El Bachaのロシア・ヴィルトゥオーゾ作品集

long_island2006-12-07

Abdel Rahman El Bacha(アブデル=ラーマン・エル=バシャ)による、'Russian Virtuoso Piano Works'と銘打ったアルバム。収録曲はRachmaninovの音の絵Op.33全曲、Balakirevのイスラメイ、Scriabinのソナタ第2番、Stravinskyペトルーシュカからの3楽章。これまでEl BachaというとBeethoven全集とかChopin全集とか、割と真面目系な曲主体に録音してきたイメージがあるので、今回のようにヴィルトゥオーゾ系の曲を集めているのはやや意外な感じです。レーベルがおなじみのForlaneではなくTritonということも関係しているのかも。(そういえばForlaneは潰れたんでしたっけ…。)

聴いてみたのですが、どちらかというとこういう曲はEl Bachaにはちょっと合わないかな、という印象。響きがデッド、というか直接音主体の録音のせいもあるのでしょうが、彼らしい、一点の曇りもないような明晰な音はあるのですが、逆に言うと細かな陰影とかニュアンスとか、あるいは豊かな響きや色彩感のある音色といったものはあまり感じられなくて、特にRachmaninovやScriabinではそこが弱点になっている気がします。音の絵はちょっと素っ気無い感じがありますし、幻想ソナタの第2楽章なども私がイメージするこの曲の姿からするとちょっと違和感があります。イスラメイは落ち着いたテンポながら歯切れがよく、ゴマカシのない演奏には好感が持てるのですが、さらにスケールの大きさや畳み掛けるような迫力を求めたいところ(そういうのはあまり狙っていないのかもしれませんが…)。そういった意味ではペトルーシュカが一番よさげな感じですが、Pollini盤やLortie盤を聴きなれているともう一つ物足りない感じです。

El Bachaも今年47歳。正直なところ、このような曲であれば20〜30代の技巧のピークのときに録音していればもっとインパクトのあるアルバムに仕上げることができたのではないかという気がしています。(もっともこれらは近年開拓したレパートリーなのかもしれませんが。)