安藤裕子 『Middle Tempo Magic』(アルバム) レビュー&セルフライナー


アルバムレビュー第3弾は、「Middle Tempo Magic」。


Middle Tempo Magic(CCCD)

Middle Tempo Magic(CCCD)


2枚のミニアルバムを経てのファーストフルアルバムで、
安藤さんにとってとても重要な曲である「隣人に光が差すとき」、
PVがとても素敵な初期の名曲「ドラマチックレコード」、
ライブの定番「聖者の行進」など、
バラエティに富んアルバムです。
ベスト盤(Disc1)にも最多の5曲が収録されています。

ところで、安藤さんのCDは、このアルバムまでCCCD(コピーコントロールCD)なんですよね。
CCCDは、家庭内での音楽CDの無劣化コピーがどんどん簡単になってきて、
CDの売り上げへの悪影響を懸念したレコード会社が窮余の策として導入したものの
音質が悪いとか、一部の機器で再生できないとか言った理由でユーザーからの猛反発を受けて
わずか数年で廃止されたものです。
でも、たぶん今このCDを買いなおしたとしても、やっぱりCCCDな気がします。

機器メーカーやネット企業のコンテンツ創作者軽視の風潮は目に余るので、
当時のCCCD導入はやむを得なかったと思いますし、
改めて何らかの対策が必要だとは思いますが、
CCCDは音質を落とすというのが本当であれば、
CCCDではない通常版CDをぜひ再発売してもらいたいものです。



〈セルフライナー(word by 安藤裕子)〉

人には重すぎて受け入れられないかなって迷ってた時期を越えて、
歌にのめり込んでいる姿をさらけ出しても
恥ずかしいことではないんだってことに気付いたうえで、
できあがったアルバムですね。
私の本当の素直な気持ちを唄いたいと思っていたので、
リード曲に「隣人に光が差すとき」をごり押しして。
そのせいで売り上げの枚数が少なかったかもしれないんですけど(笑)。
それでも良かったと思ってて。
そこで嘘をついて、キャッチーでポップな曲をリード曲にしていたら、
もう嫌だっていう気持ちになってたと思うんですよ。
”私は嘘をばらまくために音楽をやってるのか!”って叫んでたと思う(笑)。

出来上がったアルバムはすごく出来はいいと自分では思ってて。
評判も結構よくて、それは素直に嬉しかったんだけど。
その反面、ちょっときれいに出来すぎたことに対して不安感みたいなのを感じてて。
もっと自分の弱みというか、
自分の出来の悪いところを出していかないと
ヤバいんじゃないかみたいな気持ちがしたっていうか。
「どこまで自分を出すものなんだろう?」みたいな迷いがすごいあった。
今は、弱いところがあるのは足り前で、誰でもあるものだから、
それを見せることが相手にも弱いことを言っていいんだっていう
隙を与えるやさしさであったりするんじゃないかって思います。


ようやくデビューアルバム、
これでデビューみたいな気持ちが私の中にはあって。
アルバムは何か一つ突出させたくはないというか。
私が思い悩んでるときもあれば、
はしゃいでいるときもあるというのを、
全体像として日常をあまり無理ないイメージを出したかったというのがあります。
まずは本当に間口を広く作りたかったというのがテーマとしてあって。
私がこの一年間やってきたことをちゃんとこのアルバムで知ることができる、
要素としてそういうものにはしたいなと思ったし。
私は今いろいろ勉強中なんですよ。
そういった意味でも「今」、
今までやってきたことはこういう感じですよというのは出したかった。

それこそデビューの頃から、私という人間を人様にお伝えするに当たって、
まず説明せねばと思っていて。
アルバムでかなりの振り幅で日常のシチュエーションを発表するためには、
先の3作で説明しておきたかったのはありますね。
それができたからアルバムで安心していろんな部分が出せたし。
やっぱり普段自分が生きているなかからしか曲って作れないじゃないですか。
ずっと悲しい歌を歌ってたらこの人は悲しいんだって思われても嫌だし、
人前ではへらへらしてるけど、ひとりのときは考えてることもあるし。
一日ででてくる自分の顔、現状の自分が思う日常感が出せたと思ったし。
デビュー前からずっとレコーディングしてた、
この2年の流れを汲んだ、集大成的なアルバムですね。

私、突出したイメージっていうのをあまり人に持たれたくないんですよ。
だから今までミニアルバムを出したときも、
1曲リード曲があったとしても絶対その対極にあるものも見せてきた。
今回のアルバムに関してもそういうところがあって、
ひとつ何か強いものを出すと言うよりは、
私の日常にあるいろんな感情全部を出したいって言う気持ちがありましたね。
私にも悲しいことはありますよ。
でも、そればっかりじゃないじゃないですか。
どんなに嫌なことがあっても、生きていれば絶対笑ってる瞬間もある。
だから曲作りでも、悲しいことやつらいことばっかりじゃなく、
はしゃごうぜ!みたいなことも、
やる気ねぇ、みたいなことも(笑)歌っていきたい。
私は作り上げられた虚像になりたいんじゃなく、
聴いてくれる人にとって友達みたいな、
日常的な存在になりたいと思ってますから。

日常の中のいろんな私を全部表現したいという気持ちで作りました。
私以外の人が作った曲でも、演奏者やアレンジャーや歌う私が、
同じポイントを目指して作ってたので、
統一感のある仕上がりになってるんじゃないかな。



Q 1stアルバム「Middle Tempo Magic」は
今までの自分の集大成っぽいんですか?
A 今までのわたしというよりは、
今のスタッフと出会って築いた人間関係とか、
「こういう事が出来るといいね」って
やってきたことの集大成ではあるかな。

Q ジャケットをこの写真にした理由なんですが、
これって、途中経過を見せるっていう心理ですよね。
それはイメージを限定しないとか、
結果よりプロセスが大事という価値観だと思うんですが。
A そう思いますよ。
やっぱり、曲に関しても、
作ってる最中が一番楽しいし。
一番無心にその曲のことを考えてるから。
最中が充実していれば、
結果は悪くないと思う。
最中が煮詰まりまくってて、
物だけ褒められても、
「ほんとに??」って思っちゃうから。

Q この撮影現場、
楽しいそうだなって思ってね。
A この日、超楽しかったですよ。
一応コンセプトとして、
アルバムジャケットを作っている
最中を撮っていこうというのがあって。
だから机の上とかにいっぱいカメラを置いておいて、
「カメラ持った人誰でもいいから撮って」
ってお願いしたんですね。
Q それ安藤さんの発案?
A はい。使い捨てカメラを含め
自分のカメラをいっぱい持ってきて、
8ミリフィルムでPVとかもかぶせて。
刻々と髪を切って変わっていく様子を。
要は結果を作るまでの裏側を、
いろんな形でフィルムに残そうと思ったんです。
Q その設定なら他人が自由に入れますよね。
A 他人には入ってもらいたいとは思うんですよ。
今まで一人でやっていたから
自分の比重が大きくなっちゃたんですね。
そうすると、自分の顔を避けるようになるんです。
かわいらしい顔をして
自分が正面を向いている写真とか
やっぱり恥ずかしいんですよ。
だから次くらいからまた、
他人任せに戻ろうかなって
今思っているところです。


いつも人に聴いてもらうときは、
いいのかな?って不安がある。
でもこのアルバムに関しては、
これはこれで一つ、
最善の努力をしたなって思う。
これが自分で生きていくうえで、
最高!とは言わないけれど、
ただ、今自分ができることの中では
満足できることができたと思ってるんです。
だから文句あるやつは前に出てみろ!って(笑)