2008-11-10
文学の裾野を拡げる地道な取り組み
これは以下のエントリーの続きです。
http://d.hatena.ne.jp/literarymuseum/20081104/p1
以下、「小樽文学全集を自家製本 ゆかりの作家に焦点 有志こつこつ、限定15セット」『北海道新聞』(2008年11月9日)より。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/culture/128128.html
【小樽】市立小樽文学館の開館三十周年を記念し、製本ボランティア手作りによる文学館版「小樽文学全集」(全十巻)が完成した。絶版などで入手が困難な小樽ゆかりの文学者をクローズアップする試み。限定十五セットで同文学館で販売している。
同文学館では、支援団体の「小樽文学舎」が五年前から製本教室を開いている。製本の腕が上がったことから、念願の全集づくりに着手。収蔵作品などで、既に著作権が切れたか著作権者の了解を得たものを底本とし、玉川薫副館長らがパソコン入力して紙に出力した。月一回、十−十五人が集まり、新たな装丁でこつこつと製本。一年かけて計百五十冊を上製本に仕上げた。
セットには小林多喜二「党生活者」や小熊秀雄童話集、伊藤整の第二詩集「冬夜」のほか、石川啄木の道内ゆかりの文章を同文学館が集めた「啄木木文集」も。
「我は海の子」の作詞者とされる宮原晃一郎の童話集「竜宮の犬」など、明治から昭和初期に活躍しながら埋もれてしまった文学者にも光を当てた。
製本を指導する北間正義さん(76)は「この機会に初めて知った詩人もおり、役に立ててよかった」。同文学館は、好評なら自家製本でなく、出版することも検討している。
前回のエントリーで取り上げた読売新聞の記事では出ていなかった、小樽文学館の復刻全集の収録作品名がいくつか判明しました。
- 小林多喜二「党生活者」
- 小熊秀雄童話集
- 伊藤整の第二詩集「冬夜」
- 石川啄木の道内ゆかりの文章を同文学館が集めた「啄木木文集」
- 宮原晃一郎の童話集「竜宮の犬」
この5作品は確定のようです。特に4つ目の石川啄木のものなんかは、おそらく小樽文学館のオリジナルの編集によるものですね。どういう作品が収録されているのかは気になるところです。
宮原晃一郎の「竜宮の犬」は、既にほるぷ出版が1969年に復刻していますが*1、この復刻で改めて注目を浴びるようになるでしょうか。NACSIS Webcatを見る限り、大学図書館でオリジナルを持っているのは京都女子大学、十文字学園女子大学、東京純心女子大学、文教大学の4館しか所蔵していないようですから*2、あまり保存の対象とはなっていなかった作品のようですね。公共図書館のほうを見ても、7館くらいしかオリジナルは残っていないみたいです*3。
ただし、ほるぷ出版が出した復刻版は広範囲にわたって保存されていますから、作品自体を読むことに関しては、小樽文学館の復刻ではなくても比較的簡単にできるようです。
1年間で150冊ということは、ひと月あたり12-3冊ほどになります。参加人数が毎回10-15人ほどということなので、月1回の活動で、各回で1人が1冊を作るのが精一杯だったということになりますね。やはり手作業での製本は手間と時間がかかるものらしいので、全15セットという部数も納得できる数字です。
先日の古本市で売りに出された復刻全集の販売結果がどのようなものだったのか、その後の新聞報道はないですし、小樽文学館のブログ*4にもまだ報告がありませんが、小樽文学館としても好評ならば自家製本ではなく正式に出版したいということらしいので、今後どのように活動が発展していくのかが楽しみです。
それと前回取り上げた読売新聞の記事では講座の担当者の名前が報道されていなかったのですが、今回の北海道新聞の報道では、製本講座の担当者の名前が出ていました。北間正義さんという方です。講座内容の専門性の高さから考えると、文学館内の職員ではなく、外部の人を招聘しているとは思っていたのですが、やはりそういう技術を持った方を連れてきているのですね。
以下のサイトを見る限り、北間さんは市立小樽図書館でも市民講座としての製本を担当されている方のようです。
以下、「よみがえった愛読書!」『小樽ジャーナル』(2003年2月27日)より。
http://webotaru.jp/2003/02/post_1039.php
住吉中学校の教員を退職後、小樽図書館で視聴覚ライブラリー嘱託勤務。5年ほど前から図書館製本ボランティア指導員となり、現在にいたる。
元記事のURLは失われていますが、「司書室BBS」というサイトにはさらに詳細な情報が残っていました。
http://www.play21.jp/board/form8.cgi?action=res&resno=103&id=room2006
以下、「【知る学ぶ】 作る楽しさ伝えたい」『北海道新聞』(2008年5月17日 小樽・後志版)より。
ボランティアは全員、北間さんの製本教室の教え子だ。中学の数学教師だった北間さんは四十年ほど前、独学で製本技術を習得。二〇〇二年から市立小樽図書館で、翌〇三年から文学館で製本教室の講師を務め、主婦や定年退職者を教えてきた。
全集作りは、五年近く腕を磨いた生徒たちに目を付け、文学館が依頼した。「みんな楽しみながら腕を上げた。その技術が復刻に役立つのがうれしい」。北間さんは満足そうだ。
