操体法 橋本敬三の世界&もうひとりのあなた

幼児や幼稚園児に操体法は大丈夫でしょうか、という質問を受けることがある。
勿論、大丈夫だ。
イギリスで出産した友人に聞いた話だが、生まれたばかりの赤ちゃんに「整体」をやるのだという。彼女はそれが何だかわからなかったようだが、おそらく、頭蓋仙骨療法ではないだろうか。

出産時に頭蓋骨がずれたせいで発達障害などになることを防ぐためこのような予防的治療が行われている話は
アプレジャー博士の著書にも載っている。その中の症例では、発達障害で知的障害もあると思われていたある少年は、出産時に頭蓋骨の縫合がずれたというのがその原因で、少年の頭蓋を5グラムのやさしい、かるい力(渦状波と同じである)でリフトし、調整した結果、少年は正常に戻ったという感動的なケースが書かれている。

もうひとりのあなた―頭蓋仙骨治療法体性感情解放法

もうひとりのあなた―頭蓋仙骨治療法体性感情解放法

先日、アトピーと喘息気味の幼児のお母さんから相談を受けた。勿論、一度二度でよくなるとは思わないが、お母さんが毎日やってあげれば効果のあるやり方は伝授できる。もちろん、お父さんでもいいのだ。

操体で乳児、幼児向けの操法と言えば、「くすぐり」操法である。

『万病を治せる妙療法』にもイラストが載っているが、「くすぐり」と書かれているので、指先で脇腹をこちょこちょするのだと思っている人が多いようだが、実際はちょっとちがう。橋本敬三先生が実際に幼児にやっている姿を見ることができるのが、これ。
操体法 橋本敬三の世界(農文協)

子供をベッドに寝かす時、手に何か持っているのに目をとめた橋本先生が『なに?見せて?』と、その物体を受け取って、見るシーンがあるが、見たところ、『コーヒー○ート』(明○製菓)のチョコレート菓子に見える。
その子は泌尿器疾患というか、排尿に関するトラブルがあるようだった。橋本先生は多分『チョコレートは良くないんだけどなぁ』とか思われたのだろうか。

蛇足だが、このビデオ(DVD)を企画製作したのは私の知人(というかISIS編集学校「紫ねこ教室」で私の生徒だった)、HK君である。彼はNHKのビデオ出版関係の会社に勤めている。たまたま飲んでいる時に「NHKのライブラリに当時のマスターテープとかないだろうか」と話したのがきっかけで、製作発売に至った。後半のラジオ番組の映像とイラスト、解説は、HK君と三浦寛先生、私の三人でチェックした。

それまでこのビデオのダビングのダビングを持っていたが曾孫ひ曾孫ダビングのためその子が何を持っているのかわからなかった。長細い筒だったので、万華鏡でも持っているのかと思ったら、コー○ービートだったとは。

ちなみに、別の患者さんで伏臥膝二分の一屈曲位で足関節の左右回旋の動診操法を受けているシーンがあるが、その患者さんはストッキングを履いたまま受けており、足の裏のストッキングの伝線までしっかり写っている・・・。
(マニアな見方でしょうか)

その他見所はたくさんあるが、伏臥位での下肢伸展をとらせた患者さんに、再動診をとらせ、動きがいいのを確認して、患者さんのふくらはぎを「ぱしっ!」と景気よく(?)叩く橋本先生や、タバコを吸いながら、助手の差し出す灰皿に灰を落とす橋本先生や(そういうところにばかり目が行く?)、この時はまだ「操体法」という名称がついていないため『橋本さんの治療法』とアナウンスされているところ、橋本先生講師の講習会が『東洋医学』の講習会
(勉強会、セミナー)となっているのも興味深いところだ。


