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読書備忘録です。

風の影/カルロス・ルイス・サフォン

私は、逢坂剛のスペインものが大好きなので、本書は、そんな逢坂剛が絶賛している(書評)長編ロマンということで、楽しみにしていたものです。
氏が書評で「構成に難なしとせず」としていますが、ヌリアの長大な回想だけでなく、いろいろ気になるところはあります。そもそもダニエルとベアトリス、フリアンとペネロペというそっくりの関係が並行するという、おそらくは本書の「売り」と作者が考えたアイデアが物語を複雑にしているだけで、狙ったであろう重層的な効果をうまく引き出しているというふうには私には感じられません。ミステリー的なところもあるので、明確にはかけませんが、(以下一応文字反転)フリアンとペネロペの恋は「禁断の恋」だったというのも韓流ドラマじゃあるまいし、という感じもします。こういう感覚は、偏屈者のわたしに特有のものだろうなという気はするのですが。
ぐずぐず言っていますが、とりわけ後半は、登場人物の魅力でぐいぐい読ませる力をもっていて、楽しめる本であることは事実です。特に饒舌な書店員フェルミンや刑事フメロの恐ろしさといった脇役の魅力が際立っていて、主人公たちを完全に食ってしまっています。一方、背景たるスペインの魅力に浸るという観点からは、逢坂剛の書くスペインがエキゾチズムをデフォルメしてあるからかもしれませんが、逢坂剛のスペインものの方がよっぽど魅力的に思えます。久しぶりに逢坂剛を読みたくなりました。

風の影 (上) (集英社文庫)

風の影 (上) (集英社文庫)


105円×2@BO