布表紙の本、和紙と糸でつづる和装本、豆本と北間さんが手がける本はさまざま。一九九六年から嘱託職員として勤めた図書館で壊れた本の修復を開始した。嘱託期間を終えた九九年以降は無報酬で続けている。製本教室の教え子も加わり、この十二年で修復した本は六千冊を超す。
大量生産、大量消費の時代にあえて手作り、手修理にこだわる北間さん。「こつこつ完成させる製本の楽しさを伝えたい」と張り切っている。
この記事を読む限り、製本の講座を土台として全集作りをすることは当初の予定にはなかったようで、受講生の製本技術の向上によって文学館側が全集作りを依頼した形のようです。北間さんの製本は教師時代に独学で学んだものらしいのですが、そういう人物が身近で活動していたのは、小樽文学館にとって大きな力となりましたね。
北間さんは図書館での嘱託期間が終わっても無報酬で続けているくらいのボランティア精神に溢れた人物ですし、「こつこつ完成させる製本の楽しさを伝えたい」という思いが強い方ですから、文学館側からの製本講師の依頼は、自分の活動の範囲を拡げる上でむしろ好都合だったのでしょう。
その他、このような記事もありました。北海道虻田郡京極町の図書館にも出張講座を開いていたようです。写真入りです。
第2回 図書館講座 「世界に1冊!自分だけの折り本作り」
http://lib-kyogoku.cubet.com/yugakukanhp/H19-picture/19-tosho/071103_orihon.html
こういう技術を持った人物はどの自治体にも少なからずいるでしょうから、他の図書館や文学館でも市民講座の一環として製本を取り上げることはできるんじゃないでしょうか。小樽文学館の事例を見る限り、製本講座が文学館として公式に復刻製作を望むところにまで発展してきていますから、こういう地道な市民講座が入手の難しい作品復刻の機運を文学館や市民の間に育んでいくこともあるようです。
現在では入手の難しい文学作品は多いですが、それらを単にガラスケースの向こう側に置いて作品の断片だけを展示するだけではなく、あるいは他で読むことができない作品を読めないままにしておくのではなく、その作品世界に直に触れる機会を増やせるように、文学館はさまざまな取り組みが求められるでしょう。貴重な資料を貴重だからと安易に仕舞い込まず、その資料が貴重で他では入手ができないならば、形を変えてでも作品のテキストを広く安価に公開できるような方法を模索することで利用者の興味を惹き、文学の裾野を拡げていかなければなりません。あるいは研究者に対しては、文学館側が研究の利便性を高めるようなサービスを展開する一方で、いずれはその研究成果を文学館に還元してもらうことで新しい知見を蓄積していくというように、文学館と研究者の双方にとって得るものがなければなりません。
文学館活動というのはせいぜいこの半世紀くらいの歴史しかありませんから、まだまだ新しいサービスや取り組みを模索するところがありそうです。
追記(2008年11月12日)
リンクを追加しておきます。
小樽文学館公式サイト
*1:http://webcat.nii.ac.jp/cgi-bin/shsproc?id=BN09333675
*2:http://webcat.nii.ac.jp/cgi-bin/shsproc?id=BA53624416
*3:http://unicanet.ndl.go.jp/psrch/PDetail.do?no=12&tcd=1571309&id=12263237172134AD9B03CB003BE812786459F70B8C4F2
- 4 http://d.hatena.ne.jp/keyword/玉川薫
- 4 http://www.google.co.jp/search?pz=1&ned=jp&hl=ja&q=北間正義&btnmeta=search=search=ウェブ全体から検索
- 3 http://search.yahoo.co.jp/search?p=北間正義&search.x=1&fr=top_ga1_sa&tid=top_ga1_sa&ei=UTF-8&aq=&oq=
- 3 http://www.google.com/search?sourceid=navclient&aq=2h&oq=&ie=UTF-8&rlz=1T4GGLR_enJP309JP309&q=北間正義
- 2 http://a.hatena.ne.jp/copyright/
- 2 http://d.hatena.ne.jp/copyright/20080809/p1
- 2 http://d.hatena.ne.jp/keywordmobile/東京純心女子大学
- 2 http://ezsch.ezweb.ne.jp/search/?query=龍宮の犬+宮原晃一郎&start-index=6&adpage=3&ct=1301&sr=0000&t=20120119113547&filter=1
- 2 http://www.google.co.jp/search?hl=ja&source=hp&q=製本教室+小樽&aq=f&aqi=&aql=&oq=&gs_rfai=&rlz=1R2TSJH_jaJP373
- 2 http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&aq=1h&oq=&hl=ja&ie=UTF-8&rlz=1T4ADFA_jaJP357JP357&q=北間正義




