなことを言いながらやってることになるのかもしれないが、だとしたらこの『邪教の司祭』も相当なあれである。