私家版マスメディア〜logo26のシニアの生き方/老婆の念仏

何が出てくるやら、柳は風にお任せ日誌、偶然必然探求エッセイ

アイリスとともに 2014年 房総の4年目後半

2014年
見ないまま今日の嵐に散る桜、母は知るや
アイリスの巻

             

「いつもの月命日」

早生の子の黒厨子をしづじづと蓮の始めて開く七月

油断して触れてしまひし罪科の輪 修正きかぬ変わらず痛む

父の死の十一日と息の生日 文月十四日無駄に拘る

意味不明の亡き子のくちぐせ「ふみふみ」に今も親しむ使ひてもみる

ただここに意識のあるを頼れども事実か知らず浄土も無からむ




「あの世とこの世、これから何が」

風に乗り泣き声聞こゆ遠き日の吾が子の涙ざんざと浴びたり

とりあえず歌に詠むべし優しさをあの世からまた貰ひたる日を

逆縁の挽歌を集め悲しみをばらまく行為吾が止むべきか

うたかたの体と存在真実を知らぬまま生きやつぱりと死ぬ

ただいまと孫得意げに叫びゐるドアの開くを信じて四歳

自らの経てきし悲しみ戸惑ひの孫に近づく兆しある憂さ

戦後より兆したるらむ自意識と教養そろへて老女歌人

原爆の目前なりし生日を冷えし部屋出でしばしねこじゃらし

電子機器トイレも家もまあ許す 四季を生きたし毛皮一枚に




「言葉に羽を」

万葉の恋心詠む ああ吾も人を恋ひたき素質のありき

こんなにも理路ないがしろ梅雨晴れの野に出で豆摘み鍋を拭き上ぐ

卒業す 心とやらの痛みなど梅雨の湿度にしつとり馴染み

調理には土器がよろしく 手仕事に染色 機織り 縫ひて 釦つく

ごまかしてそれはそれなどふざけをるわけにあらねど羽化するかとて

そこここの破滅の兆し勘違ひなれとぼんやり したり無視したり




「野の花の国へ」

二千十四年人に起こりし不吉さが我が身縛りて眠りもならず

降りわたる声ひぐらしと知らざりてこの世の外のごとき渓谷

平成の四半世紀を蝉時雨ふるこの街に泣くこと多かり

ひと叢の白粉花の赤揺れてコスモス一輪背伸びして白

遺影つれ浮かれ気分に旅の空向かひ風とて機体煽らる

朝五時の高空にある光源の満月朝日いづれにもあらじ ==??

樹々高く夏を悦ぶ野辺の花遠きアルプス非情に光れり

歌書のいふ実存象徴写実主義いづれにぞわが不能傾く

過去未来我慢の日々を与へらるる贖罪として受容せんとす




「落ち穂拾い」

重陽のあとの朝顔色褪めてにらの直線弾けむと白 ==いたるところニラの花

響めきて行軍のごと雨きたる地球の恵み食み尽くしたり

液晶のネットの向かう優し気に溢るることば空なるとても

からころと踊る秒針しぼられて閉ぢるほかなきハイビッカスの秋

鳥よりも速く飛びつつモダーンなる時計ANAにて買はむと焦る

限りある時計の文字の回る間に宇宙膨張 無を侵しゆく




「長月尽」

秋分の移ろふ気配わづかにてなほ豊かなる緑の国なり

湾岸の倉庫の並びの機能性究まりそびゆ人間倉庫

黒ズボン ホワイトシャツのマッチ棒動く夕べの窓煌々と

降り出して赤坂トンネル天井より生えし葉むらに雫光れり

白鷺も機体の白も日光を全てそのまま返す青空 

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風船葛とともに 2014年秋めくまで

南風激しい、心臓には悪いらしい、ペースメーカーある母
フウセンカズラの巻

                

