limitusus’s diary

主に技術のことを書きます

「事業仕分けに対する緊急声明」を聞いてきた

大学にいる人間として(, そして一利害関係者として), ちょっと真面目に生意気なことを書いてみます.

何があったのか

大学でノーベル賞・フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と 科学技術予算をめぐる緊急討論会 - お知らせ - 東京大学 大学院理学系研究科・理学部というイベントがあったので, 行ってみました. 私の立場はせいぜい研究室に所属する学部学生であって, 研究室の先生が予算を取ってくれていて, そのお金によって研究室の運営ができている, その恩恵にあずかっている存在です. そんな学部学生ですが, 基礎研究(Science)および科学技術(Science-based Technology)に関する予算が削減されることが「ヤバい」ことくらいは直感で分かっているつもりです. 私の周囲には研究者, 技術者の方が多いので眺めてみても, この直感は外れていなかったと思っています. その中で, ノーベル賞, フィールズ賞を受賞なさった教授陣が声明を発表したわけです.

前日(11月24日)には国立大学の学長クラス*1が記者会見を開いていて(記者会見「学術・大学関連予算について」の開催 【共同声明】大学の研究力と学術の未来を憂う −国力基盤衰退の轍を踏まないために−), これが開かれただけでも「相当な異常事態だな」とは思っていたのですが, これに加えて更に開かれたわけで, これは深刻な状態だと感じました.

どうやら反応として「ノーベル賞を受賞した学者を出すのは思考停止だ」とか, 「金融を軽視してる」とかいう意見が存在しているようですが, 前者はそれなりに狙った部分もあるようです. しかし, 研究というのは百発百中ではないし, 投げてみるまでどれが当たるのか分からない性質があり, その中である意味で「たまたま当たった」人がノーベル賞受賞者なわけです. その「当たる/当たらない*2」の線を体感している方々が声明を出すというのは, 大きな意味があると思います. 次に後者ですが, 「声明文では科学技術創造立国が目標であるとなっているが, 我が国に金融分野での発展はないのか」という質問に対する, 「金融は知は産まない. 財は産むけど」という返答に反応した意見だと思います. しかし経済学と区別された金融は知を産んでいるかというと, 果たしてそうなのか?という疑問が(少なくとも私には)あります. また, 東大には元々金融に関する研究機関はなかったはずで, 2005年に初めて金融システム専攻ができ, 2年前から経済学部の中で経済学科/金融学科が分かれるようになった程度だと認識しています. そういう意味で東大としては「金融分野は学術領域として成熟しておらず, 研究実績がない」という立場だったのかな, と思っています. 会場では質問そのものが「『理系内閣』と言われた内閣のはずなのに科学技術の予算が削られる」ことを問題視している議論の最中に金融の話がピンボケだと感じられ, そこにうまい返しが入ったことから拍手が起きた, ということだと思います. それは金融を軽視しているとかバカにしているとかではなく, 「対象とする領域が全然違う」ということでしょう. とはいえ, あの部分だけ聞けばそう思うのももっともな話なので, 配慮すべきだったと思いますが…

討論会としては, 壇上で喋りすぎて質問の機会が少なすぎたのでは?と感じました. また, 会場が狭すぎて入りきれていなかったので, もう少し広い会場が用意できたらよかったのかな, と感じました.

声明

以下のページに声明文の全文が掲載されています.

横山広美のお知らせページ : 声明文

重要なことしか書かれていない*3ので全部重要なのですが, 予算が途切れる→その間研究者がいなくなる→科学/技術が低迷→予算を付ける→学ぼうとする人ができても, それを教えられる人が不足する, という状況が起きて, それは取り返しがつかない. 現在の「事業仕分け」と称した作業はそれを引き起こしかけてるよ, ということです. 私はこれは至極もっともなことだと考え, 署名してきました.

署名

会場にいらっしゃらなかった方でも, 現在 Web 上から署名を行うことができます. 声明に賛同できる方はどうぞ.

署名簿: ノーベル賞・フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明

*1:慶應義塾大学は「慶應義塾長」と呼ぶため

*2:外れたって言い方は適切じゃないですよね

*3:不要なものは排除してあります!