その中で先生はお母さんに「くすぐり」を指導しながら、「私がやるともっと動くよ」と話されている。お母さんがくすぐるよりも、先生がくすぐった方が子供の動きは激しい。 

やはり、何事にもコツがあるのだ。

くすぐってなぜ良くなるのかというと、無意識の動きが誘発されるからだ。勿論、あまりくすぐりすぎると、子供も泣いておこることになるので、見極めが肝心だ。

(妹は、幼稚園に上がる前、遊びに来る度に、羽交い締めにしていやがるのにくすぐる伯父を相当大きくなるまでいやがっていた。ちなみに、日本には『くすぐりすぎると死ぬ』という俗説があるらしい。また、昔は拷問の刑として存在したともいう。あるいは性癖としてSMプレイに使われる場合もあるとか。あ。脱線しました)

なお、このビデオ(DVD)の中で、橋本先生がされている操法は、ほとんど「正体術」と言っていいものである。

ここでwikipediaから「操体法」の紹介を引用してみよう。

操体法は、仙台の医師 橋本敬三(1897-1993)が 高橋迪雄(みちお)の正体術など民間の健康法をみずから実践し、肉体の変化が進む過程で何が起きているかをつかんだ結果うまれた治療法。具体的には、痛みやつっぱりを感じるとき、痛い方向・つっぱる方向から、痛くない方向・つっぱりを感じない方向にゆっくり動かし、最後にすっと力を抜くと歪みが解消されるという方法を採る。

初期の理論(著書に詳しい)では、客観的に骨格構造を観察して、運動系の歪みを修正(治療)することを主題としているのが特徴。その後、客観的な見方を離れ、個々人の内部感覚(快・不快)にもとづいて、生体のフィードバック機能を洗練させることが重要であることをより強調する形になった。現在では、より質の高い快適感覚を「からだ」に聞き分け、味わうという感覚分析をするようになってきている。

『初期の理論(著書に詳しい)では、客観的に骨格構造を観察して、運動系の歪みを修正(治療)することを主題としているのが特徴。』まさにこの時代、「正体術」のように、客観的に骨格構造を観察して『具体的には、痛みやつっぱりを感じるとき、痛い方向・つっぱる方向から、痛くない方向・つっぱりを感じない方向にゆっくり動かし、最後にすっと力を抜くと歪みが解消されるという方法を採る。』

という時代の映像である。

今、私達が明らかになってきた(進化してきたというよりも、操体というものの本質が分かってきたのだと思う)操体に取り組んでいるが、これが後半の
『その後、客観的な見方を離れ、個々人の内部感覚(快・不快)にもとづいて、生体のフィードバック機能を洗練させることが重要であることをより強調する形になった。現在では、より質の高い快適感覚を「からだ」に聞き分け、味わうという感覚分析をするようになってきている。』

という部分である。

なので、このビデオを見て『操体って今もこんなことしてるのか・・・』(してる人もいるかもしれないが)と思ったらちょっとまった、なのである。

このビデオは、橋本敬三医師の臨床の姿を見たことがない、或いはお会いしたことがない年代が見ることができる、数少ない「動く映像」であるし、この中に出てくる「温古堂」はすでにない。その後そこはマンションになり移ったのが、「操体法治療室」で、今昭宏先生が描いている「温古堂」だ。

操体法治療室―からだの感覚にゆだねる

操体法治療室―からだの感覚にゆだねる

その一階には「橋本クリニック」があり、このビデオに出演されている、橋本敬三医師のご長男(『オヤジのやっていることには興味はない・・・』とインタビューに回答されている)のご子息が(つまり、ご令孫)がクリニックの院長をされている。

現在の温古堂は橋本クリニックに隣接したビルの1階にある。

よく聞かれるのだが、現在の温古堂におられるのは、橋本敬三医師のご子息やご令孫ではない。
Tさんという若い先生が操体法をやっておられる。

これは実際に『仙台の温古堂は橋本敬三先生の息子さんが継いでいるのですか?」という質問を少なくとも100回以上は受けているからである。

新しい温古堂が入っているビルはピンクの建物で、ビデオ(DVD)にでてくる火鉢が展示され、橋本敬三先生の銅像(胸像)がある。

私の師匠と兄弟子は、その銅像を見て『あ〜あ、先生、こんなになっちゃって』と、言ったものだった。