『どこにもない短編集』

「どこにもない」と銘打たれた短編集。

「どこにもない」と言いながら、
実際「どこにでもありそう」なものって
溢れているのと同じで、
ストーリーのネタ自体
いつかどこかで出会ったことのある読後感。
一見したところ
「どこにもない」感じがしない。
―短編が「どこにでもない」のではない…。



「何だろう?妙な感じがする。[…]
ちょっとした違和感がある。[…]
…何かがしっくりこない。」
(『削除』P31)
「すがるような思いで耳を澄ます。
何の音もない。
大声で誰かを呼んでみようかとも思ったが、
とてもできそうにない。
きっとぼくのこえは虚しく反響し、
後には寄り深い静けさが沈殿するに違いない。」
(『削除』p38)
「ぼくは精神の方に
怪我を負っていたらしいのだ。[…]
(五感が低下してしまった原因について)
かなり熟考してみないことには、
区別がつかないし、うまく認識もできないのだ。」
(『認識不足』pp76-77)

私が「ここ」にいることを感じられない。
私が「ここ」にいることを
認めてくれる存在がいない。
私が「ここ」にいる意味を見出せない。
私が「ここ」から消失する。
それは「ここ」に限ったことなのか?
いや、違う。
私が「どこにもない」。

原田のどこか
神経症的な」(p212)独白にも似た一冊。

どこにもない短篇集

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