ジョン・ブラックバーン - 小人たちがこわいので(創元推理文庫)

linedrawing2017-05-18

ナチス残党の影が見え隠れする工場が元凶と疑わしき、北アイルランドのとある河口汚染。
相談受けたノーベル賞医学者は、別荘の地主でもある工場親会社の航空機メーカー社長と面識があること、また奇妙な状況下で我が子を失ったことに思い悩まされながら、ウェールズにある別荘へと向かう。
そこは、呪わしき小人の伝承が未だ根強く残る土地であった…。
筋を詳述すればするほど強くなるB級臭には困るが、実のところ、自分で梗概書き出してみるまでは気にもしなかった。
圧倒的脅威に対するは、科学の心を持った主人公と向こう見ずなヒロイン、保護者めく頼れる協力者…時代掛かってはいても心躍らない訳がない冒険小説の黄金律に則っているからかもしれない。
モダンホラーの原点」という惹句が付されていたことすら忘れていた。
ただ、ホラーでは括れないだろうとは思うものの、こわいものは確かにある。
これは一回性のアイデアではなく著者の思考に通底する気がしないでもないのだけど…人の為すことは善悪の別なく全て関連付けられるがために、ある種の円環から逃れることは出来ない。
非道が良心の種を蒔き、善行が悪意を育てることにもなりかねない。
言ってしまえば、同じテーブル上にある科学では勝てない…世界を土台から引っ繰り返す他手はないのだから。
それにしても、全てを結び付けることが出来るにしたって、飛行機のジェット音から始まる連関など普通思い浮かぶものだろうか。
B級では到底片付けられないかたちに編まれた点と線が他の著作ではどう結ばれているのか、しばらくは書架を探り続けることになりそうだ。