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2017-10-30

日本で読む翻訳小説が素晴らしいのはひょっとして翻訳者のせい!? H.G.ウエルズ『透明人間』の和訳と原典を読む。海野十三訳が素晴らしすぎる。まさに超訳。

20:42 | 日本で読む翻訳小説が素晴らしいのはひょっとして翻訳者のせい!? H.G.ウエルズ『透明人間』の和訳と原典を読む。海野十三訳が素晴らしすぎる。まさに超訳。を含むブックマーク 日本で読む翻訳小説が素晴らしいのはひょっとして翻訳者のせい!? H.G.ウエルズ『透明人間』の和訳と原典を読む。海野十三訳が素晴らしすぎる。まさに超訳。のブックマークコメント

全然違うのにびっくりです!!

これ、日本語訳素晴らしすぎますね。海野十三訳です。衝撃的なうまさ。読むべきです。

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◎透明人間

ハーバート・ジョージ・ウエルズ

海野十三

http://www.aozora.gr.jp/cards/001430/files/50346_40111.html

黒馬旅館の客

影のような男

怪物

 そうだ、怪物にちがいない。

 怪物でなくて、なんだろう? 科学が発達した、いまの世の中に、東洋の忍術使いじゃあるまいし、姿がみえない人間がいるなんて、これは、たしかに変だ。奇怪だ!

 しかし、それは、ほんとうの話だった。怪物ははじめに、ものさびしい田舎にあらわれた。それからまもなく、あちこちの町にも出没するようになったのである。たいへんな騒ぎになったことは、いうまでもない。

 その怪物の姿は、まるっきり見えないのである。すきとおっていて、ガラス、いや空気のように透明なのだ。諸君は、そんなことがあるもんか――と、いうだろう。だが、待ちたまえ!

 怪物が、はじめて田舎のその村にやってきたのは、たしか二月もおわりに近い、ある寒い朝のことだった。身をきるような風がふいて、朝から粉雪がちらちら舞っていた。こんな寒い日は、土地のものだって外を出あるいたりはしない。

 その男は、丘をこえて、ブランブルハースト駅から歩いてきたとみえ、あつい手袋をはめた手に、黒いちいさな皮かばんをさげていた。からだじゅうを、オーバーとえりまきでしっかり包んで、ぼうしのつばをぐっとまぶかにおろし、空気にふれているところといったら、寒さで赤くなっている鼻さきだけであった。なんともいいようのない、ぞっとするようなふんいきを、あたりにただよわせながら、黒馬旅館のドアをおしひらいてはいってきたのである。

「こう寒くちゃあやりきれない。火だ! さっそくへやに、火をおこしてもらいたいな」

 酒場へ、ずかずかとはいってくるなり、ぶるるんと、からだをゆさぶって雪をはらいおとし、黒馬旅館の女あるじに向かって、そう言った。

 いまどき、めずらしい客である。こんな冬の季節に、しかもこんなへんぴな土地に、旅の商人だってめったにきたことはないのだ。おかみさんは、びっくりもし、なげだされた二枚の金貨をみると、すっかりよろこんでしまった。

「とうぶん、とめてもらうから」

 客をへやに案内すると、暖炉に火をもやしてたきぎをくべ、台所でお手伝いにてつだわせて、おかみさんはせっせと食事のしたくをした。

 スープ皿、コップなどを客室にはこんで、食卓のよういをととのえた。暖炉の火はさかんにもえて、ぱちぱちと音をたてている。

 ところが、火にあたっている客はこちらに背をむけたまま、ぼうしもオーバーもぬごうとはしないで、つっ立っている。中庭にふりつもる雪をみつめながら、なにか考えているようだった。オーバーの雪がとけて、しずくが床のじゅうたんの上にしたたり落ちていた。

「もし、あのう、おぼうしとオーバーを、おぬぎになりましたら? 台所でかわかしてまいりますわ」

と、おかみさんが声をかけた。

「いいんだ」

 ふりむきもしないで、客が、ぶっきらぼうに言った。おかみさんはあわてて、残りの皿をとりに台所へもどった。

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◯The Invisible Man

A Grotesque Romance

By H. G. Wells

http://cbseacademic.in/web_material/doc/novels/2_The%20Invisible%20Man,%20by%20H.%20G%20-%20Class%20-%20XII.pdf

CHAPTER I

THE STRANGE MAN'S ARRIVAL

The stranger came early in February, one wintry day, through a biting wind and a driving snow, the last snowfall of the year, over the down, walking from Bramblehurst railway station, and carrying a little black portmanteau in his thickly gloved hand. He was wrapped up from head to foot, and the brim of his soft felt hat hid every inch of his face but the shiny tip of his nose; the snow had piled itself against his shoulders and chest, and added a white crest to the burden he carried. He staggered into the "Coach and Horses" more dead than alive, and flung his portmanteau down. "A fire," he cried, "in the name of human charity! A room and a fire!" He stamped and shook the snow from off himself in the bar, and followed Mrs. Hall into her guest parlour to strike his bargain. And with that much introduction, that and a couple of sovereigns flung upon the table, he took up his quarters in the inn.

Mrs. Hall lit the fire and left him there while she went to prepare him a meal with her own hands. A guest to stop at Iping in the wintertime was an unheard-of piece of luck, let alone a guest who was no "haggler," and she was resolved to show herself worthy of her good fortune. As soon as the bacon was well under way, and Millie, her lymphatic maid, had been brisked up a bit by a few deftly chosen expressions of contempt, she carried the cloth, plates, and glasses into the parlour and began to lay them with the utmost éclat. Although the fire was burning up briskly, she was surprised to see that her visitor still wore his hat and coat, standing with his back to her and staring out of the window at the falling snow in the yard. His gloved hands were clasped behind him, and he seemed to be lost in thought. She noticed that the melting snow that still sprinkled his shoulders dripped upon her carpet. "Can I take your hat and coat, sir?" she said, "and give them a good dry in the kitchen?"

"No," he said without turning.

She was not sure she had heard him, and was about to repeat her question.

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こういう訳が可能なのも、当時の日本語が当時の英語と比較して十分に成熟した言語だったからでしょう。江戸時代からの長い歴史を持つものだからでしょう(※小説の文体として)。

成熟した文明が、西欧文化の受容を容易なものとしたのです。

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