「皐月の思惟」

回りゆく地球の仕組み止むなくてたちまち暗し緑と茅花と

老い人の植ゑゐる何かたちまちに人参なすびモロコシも出づ

吾といふ竜巻襲来ダンゴムシの団居(まどゐ)の夢を壊してしまひぬ 

日に幾度すいとガラス戸よぎる影尾のみ見わけて猫の道なり

星なくて機体ぽつんと光る夜墨一色の蓋あるごとし

実際は空一杯に星々の燦然と照る粒子に満ちて

そんなことが明日起こるとは知らぬまま蟻も子供も時の往くまま

文明の滅びの跡を覆ふとふ蔦ハイウェイの壁に清けし

しげりたる蔦のみどり葉ながれ落ち新宿変容 固きがやはらに

隣席の男タブレットを急かせゐてときに見やりぬ皐月の緑を

予報士の回す地球に都市と海 砂漠と森の静かならざる

移り来て三年の庭についに来ぬプリマドンナよもぢずり一花

待たるるを知りしやもぢずり不可思議の旅経たるらむこの庭に下る

歌会に寄り合ふ頭グレーのみ文化支へてややに気取れる

吾もまた気取れるひとり気合入れカットとマニュキアローズ香らす






「欧州旅行」

長病みの夫には死出の旅なるか追ひ立てられて運命に遭はむ

相剋の已まざる吾とこのをのこ ここに至れば別れえざらむ

青空に水平線なす雲の彩キカイの記憶に変幻委ぬ

シベリアより日本海超え山の国 くねりて細かき畑の色の差





「白い本」

もの書くと少女ながらに定めたり次第に上達するを信じて

わら半紙綴じて表紙に布を貼り言の葉書きし最初の詩集

母の語る里芋甘藷栗すべて蒸篭にふかして秋の子どもら

命尽き別るる刻限「惜しまるる人たれ」と聞きて六十年を経つ





「祥月命日15年」

巡り来る同じ問ひかけ 隔絶のひと日如何にぞ過ごせしものか

赤銅の皆既月食 けふの心 永き交信ふと終へむとす




「あてどなき言葉」

パン屑をたれか落とせしこの床に 拾ひて思ふヘンゼルなるらむ

垂れてくる髪を左右に止めたれば麗子像のやうになりたる額

意味不明のつちのこ空に見つけたり秋空いつばい伸びて疑問符

侵入され遠慮なく打つ蟻や蚊を 吾も保身に走る大雨





「今年の秋」

ワイン飲むアセトアルデヒドに毒されて 葡萄の粒に満ちる生命を

咲きかけの百合とつぼみのある一本買はば数日吾が幸ならむ

B B C 天気予報に日本が日々話題なり台風禍続く
 
ジャスミンにひしと絡める朝顔をはずす秋日の過ぎゆく香り





「神無月過ぐ」

神無月 神の居ぬ間の日の速さ不満はあれど退屈はせず 

ひとつきは孫悟空の乗る雲なるやヒッチハイクしていつそ暦買ふ

露草とヘブンリーブルーは兄弟か 空の涯の色濃きと薄きと





「おもわず苦笑」

鈴蘭のオーデコロンなどよからむか銀色斑入りの髪伸ばさむと

戦後より萌したるらむ自意識と教養そろへて老女歌人

五ヶ月児鼻に小さき皺寄せて寝返り成功たまらぬ笑ひ

コーヒーを知り初めしころ眩暈するほど強く甘くて一目惚れせし

和やかにニアミス避けて尊厳死がラストスパート夫婦の話題

あの頃に「お祭りマンボ」流行りたるわけ気になれどカラオケ中なり





「まじめに人生」

どれほどの人の知るらむ「人も蟻もすべて星の子」輪廻のさなか

実篤の言葉浮かべり美しく並ぶ瓦に雨の光りて ==「仲良きは美しきかな」

太極拳お腹の前の空間に両腕上下に自(じ)が魂抱ふ 

語りかけるマルセリーノに主の応へ給ふを書きぬ初めての詩に ==スペイン映画「汚れなきいたずら」

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牡丹とともに 2014年行ったり来たり

すぐに忘れる母は、わたしを待っているだろうか
牡丹の巻

            

