lionusの日記(旧はてなダイアリー)

「lionusの日記」http://d.hatena.ne.jp/lionus/としてかつてはてなダイアリーにあった記事を移転したものです。

組織行動の「まずい!!」学―どうして失敗が繰り返されるのか(失敗学ならず、まずい!!学。)

組織行動の「失敗」が引き起こした事件事故事例が豊富にひかれている上に、それらの顛末や問題点を簡潔に分かりやすく記述されているので、非常に読み易くしかも示唆に富む本です。
個人的に印象に残ったのは以下の2点です。

  • 向上心のないベテラン問題

p.39
日本には”ものづくり”を尊ぶ風土が存在し、現場の地位が相対的に高い。職制上の建前とは別に現場のベテラン作業員は強い発言権を有し、管理職といえどもみだりに作業現場に介入することを許さない気風を持つ。「学卒には現場のことはわからない」「現場には現場のやり方がある」というわけだ。

p.39
管理者側がベテランに遠慮して実質的に監督不在の状態が生ずると、その環境がベテラン側の意識にも影響を与え、ベテランの間に二極分化状態が発生する。現場のリーダーとしての責任感を抱いて技能にさらに磨きをかけるタイプと、ベテランとしての地位に安住して向上心を失ってしまうタイプである。言い換えれば、「周囲の模範となるベテラン」と「単に経験年数が長いだけのベテラン」の2種類に分かれるということだ。

pp.39-40
前者はまさに組織の宝であるが、問題は後者である。自分の力量に慢心しているために、周囲の指導やアドバイスを受け入れようとせず、新しい知識や技能を身に付けようという意欲もない。それどころか、自分のやり方が一番正しいと思い込み、規則やマニュアルをあっさりと無視する。このような名前だけのベテランが安全管理上の盲点となり、予想外の事故を引き起こすことになるのである。

p.88
マニュアル遵守が基本とされる欧米と異なり、日本では、QCサークル活動のように現場の創意工夫が尊重される風土が存在する。そのため、作業効率の悪い職場環境であれば、何らかの形で効率化を図ろうとするインセンティヴが現場に生じやすい。その行き着くところが、世界に冠たるトヨタ自動車の生産ラインとなる場合もあれば、JCOのように安全対策の破綻につながる場合もあり得る。その意味では、改善と改悪は鏡の裏表である。

p.88
特に作業効率が非常に悪い部署については、現場の創意工夫の結果として、安全対策がなし崩しにされる危険性が常に存在すると留意すべきだ。

p.88
最近は色々と言われているが、それでも日本人従業員の質は非常に高い。無理難題でもやりくりして何とかこなしてしまう優れものだ。この有能な現場に上司が甘えて、「それでは後を頼む」と丸投げする傾向が一般的に認められる。それで上手く組織が動いているケースのほうがむしろ通例かもしれない。

pp.88-89
しかし、現場はあくまで現場である。その知識は基本的に経験の範囲内に限られ、これを逆に言えば、経験のないことはよくわからない。その結果、気付かぬうちに大変な事態になっていたということになりかねないのだ。JCOのケースでも、作業担当者は核分裂の基本メカニズムをあまり理解していなかったことが、後日の調査で明らかにされている。現場を尊重するのは大切だが、現場の「限界」についても意識すべきだろう。