コスポリタン オデムウィンギー


古来インド、中国、ペルシアを結ぶ国際交易の中継地として繁栄したサマルカンド(写真)。かつてここには多様な文化的背景を持った商人たちが行き交い、多様な言語が飛び交っていたのだろう。大陸を股にかける彼ら商人たちは今日的な言葉を使えばコスモポリタンとよべるだろう。
1981年、そのサマルカンドから北東に250km余りはなれたウズベキスタン(当時ソビエト連邦) タシュケントで生を受けたのがピーター・オデムウィンギーである。彼は今、サッカー選手として活躍をしているがその生い立ちはとても興味深い。
ざっと彼の人生を振り返ってみよう。

ピーター・オデムウィンギーは医師でロシア人の母と同じく医師でナイジェリア人の父の間に生まれた。1歳の時に父の祖国ナイジェリアのベニンシティに行き、7歳か8歳でウズベキスタンに戻る。
彼の本格的サッカーキャリアはこの地で始まる。高校卒業までにウズベキスタンのFCパフタコールタタールスタンのKAMAZナーベレジヌイェ・チェルヌイ、CSKAモスクワのユースシステムを渡り歩いた。
17歳で再びナイジェリアに行き、かつて父親が働いていたベンデル・インシュアランスF.Cに入団し、このクラブでプロデビューを飾る。しかし体が小さかったオデムウィンギーにとってチームのフィジカル重視のスタイルは合わず、チェルシーミケル・ジョン・オビなどを生んだペプシアカデミーに移籍した。
2002年にヨーロッパに行く決意をし、ベルギーのチーム ラ・ルヴィエール移籍した。2004年にフランスのリールに移籍、2007年に700万ユーロの移籍金でロシアのロコモティフ・モスクワに移籍した。2008年にはナイジェリア代表として北京オリンピックに出場し銀メダルをとっている。
さらにロコモティフ・モスクワでの活躍が認められ2010年にトップリーグの一つであるプレミアリーグ ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンに移籍し現在に至る。
お分かりいただけただろうか、彼は今に至るまでにウズベキスタン、ロシア、ナイジェリア、ベルギー、フランス、イギリスと実に6カ国に移住した経験を持ち、ロシアとナイジェリアという遠く離れた二つの祖国を持つのである。また彼はこの間ロシア語、フランス語、英語を習得した。グローバル化が進んだサッカー界においてもこれだけ国際性に富んだプレーヤーは少ない、稀有な存在なのである。

ただそんな国境を飛び越える男にも、困難はあった、一つは人種差別である。
少年期にいたウズベキスタンやロシアではまだ有色人種に対する差別的な感情が存在し、ロコモティフ・モスクワに所属していた頃のスタジアムでは多くの差別的野次が多く飛んでいた。また彼がロコモティフ・モスクワを退団するときにはスタジアムにバナナ(差別的意味のある)の絵が書かれた横断幕が掲げられた。しかし彼は自らに飛ぶ野次よりもチームメイトのブラジル人に飛ぶ野次のほうが心を痛めたという。なぜなら彼自身野次を飛ばしている人間と同じロシア人でもあるからだと言う。
また彼は自分のアイデンティティにも困難さを感じるという。"自分の魂はロシア、ナイジェリアどちらにあるのか?"と

しかしこのような困難があろうとも、彼は多くの国を渡り歩く自らの境遇をきっぱりと「幸運」だと言う。
なるほど彼はこの境遇を楽しみ、またこの境遇と闘いながら生きていうのだ。そう彼はかつてサマルカンドを行き交い、故郷から遠く離れた地へと足を踏み入れていった商人たちと同じ冒険心あふれるコスモポリタンなのだと感じた。


参考URL
http://www.firsttouchonline.com/2011/04/peter-odemwingie-interview/
http://www.guardian.co.uk/football/2012/apr/21/peter-odemwingie-west-bromwich-albion
http://www.dailymail.co.uk/sport/football/article-1316923/Peter-Odemwingie-exclusive-Every-time-ball-Russia-hear-racism.html
http://www.pepsifootballacademy.com/graduates
http://www.telegraph.co.uk/sport/football/teams/west-bromwich-albion/8275927/West-Brom-striker-Peter-Odemwingie-finds-England-is-definitely-to-his-taste.html
http://www.fifa.com/worldfootball/clubfootball/news/newsid=1421127.html
http://www.fifa.com/worldfootball/clubfootball/news/newsid=556292.html