「初ビートルズ1」

吾を駆るリズムとサウンドしたたれる緑の道なりファウストもどき

眼に緑初ビートルズつむじ風倦みし心もこの世を愛す

ビル群の並ぶ空の端CDにポールかレノンか浴びて運ばる

笛吹市の古き民宿夢のごと湯より戻れば葡萄冷えゐき

ゼブラゾーンの真上に濃淡分岐あり左右の空より陽と雨と落つ

名にし負ふ泰山木の花色の匂ひてをらむ燕飛び交ふ

香り降る木下の道を酔ふて過ぐたれを待ちてやかく焔(ほむら)立つ 

キャンパスを巡る花房薫香のニセアカシアといふはまことか

呼ばれたる心地に見つく朝顔の青き目見(まみ)なり見つめ合ひたり

南瓜の葉陰の家居声そろへ雀のうから屋根を楽しむ



「初ビートルズ2」

ずらずらと懊悩這ひ出でホラーめくスマホ忘れは制御失ふ

氷上をすべるかのバスやすやすと時空わたりて悩み変わらず

義妹らと袂分かたん頼りたる弟(ひと)の死にたる深みを見詰む

花を観よ桃はいかがと旅立ちを促す文言読みてうなだる

見下ろせる蟻のマンション隙間なる路の細くて驟雨に翳る

増設の首都高の道断たれゐてフラッシュバック阪神瓦解図

東京の地下を降りゆくほどにG増せばや思ひ哲学的に

月代(つきしろ)の昨夜はちらりと覗きしに熱海に重き海と空なり

五月雨に空なく海なくあを色を恋ふるまなこに緑山迫る

ずしずしと雨戸叩かれこもり居て『砂の女』めき梅雨の始まる




「初ビートルズ3」

百年はもつべき家を重機もてはや轟かす悲鳴エントロピー

思春期の扉ひらけば猪突なり恋のシステム張り巡らされゐる

あんなにも支配されゐて恋まみれ早乙女花にも生の策略 ==とは「へくそかずら」

奔りたり知らざるままに生殖の一途のあとの寂しくはなし

侮れぬ激辛ラーメン失へる味覚もどりて鬱より救はる

ゆつくりと動けど垂るる汗の塩ひと舐め旨きわが太極拳

省くべき炭水化物摂るべきは豆腐と野菜一キロ減量

コーヒーも敵はぬ睡魔に沈みつつふとも病の水井さん思ふ

黒道さんダークに詠ふ人なれど短歌サイトの指導穏しき

一本の強き念ある歌となせ雛の口腔燃えたつを見よ

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鬼灯とともに 2014年 迷い道坂道

皺だらけの顔に、突然瞳が光るときある
ほおずきの巻

                  

「今年のTokyo」

どこへ行く地震ある島逃れむにテロや疫病難民溢る

「終活」の一なる遺言固まれるいつでも来いと旅のプランを

タワーのみ都会の墨絵に紅を差すお台場まわる秋雨一日

金あれば増やさむとてかビルが建つガラス透きゐて非在の楼閣

渋谷の夕きらめく雨に影黒き人らいづこへ 吾に宛てあり ==次男のライブへ

くつきりと水平線なす雲の彩メモリの限りに変幻捉へむ

腰ともに右足一歩前に出て衆生救ふと十一面観音は





アイスマン居たるところ 1」

正午より西へ西へと飛び行きてドイツに至るまで昼の空

深夜より飛び立つならば夜の側スーパームーンに訊ねたきこと

果たせざりし約束重く子の遺影傍へにおけど空のいづこに

映さるるアイスマン独りクレバスに果てたる背なの悲しく小さき

五千年のアイスマンなれば学者らの手袋白く解凍しゆく

互ひにもオオカミらとも戦ひし指の何かをなほ掴みゐる

アルプスの峰と背骨の幻に氷河にありしをデジタル化さる

命かけ出でし旅なり抑へきれぬ笑顔にて夫ミュンヘンに立つ

タクシーの運転手にも饒舌なる夫をこのまま置きてゆかむか

無口なるは悪しきふるまひ弾丸のごとく若きら子音を放つ




アイスマン居たるところ 2」

呼び名にてひるまず「ミリー」と呼ぶ吾の変化いぶかし歳かと可笑し

レンタカーの左ハンドル十年ぶりアウトバーンを日々生き延びて

訛りあるドイツ語多きサービス業はだ色雑多にわれもその一

懐かしといふべき街に日常の憂れひ忍び来彼は彼なり

嫁といふ言葉あらぬに諍ひし義母の香のして柔軟剤は

広島の泥流ロビーを圧したりホテルの客ら動きを止めぬ

樹々喬き花野の国なる七十年「イスラム国」とふ闇の口開く

古稀めざし欧州ブランド靴鞄こころ強くとコートもあがなふ

それぞれの願ひ叶えて離陸すもモスクワ上空Uターンとなる

見逃さず不運来たるか固唾のむやがて息のむ高級ホテルへ





アイスマン居たるところ 3」

空港は透明なる城くるま椅子に回廊めぐりて夫すべりゆく

窓ぎはの席あり難し貼りつきて小窓に写す空またそらを

硝子体に棲みつく飛蚊日の差せる視界に元気つい遊びゐる

夕空の上弦の月高きまま窓の後ろへみる間に移動す 

大気中を自転プラスの速さなる吾らに月は置きさらる

雲あらぬ真闇を凝視びつしりと星ありたるはまぼろしなるや

雲井より村落の灯の遠々に見られゐるとは夢思ふまじ

明時(あかとき)の心細さよ三角の白光ひとつ翼の先に

作られたる機内の夜に倦みて窓少し開けば射抜く神の矢

海面へ滑り込むかの危ふさを航空母艦羽田と呼ばむ

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柿の実とともに 2014年 ついに魔女の一打に襲われるまで

