バッタもん日記

人生は短い。働いている暇はない。知識と駄洒落と下ネタこそ我が人生。

腐った米のとぎ汁教祖の大放談 その1

飯山一郎という人物がいます。「腐った米のとぎ汁を飲んだり吸い込んだりしたら放射能の害がなくなる」、あるいは「腐った米のとぎ汁が放射能を消してくれる」などという常軌を逸した主張を行っている人物です。以下のように、ネット上で盛んに活動しています。今月初頭には講演会を開催したようです。

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講演会の様子

はっきり言ってしまえば、まともに取り上げる価値もない、検証する価値もないただのホラ吹き爺さんです。現時点では活動は上の講演会を除けば、ほぼネット上のみです。あとは北朝鮮に関する変な本を刊行したぐらいのようです。つまり、主張はあまり活字にはなっていません。
ところが、この人物のインタビューを掲載した物好きな雑誌がありましたので、報告したいと思います。雑誌という公共の媒体で主張が公表されたのですから、遠慮なく酷評できます

(1)雑誌の概要
「Star People」という雑誌で、タイトルと目次からわかるように、いわゆるスピリチュアル系のトンデモさん御用達雑誌のようです。つまり、批判を承知で断言すると、まともな人間が読む雑誌ではありません。

こんな雑誌に取り上げられること、こんな雑誌しか取り上げてくれるメディアがないこと自体が、自らの主張のいかがわしさを証明してしまっています。こんな雑誌ならば、取り上げられることが逆に不利益になります。ところが、本人はそこまで考える頭がないようです。ある意味当然ですよね。そんな思考力があれば、上に挙げたような主張を行うはずがありません。
「今はこんな変てこな雑誌しか相手にしてくれなくても、いずれは大手メディアが取り上げてくれるはずだ。その足掛かりになればいい」とか「自分の信奉者はあまり物事を深く考えないから、どんな雑誌に掲載されても喜ぶはずだ」という打算があるのかもしれませんが。

(2)実際の内容
インタビューはデタラメの嵐ですので、私の手に負える範囲内で検証してみます。

大量に重油、灯油、シンナーなどを買い占めておいたら、石油危機の時はそれが20倍で売れ、20代の始めに大儲けをした

第一次石油危機は昭和48年(1973年)の10月とされています。この記事の本人紹介では、生年は1946年となっています。またWikipediaによると、1946年1月17日出生となっています。となれば、石油危機の際には27歳であり、「20代の始め」という表現には問題があります。この発言はどこまで本当なのでしょうか。

原発事故について)
数千万人が10年後には発病するでしょう。すでにがんの人は増えているし、鬱が蔓延しています。

何の根拠もありませんね。情報源も提示されていませんし。非常に無責任な発言です。根拠もなしに恐怖を煽るような言説を吹聴する人間の人格を疑います。

いまでは、私の提唱してきた乳酸菌を実践している人がかなり増えて、豆乳ヨーグルトだけでも100万人、乳酸菌の培養者は200万人を超えているようです。

これも何の根拠もありませんね。どのように算出した数値なのでしょうか。ただの大言壮語です。補足しておくと、豆乳ヨーグルト」とは、豆乳に玄米を加えて腐らせた食べ物です。「乳酸菌の培養」とは、米のとぎ汁に塩やら黒砂糖を加えて腐らせることです。

牛、パンダ、コアラが食べる木の葉は栄養素がゼロ。分子構造が炭素と水素で、3大栄養素のでんぷん、たんぱく質、脂肪がゼロ

言うまでもありませんが、この一節は根本的に間違っています。この部分だけをもってしても、飯山氏には生物学・化学の知識が根本的に欠けていることがわかります。
「栄養素がゼロ」などということは絶対にありません。多少の「でんぷん、たんぱく質、脂肪」は含まれています。「分子構造が炭素と水素」というのは恐らくセルロースという繊維性の炭水化物(多糖類)を指しているのだと思いますが、植物の葉はセルロースしか含んでいないのかと言えば、そんなことはありません。他にも色々な物質を含んでいます。そもそも、植物は葉で光合成を行い、様々な栄養素を合成しているのですから、葉に何の栄養素も含まれていないということは原理的にあり得ません。あと、セルロースを構成する元素は炭素と酸素と水素ですので、これも間違いです。

腸内で腸内微生物という脂肪とたんぱく質の固まりが生まれ、これが腸内で死んだら栄養源になるわけです。だから食べなくても生きられる

腸内微生物が栄養となり得るのは事実ですが、その肝心の腸内微生物を養うには、やはり何かを食べなければなりません。何もないところに微生物は発生しません。微生物も何かを食べる(栄養源とする)必要があります。すぐ前で、草食動物が食べた植物が微生物の生息場所になっているという内容を述べているのに、矛盾に気付いていないようです。「食べなくても生きられる」ということは絶対にありません

中国で科学的に実証されていますが、笹が大量に含んでいるカリウムに原子を1個か2個足せば、カルシウムになる。つまり、腸内で原始的変換が起こっているんです。(誤字はママ)

この「生物の体内でカリウムがカルシウムに変化する」という理論は飯山氏のオリジナルの主張ではありません。起源はルイ・ケルヴランというフランスの科学者です。当然ながらただのヨタ話であり、死後になりますが、ケルヴランは「錬金術の熱心な崇拝者」としてイグ・ノーベル賞を受賞しています。

ところが、生物学的原子転換と言っただけで、あいつはとんでもない奴だ、なんて言われてしまうんです。

トンデモ科学者がよく言う、「古い定説に縛られた頑迷な科学者による弾圧」ですね。誇大妄想と被害妄想の産物です。こんなことを言い出す時点で、主張の信頼性は限りなくゼロに近くなります。自分を「聖書の天動説に逆らって地動説を唱え、キリスト教界による過酷な弾圧を受けたガリレオ」と同一視しているのかもしれません。

ロシア人は腸が非常に短いそうです。反対に、日本人は相当長い。腸の長い人間はそれだけ腸内微生物も多いわけだから、玄米や大豆、豆乳ヨーグルトくらいの食事で、他には要らない。食料自給率は10パーセントくらいでも生きていけるのではないか。そういう可能性が日本人にはあるわけです。

「日本人の腸は長い。欧米人の腸は短い」というのはトンデモ業界ではよく見掛ける話なのですが、根拠となるデータが提示されたことはありません。
参考:とらねこ日誌
仮に腸が多少長くて腸内微生物が多少多くても、ここに挙げられているような極度の偏食では健康を崩します
また、「食料自給率」を完全に誤解しています。「食料自給率」とは、「国内で消費された食料のうち、国内で生産された食料の割合」を指す数値です。食事の量、食生活の豊かさを指す数値ではありません。
江戸時代の日本は鎖国を行っていたので、食料自給率は100%でした。それなのに飢饉が頻発しました。現代では、北朝鮮のように貧しい国々は外国から食料を輸入できませんので、食料援助を除けば食料自給率は100%に近くなります。それでも、そのような国々は大抵飢餓に苦しんでいます。食料自給率が低いことと食料不足は全く別の概念です。この両者の区別ができていないようです。


私が突っ込めるのはこんなところです。インタビュー記事は次号にも引き続いて掲載されるそうなので、次号が発刊され次第、購入して批判記事を再度書きます。