ゼロ年代の論点



批評ファンなら、ふと目を止めてしまう一冊。自分も御多聞に漏れず購入。


紹介されている本の中でちゃんと読んだことがあったのは3分の1くらいだったか。あまりゼロ年代の評論に必ずしも習熟してない身として触れてみたけど、どんな議論が繰り広げられてきたのかは掴むことができた。


評論を読んでいるとこの議論とこの議論はどのように関係づけられ、接続されるのだろうかと疑問に思う時がある。自分なりの定義でその可能性を考えるものの、何分経験・知識不足が否めない。


その意味で多少なり著者のバイアスがかかった整理だったにしろ、議論と議論の関係性・接続点を提示してくれたのは意義深かったように思います。


現状では、主にそれぞれの論者の言動・ツイートを追ったり、言論誌などの記述でしか、それらの著書がとのように位置づけられているか関係性を持っているのかを把握することはできないように感じます。それゆえ、改めてその位置関係を著者の言うように「マッピング」しているのは意味があり、自分のような批評の入り口に立ってる立場の人たちには面白い。


でも、なんだろう。改めて批評という体系・空間みたいなものが示されることで、そこにコミットする人、しない人の境目がはっきりしてしまったような。批評が好きな人は消費するし、そうじゃない人は見向きもしないものであることを印象付けてしまったような気もします。




さて、本の中に時折垣間見える著者の主観に基づく評価で印象的だったのが一つ。

荻上チキについて。

荻上は、実証と記述するうえでの適度なバランス感覚を持っている。「祭り」や「炎上」などという題材を取り上げる時にも彼は冷静だった。なにかの専門家というわけではない一般読者にも通じやすい文章の書ける論客である。


ある言説を偏っていると批判する言説が偏っているという構造がたびたび発生する言論空間において、荻上チキの文章には圧倒的ともいえるバランス感覚がある。彼のインタビューや発言からもそのことに自覚的であることがわかり、それゆえに彼の文章は「安心」して読める。


バイアスがかかった雑多の情報が溢れる中で、荻上チキのような姿勢や態度は見習わなければなりません。今や誰もがツイッター、ブログを通じて発信できる以上は。そのことをふと感じさせた評価でした。


【参考】
円堂都司昭氏インタビュー