私が動けなくなったと聞いて、母の気力も弱ったのか
柿の実の巻

                    

「暗い歌」

カーテンの向かうは雲の世界にて時流れつつ深閑とせり

どうしやう君との関係この先の難聴の日々生きむと母は

死ぬ前の最後の旅と名づけたき明日よりの刻道しるべ無し

贖罪も悔ひも涙も終はらねど落雷ひとつなづきを打てよ

また温き今年の立冬 同期会写真に映るここまでの幸

終の家「海抜2米」危険なり線路向かうの借家にせましを

空を掃くパンパスグラスさびれたる産業パークの野分とあそぶ





「履歴書」

鳴り響く汽笛に人らかけつけて幼き頃にも「人身事故」ありき

青森に着きたる車窓に雪ありて新品コートにはしゃぎてわれら

熊笹をふちどる霜のま白くて福知山音頭調べの優し

生け垣のくちなし薫る霧ふかき盆地に少女病弱なりき

広島の七つの河をまたぐ虹ともに見たる人疾うに身罷る


待ち合せ 駅より前に うつかりと 
降りてしまひし 新妻も 
神戸駅にて 降りたる夫も 会ひたさの 
絆信じて 歩み来る
架線下なる 路の雑踏 左右より 
はたして出会ふ 初の子を 
身籠りしころ ==長歌もどき


阿蘇の煙と白川流れゆくわが愛憐の城下町なり

ミュンヘンは来るも去るもトンネルをくぐりまた入る暗渠なりけり

平野から箕面の山へ至るまで三号線ぞひ民家ひしめく

区別無き小都市 吹田 池田 箕面 ほどほど麗し阪急線もある

出しのきく阪急そばの甘み好き白ネギも少し増やしてほしき

銀波なす内房線のススキ穂の消ゆる蘇我駅アナウンス忙し






「こぼれ種」

松男的短歌の「私」青虫や木や島なみの事象の一なり ==渡辺松男の詠い方

肌色の白と黒との混合のパレットを見きミュンヘン雑踏

男女問はず美形を撮るか描くかして壁に掲げむ花の絵のごと

秋闌けて小窓をたたく夜半の風エフ分の一に訪はれゐる

くろぐろとかぐはしき畠 目も舌も耕すも幸あした豊穣

朝顔にまみれて我は山男地を噛む蔓を渾身ひき剥ぐ





「ぎっくり腰になる直前、神ならぬ身の」
子の妻に煙たがられて我からはメールもせぬが彼女もくれず

霜月の菊よろばひて頼みなるゼラニューム咲く口紅色に

彼も吾もこの惑星の昏きより時の筏に滝へと向かふ

この青き球のめぐりの莫大のすべて致死なる眼を剥く寂寥

その先の曲がりて見えぬ明日の日へ引きずられ往く少し好奇心





「晩年来ると」

老年の次の晩年唐突に出会ひ頭の腰痛一打

病み疲れ夜の底に聞くエンジンの唸りて一台ややしてバイク

眠れざる痛みの極月昏々とそうか冬至へ向かふ暗さだ

午後二時のはやも傾く陽の中に短き眠り朔旦冬至





「競合」

沖縄の知性策略優れたる緑の生物繁茂する森 ==ゆっくりと「歩く」大木

目に見える世界の屋台に不思議にも数字の骨組み言語もあるらし

モンステラ葉を裂きぬつと押し寄せて日光争奪小窓のジャングル

看護師も先端技術こなせるを要求されて腕メモだらけ




「歳晩」

からからの枯葉保てる橡の森に照れる夕つ日茶色を生かす

朝夕に交はすメールの育みし同い年なり老いて得し友

易からぬ時を刻する肌えにも若き友見ゆ光るまなこに

歳晩の静寂ゆるがすエンジンの響き過去より悲しみ連れ来

ひたひたとどんづまりまで行き暮れて落葉の山道ひんやり下る

為すべきを子らは黙して為すならむせめて渾身わが生の句点

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